玖足手帖-アニメブログ-

富野由悠季監督、出崎統監督、ガンダム作品を中心に、アニメ感想を書くブログです。旧玖足手帖から記事・ブクマを引き継ぎました。


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アイドルマスター劇場版 感想4 鏡演出〜後編 距離と視線で春香の成長を見る その1(千早編)

アイドルマスター劇場版 感想4 鏡の映画演出法〜 前編 春香がリーダーでプロデューサー! - 玖足手帖-アニメ&創作-
アイドルマスター劇場版 感想4 演出法〜 中編 鏡と愛の心理学(コフート、フロム) - 玖足手帖-アニメ&創作-
続きです。
前編では「リーダーの春香にはメンバーの心理的ケアをするプロデューサーの役割の一部が投影されている」「それをさせることによって、春香の精神的成長を促したいという社長の意志がある」と、
中編では「映画で描かれた春香の後輩との関わり合いは、人間性の成長として発達心理学に合致する」「そのことによって、この映画はアイドル映画以上に人間ドラマとしての普遍性を獲得した」と、書きました。
では、後編ではもっと具体的に、春香さんを成長させるために機能した鏡の演出技法を原則的に時系列に沿って見ていきましょう。私は富野由悠季とか幾原邦彦とか出崎統とかの細かい映像技法を解読すると興奮するという、妙なアニメファンとしてのブログを書きたいと思います。
あらすじはこちらの丁寧なレビューを参考にします。
劇場版アイドルマスター レビュー その1 ※ネタバレあり : アイマスタジアム



  • 物体としての鏡の登場

合宿中の前半では、ほとんど鏡は登場しません。
後半では雨や夜のシーンが続き、窓ガラスも鏡になりますが、前半は晴天の昼のシーンが続き、窓は透明です。公民館での公開練習も窓が開け放されていて、合宿所の近所の人の温かいまなざしが注がれ、鏡を通じて自分を見たり見られるという感覚は少ないです。

対して、後半のダンスレッスンスタジオ(テレビアニメ版と同じところ)は壁の両面が鏡になっており、否が応でも鏡越しに先輩後輩を見たり、自分自身を見つめることが多いです。

(↑これはテレビ版18話)
こういう練習場所の違いも、前半の開放的な雰囲気と、後半の内省的で閉塞的な気分の対比になっています。
では、鏡とは物体としての鏡だけでしょうか?
いえ、概念としての鏡もあります。見る、見られるという関係性も鏡的です。

  • 写真その1

劇場版で如月千早の新しい趣味が音楽鑑賞とトレーニングだけでなく、写真撮影と追加された。
そして、千早は合宿中に春香の写真を撮ります。千早は春香に「眼差し」を注ぐ人なのです。これは覚えておきましょう。

これは春香さんの自己愛を満たしてくれることで、春香さんはカメラに「かわいく撮ってね」と笑いかけます。
やっぱり、春香さんはアイドルだし、撮られると喜ぶタイプです。これははてな村の精神科医のシロクマ先生もコフート自己心理学を紹介するホームページで解説しています。

他人を映し鏡にして自己愛を充たす――汎用適応技術研究
1.他人を映し鏡にして自己愛を充たす(鏡映自己対象体験)
 コフートは自己愛の充たし方を、大まかに分けて三つのタイプに分類しているが、まず最初に紹介するのは、評価や声援やアテンションといった他人の反応を映し鏡にして、自分自身の値打ちや存在意義を確認し、それでもって自己愛が充たされるタイプだ。


自分がベストを尽くしたという充実感だけに由来するのではなく、評価やアテンションを送ってくれる人達のリアクションやまなざしを媒介物として、自分自身が満更じゃないと確認できるからこそ成立している部分も大きい筈だ。この、自分がまんざらではないことを他人を介して体験している時のうれしさや高揚感のことを、自己心理学では「他人を映し鏡にして自己愛を充たす(鏡映自己対象体験)」と分類している。
 
 
とはいえ、「他人を映し鏡にして自己愛を充たす」をナルシストのごとくガツガツと欲張り過ぎれば、ごく一部の芸術家やアイドルスターでもない限り、一身に評価をかき集め続けて自己愛を充たし、それで自分の精神衛生を保つような処世術は長続きしないのが通例だ。
 

 だからといって、「他人を映し鏡にして自己愛を充たす」が普通の人の生活に縁が無いかといったら、全くそんなことはない。「同僚やクラスメートからいっぱしの仲間として認められている」とか、「知人や友人から“お前やるじゃん”」と声をかけてもらうとかいった、もっとマイルドで継続的なタイプのものなら、日常生活のあちこちで見かけることができる。

劇場版で春香を支えた千早はこのように、春香に肯定的な眼差しを注いで、春香のメンタルを明るくしてあげている。プロデューサーも他のメンバーも春香をリーダーとして、まんざらでもないと認めている。春香はアイドルだけど、後ろの席からもちゃんと見てくれているファンからの声援だけでなく、仲間からの承認も非常に重視している。春香は「合宿もうれしいけど、みんなで同じ目標を目指せることが嬉しいんだ!」と千早に言う。春香は「みんな一緒に!」と言うのがほんと好き。それが春香の自己愛を形作っている。
ここら辺のファンの声援よりも仲間を重視するのは、アイドルアニメというより部活アニメっぽくもあるけど、でも、見られて撮られて喜ぶ春香さんはやっぱりアイドルを目指すような女の子らしいです。



それで序盤で特に問題も起きていないので、春香はまだ深刻ではないが、マイルドな朝の雰囲気の中、「千早ちゃん、リーダーって何をしたらいいのかな?」と軽く聞く。
それに「春香のままでいい」と話す千早。前半から後半で悩みが深刻化した時と同じことを言う。でも、春香は自己像が曖昧で個性がぼんやりした子なので、自分のままでいいということが、まだ消化できてません。


また、序盤から千早はいつも春香の隣か後ろにいることが多いというのも覚えておきましょう。

合宿の旅館わかさに到着して玄関であいさつする時も、バックダンサーの自己紹介を聞くときも、体育館での練習中も、休憩中も、ラムネ色青春で海岸線を歩く時も、やよいの勉強を見ている横でCDを聞くときも、夕日に向かって合唱する時も、もちろん寝る時も最終日に花火をしながらスイカを食べる時も千早は春香の隣に…。
雪歩と真も隣にいる率が高いが、千早は春香の隣に居たがるのがすごい。
アイマスはとにかくアイドルが10人以上いて一緒に並ぶシーンが多い。ポーズを取る時だけでなく、日常シーンでも。そこで女の子同士が「何となくこの位置が気分が良いな」というのが並び順になります。この距離感でシーンごとの感情が読み取れます。そのような、立ち位置による女の子同士の距離感や居心地の良さを尺度として、人間関係のドラマを推察することはできるでしょう。20人いる女の子たちはその並び順で人間関係を示してくれます。自己愛を満たしてくれる仲間の近くにいて、そうでない人はそれなりです。

もちろん、アイマスは色んなCDやゲームのユニットで、はるちはだけでなく、色んなカップリングがあります。ゆきまこ、いおまこ、たかゆき、やよいおり、とか961組とか双子とか年少組とか巨乳艦隊とか。
劇場版も、シーンごとにそういうカップリングを意識して描いています。そこら辺は本当に丁寧です。割とだいたい、年長で背が高いあずささんと貴音は両端で画面を引き締める位置にいますね。あと、ポニーテールがデカくてぼっちになりがちだった我那覇くんは、劇場版では結構色んな位置にいて、年少組と腕白に遊んでたり、961組の貴音の隣に居たり、春香と千早の間に居たり(!)してグループになじんでるので、我那覇くんが幸せそうでよかったです。
アイドルマスターのユニット・カップリングの一覧とは (アイドルマスターノユニットカップリングノイチランとは) [単語記事] - ニコニコ大百科
アイマスカップリングは腐女子のホモ二次創作くらいたくさんあります。アイマスPは腐女子みたいなものです。アイマスは百合!
あと、ゆきまこを筆頭に、たかゆき、みきゆきなど、雪歩の隠れたビッチぶりもなかなか妄想が膨らみますねムフフ。

