玖足手帖-アニメブログ-

富野由悠季監督、出崎統監督、ガンダム作品を中心に、アニメ感想を書くブログです。

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機動戦士ガンダム0083 ジオンの残光 黒歴史探訪

∀ガンダム月光蝶を見るつもりだったけど、99年以前に映像ソフト化されたガンダムのうち、ジオンの残光とミラーズレポートだけは映像ガンダムで見ていなかったので、見た。
(小説や漫画を網羅すると冥府魔道なので、それはやらない。やりませんよ!)
やはり、黒歴史を全部見た方がディアナ様やロランの悲しみをより深く味わえると思ったので。
「なんでこんなもの、作ったんですよ!」
っていう。
そんな邪悪な富野信者気分で見たけど、意外にも面白かったです。やっぱり絵がきれいだしなあ。作画もうまいし特殊効果もすごいなあ。
話も意表の突き方が面白かった。
シーマもニナもコウも裏切るしなあ。シーマのトリックスターぶりは良いなあ。肉付きのある人物だし。


居場所を失って、狂った軍人がアメリア大陸の畑に空き缶を捨てる話なので、

本作では単純に「主人公が所属している連邦軍=正義の味方」とはされず、連邦軍の腐敗に関してかなり徹底した描写がされている。逆に敵であるデラーズ・フリートに関しては、愛国心に基づき「大義」に殉じる姿や武士道を彷彿とさせる潔さなど、むしろ高潔さを感じさせる描写も多い。
ガンダムシリーズでしばしば見られる、こうした単純な善悪二元論に基づかない設定が本作では特に顕著である。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A9%9F%E5%8B%95%E6%88%A6%E5%A3%AB%E3%82%AC%E3%83%B3%E3%83%80%E3%83%A00083_STARDUST_MEMORY

という、「腐敗した大人の組織=悪」「愛国心=正義」という、善悪二元論の見方はしないようにしてみたら面白かったです。
ジオンの再興って言うけど、初っ端のテロップで「戦後のサイド3は他の地域に比べて工業力が有り余っていてコロニー再生計画を連邦から請け負って戦後特需」って書いてあったし。
再興してるじゃんwww
まあ、それを潰すために北米に落として、コロニー再生計画を中止させて経済の混乱を招いて人減らしをしようって言うジャミトフのシナリオもあるらしい。
http://www5f.biglobe.ne.jp/~sannbiki/gundam106.htm
えー。じゃあ、ガトーって経済テロリストでジャミトフの手先だったのー?大義じゃねえなあー。というかだまされてたのかー。うーん。
とか、まあ、細かいことの整合性をアニメ程度で考えるのは最近飽きたので、やめる。
ほら、ガンダムって大河ドラマみたいな歴史をいろんな人が好き勝手に脚色している物だし、アベニールや小説や新訳はパラレルワールドでもあるし、大河ドラマやトンデモ歴史小説次郎長三国志を眺めるように娯楽として見るのが吉。
というか、0083映画版は映像のダイジェスト版だからいまいち筋がよくわからんかった。イベントは出る割にオチが付かないまま次のイベントに行く映像娯楽作だし。
まあ、OVAを見たから大体分かるけど。それより、ガンダムがたくさん動いていておもしろかったなーと。
富野編集の劇場版は映像の再編集やダイジェストというよりは感情自体の翻案かなあ。


と、黒歴史探訪をして、ガノタをやって、結局は設定とかよりも芝居としてどうかっていう風に思う体質の私。


でも、0083はトップガンっぽい成長物語にいくつかのどんでん返しを用意して面白がらせる娯楽作と思って、登場人物に感情移入しないように努力したら面白かった。
全員戦争マニアで気持ち悪かったから感情移入しようとしたらぶち殺したくなる。軍人とか男の魂、男子のメンツとか超わからんし。ガトーって「ジオンの再興」っていうけど結局は死んだ戦友の怨念だしなー。大義とか言うけど「国を守る公」って感じじゃなくて、やっぱり「公に殉じている自分という自意識の夢をガトーが『大義』って言ってるだけ」っぽい感じがした。アナベル・ガトーって「士官は大局を見る」とか言ってたけど、結局は決闘とか兵士の生きざまとか言うから兵卒の発想だなー。


そう言うのは気分が悪いので、感情移入して見ないようにした。
黒歴史の中の悲劇を脚色した芝居」として客観的に見たら∀ガンダムっぽい感じで「なんでこんなもの、作ったんですよー!」というロランの叫びがよくわかって良かった。
ガトーもエギーユ・デラーズの大義も利用される切なさがあったし、その大義をシーマが体を張ってバカにしているので、いろんな視点があって面白い。で、全体的に悲劇。
黒歴史の悲しさが実感できていいな。
軍人たちが命を捨ててるのにみんなに邪魔にされて居場所をなくして切れる感じは、昭和初期の日本軍や正暦後期のギンガナム隊やコレン軍曹を参考にしたらよくわかりました。黒歴史泣ける。


