玖足手帖-アニメブログ-

富野由悠季監督、出崎統監督、ガンダム作品を中心に、アニメ感想を書くブログです。

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創作幻視小説版「夢兄妹寝物語」 2003年10月 第10話 第6節

サブタイトル[ロマンスの休日]  
前節
創作幻視小説版「夢兄妹寝物語」 2003年10月 第10話 第5節 - 玖足手帖-アニメ&創作-
前書き:

千鳥:生涯 甘いよ甘い ははは
   生涯だって 簡単に言っちゃうんだもんね ははは
   だからお子ちゃまなんだっての


七夏:おばん


吉田基已恋風

 
 

  • 高層マンションの最上階の社亜砂の部屋のリビングルーム

 話しこんでいる間に、テーブルの上の料理はあらかた片付いて、皿も冷えた。子供の前では飲酒をしないのか、金髪の兄妹は魔法瓶から熱いコーヒーを注いだカップを持っている。
モッグモッグ。モッグモッグ
 ただ、そらだけはレイの分のパスタをぶんどって口いっぱいに頬張って、唸っている。
社「どういう事も何も、報告してある通りだ。私がお前以外と取引してはいけないとでも?警察には許可されたのだが」
アレッシア「スポンサーの私に何の断りもなく、ね。この子の家庭教師だけでなく、かなりの依頼を受けているようね。それはいいのかしら?」
社「それを今言って、お前に得があるのか?ただの社会奉仕活動さ」
 貴婦人然とした妹は語調こそ丁寧だが、仮面の兄を見据える碧眼はするどい。対して金髪の兄の仮面の下の唇は薄く笑っている。
アレッシア「度が過ぎます。私はあなたがまた過ちを犯さないように、注意しているんです」
社「それはありがたい忠告だな」
アレッシア「ふざけないで」
 ゴックン!
 ずっと咀嚼していたパスタの塊を、そらは飲みこんだ。そして、立ち上がる。
そら「がーっ!結局、これはどういう集まりなの!」
 そらは大人の兄妹の会話が続き蚊帳の外に置かれ、退屈と怒りで爆発した。睨み合っていた金髪兄妹は、桃色ブロンドの美少女の大声に首を振り向き、
アレッシア「先生、この子、癇癪持ちの様ね」
社「私も手を焼いている」
アレッシア「そういう子が好みなんでしょう?」
そら「またそうやって二人だけで話すっ!なかよしさんか!色々仮面の警察にばらすわよ!大声出しちゃうわよ!」
 ブンブンと頭を振るので長い髪が隣のレイの頭に絡まったりする。正体が宇宙人であるレイは人間関係のもつれが理解できず、もたもたしている。
社「落ち着け、頭令」
レイ「すみません。先生」
アレッシア「話をそらしてしまって悪かったわ。久しぶりに先生に会えて、私もうれしかったのよ。あなたになら、わかるでしょう?」
 妹の情を持ちだされると、そらは弱い。だから動きが止まって、腕組みに成ってしまう。
そら「私は話をすっきりさせてくたらそれでいんです。子供ですから。廻りくどい大人の話は嫌なの!ふんすっ。
 えっと、まず、第一!私は社の素顔が見たくてここに来ました!わざわざ!このわたしが!家の中ならあんたは仮面を外せるんでしょ?見せろ!
 第二!アレッシアさんは社の生活と、勝手な仕事を査察しに来たってこと、ですよね?」

アレッシア「ええ。そうね。身元引受人ですから」
そら「じゃあ、査察しやすくしなきゃ!それで第三!結局、社が盗聴付き仮面を外さないのが気に食わないし喋りにくい!社が悪い!
 だから、結論としては、社がさっさとその仮面を外して押し入れにでもしまって来なさい!そしたらあたしもアレッシアさんも見たいものが見やすくなるから、それがいいと思う!」