  • 社長とプロデューサーの鏡

また、合宿中には取材のカメラが入り、新人のダンサー組を緊張させます。このカメラも、一種の鏡と言えるでしょう。TV版の序盤だと宣伝用写真を撮るだけでも一苦労だった765プロですが、もう合宿取材くらいは慣れていた様子。


ただ、ここで善澤記者が社長の「アイドルたちにプロデューサー離脱と新人との交流との試練を与える」という言葉を受けて登場する。彼は社長の代理であり、これも鏡と言うか投影の一種と言える。これは感想4の前編で書きました。

前編で書いたように、たるき亭での社長の意図としては、バックダンサーがアリーナでダンスをすることより、バックダンサーの後輩との「交流」と、それによる人間的成長を重視しているのです。その意図を、社長と心が通じ合っている善澤記者が合宿所に持ってきているんですね。
で、春香の「プロデューサーさんの近くにいたからリーダーに選ばれたのかも」という言葉をオウム返しにするように善澤記者は「そういう所が大事なこともあるよ」と、伝える。この言葉のやり取りも反射っぽい。で、「春香がプロデューサーに近いことをするのが大事だよ」と、善澤記者は春香にヒントを与えて去る。この時点では、まだ春香は「リーダー=プロデューサーに近い目線で仲間をケアする役」という真意を飲み込めていません。
その夜、合宿終了の時に旅館の庭で焼肉を食べ終わった後に、プロデューサーが「ハリウッド研修に旅立つ」と告白する。



その後、なぜか庭の縁側にぽつねんと座っていた春香に、プロデューサーがハリウッド研修の話ではなくて、「10年後、春香はどんなアイドルになっているかな。いや、どんな人生を歩んでいるかな?」という話をします。そして、プロデューサーは「未来は今の延長だ」「だから、今を大切に!」と、春香にプロデューサーは思いを託します。
ここで、半分くらいは春香はプロデューサー役を引き受けたリーダーとしての自分を自覚します。いくら鈍い春香でも、プロデューサーが自分一人だけに話をする時間を持ってくれたこと、頭をなでてくれたこと、これくらいプロデューサーと自分の距離が近づいていることは分かります。
で、プロデューサーがライブの後にいなくなると聞いてメンバーが寂しくて寝る前にしんみりして寂しい寂しいって言い合って泣きそうになってる時に、プロデューサーの言葉を思い返した春香は、リーダーらしくみんなに「だからこそ、次のアリーナライブを頑張ろう」と発破をかけます。

気心の知れた765プロの仲間たちに対しては、すっとプロデューサー役と言うか、テンション管理をすることができる春香さん。ここら辺はテレビ版11話で「天然の前向きさ」で雪歩とやよいを励ました春香さんらしい。テレビ版の頃から春香さんは仲間のテンションを調整する役を自然にしている。ただ、テレビ版では自然体で天然で仲間を励ましてたけど、プロデューサーに頭を撫でられて託された後の春香さんは天然ではなく「自覚的」にリーダーとして仲間を励まそうとしたことが分かります。わざわざ春香とプロデューサーの縁側での対話のシーンが時間列を入れ替えて「回想シーン」になっていたのも、春香さんが天然ではなく「自覚的」に動いたことの映画的演出です。時間列の入れ替えと記憶の思い出しと言うのも、「鏡」的な演出と言える。
アイドルマスターのゲームをしたことのある人だとわかると思うけど、アイマスは本当にアイドルのテンションやモチベーションの管理をプレイヤーのプロデューサーがしてやるのが大事なコミュニケーションゲームです。だから、悲しんでいる仲間のテンションを上げようとした春香さんは、この時点でもプロデューサー的な役割を自覚し始めています。


それで、プロデューサーがいなくなって寂しい!って言い始めた伊織もとたんに元気になって、年少組と響のまくら投げ遊びに発展して、いおりんは律子の顔にまくらをぶつけます。

初期に出たCDアルバムのMASTERPIECE 04のボーナストラックでは、「プロデューサーが収録現場にいない」ってだけで、全員泣きます。ここで泣き止むように言い出したのは、雪歩(泣き出したのも雪歩)と真で、仕切ったのは年上のあずささんと律子でした。この時、春香は全然しきれなかった。

それに比べると、春香さんは成長したなーって思う。
また、初期からこのメンバーは一人泣き出すと全員泣くという、感情を共有する思春期の女の子たちだという事なので、そこも注目点。これも発達心理学のチャムシップを連想する。
チャムシップとは、『思春期にさしかかる前後に築かれる同性・同年代の友達との関係』
友達が悲しんでいると、自分も悲しくなるというような、似たような感情や行動をやり取りするうちに『他者への共感する気持ち』が生まれるという。
他者への共感は社会的に成長するうえでも大事な要素です。劇場版でも共感は重要な要素で、特に765プロの気心の知れた仲間との共感を、後輩のバックダンサーという新しい仲間にも広げていくというのも大事。これはだいたい十代の彼女たちの心理的発達って感じで、実に思春期の女の子たちの人間模様って感じで、かわいいですね。

  • 春香と可奈の鏡

春香は新しい可奈と共通点を通じて交流を深めます。

合宿取材の後の夕方、可奈と春香は二人で階段に腰掛け少し話します。甘いものや歌うことが好きな二人はよく似ていると話します。(よく似ていると同時に、隠れていっぱいお菓子を食べてしまう可奈と、シュークリームをいっぱい奨められても1個だけ頂く自制できてるアイドル春香との差も描いてます)(甘いものを春香が1つだけでいいというのは、春香の方が可奈よりも心理的に満たされているという描写でもある。実際、可奈が食べ過ぎたのは精神的な理由だと後に明かされる)
シロクマ先生のホームページでの.双子自己対象[自分に似た対象を通して自己愛を充たす]交流です。
自己愛を充たしてくれる対象を「自己対象」と呼ぶ――汎用適応技術研究
そして、バーベキューを皆で楽しむ中、プロデューサーの告白の前に可奈が春香を呼び出し、春香が自分にとっての憧れだったことを話します。可奈にとってアイドルの春香は理想化自己対象だったんですね。

 残念ながら、間近な人物を理想化自己対象として体験出来るチャンスに恵まれない人が世の中にはかなり存在している。その欠乏を埋めるかのように、メディアコンテンツの向こう側には沢山の理想化自己対象が登場し、“商品としてパッケージ化され、販売されている”。

 ・理想のミュージシャンやタレント
 ・過去の偉人や、現在活躍している有名人
 ・フィクション作品に出てくるヒーローやヒロイン
 ・素晴らしい芸術作品や音楽作品
 ・スペースシャトル打ち上げや新幹線のような大プロジェクト
 ・特定の学術大系や書籍、哲学、宗教、など

 これら、人間ではない理想化自己対象の場合も、ツボにはまると技能や学習意欲の原動力となり得る。素晴らしい音楽に導かれて器楽の練習に励む人や、特定の学術大系に対する畏敬の念が勉強へのエネルギーになっている人も珍しくない筈だ。

