玖足手帖-アニメブログ-

富野由悠季監督、出崎統監督、ガンダム作品を中心に、アニメ感想を書くブログです。

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思い出のマーニー感想前編(ネタバレ2割)絵の感想

  • 絵について

ストーリーなどのネタバレに関わる部分は後回しにして、まずは絵としての評価を書いていきたい。僕はハウルの動く城以降のスタジオジブリの絵はあまり好きではない。千と千尋の神隠しは良かった。
動画と背景に分けて書く。
まず動画。
やはり、ハウル以降は動画の絵の質感がセルロイドの人形と言う感じで、撮影効果をあまり使わないでセル画っぽい雰囲気を出そうとするあまり、逆に対象物の質感が均一化されて失われているような感じだと思っている。(ちなみに、私は専門的な美術教育を受けておらず、自分も大して絵が上手くないので、このような絵の話は完璧に私の主観的感想に過ぎない)
高畑勲監督のかぐや姫の物語は紙や竹の質感を打ち出していて美麗だったが、その分CGをふんだんに使っていて表現主義的にハードコアに傾いていた印象も多少あった。
で、今回は『もののけ姫』、『千と千尋の神隠し』の作画監督でパプリカやオーバーマンキングゲイナーを手掛けた安藤雅司さんが13年ぶりにジブリ作品で作画監督を務める(脚本も担当)とのことで、そのようなハウル以降の人形くささ(特にゲド戦記では顕著だった)が減じて、人肌や布の質感のある絵になるかと期待した。


が、まあ、期待の6割と言った所でしょうか。悪くはないんですけどね。
嵐の夜でキャラが濡れたシーンなど、影やハイライトが不自然に丸い所なども多く、そこら辺はやっぱりセルロイド人形のジブリっぽい感じがした。のだが、作り物の幻想的なシーン、と言う演出意図に基づいての影の付け方の変更かもしれん。
現実感の多いシーンでは割と影の付け方は平坦で影の無いシーンも多かった。
そういう点では、ジブリアニメというよりは安藤雅司さんの師匠の近藤喜文さんの手がけた世界名作劇場赤毛のアントム・ソーヤーの冒険愛少女ポリアンナ物語愛の若草物語)あたりに絵柄の雰囲気が近い。特に白人美少女のお嬢様、という事で時代は違うのだが若草物語的な感じはあり。私は若草物語世代なので、いいと思います。
また、色彩設計についてもハウル以降の割とドぎつい配色は抑えられていて、ここも名作劇場っぽい感じ。ただ、金髪美少女のマーニー以外は絵的に華のある人物が少なく、淡々とした雰囲気の場面が多いのでともすれば世界名作劇場よりももっと地味な、週間ストーリーランドとか教育用アニメ(もちろん、湖川友謙氏など意外な名匠が関わっていることもあるので油断はできないのだが)のような引っ掛かりの少ない雰囲気のアニメーションとして感じられるパートもあった。
が、マーニーと絡むところでは幻想的だったり、牧歌的だったり、パーティーのにぎやかさとか怪しさだったり、嵐の夜の冒険とか、満ち引きする浜辺でのボートの冒険とか、作画的な動きも大きく、またバリエーションも多かった。なので、21世紀の現代日本の日常シーンと思い出の入り江のシーンとで絵の雰囲気を変えているのかもしれないと思いました。でも、「ここからが幻想シーンですよ!」「ここからが異界ですよ!」「ここからが夢ですよ!」と分かりやすく示しているわけでもないのが、宮崎駿行きて帰りし物語とは違う演出の付け方だと思いました。



ここからややネタバレが濃くなる




杏奈やマーニーが思い出を語るシーンではジブリには珍しく(?)セピアっぽく彩度と明度を落とした撮影処理をしていた。また、色遣いも杏奈が会っている人に合わせて札幌のシーンや田舎のシーンやマーニーと絡む夜のシーンや森の中のシーンなどで色調を地味に変えているっぽい。まあ、シーンごとに色を変えるのは当たり前と言えば当たり前なんだが、この作品は現代日本を舞台にしているけど原作は50年前のイギリスの児童文学で、ファンタジー的要素も含んでいるので、割とシーンごとに微妙に世界観のニュアンスを色で変えて表現しているのかなあ、と思う所があった。ただ、平成狸合戦ぽんぽこのように絵柄がガラッと変わるようなものでもないので、非常に繊細な調整だったと思う。それがまた揺れ動きの大きな中学1年生の女子の主観的な物語という題材にマッチしていたと思うのだが。これが全部演出意図だったら大したものだと思うが、原画マンの個性だったりシーンごとの光源の違いによる何となくの自然なイメージかもしれないので、まあ、制作の実態は僕のような一視聴者にはわからんのだけれども。
でも、行きて帰りし物語と言うより、行ったり来たりする物語なので、シーンごとにそのニュアンスを調整してくれていたら嬉しい。鑑賞した後にどのシーンがどういうシーンだったかと振り返ってみると、やはり絵柄の雰囲気もシーンごとに合わせていたんじゃないかな、と思う。
でも、行ったり来たりする物語なので、主人公が頻繁に気絶するし、喘息の療養に来た割には結構雨の中を走ったり水に飛び込んだりするシーンも多く、もうちょっと体をいたわればいいのにって思いましたけど…。まあ、結核の嫁のとなりでタバコを吸うよりは、心因性の喘息の女の子がアドレナリンを出して頑張る方が健康には良いのかもしれないけど。
ちなみに私も小児ぜんそくだったので苦しみは分かるんですが、病は気から!って言われがちな病気の喘息ですが、気の持ちようがどうだろうが、発作は起こるときは起こったからなあ…。あんまり「気分が良くなれば病気も良くなる!」って言う方針には賛同しかねる部分がある。