 仁王立ちに成って白い仮面をそらがビッと指差して、そのまま睨んでいると、金髪女が笑いだした。
アレッシア「あはははっ。社先生、あなたの教え子は頭がいいのね。そうしたらいいのではなくて?」
社「ふぅ・・・・・・、女性を二人も家に上げて、この仮面を外すなど、この哀れな犯罪者の私には許されない。
 だから、お前たちこそ帰れ。私の素顔など、どうでもいいじゃあないか」

 大げさに首と手のひらを振り、しっし、とする。
そら「嘘ね!その仮面はあんたと司法取引してる警察にデータを送ってるんでしょ?ここまでのやり取りを撮影、録画してるんなら、あたしたちが居ても性犯罪じゃないって許可くらい下りるわよ。警察もアレッシアさんが身元引受人ってわかってんでしょ?だったらさ!」
社「だからな、そうすると私が報告書を事細かに書いたり、貴様たちが聴取されたり、いろいろと面倒になるのだよ」
そら「面倒がなんだってのよ!」
社「そう言うか・・・・・・」
 グイ、と飲み干したコーヒーのカップを置いて、社は立ち上がり、そらの方に一歩踏み出すので、間に座るレイの頭がピクリと彼をけん制する。が、社はその位置でテーブルの向こうの自分の妹を見降ろした。
社「アリサはどうなのだ」
アレッシア「さっきから言っている通りです。その社会奉仕活動とやらの理由をはっきりと聞きいて、納得させてもらいたいということ」
 妹は兄を見上げて答えた。
社「判った。では、二人の願いを叶えてやろう」
 と、右手の人差し指を立ててニヤリと美丈夫が笑った。
そら「最初から素直にそうすればいいのよ。さっさと仮面を外しなさい」
社「今はダメだ」
そら「嘘吐き!」
 キレたそらはDEA仕込みの社に習った廻し蹴りを飛ばす!が、それはレイが素早く立ちあがって胴で受け止め脇で挟みこむ。結果、そらは蹴りの勢いのまま執事に抱き上げられる格好になってしまう。
そら「こらっ!離せ!」
レイ「先生の話を聞いてからにしましょう」
社「ありがとう、宍戸さん。
 頭令、貴様とも取引をしよう。貴様が聖ウォーター女学院に合格すれば、私はこの仮面を棄てよう」

 と、立てた指で自分の頭の白い仮面をこつんと指差した。
そら「なに?」
社「勉強させるために言っているのではない。約束しよう」
そら「それまで待てって事?」
社「ああ」
 男の声でそらが落ち着いたようなので、執事は主人をそっと下したが、まだ肩を抱いている。
アレッシア「というか、棄てられる時が来るの?あなたはその仮面をつけて、性犯罪者として一生トレースされるのではなくって?」
 コーヒーカップに視線を落としながらも、アレッシアは驚きを隠しきれない口調で言った。
社「まだ伏せている予定だったのだが、仮面を通じて現場監視官の米岸たちに伝えるいい機会かもしれんな。
 アリサも私にこの子の教育を任せた人物くらいは知っているだろう?この仮面を付ける際にその人物と警察上層部の間でも取引があってな。私がこの頭令そらという少女を傷つけることなく導く事が出来れば、具体的には聖ウォーター女学院中等部に入学させれば、私への懲罰措置は終わり、無罪放免ということになる。
 その時に私が性癖の少女愛を克服したと認めさせるために、他にも色々と条件があってな、それで彼らに良いように使われていると言うのが私の現状だ。それが社会奉仕活動をしている理由なのだが、まあ、やってみるさ」

 仮面の下で微笑む彼の唇は、不敵な慈しみを見せていた。アレッシア・マセラティ夫人は肘掛けにもたれ、彼の言葉を受け取って長い睫毛を伏せた。そらはというと、微動だにしない執事に背中を預け、
そら「やっぱり、まだややこしいけど。あんたも前向きな目標を持ってるってことは分かってあげるわ」
 と、顎を気持ち持ち上げ、偉そうにウィンクをくれてやった。