そんな憧れの人が、自分と似た所があるね、と話してくれたので、可奈は双子自己対象の面でも自己愛が満たされてうれしくなって、舞い上がって春香にサインをねだります。ここら辺の心情の動き方は心理学に沿っていて自然で良いですね。可奈は初対面の時はサインをねだらなかったし物陰から見上げるだけだったし、テレビで見て憧れるだけだったけど、隠れてお菓子を食べてる所(恥部)を見られてから肯定してもらうというハプニングを経て、自分にも春香と同じところがあるって聞いてから、合宿最終日の夜にサインをねだるほど春香との距離が近づいています。それくらい、可奈にとって春香へのあこがれが高く、春香のサインが重いものだと、ねだるタイミングからも分かります。
こういう、距離の詰め方の手探り感が思春期の女の子の部活もの百合って感じでゾクゾクしますねー。
そして、可奈は春香を目標として真似ようという気になります。これが後々の火種になります。
同時に告白された方の春香自身も、驚きと喜びを隠しきれず、そのことを千早に報告します。春香は賞賛してくれる可奈を鏡映自己対象[他人を映し鏡にして自己愛を充たす]として、喜ぶのです。そして、同じように春香の自己愛を満たしてくれて春香を見てくれている千早ちゃんに嬉しそうに報告するんです。この、後輩にアプローチされてうれしい気持ちを同輩に言ってしまうのは、マリみて的な女子校の部活ものの百合っぽさを感じます。
マリア様がみてる風に言うと「千早さん、私、可奈ちゃんからロザリオをねだられちゃった///」みたいな。
そして、これも後の火種になります。千早のヤンデレパワーをなめてはいけない。
でも、一応言葉では「そう、今では春香が憧れられる立場になったのね」と、微笑んで千早は春香を立てる言葉をかけます。

  • 千早から見た春香の後輩への態度

千早は春香に眼差しを注ぐ人、と言うのはカメラの件でも強調されてるんですが。
百合的に考えると、可奈にサインした春香の報告を聞く時、顔ではほほえみながら千早は「私と言う物がありながら、後輩にサインをねだられたくらいでデレデレして…くっ…」と考えていたのかもしれない。劇場版アイマスの感想で、とにかく「千早は春香を支える正妻」と言われることが多いのですが、寝取られ百合視点で見ると、千早の正妻っぽさも実は安定しておらず、距離が開いたりするのです。
私は映画を6回見ながら簡単な絵コンテを逆算してメモ帳に動きの時間と位置関係を速記したんですが、合宿中の春香は千早から離れる態度が多いです。前述のとおり、序盤から千早は春香の隣に居たがるのですが、リーダーとして周りに気を遣うようになった春香は千早から離れる機会が増えます。
千早が隣にいるのに、春香は挨拶の時、可奈に個人的に「よろしくね」と言います。嫉妬!
1日目の食事シーンでも、最初にテーブルに就いていた時、春香はお誕生日席で千早の隣に居ました。でも、春香は雪歩と一緒に後輩組のテーブルに移動して後輩を励まします。千早は佐竹美奈子ちゃんと横山奈緒ちゃんの後ろで背中合わせです。そして、春香が後輩を励ましている間、千早は無言です。目を合わせようともカメラに顔を向けようともしない。真は千早と同じくカップリング対象の雪歩が移動してるんですが、横山奈緒の後ろで移動した雪歩の方に振り向いて「萩原先輩って感じだね」って雪歩が後輩を見ることを認めて、箱崎梨花ちゃんに「ちゃんと食べておかないと明日がきついよ」と体育会系の先輩らしく声をかけてやります。
この、千早と真の、マリみて的な接し方の差、ホント百合です。マリみて的考察は次項に回したいんですが、今回も書いてしまうと、体育会系の真は完璧に黄薔薇様(ロサ・フェティダ)の支倉令さまです。対して、リボン主人公の春香が福沢祐巳だとすると、千早は紅薔薇ロサ・キネンシス小笠原祥子さまです。年齢は逆ですが、千早と祥子さまは才能があるくせに人づきあいが不器用ですぐに拗ねたりするし、髪型も似てます。
祥子さまはまだ年上だしリリアン女学園では卒業や上下関係があるのですが、千早は春香と同世代の百合カップルです。そう言うわけで、春香が後輩の面倒を看ると、千早は嫉妬、したでしょうね。
しかも、千早は自然に春香の隣に行きたがるのに、春香の方から後輩の方に離れていく行動が合宿中にあって、メンタルの繊細な千早からは、春香のそういう無自覚な他人への優しさが「私から離れて…くっ…」と言う気持ちの積み重ねになったのかも。
事実、1日目の食事で春香が後輩に優しくした後のミーティングで、ホワイトボードの前で千早ちゃんは春香との間に響ちゃんを挟んで座っています。響には悪いが、春香の隣に居たがる千早が一人はさんでるというの、千早の微妙な気持ちの変化と思えるかも。(やよいが挙手する時に千早が隣にいて映す、という演出意図かもしれないけど)
千早は言葉には出さないけど、こういう微妙な距離感で感情を表すめんどくさい子です。


真くんはボーイッシュだし、真自身が面倒見のいいタイプなので、雪歩が後輩の心配をすることはあまり気にしない。でも、千早は春香が後輩に話しかけている間、ほとんど無言です。

この、千早の無言の9393した立ち方が、千早の「表情や言葉には出さないけどスネてる」という千早らしさを表してて、実に千早さんらしいの。
合宿最終日も千早は春香の隣でスイカを一緒に食べてたのに、ぽっと出の矢吹さんに呼び止められてホイホイいって、プロの癖にサインをしてやって、その上デレデレして自分に報告に来るとか、当てつけてんの???
(とか、千早、顔には出してないけど思ってたかもしれない)
この、映画に描かれてない部分での、意図的に画面で見切れている千早の無言ぶりがほんと、いいです。
NTR千早スパイラル、かわいそうだけど萌えます。
そういえば、初代ゲームのTHE IDOLM@STERでもTHE IDOLM@STER2でも千早ルートはプロデューサーに対して依存してめんどくさいメールを送ってくるめんどくさい女だった。

千早
わがままな約束
――――――――――――――
プロデューサー、千早です。

約束してください。私を一流の歌手に育てるまでは、絶対に見捨てないと。

プロデューサーが、私以外の人をプロデュースするなんて、考えたくはありません。

すみません、こんなこと、私プロデューサーに甘えてしまってますね。

わがままを言ってみたかっただけです。忘れてください…。


↑暗号で「SUKI」って書いてある

アイドルマスター Xbox 360 プラチナコレクション

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千早と次第に打ち解けてきたのは良かったのだが、次第にこちらを見る目が男を見るそれになり、挙句には弟の死まで告白され人生そのものをプロデュースしろと無言の圧力をかけて来始めた彼女。
毎日ムキムキ アイドルマスター 2 15 千早のツバメ

めんどくせえええええええ!!!!

あーあー何も聞こえない――――ッ!

ちなみに2月25日、如月千早さん、誕生日おめでとうございます。
で、ゲームの千早はプロデューサーに依存してハッピーエンドでも二人の世界に墜ちていくという面もあった。そして、今回の映画では春香がリーダーとして、実質プロデューサー的な役割をこなす話です。つまり千早の愛は赤羽根Pへではなく…。テレビアニメ版20話「約束」でも失声症で引きこもった千早を「ほっとかないよ!」と励ましたのは春香…。
劇場版ではテレビ版よりも成長した千早はゲロゲロキッチンの時のように感情を表に出して怒ったり、失声症の時のように引きこもったりはしない。だが、表に出さないだけで、千早のめんどくささは劇場版でも健在と見る。そんな簡単に千早が真人間になるわけないだろ。そんなめんどくささも含めて千早は千早です!
合宿終了の帰りの車で、春香は可奈に微笑みますが、車の中で春香の隣は雪歩です。千早は後ろの方の席に居ます。あっ、千早がめんどくさくなり始めた…。
そして、千早の嫉妬が中盤の春香の迷走の一因にもなります…。