あと、面白いと思ったのは、大義とか言うけど「燃え尽きたい」とかあしたのジョーみたいな事をジオンの人が言ってたところですねー。居場所のない人がとりあえず燃え尽きるのをアイデンティティと夢想するのが気持ち悪いけど面白い。それで殺人を正当化するのは絶対賛同したくない価値観ですがね。
で、コウ・ウラキノンポリで意気地無しだったけどジョーみたいなガトーに影響されて「俺も燃え尽きないといけないんじゃないか」「社会でうまくやってるけど、矢吹さんみたいにやらないといけないんじゃないか」という青山みたいに変節して行って、変な風になっちゃって混乱してるのが面白かった。
シーマ・ガラハウに「一体あんたはどっちの味方なんだい!」って言われる主人公ってスゲー。
しかもコウ自体も自分を見失ってるのがすごくおもしろかった。
ガトーに影響されてかっこつけてガンダムや女をゲットしたらなんか持っていかれてギャーとか言って意味なくビームとか撃って投獄されて最後にテロップでテキトーに釈放される主人公が面白かった。
なんかすごくコンテンツに影響されやすいオタクワナビーっぽくて可哀そうで面白かった。「われわれは明日のジョーである」みたいな。
しかも作り手がそれを狙ってやってる感じじゃなくてスポンサーと富野と宇宙世紀っぽさとオリジナル欲の間でわけわかんなくなってる感じですげえ面白かった。


でも、殺人行為を自己実現の道具にしてるのは気持ち悪いので、そんなものにあこがれたコウがわけわかんなくなるのはとても良かった。富野作品の∀ガンダム劇場版の演劇的に構成され上で熱量を高める疾走感とは違う雰囲気だけど、わけわかんなくなる勢いは感じられておもしろかった。
「軍人は公の奉仕者である」という観点では、ガトーと決闘するより、松浦まさふみの漫画版機動戦士ガンダム0083星屑の英雄―Operation stardust でデンドロビウムでコロニーを最後まで内側から破壊しようとするコウの方がかっこいいけど。「軍人の大義」のガトーを「無私の人助け」で超える主人公という感じで。
アニメのコウはガトーにわけもわからずあこがれる感じ。マクロス一条輝とフォッカーみたいなオタクっぽい関係かも知れんねー。


安彦良和先生が「機動戦士ガンダム 0083は富野ガンダムよりもガンダムらしいと思うけど、こんなにマニアックに作ってるのはどうかと思った」って言ってたけど、全体的にオタクっぽくてオタクの悲しみに満ちた感じの駄目なスメルが漂ってて面白かった。
宮崎勤以降の硬派になろうとしたオタクの時代かなー。でもオウム直前の原理主義への無自覚な憧れっぽい感じのオタクっぽさはある。
そこがカルト批判のVガンダムにつながってると思ったら面白い。


ニナの回想録という手法をまとめようとして、最初はナレーションが多かったけど、最後の方はわけわかんなくなって回想録じゃなくなっていくのが面白かった。
佐久間レイがたくさんしゃべってよかった。でも、榊原良子はしゃべらなかったのでハマーン様信者涙目。


あと、機動戦士ガンダム0083のニナ・パープルトンと言えば宇宙世紀三大悪女ですねー。

ニナ・パープルトン機動戦士ガンダム0083)
カテジナ・ルース機動戦士Vガンダム
クェス・パラヤ機動戦士ガンダム 逆襲のシャア
http://dic.nicovideo.jp/a/%E5%AE%87%E5%AE%99%E4%B8%96%E7%B4%803%E5%A4%A7%E6%82%AA%E5%A5%B3

悪女たちの裏切りの連続は視聴者をびっくりさせるための仕掛け的な作劇上の娯楽と言ってしまえばそれまでではある。
ただ、0083のニナが一番悪女って言われるんだけど、それは「男社会の戦場に女の武器を持ち込むから」っていうフェミニーな視点で見ることもできるなあって思った。0083って基本男ばっかりのアニメだし。
で、ニナは軍人じゃなくて民間企業の人。カテジナやクェスも最初は軍人じゃなくて民間人でしたねー。
なるほどー。そういうことかー。
でも、軍人ばっかりだとやっぱり視点が退屈になるからそういう民間人の女がいた方が作劇上面白いわなあ、ってだけかもしれん。トリックスターですな。シーマもそうだったけど。
まっつねさんはそこら辺を「クェスは完成した演劇に放り込まれたドキュメンタリの女」って書いてたので、そこらへんも出崎統の影響があるのかもなあ。ジョーの白木葉子は演劇的な構成要素でもあったが。

「出崎」という引き出しから出てきたものが完全に暴走し、

演劇を引っかき回し、そして勝手に退場していく。
http://d.hatena.ne.jp/mattune/20100124/1264317853

演劇の破壊者と言えば、佐久間レイの粘っこい女っぽい演技のせいでニナの気持ち悪さが一層引き立つのかも知れんが。
大塚親子の男臭さが濃い芝居もなかなか灰汁が強くて面白い。



映画のバニングとヴァルヴァロについては黙して語らず。