玖足手帖-アニメブログ-

富野由悠季監督、出崎統監督、ガンダム作品を中心に、アニメ感想を書くブログです。旧玖足手帖から記事・ブクマを引き継ぎました。


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ベルサイユのばら第22話 首飾りは不吉な輝き アンドレの不発のキス

ベルサイユのばら感想目次 - 玖足手帖-アニメ&創作-
フランス革命の導火線ともなった首飾り事件、ジャンヌ編4部作の第2章。
アウトローたちが闘争する出崎統ベルサイユのばら。それにおいて一層のアウトロー描写が光るジャンヌの犯罪。
前回が準備編だとしたら、今回は実行編。
キリスト教の教会で大司教相手に陰謀を働かせ、文書を偽造するジャンヌはアウトローだなあ。法に敵対するものだなあ。
だが、今回は犯行が実行された割に、それは粛々とスムーズに進むので、ジャンヌの見せ場はあまり感じられない。
むしろ、オスカルとアンドレと、マリー・アントワネットの変化と不在のフェルゼンのドラマの方が見ていて面白いし、見せ場が作られている。

  • 首飾り事件と並行する酒場の変化

王后陛下、マリー・アントワネットが皇太子懐妊、出産という祝いにおいて、オスカル・フランソワ・ド・ジャルジェ、アニメ版はパリの安酒場で民衆とともにビールを飲む。
「アンドレ、今日は祝いだ!飲もう!どこでもよい、楽しく飲めるところがよい!」
そうして、二人は楽しく飲む。
だが、アコーディオンの男は予言する。
「飲もうぜ、みんな。今のうちだ・・・もうすぐ俺たちはビールの代わりに銃を持たなきゃならない。飲もうぜ、みんな、今のうちだ。味気のないスープも、重い税金も、みんなみんな飲み干しちまえばいい・・・」
マリー・アントワネットは子供が出来て子育てに夢中になったがために、貴族との謁見を嫌い、小トリアノン宮殿に引きこもることにした。それが下級貴族からの反感となり、パリ市民の王室への不満となった。
この話の後半、イギリスがアメリカ合衆国の独立を認めたのに、ラ・ファイエット候の副官としてフランスのアメリカ遠征軍に従軍したフェルゼンがフランスに帰還しないことに業を煮やしたオスカルはイライラしてアンドレと安酒場に行く。
そこで、パリの市民のオヤジに絡まれ、オスカルはキレて殴る。
そこに同席したのがマクシミリアン・ド・ロベスピエール。彼がオスカルは貴族だと周りの者にバラしたために、オスカルとオヤジの一対一の喧嘩から、オスカル&アンドレVSパリ市民との乱闘になる。
1話の中で、最初は王室への喜びを市民と共有したオスカルだが、後半は市民に貴族だからというだけの理由で袋叩きにされるという対比で、22話の中での時の流れ、マリー・アントワネットの人気の変化を描いている。


ところで、ここで平民に袋叩きにされて馬車も壊され立てなくなったオスカルにアンドレが肩を貸し、歩いて家路についたところで、気絶したオスカルにアンドレがキスをするのが原作の見せ場である。ロマンチックである。アニメ版ではキスはない。ここでロマンチックなキスがないというのは、アニメ版の改変として、大きなものだろう。
だが、よくよく考えてみると、ここでオスカルが乱闘を起こした理由はアンドレのせいのようなのだ。だから、男性視聴者の目で見るとオスカルに怪我をさせた元凶であるアンドレが、気絶したふりをしているオスカルに「どんな格好をしていてもお前は女だ」と言って唇を奪うのはご褒美としてでかすぎるから、キスはなくていいと思う。
少女漫画としては、女性ヒロインが男性イケメンから強引にキスとかセックスとかされるのが嬉しい、っていう演出はあるけど、出崎統は男の子だから、そういうのはご褒美なので。アンドレにご褒美をやるのはもったいないので。