THE IDOLM@STER MASTER ARTIST 05 如月千早

THE IDOLM@STER MASTER ARTIST 05 如月千早

  • 伊織と志保の鏡

合宿の取材中、一人他のメンバーと距離を置く志保に伊織が声を掛けます。志保曰く、
「ステージに立つ以上みんなライバル」であり、765プロの姿勢が信じられない、という様子。それに対し伊織は「私は今でもみんなをライバルだと思っている」と返します。
今後もこの二人の絡みは出てきますが、そのきっかけになるシーンでもあり、非常に重要な場面だと言えます。
また、この後のスタジオレッスンのシーンでも、真が「振付を簡単に変えようよ」と提案した時に、伊織は「真は日和ってるのよ!」と厳しいことを言うんだが、志保はそれをじっと見ていて、「厳しい先輩の伊織は模範だな」と思う。それで、伊織を真似た行動をしようとする。志保は伊織の鏡でもあるのだ。このスタジオレッスンのシーンでは鏡に映った伊織と真を志保たちの後ろ頭が見ている、って言うレイアウトだ。
これは狭い画面にたくさんのキャラを同時に映す工夫として鏡が使われているんだが、「知らず知らずに間接的に見られる」→「知らないうちに影響を与える」という効果にもなっている。
可奈が春香を目標にしたように、志保は伊織を真似ようという方向になります。

  • 後半、ミニライブでの失敗後、楽屋のバックダンサー組を取り囲む鏡

後半は鏡のモチーフが増えます。
その一発目がこのギスギスシーン。

それはともかく、Pからアリーナライブの前にミニライブに参加するように、という話となります。
そしてそのまま間髪いれずにそのミニライブへのシーンへとは入っていくわけですが、ここでの楽曲は「MUSIC♪」。春香、千早、あずさというハニーサウンドチームから律子を抜いたトリオでの楽曲となっていて、そこに7人がバックダンサーとして参加する形になります。


しかしながらまったく上手く踊ることができず、転んでしまうなど散々な出来に。そしてそのことが週刊誌にまで取り上げられてしまい
劇場版アイドルマスター レビュー その3 ※ネタバレあり : アイマスタジアム

そして、反省会をするバックダンサー組。可奈は春香を目標にしているので、春香みたいにふるまおうとします。ここの行動も鏡のようです。

春香は初めてのステージで全くうまくできなかったことに対する反省をするメンバー達を見かけますが、そんな中、可奈が765プロの持ち味である「みんなで頑張ろう」というようなことを口にし、みんなを勇気づけ、元気づけようとします。


しかしながら、それを言う可奈自身が最も失敗が大きかったこともあり、志保がそれに強く反発。
「みんな」じゃなくてまず「自分」がなんとかしなさい、というようなことを可奈に言います。
しかしその言葉はあまりに強過ぎて、他のメンバーも含めて一触即発のムードに。それを盗み見る春香は間に入れそうもなく…というところであずさが登場。皆に声をかけ、その場を解散させます。

劇場版アイドルマスター レビュー その3 ※ネタバレあり : アイマスタジアム

ここで、私はあずささんは楽屋の中の口論を聞いたうえで解散させたとは思わない。あずささんはボケーっとしてるように見えて、優しさは人一倍ある人なので、後輩が揉めていたら「まあまあ」くらいは言うと思う。だから、純然と話を聞いて無くて単に時間が来たから呼びに来た、って言うだけだと思う。
だが、ここで鏡の演出が聞いてくるんだが、4面にメイク用の鏡が貼ってある部屋での口論なので、バックダンサー組はお互いの言い合う醜い顔を鏡越しに見て自覚することになる。そして、そういう醜い所に先輩のあずささんに声をかけられた、という事で、頼って相談する、とはできずに何にもなかった振りをして俯いてしまう。あずささんはやさしい人だけど、知り合って日の浅い後輩からはまだ優しさは伝わらず、年上の先輩、という印象の方が強くて怒られまいと萎縮してしまう。
ここら辺の、人間関係のすれ違い、本当に映画として良い。かわいそうだけど。
そして、春香はそれを横で見ていることしかできず、可奈に声をかけても可奈は「みんなで頑張る、じゃなくて私が頑張りますから!すみません!」と謝って足早に去っていく。それが、春香と可奈の長い別離の始まりであった。
また、志保が「あなたが一番できてないんじゃないの!」と可奈に強いことを言ってしまったのは、もちろん志保が伊織を不完全に真似たからだ。人間関係や結束力が765プロダクションの仲間たちほど出来上がってないのに、上っ面の「互いにライバルで努力して競い合う」という所だけを真似てしまった。可奈も自分が失敗したのに、リーダーとして認められてないのに春香を真似てまとめ役をしようとした。
実際、これまでの位置関係を見ると、可奈は合宿中は大体ダンサー組の中央にいた。合宿1日目の夜はダンサー組はみんな混ざってテレビを見ていたが、合宿で力量の差が目立ってくるとダンスできる組とできない組に分かれて立つようになった。でも、合宿終了の挨拶をする時、可奈はできない組とできる組の間を取り持つ真ん中にいた。終了の記念撮影でも真ん中の春香の隣にいた。
ちなみに志保は基本的に端っこや権威のあるプロデューサーの近くにいることが多かった。
だから、可奈と志保の衝突は、春香と伊織の不完全な部分の投影同士の代理戦争みたいな所があって、ここも鏡のような演出だと思います。
で、春香はなまじ可奈が自分みたいなことをして失敗したので、自分が責められたように感じて、すぐに可奈をその場で励ますことができなかった、と言うふうに気持ちが推し量れます。

  • その裏で遠ざかる千早

合宿の帰りの車で隣に座らなかった所から兆候は見えていたのだが、この池袋サンシャインシティ噴水広場でのミニライブは春香、千早、あずさ+バックダンサーである。
転倒した場面には千早もいた。だが、このシーン、千早は無言である。
そして、春香が走り去る可奈を呆然と見つめる後ろで、あろうことか千早はあずささんと談笑か打ち合わせをしていた!
プロ意識の高い千早のこと、ミニライブとはいえ春香との大切なステージを後輩に泥を塗られた形である。千早も悔しい気持ちがあっただろう。だが、春香はまたしても千早ではなく後輩の方を見に行った。
そして、千早はあずささんと話す。春香を励まそうとか、春香と後輩の仲を取り持とうとはしない。百合的には当てつけとも取れる行動だ。
また、ミニライブの後の反省会は回想シーンで、その前にゴシップ雑誌(これもある意味鏡)にミニライブの失敗写真が載ったり、春香が駅前の765プロアリーナライブ告知大ポスターをみてから、決意を新たにダンススタジオに入るシーンがある。

雨の中レッスンスタジオに到着する春香。そこには…
 「「「遅いよ、春香」」」
 765プロ全員の姿。泣くしかないよ、これは。23話との比較が・・・ああ、もう。
Maison simple de [Rene] : 増殖する劇場版アイドルマスター感想

テレビ版後半では集まらなかったのが問題だったので、集まっただけで感動ものなのですが、レッシュンスタジオで春香を迎える千早はグループの端っこで、半分見切れている。そして無言。
レッスン中にプロデューサーも来て、春香はリーダーとして中央に居るところに、面倒見のいい先輩として合宿中に振舞った菊地真に、ダンサー組の年長者の佐竹美奈子から「ダンサー組の練習が上手くいっていない」というメールがくる。当然みんな驚く。真はリーダー春香とプロデューザーに携帯電話を見せる。自然に他のメンバーも集まる。
が、千早は動かない。輪の外にいる。


ここで恐るべき鏡のレイアウトがあるのだが、ダンスレッスンスタジオの壁は練習のために鏡張りだ。だが、部屋の入り口の1スペースはカーテンが引かれている。で、カーテンで鏡が隠れている所にみんなが集まっているのに、千早だけその外のスペースに居て千早だけが壁の鏡に映っている!
疎外感!心的距離!後輩の面倒を看る春香や仲間との気持ちの差!千早のめんどくささ!また、鏡に千早が映っているという事を俯瞰で見せるレイアウトの演出的意図を推察すると、みんなが鏡に映らずにメールの画面(これも鏡だ)に集中しているのに、千早だけが鏡に映って内省的な気分に陥っていると感じられる。