 
 そこで 
 「pLLLLLLL!!!」
 社の仮面の耳に内蔵された警察との直通電話の着信音が鳴って、
米岸「ちょっと!社さん!私たちにも聞かされてませんよ!依頼人ですって?
 あれですか?家庭教師以外にやってた“ボランティア活動”もその依頼で?何で私に知らされてないんです?」

 と、仮面の内側のイヤホンから警察官の声がする。社はソファの背もたれに片手をついて、そらとアレッシアから視線を外して警官米岸に声を送る。
社「米岸、こんな時間まで署に残っていたか。貴様もごくろうだな。
 依頼人と私のやり取りは、この仮面が外せるプライベートタイムにしていたから、貴様は知らなくてもいい。
 仮面をつけた時から上層部と私の依頼人との話はついているから、現場の貴様には迷惑はかからんよ」

米岸「生活日報を提出する義務はあったやないですか!」
社「世のため人のため、ボランティア活動自体には問題がないと、貴様たちも判断していたのだから、依頼人が誰だろうとかまわんだろう。
 すまんが今はご覧のとおりご婦人の来客中だ。貴様が耳元で喋り続けるのは勝手だが、翌朝まで無視する」

 そう社が言いきってからも、そらの耳にもカサカサ聞こえる程度の声が社の仮面から漏れていたが、彼は本当に無視した。
  
  
アレッシア「それで、いいんですね?」
社「ああ、心配するな。明日には依頼人にも今日の事は伝わるだろうから、連絡すると良い。連絡先はお前も・・・・・・」
 兄の言葉の最中に、彼女は立ち上がり、レイに抱かれたそらの前をすり抜け、仮面の男は自分の胸に顔をうずめた妹の金髪をさら、と撫でた。兄の耳を抱くアレッシアの掌に力がこもり、仮面の集音マイクを塞いだ。
アリサ「春には顔を見せてもらえるのね
社「ああ」
アリサ「兄さん・・・・・・
 そらに聞こえず、仮面に唇を読まれないように、アリサはカズハルの胸に声を当てるようにつぶやいた。
 ピリリリリリ
 と、アリサの胸ポケットの携帯電話が鳴った。
社「そろそろ、お前の仕事の時間だな」
 兄は身を引き、妹はさっと電話を取って体を振り向けた。
アレッシア「ええ、分かったわ。御苦労さま。いいのよ、ちょうど用事も済みました。今から向かいます(伊)」
 と、地下の駐車場で待っているSPの催促に答えた。
アレッシア「もう、飛行場に向かわないといけない時間ですって」
社「お前たちも、忙しいのだな」
アレッシア「それは、もう。それと、ピザをごちそうさまでしたって」
 アレッシアは言いながら、部屋に入るときにソファの横のハンガーにかけていた薄手のコートを取り、社はレディをもてなす自然なマナーと言う感じで妹に袖を通させた。
社「護衛の彼らには車の中で食べさせた上に、待たせるのも悪いな。下まで送ろう。
 頭令、貴様たちも帰るだろう?」

 社亜砂の仮面の二つ目の穴は偏光ガラスで閉じられているから表情は半分しか分からないが、活発そうなデニムの上下を着た小公女・頭令そらにかけた言葉は帰りを促していた。
そら「しょーがないなー。あんたもいろいろ取引で大変そうみたいだし。今日は素顔は見せてくれないって決意は固そうだし。長居しても眠くなるだけだし。わかったわよ。帰るわよ」
 ロリコンの家庭教師の前でちょっとしなを作って、軽いふくれっ面の顔を作ってやった。
社(天然半分、演技半分なんだろうが、本当にこの子はかわいい表情を見せてくれる)
 ロリコンから涎が出たが、それは飲み込んで隠した。懲罰仮面からは軽い電流が流れた。


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