  • 男の恋愛のために その一、ジャブ

では、なぜアンドレが乱闘の原因なのかというと、アンドレがオスカルをイライラさせたからだ。
もちろん、オスカルのイライラの原因は王妃の小トリアノンへの引きこもり、そのせいで近衛連隊長であるオスカルが下級貴族からの不満をクレーム係としてかぶる、などといろいろある。
オスカルがマリー・アントワネットへ貴族との謁見をするようにとの進言をしようとしたのに、マリー・アントワネットが幸せそうなのでオスカルが進言できなかった、女としての幸せを見せつけられた。それもオスカルのイライラだ。
アメリカ遠征軍から帰還した傷病兵や戦死者の家族を見せつけられ、行方不明のフェルゼンへの不安が募ったのもイライラである。それで、オスカルはまたアンドレに安酒場に連れて行ってもらってヤケ酒を煽る。アンドレも「たまには思い切り飲むのもいいと思うよ」と、煽る。
アンドレはフェルゼンがマリー・アントワネットを愛し、オスカルに愛されているということを知って、嫉妬もしている。そういう男だ。そんな男が、好きな女のヤケ酒に二人きりで付き合う。これだけでもかなりご褒美ポイントが高い。だが、アンドレ、さらにジャブを放つ。
「だが、安心しろよ、オスカル。必ず生きて帰ってくる。フェルゼンは。調べたんだ。少なくとも戦死の報告は届いていない」
「何を言っている。何の話だ。いきなり」
このさりげないジャブでオスカルのイライラは絶頂に達する。このオスカルの静かにブチ切れている声色がすごく色っぽい。
このタイミングでこの話題をふるアンドレ、確信犯である。アンドレは幼馴染のオスカルと20年以上も一緒に過ごしているのに、身分の差から(愛人になっちまえばいいのに)お預けプレイをくらっているので、その鬱憤をこういうふうに小出しにして、オスカルの色っぽい怒った声を聞きたがるというような性癖に目覚めたようで、オスカルをギリギリに怒らせるようなことをわざと言う。
アンドレはオスカルの苦しい打ち明けられないフェルゼンへの恋を知った上で、その辛さをつつく。言外に「フェルゼンを想っていてイライラしても苦しいだろ?だったら俺と一緒にいようぜ・・・」みたいなことを匂わせる。
これ、女性の視聴者にはわかりにくいかもしれないけど、男性演出家の出崎統で、男性視聴者の私から見ると、アンドレは男の溜まっている鬱憤をオスカルに小出しにしていると感じられる。
やけ酒には黙って付き合ってやればいいのに、その理由もアンドレはわかっているのに、オスカルは何も言わないのに、アンドレは分かった上で、イライラの原因であるフェルゼンについて「安心しろよ。帰ってくる」と報告する。言っていることは安否情報を教えてやる事実の通知だけ、という論理的な体裁をとっているのだが、タイミングが最悪である。アメリカ遠征軍に参加した男を心配して、アメリカ遠征軍の戦死者の家族を見舞ってショックを受けた後にやけ酒を煽っているオスカルというタイミングで、そのイライラの原因の男を話題に出すアンドレ。アニメ版のアンドレは空気が読める頭のいい奴なんだが、読んだ上でこういうことを言うのがひどい。(原作のオスカルはフェルゼンの安否について自分で調べて知っている)


この他にも、アニメのアンドレは愛しいオスカルのフェルゼンへの忍ぶ恋の辛さを分かった上で突く、そういう風なところがいくつもある。オスカルの言って欲しくない事実を客観的な情報伝達のふりをして、アンドレは言う。
20話でもオスカルにフェルゼンを語るアンドレにはそういう意地の悪さがあった。
まあ、アンドレもオスカルに対して忍ぶ恋をしているし、オスカルもそれを毎日スルーし続けていていて、傷つけ合っている男女という面もある。
仲のいい主従でいつもリビングでディスカッションしている二人だ。アニメ版のオスカルとアンドレは長浜忠夫編の前半でもディスカッションして男同士のように思考を深めている、と先日感想を書いた。
だが、出崎統編になってからのアンドレ、微妙に意地悪である。子供の頃からの習慣で対等にディスカッションで議論をしている会話の中で、さりげなく恋の鞘当てを仕掛けているアンドレである。これは男同士っぽい論理的なディスカッションと並行して男女の感情的な当てつけ合いをしている。ということ。