このダンススタジオでの一件の前、事務所でミニライブの悪評の載った雑誌に最初に反応するプロデューサーと小鳥さんの会話シーンもあった。

ここでは週刊誌なんて今更誰も気にしない、とPと小鳥は話をし、ハリウッド研修は予定通り行く、ということを確認。そんな中、小鳥が「私だって、Pのハリウッド行きを寂しく思っているんですからね」なんて話を
劇場版アイドルマスター レビュー その3 ※ネタバレあり : アイマスタジアム


この絵、ヤバい。何がヤバいかと言うと、小鳥さんは雨で曇って鏡になった窓ガラスに自分の顔を映して、自分の内面を確認しながら「寂しいんですからね」と言う。対して、プロデューサーが座っている席の後ろの窓にはブラインドが下りていて、演出の暗示的にはプロデューサーは外を見たり自分の内面を映したりせずに、勉強と実務に集中しようとしている意欲が感じられる。だが、その分、プロデューサーはリーダー失格と言ってしまう春香や他のメンバーの内面の気持ちにはちょっと気づきにくくなる、という感情のすれ違いの予感にもなってる。ブラインドが下りてるだけのさりげない違いだが、プロデューサーのその時点での気持ちを表しているブラインドだ。
そして、この鏡に映っている人と映ってない人の差が、この後の「千早だけが鏡に映っている」という事から発する距離感の差、と言う風にも暗喩が広がる演出だ。

  • 離れていく千早

とりあえず、ダンサー組の練習が上手くいってないという事を受けて765プロに彼女たちを呼び、ほぼ全員でミーティングになります。この頃では、ダンスの出来栄えで席順が固定化して星梨花、杏奈、百合子、奈緒、美奈子、志保が横並びになります。

志保は原作のアイドルマスターミリオンライブ!では演技派女優志望でダンスは苦手なキャラですが、人一倍努力で一番ダンスができるとプロデューサーたちにアピールするような位置に座る。そして、「出来ないなら、出来るように努力すればいいでしょ!」と苦手組に言う。
それに対して、萩原雪歩は「仲良くしなきゃだめだよぉ」と言う。雪歩が一番後輩たちに近い位置にいる。
765プロ側は半円形に並んでいるが、

     真美、亜美、伊織  P,律子
千早 美希       春香
  真          雪歩
  貴音 
      ダンサー組6人

と言う位置関係です。(あずささんと響とやよいがどこに座っていたかはメモし忘れた)
真と雪歩が離れているのは、むしろこの二人は後輩の近くに居ようという先輩意識だと思う。貴音もああ見えて年長者として面倒見がいいから後輩の近く。伊織が春香の隣にいるのは竜宮小町のリーダーとしてライブリーダーの春香を補佐する参謀役としての気持ちだろう。Pと律子が少し離れているのは、年長者として若年者を萎縮させないためと全体を見るため。美希と亜美真美は、あんまり後輩を率先して導くタイプではないけど、とりあえず居る。
そこで目立つのは、やはり、千早が輪の外にいる所だ。千早は春香が好きなんだが、それ故に春香が後輩に目を向けるのが嫌なんだよ。このミーティングでも千早は何も意見を述べず。9393している。


ここで、春香の自己愛を満たしてくれていた千早が露骨に距離をあけているのが、春香のリーダーとしての自信を弱める一因になっている、と、推測できる。


その後、765プロで可奈以外のダンサー6人を預かるとPは決定する。
で、改めて合同練習になって、ダンススタジオで響は奈緒と美奈子のダンスをコーチして、あずささんは百合子に振付を覚えるコツをアドバイスする。
ステージ演出を巡って伊織と真がディスカッションして、それを鏡越しに見て星梨花は「喧嘩でしょうか?」と驚き、「違うと思う」と、杏奈。そして、やっぱり強く意見を言う伊織を見つめてる志保は改めて伊織を目標にする。


で、合同練習になったのに、可奈が来ないことで春香も焦りを感じます。そして、スタジオの隅で体育座りしてるダンサー組に春香は可奈がまだ来てないという事を改めて聞いて、奈緒は「可奈、このまま諦めてしまうんやろか…」と吐露する。春香さんは「まだ、来れない理由があるのかもしれないし!」と、空元気で言います。でも、それは鏡張りのスタジオで空虚に響く。また、鏡で繋がって互いを見合い易いダンススタジオなのに、このカットでは、休憩中だからかダンサー組と765プロ組ははっきり分かれて、春香以外はダンサー組を見ていない。伊織、真、雪歩はライブの進行についての会議に熱中しているから、仕方ない。だがそれが、余計春香のリーダーとしての自信をぐらつかせる…。一人でリーダーをするのはつらい。テレビ版24話でも春香が一人で新年ライブのまとめ役をしようとしたことに、真たちは気づかなかった。劇場版では皆ライブに向けての意志を持っているが、その分、後輩に対して春香が声掛けするのに気付きにくかったり、春香一人に任せてしまったりする。


別の日、悩んでる春香がテレビ局でジュピターと遭遇するが、これは前に記事にしたので割愛する。ただ、ジュピターとの会話でさらに春香が「頑張らなきゃ」というプレッシャーを受けた。


また次の日も、ダンススタジオでレッスン。ダンサー組の体力差が目立ってくる。特に箱崎梨花が汗だくでぶっ倒れてしまったりする。
この合同練習の途中、千早は帽子をかぶってダンススタジオに入ってくる。帽子をかぶっていたのは、歌の収録の仕事の帰りと言うサインだと思うが、このスタジオ練習では千早は一切春香に視線を合わせず無言。
よく考えたらライブの後は千早は海外レコーディングと言う重大なイベントを控えているから、千早にしてみれば海外が2回目だとしても、もうちょっと春香に振り向いてほしい、気をかけてほしい、という無言のアピールなのかもしれない。千早は無言の圧力をかける女である。でも、春香は後輩の問題やリーダーとしての役割意識で頭がいっぱいになって、そんな余裕がない。
まるで、千早と入れ違いになるように、春香は別室に行き、伊織、あずさ、亜美、貴音と後輩たちの処遇について相談する。
貴音曰く、ミリオン組は個人の技量こそ上がっているけど、亜美曰く、逆に個人の差が出てしまいバラバラに見える。伊織は技術的なこともそうだけど、精神的な面でダンサー組がバラバラだと指摘する。それで、貴音が「何事も慣れぬ間は心乱れ易きものです、可奈のことも含めて、もう一度話し合うべきでしょう」と春香に指示する。
テレビアニメ版11話でも似たような状況になって、雪歩とやよいがダンスの足を引っ張った。このライブ前に挫けそうになった雪歩に向けて、貴音は面と向かって「萩原雪歩。どうやらあなたには、技術以前に欠けているものがあるようですね」「それは覚悟です。自分の壁を突き崩すという覚悟をお持ちなさい」と説教したが、今回は後輩とのコミュニケーションはリーダーである春香に任せる方針。貴音さんはすごくプロ意識が高い人だし、物事の関係性を見抜いてズバッと一言で言ってしまう所があるが、劇場版ではセーブしたのだろうか。
また、11話では貴音は雪歩に単刀直入に説教して泣かせてしまって、雪歩を立ち直らせたのは真の励ましと、やよいの協調と、春香の楽天的なリーダー気質だった。だから、貴音は劇場版では自分がぐいぐいとダンサー組に入っていくよりは、春香の「良い意味で楽天的な部分がみんなを押し上げてくれるかもしれない」という所に託したのかな。
だが、11話では春香もボーカルレッスンで苦労していて、それを支えたのは千早だった。持ちつ持たれつだ。そして、劇場版の中盤、悩む春香と千早の距離は、遠い。

  • 学級委員長の春香と副長の千早

貴音に言われて、アイドル全員をダンススタジオに集め、ホワイトボードの前で今後の方針をダンサー組の皆に聞く春香。できない組に合わせてダンスのレベルを下げるか、このままで行きたい人がどれくらいいるか、挙手を求める。

