玖足手帖-アニメブログ-

富野由悠季監督、出崎統監督、ガンダム作品を中心に、アニメ感想を書くブログです。

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創作幻視小説版「夢兄妹寝物語」 2003年9月 第9話 第10節 

サブタイトル:第9話 [家庭教師VSニンフェット!頭令兄妹誕生の秘密です!!]
前書き:宇宙人の回想を日本語に直すだけの作業がこんなにわけのわからない作業だとはわからなかった。参考文献:ルドルフ・シュタイナー
 
 

  • ソレイユ病院11の11の11号室

そら「お兄ちゃん!今日も来たよ!」
 難しい話が続いて疲れた妹は、埃を吹き飛ばしつつ病室に転移して、まず兄の布団に跳びもぐりこんだ。ふかふかだ!あったかい!
レイ「今日はもう、おやすみになられますか?」
そら「いや、夢見の前に一度に聞くわ。お兄ちゃんにも関係する話でしょ?一緒に聞く」
 レイに背を向け、同衾した兄の顔を覆う人工呼吸マスクのアクリル面、兄の髪、兄の肌に指を滑らせながら、妹は命じた。
レイ「了解しました。続けます」


レイによる概略:
 地球人類の西暦での1991年6月3日、黒色遊星周辺諸国連邦はその数百億年の有史以来の超常的恐慌に見舞われた。
 すなわち、別の宇宙との物理的接触を切っ掛けとした、異星の地球人との精神的コンタクトである。それも、最悪の形での。
 闇の太陽系を作るマイクロブラックホール特異点を中心としたその宇宙領域が、別の宇宙との座標軸の違いによる超光速の衝突で、地球人を瞬時に粉砕し、その衝撃に呼応し地球の火山が炸裂し、さらに多くの地球人と、地球に棲む生体を殺した。
 物理的衝撃が問題ではない。
 「死」である。黒色遊星周辺諸国連邦の生命体が初めて体験する「断末魔」であった。
 連邦の人々には死の概念が無かった。むしろ、肉体もそれを作る物体もなかった。ただ、小さく黒き太陽の周りにさらに小さな存在を収めた場だけがあった。
 それは地球人の言葉では仙気やオーラとも言うべき火のようなもので、その揺らめきを世界の礎、自らの素としていた原住民たちには、個体の周期的な休眠や魂の入れ替わりがあっても、その存在の記憶は世界そのものの波動の一部として響き続ける物であったのだから、究極的な自我の終末である死は無かった。
 突如、それ、すなわち断末魔の阿鼻叫喚が宇宙全体に、宇宙の外から、津波のように押し寄せ渦巻いた。
 連邦の人々は初めて、強引に、自分たち以外の意思を持つ存在を知らされた。小さき彼らは、地球の生物の肉体よりも、むしろその個々の細胞やタンパク質やDNAを振わす魂たちを同類として感じた。だが、その外宇宙よりの無数の魂たちは連邦の衝突によって粉々に壊され、肉体から引きはがされたもの。それら死に逝く亡者の突進は連邦の民の精神に触れ、撃ち抜き、更なる宇宙の果てに吹き飛ばされ、弾けた。
 その地獄の暴風雨の後には、ただ虚無たる静寂があった。
 それが「死」であり、虚無に落とされようとする命たちが最期に時空にすがろうと抗って発するのが「断末魔」だと人々は実感した。
 終わり無き存在の人々はそれに恐怖した。それを引き起こした自らに、それを刻まれ変質した自らに、それがあるということに、それが終わることに、それ自体に。
「それはなにか?」
「他」
「殺」
「死」
「罪」
「終」
「悪」
「われらは?」
「他者」
「殺害」
「死因」
「罪人」
「終幕」
「悪鬼」
「どうすれば?」
 長い、長い、混乱と悔恨と思索があった。同時にそれは地球の時間では刹那ですらなかった。
 そして人々は結論を出した。
「罪は償う」
 悠久の穏やかな時代をたゆたってきた連邦の小さく、また大勢である人々が地獄の渦から立ち直るための意志であった。
「まだ命がある」
 ある人が、死とは違う命の瞬きの名残りを見つけた。その命たちはあまりに衝突の中心に居たために、むしろどこにも跳ね飛ばされる事も出来ず爆心点で回り続けていた。
 今思えば、それは地球生物の細胞数個分の”生き物”のエナジィでしかなかった。それでも、贖罪のための薄明であった。
「引き寄せよう」
「彼らを消してしまわぬよう」
「我々は無駄に生きていない」
「積み重ねた力と技は償いのために使う」
「我々は殺戮をもたらすために来たのではない」
 また、ある人は衝突の瞬間の記録を見つけた。それは衝突の中心にいた”生き物の入れ物”が破壊される瞬間に彼らの宇宙に刻みつけた波紋による構造記録であった。連邦を睨む少年の記憶。
 そして、ある人々たちは衝突で飛ばされながらも虚無に消えなかった物を集めた。それは”生き物の入れ物の破片”であった。それは死んだ命と違い彼岸に在らず、肉を作る鉱物的素粒子のかけらは、連邦の外の宇宙、地球側宇宙の尺度で半径数万光年の球に広がっていた。肉よりも少し軽い生命動力のエーテルはその向こうに、さらに軽い感情動力のアストラルはその向こうに波紋を作り、銀河系のオリオン腕の地球を中心とした虹を広げていた。
 連邦の人々は償いのためにただひたすら宇宙全土から、その虹のかけらを集めた。おそらく、更なる宇宙の地平の向こうに、”生き物”の主であった自我があるであろう。それを探しに行く者と同時並行に、地球に戻ってきた者は”生き物の入れ物”を組み合わせ建て直し始めた。
 その探索と構築の過程で、連邦の人々は黒色遊星系宇宙の外の世界を知った。それは人々の認識を大きく飛躍させる経験となった。数百億年のまどろみを醒ます暁であったかもしれない。
 結果、大きな改革が連邦にもたらされた。本星の周りの場に棲む人々は”生き物”の自我を探しながら、それまでとは違った意識で宇宙を飛び、連邦の中のある8つの氏族から、”生き物”の細胞に宿り死んでいった命と同じだけの人々、約百兆人が選ばれて地球に残り、0から7までの奴隷諸国連邦として、”生き物”に対する贖罪と守護を始めたのだった。
 そして、その”生き物”は地球の領域に作られた連邦の異次元租界を子宮として復活した。

