玖足手帖-アニメブログ-

富野由悠季監督、出崎統監督、ガンダム作品を中心に、アニメ感想を書くブログです。

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機動戦士クロスボーン・ガンダム ゴースト第3巻海賊武侠

機動戦士クロスボーン・ガンダムゴースト1巻(冒険の始まり) - 玖足手帖-アニメ&創作-
機動戦士クロスボーン・ガンダムゴースト2巻宇宙戦国時代小説武侠冒険SFロマン - 玖足手帖-アニメ&創作-
この続き。2月末に出た単行本だが、諸事情で感想を書くのが遅れ。

やはり、武侠小説、戦国萬画という感じが強い。
これは2巻と同じである。ガンダムの宇宙戦国時代における豪傑たちや群雄割拠を萬画のアクションの面白さとうまくミックスしている。いままで、宇宙戦国時代を正面から描いたガンダム作品はほとんどないが、クロスボーンガンダムゴーストは武侠要素をうまく取り入れることで面白くなっている。
特に今回、武侠っぽさを感じたのは任侠主義。
これはつまり、ルールとか義理人情といった男の美学的なものだ。
主人公のフォント・ボーが「首」の持ち主から「受け取った」から、という理由で戦士になるという動機付け(の一部)は「与えられた分だけ働く」という規範意識というか恩返しというか。「自分がこの漢の志を継ぐのだ」というのはすごく武侠だなあ。
フォントが「助けられに来たんじゃない!助けに来たんだ!」というセリフも任侠っぽい侠気を感じさせる。
フォントが人質の子供の中の最年長の子に「君がリーダーだ」って言ったのも、三国志っぽい。(まあ、三国志劉備ガンダム蒼天航路と最強武将伝三国演義のアニメくらいしか知らないわけだが)
デスフィズのジャックが「誰も殺していないものは殺さない」という彼独自のルールも非常に任侠。
「やられたらやりかえす」という少年漫画のバトル意識と「やられた以上にやってはいけない」という長浜忠夫ロマンロボットアニメの正義の意識がある。
長谷川裕一先生は長浜ロマンのスピンオフも同時並行して書いてるからなー。

ゴッドバード5 (CR COMICS)

ゴッドバード5 (CR COMICS)


で、自分の都合のために何もやってないものを殺そうとするキゾ中将みたいな人物が、任侠の世界での悪役なのだ。
だが、そうやって民衆を恐怖で支配したり、敵に見せしめを送ったり人質を撮ったり、ということをする悪の将軍もまた、武侠小説の戦国乱世の時代には付き物の登場人物であり、戦国の戦国らしさ、宇宙戦国時代の過酷さを示している。
また、妙に男らしさを匂わせてる武闘派のザンスカール帝国将軍は漫画版機動戦士Vガンダムの侍っぽいアレからの路線の継承も匂わせつつ。


テレビ版の機動戦士Vガンダムザンスカール帝国はギロチンの見せしめというのが描かれていたが、それがマリア主義と混ざって、男らしい武侠の戦国というよりは母性に夢を見ているカルト宗教団体という作風になっていた。
そのため、Vガンダム本編では実は宇宙戦国時代らしさはほとんど感じられなかったという点もある。(マケドニアコロニーや海に住む人々などの小国が描かれた話で、多少感じられる程度)Vガンダムは90年代初頭のカルト宗教化した共産主義民主化の対立による東欧の内戦と、日本の新興宗教を元ネタにしているので、戦国時代の活気や動乱の熱気は感じられなかった。むしろ、1993年の時代背景であるバブル崩壊や冷戦構造の解体などを、作品の中の地球連邦の衰退やインフラや環境の劣化として描いていた。だからVガンダムは新しい国家が生まれる戦国時代の活気は感じられず、それよりは爛熟した古く大きな国家システムが緩やかに滅んでいく寂しい雰囲気のアニメだった。(あるいはスターチルドレンとしてエンジェル・ハイロゥで銀河旅行をするニュータイプに捨てられた地球の黄昏を描いたハードSF)

なので、機動戦士クロスボーン・ガンダム ゴーストの男らしい任侠思想と英雄的スーパーロボット的な一騎当千機が活躍する作風の方がVガンよりも「戦国らしさ」は表現されていると言えて、それはこの作品の独自の魅力になっている。クロスボーン・ガンダム ゴーストはVガンダムという狂気を孕んだ怪作に引きずられたスピンオフというだけではない。
また「木星共和国という新しい国」が宇宙戦国時代の中でどうなっていくか?という興味もまた、戦国で辺境の小国が天下統一を目指すかもしれない?というような大河ロマンを感じさせてくれて面白い。


まあ、そうは言っても、今回の第3巻はそれほど話が大きく動いたわけでもなく、新しい設定が出たわけでもない。
ただ、主役ロボットになるかもしれない「ファントム」が登場して、主人公のフォント・ボーがザクから乗り換えて戦士への一歩をまた踏み出した、というのをじっくりと描いている。主人公の素人の少年がスーパーロボット一騎当千機のパイロットになる過程の心の動きというのを丹念に描いている。
親への気持ちとか、先輩パイロットへの憧れとか、弱いものを守ることとか正義感とか、自分の身を守りたいという恐れとか、自分に出来ることで自分の存在を世に示したいとか、恋心とかに揺れる気持ちが描かれている。内面のモノローグと口に出すセリフが微妙に異なっていてフォントの迷いを上手く表現しているのは萬画ならでは。
その分、3巻では戦闘の山場はないのだが、精神的には結構キツイものを乗り越えたり立ち向かったりしている。

また、ファントムが非常にガンダムっぽくなくてむしろ仮面ライダーっぽいというか虫っぽい(色が緑だし)んだが。
それは木星共和国の光の翼を持つモビルクルーザー「パピヨン」やザンスカール帝国のモビルワーカー・サンドージュの虫っぽいデザインモチーフからの発展なので、奇抜なデザインなのだが読んでみると全く違和感がなくて素晴らしい。虫の羽なので、V2ガンダム光の翼と同じようなものだが差別化できていて良い。
鋼鉄の七人に出たサナリィレコードブレイカーV2ガンダムのプロトタイプ)やクロスボーンガンダムスカルハートの木星帝国のアマクサの設計データを組み合わせて開発した惑星間航行用モビルスーツなので、クロスボーンガンダムの開発文脈に非常にマッチしていてUC123年のF91から続くモビルスーツ開発の大河ロマンを感じさせてくれる。カトキハジメさんのつじつま合わせ能力(面取りとかもすごくつじつまがあってる)と長谷川裕一先生の他作品混合能力(スピンオフ作品能力)が合わさって最強に見える。
また、その惑星間航行をする蝶の羽を載せたガンダムって月光蝶ターンエーガンダムにも繋がるので、亜流なのに本筋に合流する予感のある黒歴史ロマンもあって、長谷川祐一先生はこういうクロスオーバーが本当にうまい。
そういうスゴイ潜在能力を秘めているファントムガンダムが、今後、エンジェル・コールの鍵を握るパピヨンとどのように関わっていくか、ワクワクしますね。



ちなみに、機動武闘伝Gガンダム萬画も楽しく読んでいます。おもしろすぎて安定しているので、特にわざわざ感想を書きたくはないのだけど。娯楽として普通に楽しんでる。

Gガンダムも香港武侠映画中国武侠小説の影響が色濃い。これは今川泰宏監督の趣味でもあるんだけど、宇宙戦国時代を描きそうでいまいち描かなかったVガンダムの次の年に放送されたガンダムということで、戦国時代の武侠要素が入ってるのかなー、と邪推することもできる。
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