高校2年生の春香にとって、話し合いは学級会で挙手、と言う所に春香の幼さが見える。ここでリーダーと言うか学級委員長のような感じでホワイトボードの前に立つ春香の隣に、千早がいる。リーダーを補佐する位置だ。だが、どこか視線が春香もダンサー組も見ておらず、無言でぽつんと9393して立っている印象。あとはあずささんが立っていて、残りはおとなしく体育座り。
そして、煮え切らない多数決、奈緒と美奈子との衝突で方向性が揉めて、春香は「可奈ちゃんが戻ってくるかもしれないし」と、甘いことを言う。
志保はそんな春香に反論する。
ここで千早。

「くっ・・・」
だが、無言を貫く。千早も春香のことを心配しているのだ。春香が後輩の方を向くことでちょっとした嫉妬もあったかもしれない。だけど、千早は春香の不幸を願っているわけではない。むしろ後輩のせいで春香が苦境に陥ってしまった現状、そこまでこじれるまで春香を支えずに離れてしまった自分への後悔、それが入り混じった千早の悔しそうな困ったような表情。
そのタイミングで、杏奈が可奈からのメールを春香に差し出す。このメールと言うのももちろん鏡のようなものなんだが。
杏奈は春香に「ライブを諦めます。ごめんなさい」というメールを見せて、春香からのサインの入ったマスコットを可奈が要らないと言っていたと、突き返す。
「あんまりだぞ!」とか響が立ち上がって、やよいや亜美真美も心配そうにメールを見て春香に近づく。キツイことを言った志保も、一方的にメールで諦めた可奈の態度に怒って立ち上がる。
「今進めるものだけでも進めないと、みんな駄目になってしまう」と志保は詰め寄る。みんなが春香に視線を合わせて中央に集まる。だが、千早は最初の位置から動かない。硬直。千早は春香が好きだ。だけど、人見知りしがちで、後輩と春香の間を取り持つ、と言う器用なことはできないのも千早。春香が後輩の方を見て、千早が春香から離れがちになったのは、単純な春香への嫉妬や復讐心ではなく、千早自身も後輩とどう接していいかわからなかったんだと思う。千早もライブは成功させたいし、リーダーの春香を支えたいし春香の気持ちを尊重したいという事は合宿中から言っている。でも、そのためにバックダンサーとの「交流」に対してどうしていいのか、どうしたら春香を支えることになるのか、千早はわからない。本当に不器用な千早。だから他のみんなが可奈のメールという事件にショックを受けて自然に春香の周りに集まっても、千早はフリーズしたように動かない。
そんな千早を無視して、カメラも半分千早を見切って、志保と春香の衝突が激化する。

「自分で諦めていった可奈のことを気にすることはないじゃないですか。今進めるものだけでも進めないと、みんな駄目になってしまいますよ」と、志保。
春香はまだ「可奈ちゃんの気持ちをもう一度確かめてからだよ」と、甘いことを言い、
「話にならないです。何であなたがリーダーなんですか…!」と、志保は絶句する。
そこで、志保が理想化自己対象として憧れていた伊織が直々に志保を止める。
「ストーーーップ!今のは流石に言い過ぎよ。志保、焦るのはわかるけど、今のは言ってほしくない言葉だわ」
ここでの春香と志保の口論は、志保が伊織の真似をしたこと、志保と同じようにストイックな千早が後輩の面倒を見る方法が分からなくて春香に任せきりにしたこと、に起因している。だから、春香と志保の対立であると同時に、春香と、志保に投影されてる伊織と千早の代理戦争という765プロの内部分裂も暗示されてる。
ダンサー組ができない後輩なので見過ごしがちだが、765プロもテレビシリーズ26話で成長し結束したけど、だからと言って大半のメンバーは十代の女の子で、精神的には完璧には成熟していない。劇場版では面と向かって765プロのメンバー同士が反目することはなかったが、絆が深まって互いの気持ちが分かるようになったから感情的な喧嘩が出来なくなるという面もある。千早が感情を押し殺したり、伊織がリーダーではなく一歩引いた態度に成ったり、貴音もあずさも年上として引っ張ることはしない、という微妙に傷つけあうのを恐れるような距離感になって、リーダーの春香に負担がかかる。
765プロは団結力が持ち味だし、劇場版では表面上は対立してないが、ダンサー組に765プロメンバーの要素が投影されることで、春香とダンサー組の対立が765プロの代理戦争という暗示もある。
だから、765プロも順風満帆の完成されたトップアイドルではなく、外部からダンサーが来ただけで微妙な不協和音が生じるわけで、みんな悩んでるし、この劇場版で春香以外のメンバーもそれぞれ人間関係に直面して成長してるということ。
そんな内部分裂を感じたのか、リーダー気質の伊織が、1歳年下で自分に似ている志保をたしなめて、伊織と春香の代理戦争を止めて、伊織もリーダーとしての春香を立てる。伊織は自分もしっかりしてるけど、周りも見えてる子だし、やっぱりお嬢様として育ちがいい。相手を見ることと、相手からどう見られているか意識出来てる。だから、自分に似ている志保がかつての自分みたいに周囲を過度にライバル視するようになって反発した気持ちも分かったんだろう。
その上で、春香と志保の対立の原因が伊織と志保が合宿中に交流したことに起因したともわかる伊織は、志保の立場にも立って、春香に 「そろそろリーダーとしてみんなのまとめる覚悟を決めて」「あんたがリーダーなんだから、しっかり決めなさい」と釘も刺す。こうやって伊織が春香をリーダーとして認める態度を取ることで、志保に投影した伊織と春香の代理戦争には一応の終止符が打たれる。
だが、春香はまだ自分の答えを出せていない。
ここで、また千早は無言で辛そうに、あるいは睨みつけるように?春香を見る。千早も自分がちょっと拗ねて無言でいた間に春香が追いつめられていることを辛く思ってるようだし、その事態に責任の一端を感じているのかもしれない。
そして、あずささんの一声で、ミーティングは解散となり、仕事に行くメンバーとスタジオに残るメンバーに分かれる。
ミーティングが不完全燃焼に終わり、みんな暗い面持ち。そして、タクシーに乗る前、千早はレッスンスタジオの階段を振り返る。

そう、ここで千早はもう一度春香と向き合う気持ちになったのだ。この、春香が後輩にガンガン詰め寄られたりメールで拒絶されたりって所まで追いつめられてやっと心が素直になる千早の、不器用さがいじらしい。そして不器用だけど、自分から春香をもう一度支えようと思い直せる千早の芯の強さ。無言だし短いカットだけど、胸に迫りました。
このブログの感想4中編でエーリッヒ・フロムの愛するということを引用して「成熟した愛は自覚的で能動的だ」と書いた。この映画は春香が後輩との関係を経て自覚的になる話だが、千早もまた、「春香と私の関係」だけでなく、後輩も含めて広い人間関係を持ちつつ春香への愛に能動的になる、それに気づく、という成長を見せている。(ここら辺もマリみて的に考えると白薔薇姉妹の片手だけ繋いでを連想しますねー)
春香が悩んでいる間、ほとんど千早は無言で、春香との距離感くらいしか感情表現をしていないのだが、距離が近づいたり離れたりするだけで、千早にも千早なりの葛藤と決意と成長があると伝わりました。千早、頑張ったね。

(フロム愛30)
愛とは、世界全体にたいして人がどう関わるかを決定する態度、性格の方向性のことである。
一人の人をほんとうに愛するとは、すべての人を愛することであり、世界を愛し、生命を愛することである。


(フロム愛31)
誰かに「あなたを愛している」と言うことができるなら、「あなたを通して、すべての人を、世界を、私自身を愛している」と言えるはずだ。


(フロム愛32)
兄弟愛とは、あらゆる他人にたいする責任、配慮、尊敬、理解(知)のことであり、その人の人生をより深いものにしたいという願望のことである。
もし愛する能力がじゅうぶんに発達していたら、兄弟たちを愛さずにはいられない。
兄弟愛の底にあるのは、私たちは一つだという意識である。