  
  
そら「なるほどね。あんたらが、人が傷ついたりすると嫌がるのは、細胞一個一個の死を感じるからだったの」
レイ「はい。ですから、そら様にはこれからも穏やかに生活していただきたく存じます」
そら「はいはい。わかったわかった。んで、あたしたちはその時に組み立て直された”生き物”なのね」
レイ「はい」
そら「でも、最初、生き残ってたエナジィは細胞数個分しかなかったんでしょう?」
レイ「しかし、そら様。地球の生物は細胞分裂をします。あなた方はエナジィを取り込み、熟成させ、増大させるものだったのです。研究でこの事実を知った時には我々も驚愕いたしました」
そら「ふぅーん。あんたたちも色々あったのねー」
 兄の肩に気持ちよさそうに妹は頬ずりしながら感想を述べたが、今日は疑問を解消する日だ。
そら「ところで、火山で死んだ人たちや、あたしたち以外にも巻き込まれた生き物はどうなったの?」
レイ「まず、元になるエナジィが倶雫様とそら様由来の物しかなかったのです。そして、火山の件ですが調査の結果、我々の干渉が無くとも遅かれ早かれ爆発があったことが判明いたしました。そのため、贖罪対象から除外いたしました。
 また、最初に倶雫様に我々の星が衝突で、直接的に破壊した知的生物はそら様と倶雫様のみでした。巻き込まれた微生物や昆虫の類は存在しましたが、それらは知的生物には含まれない霊的価値の存在でした。ですから、これも贖罪対象から外れました」

そら「そんなもんかねぇ」
レイ「ですから、我々はあなた方御兄妹のためだけに地球に駐留しております」
そら「それよ!」
 足で布団を跳ね上げ、蹴り下ろす反動で妹は体を起こし、レイに向き直った。
そら「今の話は、あんたたちがバカな加害者であたしたちの奴隷になって当然って言うだけの話。それはあたりまえ。
 あたしとお兄ちゃんが兄妹だっていう証明にはなってないわ。それを聞かせてもらおうじゃないの。
 本題は、あたしがお兄ちゃんと結婚するっていう話なんだからね」

 兄の眠るベッドの上で胡坐をかいて宇宙から来た黒執事を見上げ睨みつける妹だ。