  • 背景について。

今回の美術監督種田陽平さん。どうも僕はジブリの背景美術監督の吉田昇さんや男鹿和雄さんの厚塗りが(上手いとは思ってるけど)苦手で、むしろジブリと言えばもう一人の巨匠の山本二三さんの爽やかな画風の方を好んでいる。
で、今回は監督が種田陽平さんであるが吉田昇さんや男鹿和雄さんも参加している。
まあ、僕は基本的にロボットアニメばかり見ているので、ジブリの作画スタッフのハードコアな人脈の部分の知識はあまりないのだが。
なので、今回もやっぱり山本二三さんのすっとした透明感や画素の細かい感じ、と言うよりは厚塗り系だったのですが。ですが、わりと千と千尋の神隠しハウルの動く城ゲド戦記に比べるとあんまり細部まで描きすぎないで、ざっくり描いた感じが全体的な印象として会って、厚塗りっぽいんだけどハウルゲド戦記のようなくどさはやや減じられていた。少女と少女の交流を描いた作品なので、あまり濃くない背景で少女と少女の爽やかで仄かな感じが背景でも表現されていたと思う。わけで、久しぶりにジブリの背景美術としては「嫌いじゃないなあ」という感覚を持てた。良かった。
まあ、吉田昇さんや男鹿和雄さんの画風も固定されたものではないし、プロなので演出の要請によって描き分けておられると思うのですが。
かぐや姫の物語はまた特異なものです。あれはむしろ大友克洋監督のショートピースに近い)
背景の密度はもののけ姫以降の細かくて濃いものより、むしろそれ以前のとなりのトトロくらいの情報量だったと思う。トトロも当時としては細かい方なんだけど、今はテレビアニメでもトトロ以上の情報量の背景が割とよくある。ロケハンとかフォトショップの効果ですね。なので、今、ラピュタナウシカの背景を今の目で見ると意外とざっくり描いてあるなーって印象を受けます。


ここからさらにネタバレが濃くなります。


で、びっくりしたのがCGの多用で、赤毛のアンの冒頭のように、主人公の杏奈が札幌の都会から釧路の田舎の入り江の町まで引っ越してきて、電車か自動車で横に移動するんですが。
なので、背景が横に移動するんですけど、そこで杏奈が車窓から見ている堤防が横に動くんですが、それが動画じゃなくて3DCGでパースを付けたまま変形するんですねー。ジブリでこういう事をするのかーって思ってびっくりした。いや、コクリコ坂はサボって見てないんですけど。もののけ姫デイダラボッチもとなりの山田くんもCGが見せ場だったので、崖の上のポニョで手描きをテーマにしようとも、スタジオジブリは全くのCG嫌いのスタジオと言うわけではないとは思うが。しかし、赤毛のアンの冒頭のような冒頭のシチュエーションをあえてCGと分かるようなCGにするというのはやはり何らかの意図を読み解きたい。
冒頭の絵柄ってのは、アニメの視聴チャンネルを視聴者が設定して身構えるにあたり、「この作品はこれくらいの描画密度で、これくらいのリアル感ですよ」って設定を示すものなんですが、そこで3DCGを背景に使うことで「これは宮崎駿監督とは違いますよ」って宣言した感じで印象的だった。
かぐや姫の物語は結構CGも使ってたけど、また違う感じで。
母をたずねて三千里赤毛のアンの背景の場面設定の宮崎駿氏の引きセルや背景動画の立体感は素晴らしい天才的感覚だったのですが。今作ではそれを割とCGでやってました。雲の引きセル移動とかもマーニーではCGで動かしてたっぽい。そういう点では、「脱」宮崎駿、「脱」高畑勲をしようって意気込みの宣言のようにも見えたし、単にかぐや姫の物語で金を使い果たして省力設計にしただけかもしれない。


あ、あと、背景の密度がもののけ姫以前のあんまり描きこみ過ぎない、筆のタッチでさっと描いたものだというのはもう一つ意味があって、作品の中で印象派っぽい風景画やスケッチが印象的なアイテムとして出てくるので、それに合わせて背景美術全体もふわっとした印象画っぽいぼかしを使ったのかなーって思いました。
そういう風に、物語と演出意図と画風がマッチすると、良いと思います。

  • ストーリーについて

風呂に入ってから、あとで書きます。
切りが良いので、後編はネタバレ編としましょうか。

男鹿和雄画集 (ジブリTHE ARTシリーズ)

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