(フロム愛33)
すべての人間がもつ人間的な核は同一であり、それに比べたら、才能や知性や知識のちがいなど取るに足らない。
この同一感を体験するためには、表面から核まで踏みこむことが必要である。
この中心と中心との関係が「中心的関係」である。


(フロム愛34)
自分の役に立たない者を愛するときにはじめて、愛は開花する。
エーリッヒ・フロム『愛するということ』を83ツイートで読む : 八嶋聡ブログ

やはり、THE IDOLM@STER 輝きの向こう側へ!は愛の話なのである。

  • 美希と春香の化粧室での鏡を交えた交流

ダンスレッスンスタジオの更衣室で伊織から「このライブはプロデューサーにとっても特別なライブなのよ」と念を押された春香はそのお重みで動きが遅くなる。それで、春香は着替えが遅れて女子トイレに入ると、ダンスの再確認をしていたのか、身繕いに時間がかかっていたのか、残っていた美希と鉢合わせする。
化粧室なので、当然鏡の芝居となる。
春香は鏡を向いてる美希も見ないで、俯いて「私どうしたらいいのかな」と相談する。美希は鏡から目を離して「ミキは春香じゃないから分からないの」。
「そうだよね〜」と、おどけてこけたふりをする春香。でも、裏を返せば「春香ならわかるんじゃない?」ってこと。春香自身はまだ気づかない。
で、今度は美希の方が俯いて、「でも、リーダーに選ばれたのは春香だから、そこは悔しいの」と、吐露する。鏡を見るよりもさらに、内面を見て本心を言う美希。美希は美希で、葛藤があった。ハリウッドスターになることは褒められることだけど、プロデューサーに選ばれなかった、と言う点では美希は悔しさを持ってた。
この本心を美希が春香に吐露できたのは、化粧室で二人っきりの女子トークだからか、鏡のある部屋で視線を逃がせずに、内面を見つめることになったからか?
アニメ演出的に、「女性キャラの難しい話は風呂に入りながら」という技法もあるんだが、それの軽いバージョンかな?給湯室トークでもある。
女子トイレと言えば最近ではたまこまーけっとも思い出すなー。
失われた何か たまこまーけっと10話における、みどりと史織の逆転する関係性と、みどりの脚描写の考察


ともあれ、美希は化粧室を出る時には春香を見て「春香の方がリーダーっぽいって思うし」と告げて、キリッと春香に向き直って「だからミキも、ミキにできることをするね。ライブ頑張ろうね」とちゃんと言う。ここでちゃんと葛藤を乗り越えて、鏡越しじゃなくてちゃんと顔を見てライバルの春香に言えたので、美希も美希なりに何かを乗り越えたのだろう。
だが、春香は美希が去った後、鏡を見て「自分はこれでいいのかな?」と言う風に落ち込む。伊織と美希に認められても、まだ、春香はリーダーとして自信と実感が持てていない。

  • プロデューサーと律子

春香にリーダーを任せているが、上手くいってないことを感じているプロデューサーは、ハリウッド行を伸ばせないか、と優柔不断になってしまい律子に相談する。律子はそこで「私だって、プロデューサーに徹するって決めたんですから」と、「自分たちで乗り越えようとしてるアイドルたちを信じてください」って言う。
社長の方針で、人間的成長を促すために新人の面倒を見させて、リーダーの春香にプロデューサー的な役割を自覚させるというのはある。だが、それはきついんじゃないかな?と春香にプロデューサーのアイドルケアの役割を投影している本人のプロデューサーが迷う。
だが、律子は元アイドルでもあるし、赤羽根プロデューサーが居なくなる後のことも考えているし、鬼軍曹でコーチなので「アイドルたちが精神的に成長してもっと逞しくなる」事を期待して、事務方に徹してメンタルケアはアイドル同士に任せる方針を固める。現実的にビジネスとして考えると長期欠勤してるメンバーが出たり、演出方針がライブスタッフ抜きでアイドル同士の話し合いで揺れたりしてるのはプロデューサーが介入すべき問題かもしれない。
だけど、まあ、これはアイドルたちの人間的成長を描いた人間ドラマだし、実務よりも精神論が重視されるのか。また、律子も元アイドルなので、「アーティストにとってパフォーマンスを高める最後の部分は気持ち」だという実感があって、心を鬼にして心を鍛えるために揉め事を揉めさせているのかも。
もちろん、それもメンバーとの信頼関係があってこそのもので、普通の会社とかでやると無理が出そうなギリギリのラインなんだが。そのアイドルたちの信頼関係の凄さをたたえるのも、この映画なのかな。まあ、そこは物語だからな…。



  • 千早と春香の鏡越しの交流



ここが春香と千早のある意味のクライマックス。
ミーティングの後の日のある晩、練習が長引いた後、春香と千早は夜のカフェで話し合う。春香と千早をカップルだと思うと、後輩との関係に春香の注意が行ったのに千早が軽い嫉妬をしたが、その後輩との関係で春香がダメージを負ったので、千早が気持ちを切り替えて春香をケアしようとしたデートシーンで、これはラブシーンと言ってもいいでしょう。
窓際の席に隣り合って座った二人は、互いの顔を見ません。カメラも彼女たちの背後にあり、窓ガラスに映った彼女たちの鏡像を映す。
そこで春香は矢吹可奈からメールが帰ってきてるか、フィーチャーフォンでセンター問い合わせする。
千早「矢吹さんのメール?」この時、春香は右利きなのに、右側に座ってる千早から隠れるように、左手でこっそり携帯電話を操作してる。この映画で、携帯電話のメールのやり取りと言うのも、ある意味人を映す鏡のような役割を担っている。これを隠しているということは、春香は春香で千早と二人っきりなのに、可奈のことを気にするのは申し訳ない、だけど気になる、という微妙な気持ちを持ってる。また、可奈を気にしすぎるのが良くない事かもしれない、とも思っている。
春香は「どうすればいいのかな…」「可奈ちゃんと私の気持ちを重ねちゃいけないって思うんだけど」
と、吐露する。
ここは賛否両論のあるシーンで、同時に重要なシーン。春香がテレビシリーズだと、もっと早く千早の自宅を訪問して「ほっとかないよ!」と言ったのに、なんで今回は遅くなったの?という疑問はある。
だが、テレビシリーズで春香が千早の自宅を訪問したのは、その前の11話で練習が遅くなった時に一度泊めてもらった経験があるし、行きやすかった。また、千早が引きこもった時の春香は、プロダクションの仲間の代表として面会に行ったという面もある。
とにかく可奈と千早では心理的距離が違う。そして何より、春香がリーダーとしての責任感とかプロデューサーの役割を期待されてることとか、可奈に憧れていたと告白されたり、バックダンサーとの交流や軋轢とか、色んな事を通じて、愛するということに対しての自覚を深めていたからだろう。
春香は自己像が曖昧だから他人の痛みを自分の痛みとして共感能力が高い、それ故に無意識的に気配りができる、と書いた。そういう性格だからこそ、無意識的にやってた共感を意識的に、リーダーとしてやろうとすると、迷いが生じる。
テレビシリーズの春香は本能的に千早がいないと嫌だ!一緒に居たい!と叫んだし、仲間だと思っていた美希と舞台で役を争うことになると混乱した。自分と他人の境界があいまいだった。
そんな春香が、「可奈ちゃんと私の気持ちを重ねちゃいけないって思うんだけど」と言うのは、迷いである。同時に、そうやって好意に自覚的になることは成長である。
コフートの双子自己対象として、自分と可奈を重ね合わせるのも気持ちいいことだ。思春期には連れションのような似たような相手と同じような行動をすることで自己愛を満たす、という習性もある。だけど、相手は自分とは違う独立した人だ、と思う理性も思春期からさらに成長するには大事なこと。
そして、成長には痛みと迷いが付いて回る。
精神分析家エーリッヒ・フロムの「愛するということ」にこうある。

