東日本大震災の後の「脱原発をしよう」っていう規制の中で、冒頭からN2リアクターを補機にして、N2リアクターの暴走を覚悟の上で人類の砦となるために戦う無敵戦艦ヴンターを描いた庵野さんは、本当に20世紀SF原子力の愛好者、核爆発アニメーターとして尊敬できる。
なにしろ原子炉はアトムにもガンダムにもドラえもんにもジャイアントロボにも詰んでありますからね。
庵野秀明さんは破壊の美学が好きだし、ダイコンフィルムの頃から核実験映像をアニメーションに再現する事に努力をしてきた人だ。
で、ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破は、東日本大震災によってシナリオが改変されたそうだが、そこで「さよならレッドノア」の再放送を中越地震の時に中止したNHKのような逃げの姿勢ではなく、あえて「大破壊後の世界」「そんな世界でも生きるために原子力や、もっとヤバいエヴァ動力を使ってる人々」を描くのは、口先で「原発は悪い!」「東京電力に騙されていたんだ!」と被害者面をするよりももっと前向きで科学的な姿勢だと思う。
もともとエヴァンゲリオンは原子力アニメで、「人の作りしもの」だし。自覚的にやったんだろう。
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その上で、シンジ君が「エヴァって言う宗教的なものを使ったら震災前に戻れるんだ!」とか盲信しちゃうのは実にシンジ君らしい。オウム真理教が宇宙戦艦ヤマトの放射能除去装置「コスモクリーナー」を崇めていたようなものだ。
それに対してアナクロなほど機械まみれの姿になった2号機に乗るアスカが「ガキね!ガキシンジ!」って言って現実を突き付ける28歳として対峙するのは、とても現代思想的にもエッジが利いていると思う。
宗教的なエヴァ13号機と、ジェット・アローンのようなロボットの腕をつけてアンビリカルケーブルなしで戦う2号機。
そして、シンジは失敗する。
リセット願望は分かるし、宗教や都合のいい世界を書きかえる救いを求める気持ちも分かる。
でも、やっぱり人類に出来る事は中途半端な科学技術を何とかやりくりして、アナクロなロケットを飛ばしたり、フライホイールを焼き切るまで回すくらいの事なんじゃないのか?
という、20世紀のSFファンとしての庵野さんの、東日本大震災後の日本に対する姿勢も垣間見える。
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同時に、庵野さんはアニメオタク、爆発エフェクトアニメーターでもあるから「規制とか犠牲者に配慮するより、描きたいものを描く!」という反骨心もあったと思うし、それがすごい爆発シーンで爆発してた。
「うるさい規制なんか知った事か!おれは爆発シーンが好きなんだ!」っていう。巨神兵・東京に現るも非常に爆発と破壊の快感があった。
こんなときだからこそ、いつものように、不謹慎なアニメで笑いたい。いつものように、モノが派手にぶっ壊れ、建物が爆発し、人が死にまくる映画で興奮したい。
津波災害と津波描写アニメに何の関係があるのか? | LUNATIC PROPHET
でも、爆発してるだけじゃなくて、トウジの名札とか「犠牲者」をガーン!と打ち出して来て、単なるアクションと言うだけではない。
災害で死んだ人を映画で描くのは、今の時世柄、神経質になりそうなものだが、むしろそれすらもシンジを追いこむための物語のパーツとして利用しようとする庵野は、被害者からして見ると不愉快で気持ち悪いかもしれないが、その創作家としての貪欲さは評価できる。
原子力とか、大量死と言う臭いものに蓋をして、無かったものにせず、直視するのが真摯だ。
「臭いものはあるんだ!」って言う風に露悪的に見せつけるのもエヴァだ。
その上でやっぱり耐えきれなくなってシンジ君が暴走したり、鬱状態になってしまうのが正直だ。
それを踏まえて、あんな体になっても生きていく事を諦めなくなったアスカは本当にすごい。
昔は母親とのトラウマとか、自分の思春期の不安定さに振り回されてた少女だったのに・・・。成長したなあ。
ヱヴァンゲリヲン:破で3号機に乗る前、引き裂かれた後に縫い直された人形を持っている事で母との関係も克服したと描かれているし。今回はアスカがEoEラストのようなツギハギ少女になったけど、それでも旧テレビ版の傷を持ってるミサトと同じかそれ以上に、現実と戦ってる。
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しかし、破のシンジさんもかなり成長したと思わせて、今回これだったので、最終回シン・エヴァンゲリオン劇場版で「やっぱりシンジなんかと一緒にいるんじゃなかった」「あんたなんか、要らない」って言うかもしれない。
やっぱりアスカは母親よりも他者であり、不安定な女、というキャラクターだから、何をしでかすか。
そういう綱渡り的な危うさも、やっぱりエヴァの魅力だと思うし、続きが気になる。