で、そういうふうにアンドレがオスカルを苛立たせて、フェルゼンへのオスカルの恋心へのアンドレの男の嫉妬を描いている。嫉妬を、あたかも親切な従僕の報告という体裁に包んだアンドレの微妙な男心の表現。
それだけで済んでいたら良かったのだが、酒場に飲みに来ていた市民のおっさんも同時にイライラしていて、オスカルの美形をからかったのがいけなかった。アンドレのジャブでイライラしていたオスカルは「俺の酒が飲めねえのか?」というおっさんを右ストレートで机ふたつ分ぶっ飛ばした。
アンドレはイライラさせるくせに表面的には親切な従者をよそおっているので殴れない。そこに殴りやすい酔っぱらいが来たので、イライラをぶつける捌け口を見つけたオスカル。おっさんに「まともな顔でこの店を出れないようにしてやる」と宣言する。ひどい。
そこで、アンドレはおっさんとオスカルを妙に冷静に見比べて、オスカルの激昂に驚いてはいない。アンドレはオスカルが怒っていることを予測していたので、驚かない。ただ、おっさんが出てくるのがアンドレの計算外だったのだろうか。
まあ、アンドレはオスカルに酒を勧めるおっさんが殴られる前に「まあまあ、俺が飲むからさ」と仲裁して「俺はオスカルの味方ですよ」アピールをさりげなくしていた。そこらへんも策士だよなー。ただ、オスカルがそれを振り切ってものすごい勢いで殴った。アンドレも酔っていたのか?それとも、オスカルに喧嘩を起こさせたかったのだろうか?


そこにマクシミリアン・ド・ロベスピエール先生とベルナール・シャトレ記者が同席していたのは確実にアンドレの計算外だった。彼はオスカルが近衛連隊長で貴族だと店中に吹聴する。(オスカルも連隊長の制服を着ていたのだから言わなくてもわかるようなものだが、まあ、アニメだから着替えるのがめんどうだったのだろう)
そのせいで店中の平民にオスカルとアンドレは半殺しにされる。
ロベスピエール大先生はベルナールに「見たまえ、貴族と言っただけで爆発するこの民衆の怒りを!」と言ったのだが、そもそも論として先に手を出したのはオスカルであり、そのオスカルを苛立たせたのはアンドレだ。この喧嘩は民衆の怒りだけではなく、アンドレの恋心と嫉妬心とオスカルの心身を公私ともに苛立たせる案件の数々も原因であり、単なる「貴族にくし」ではないのだ。恋愛ドラマなのである。
っていうか、アンドレが悪い。恋心を黙っていればいいものを、やっぱり衝動に任せて小出しにしてしまう男の本能みたいな意地汚さみたいな感情がある。まあ、わからないことはないけど・・・。というか、モテない男としては、アンドレの「表面的には恋人にはなれないけど、好きな女の子にチクチクなにか言える」というポジションはかなり羨ましいです。

  • ひどいアンドレ

そんな風に好きな女がボコボコにされる原因を作った上で抱きかかえて家に連れ帰るアンドレは本当にひどいやつだ。
それで足腰が立たないくらい疲弊したオスカルが寝たふりをしているのに「女だとバレなかっただけでもよかった」と言い「どんな格好をしていてもお前は間違いなく女だ…」と囁くアンドレ。原作では「お前は間違いなく女だ」という発言はアンドレの心の声だが、アニメでは口に出していったっぽい。(顔が見えない背中セリフだけど)
自分がイラつかせたせいで好きな女の子がボコボコにされたのに「俺だけはお前の気持ちを分かっている」アピールをするアンドレ。ひどい。
これで原作通りにキスをしたらアンドレは本当に策士過ぎてしまうし正直うらやましいので、男性の出崎統としては描きたくなかったんじゃないかなあ。それとも、女性としてはやっぱりボコボコにされて「お前は女だ!」って思い知らされて強引にキスされるのがいいのか?!少女コミックのレイプファンタジーみたいな!
しかし、原作のオスカルはキスされた時に涙を流して寝たふりをしているので、これはこれで策士だよな。

中原芽衣 ‏@nakaharamei
出崎版ベルばら無くしてスクールデイズなし
2013年4月4日 - 3:22
https://twitter.com/nakaharamei/status/319756841548664832

という出崎統ファンの声もある。
スクールデイズに通じる陰険さがアンドレにはありますね。
というか、恋人同士がギスギスして傷つけあう、その痛みを通じたコミュニケーションがゾクゾクしますね。あしたのジョーもそんな感じだったし。


好きな女の子をいじめたいというアンドレ、30歳になってもあんまり成長してないのかもしれないです。でも、30歳になった好きな女の子が中間管理職である仕事の地位を忘れて酒場で乱闘を起こして抱きかかえて帰るのも、それはそれで10代の頃には味わえないイベント性があって、萌えます。三十路萌です。というか、オスカルは三十路になってからが本番です。