愛の基本的要素「尊敬」。
尊敬とは人間のありままの姿をみて、その人が唯一無二の存在であることを知る能力のことである。
自分が独立していなければ人を尊敬することはできない。
エーリッヒ・フロム『愛するということ』を83ツイートで読む : 八嶋聡ブログ

春香は可奈は自分に憧れているけど、自分とは違う人だ、と意識している。これは自分を愛するように仲間を愛していた春香より、より大人っぽい考えだと言える。
だが、春香は苦悩する。
春香は俯いて「志保ちゃんの言うとおり、どうして私なんかがリーダーなんだろう…」と凹む。志保の意見も、また美希や伊織の意見も他者の言葉として重視することが出来はじめたから、春香は苦悩する。
その、ガラスに映った春香の凹んだ顔を伺う千早。
春香は鏡の自分の顔を見て、顔を作り直してから千早を見て「こんなことじゃダメだよね、もっとリーダーとしてみんなの意見をまとめないと!」と無理な笑顔を見せる。
そこで、千早は気持ちを切り替えるように、正面の鏡の方を見て「そうじゃなくて、春香らしい答えなら…ってこと。それが春香の中で一番確かなら、それでいいんじゃないかしら」「リーダーに選ばれたのは春香だから、プロデューサーもそれを望んでいると思うから」


春香がドツボにハマったのは、「先輩として、リーダーとしてやるべきこと」に引っ張られたから。「可奈や志保は自分は違うし、他の皆の意見もまとめるべき」という風に、「こうしなきゃ!」と言う意識が強かった。
だから「自分のやりたいこと」が見えなくなった。
春香は自分と他人の境界が曖昧だった。それをリーダーと言う役割や実際の後輩との付き合いで、他人との境界線を意識した。それは理性的成長であるが、同時に春香は自己像も曖昧な子だったので「みんなはどうしてほしいのか、みんなはどうしたいのか」と言う所にばかり注目して、意見を聞いた後も「自分はこうしたい」という発想が出来なかった。
可奈にメールを送っても、返ってこない。だから可奈が本当はどうしたいのかわからない。だからどうしてあげたらいいかわからないで、何度もメールを送り付けて返信が無いかチェックする。
もしかしたら、合宿中に「春香らしいリーダーならいいと思う」と言って春香の自信を保証してくれた千早が、合宿後にちょっと距離を置いてしまったことも春香が「こうしたい」より「こうすべき」を優先してしまった遠因かもしれない。


そんな風に苦境のどん底にいる春香に、千早は改めて合宿2日目の朝と同じように「春香らしければ良い」と言った。それは、春香を大好きな千早が「こうして欲しい」という変わらない願い。千早には春香が春香であることが一番の望みなのだ。後輩と春香の関係を見て寂しくなったりもしたけど、根本の愛の部分では春香が春香だったらそれでいいんだ。劇場版で千早が春香から気持ちが少し離れたという意見は少数派かもしれない。だが、僕の見方では、千早は春香に嫉妬し、苦しむ春香を見て、改めて彼女を支えたいと思い、千早も再び愛を「自覚」するに至る成長を遂げたと見る。その方が、ラブストーリーとして起伏があるし。うん。百合は恋愛ではないんだが、やっぱり人間愛なんだよ。


こうして再告白した千早に対して春香は、「私の気持ちで…ってこと?でも、それがもし間違ってたら…」と戸惑うのだが、
千早は鏡ではなく生身の春香と向き合って「私もみんなも、まだ春香の答えを聞いてない。それは今は、考えなくていいんじゃないかしら」と、ハッキリと断言する。春香が間違っているか合っているかはわからない。だが、そんな些細なことよりも、春香が春香であることの方が千早には大事なのだ。それが、愛なのだ。
このシーン、互いに鏡越しで会話して、交互に顔を見合っていた二人が大事な所で目を合わせるの、スタンダードな演出だけど、それまでの春香の悩みが解けるきっかけにもなるし、なによりラブシーン臭いのでとてもいい。
その後また千早は気持ちを切り替えて、鏡の方を見て、自分の内面を吐露するように、「今度のライブに母親を招待しようと思う」と告げる。
それからまた見つめ合って、「春香のおかげで変わることができた」と千早。
 春香は、「千早ちゃんが前に向かって進んでいるから変われたんだよ」と、すごくイチャイチャしている。
イチャイチャしてる所を他の客に「あれってアイドルじゃない?」って気づかれて店を後にするのも、非常にカップルっぽい。密会デートっぽい。
とにかく、このラブシーンで春香の自信が少し取り戻されたことは確実でしょう。

  • 萩原邸と水瀬邸の鏡面対照

ここも明らかに対照構造になってる。

バックダンサーのダンス得意組の水瀬邸と、不得意な方の子が集まる萩原邸。(ちなみに双子の姉であり、竜宮小町に入った妹の亜美を追う立場の真美は萩原邸の方。真美の方が一歩引いて弱めの子を思いやる所がある)
その中でも、それぞれ、萩原雪歩が自分と似たような苦手意識のある子に向かって、「私は、頼って欲しいよ」と言う。過去の雪歩の投影が杏奈たちだ。
そして、杏奈たちが「自分のせいで足を引っ張っているんなら、自分たちはいなくなるべきなんじゃないか」と言うのに対して雪歩が「だから、『どうするべきか』じゃなくて『どうしたいのか』を考えて欲しい」と返すのは、春香に対する千早の言葉の繰り返し。引っ込み思案な雪歩がそう言う風に後輩に言えたのは、隣に一緒にダンスレッスンを乗り越えたやよいと、叱咤激励してくれた貴音と、優しく助けてくれた真がいたからだろう。
水瀬邸でも、伊織が「春香がどうしたいか、それくらいシンプルなことなのよね」とズバリと言う。
でも、年上のあずささんは「みんなの気持ちが分かる分、辛いのよね」と春香のことを思いやっている。
響と亜美も「春香は全力を出すなって言ってるんじゃないぞ」「はるるん自身が全力なお方ですからな」と、春香を分析している。
萩原邸では「どうしたいか」という春香の内発性の繰り返しだったが、水瀬邸では外の仲間たちから見た春香の分析と、春香への信頼について語られる。
春香を信頼しきれない志保に向かって、美希は「大丈夫なの」と言う。 
「確かに春香の考えは甘々だって思うな。でも…だから春香はミキのライバルなのかも」
伊織もそれに賛同して、「春香はあの子なりにちゃんと筋を通してくるから」と。
この二人の春香への信頼感は、前のシーンでの千早の春香に対する信頼感の繰り返し。
同じことを違うキャラクターと違う場所で繰り返して、説得力を増して感情を共振させている。
ただ、伊織は春香は大丈夫、と言った後「そうよね、シャルル」とウサギのぬいぐるみに語りかけて、しっかり者のお嬢様と言うだけではない、年相応の幼さも見せてくれている。また、伊織が最後に大好きなぬいぐるみに思いを託すのは、結局人を信じるということは祈りのようなものだ、という普遍的な人類愛の片鱗も匂わせている。いや、そこまで大げさじゃないかもしれないけど、伊織だって完璧なリーダー気質のスーパーアイドルってだけじゃなく、人間臭くライブにはそれなりに不安感を抱いてる、という事でバランスを取る描写だな。


  • そして、春香と可奈へ

カフェのデートシーンで(一度離れていたかに見えた?)千早が春香に視線を注ぎ直して自信を取り戻させてあげた事、それと、離れていてもプロデューサーと律子、萩原邸と水瀬邸に集まったみんなが春香を信頼して待つという態度を示した事。これで、春香と可奈の電話のシーンに向けて、テンションが上がります。
そして、長くなったのでまた分けます。
春香と可奈の対話やアリーナでのやり取りについては、その2で。