玖足手帖-アニメブログ-

富野由悠季監督、出崎統監督、ガンダム作品を中心に、アニメ感想を書くブログです。

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さすらいの太陽富野回 13、14のドロドロした回

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  • 第13話 ふまれた野の草 不幸
  • 不幸の連続

悪徳DMプロダクションのどさ回りで苦労をして歌っていた主人公峯のぞみだが、喉をつぶされそうになり、結局ギャラをもらわないまま汽車から飛び降りて逃げ出したのだった。
のぞみの父親は暴漢に刺されて入院中。母親は家計を支えるために無理をしてオデン屋の屋台を引けなくなり、造花の内職をして失明しそうになり、父親の入院費の滞納を責められて倒れた。
のぞみはどさ回りの旅から帰るがギャラをもらわずに帰ってきたので帰宅しても憂鬱。帰ったら即母親が寝込んでいてつらい。
作曲家の江川先生に破門になったが、素直になれない江川はのぞみの帰りを待ち焦がれていたようだった。しかし、のぞみがアポなしで江川の家に行くと逆ギレされて泥棒猫と罵られて追い出されるのだった。ひどい。
江川に怒られたのぞみはお嬢様の美紀に自分の付き人になるように言われるが、江川はそんなことをしたら二人ともダメになるとまた逆ギレする。
のぞみをDMプロに紹介したのが作詞家の野原だと知った江川は野原を呼びつけて、出合頭にビンタ。そして自分が海外の仕事に行っている間に野原の紹介で悪徳プロに入った望みを破門せざるを得なかった自分の辛さを中年男性の野原にぶつけて怒る。
この鉄腕アトムの天馬博士みたいな髪型の中年男性の繊細な心情表現が富野らしい。中年男性同士の確執とか、アニメではあんまり華がないことをこってりとやる。こういうおっさんのどうしようもない感じを描くのは確かに富野のうまさである。

  • 富野演出

階段から降りて曲がるというめんどくさい動きを省略するために曲がり角の前に柱を置いて隠す省エネ作画。
なんか母親が失明寸前になったり、江川がキレるショックなシーンで止め絵になって不協和音のピアノがガーン!って鳴る。イヤーな雰囲気になる。
なんというか、富野監督は「さすらいの太陽もどさ回りの話だし、同じ虫プロ出崎統監督のあしたのジョーに対抗してギター一本でやってみたかったけど勝てなかった」とおっしゃっているのだが、あしたのジョー矢吹丈のニヒルだがポジティブな性格と自由に旅を楽しむ風来坊的な広がりがあったのだが、さすらいの太陽は家族のしがらみや意地悪なライバルと悪人や言葉足らずの師匠などによってドンドンがんじがらめの不幸になっていって、暗い。ジョーはピンチに追い込まれても技を身に付けたり強くなっていく爽快感があるが、さすらいの太陽は、まあ、多少地元のファンが増えたりはするものの劇的にはっきりと歌がうまくなったりとかはしないし、上達する以上に周りから不幸をかぶせられることが多く、暗い。
歌を歌って発散する展開よりも不幸になって重苦しくなる場面が多く、それを不協和音や画面回転の演出を使って、のぞみにプレッシャーがかかるのを強調している。
シナリオの時点で不幸なので、富野のせいというわけでもないのだが、やっぱりこれじゃあジョーには勝てないだろうなーとは思うんだ。でも、まあ、たしかにぎすぎすした悪い空気が富野演出の味の渋みの一つではなる。

  • 第14話 涙のワンピース
  • 不幸の連続

美紀の付き人になったのぞみは、身の回りの世話だけでなく、美紀のデビューを盛り上げるために出版社やテレビ局の取材を美紀と一緒に受けて「江川先生に破門になったのに、美紀さんに救ってもらって御恩があるのです」みたいに自分の不幸を語って、たくさん嘘をついて、ライバルの出世のために利用させられる。
しかし、取材では美紀よりものぞみの方に芸能会社の人の注目が集まってしまい、美紀がのぞみにキレる。
金持ちの美紀はのぞみに「デパートで私の親の名前のツケで私よりも地味な服を買って来い」と追い出す。仕方なく地味な服を買うのぞみ。それだけでもみじめなのだが、美紀の意地悪で、そのデパートは美紀の父親とは取引のないツケの利かない店だった。たった1100円のワンピースのために万引き犯として捕まるのぞみ。陰湿すぎるやろ。
警備員にしょっ引かれて店長の前で万引きではないと言い張り、香田財閥に電話をして助けてもらおうとするが、誰にも相手にされないのぞみ。どうしようもなくなったところに香田美紀が現れて店長に「香田財閥の娘です」名乗ると店長がぺこぺこする。のぞみは助かるのだが、美紀に立場の違いを痛感させられてみじめになる。
歌で頑張る芸能界の話なのに歌とか関係なく女同士の意地悪の話なので雰囲気が悪い。
のぞみを破門した江川先生のレッスンを受ける美紀について江川宅に行くのぞみ。江川はのぞみをガン無視して美紀にレッスンをして、美紀をほめる。

  • 富野演出

のぞみが嘘話をしてみじめになっている所や買い物でツケをしたら警備員につかまる所を真っ黒背景で追い込む。
しかし、嘘話も生活のためだと割り切ろうとしていると、そこに作詞家の野原がザブングルのOPのジロンみたいな煽りで入ってきて「今の話は嘘だね!」と言って話をややこしくする。
野原は嫌な奴なんだが、のぞみを助けて「のぞみは付き人なんかやめて再デビューするほうがいいし才能がある」と取材記者に言ってやる。そういう助け船はいいんだが、のぞみが美紀の付き人として嘘話をしていた時に言われるので、タイミングが最悪であー、グダグダだよー。っていう。そして美紀とのぞみの間がものすごくぎすぎすする。ギスギスして空気が悪くなったり女同士の陰湿な口論とか、陰険な工作とか、そういううっとうしい人間関係が70年代アニメっぽいし富野らしくもある。
しかし、めちゃくちゃみじめになったのぞみは付き人の仕事を終えて帰宅して自宅でギターを弾きながら永六輔作詞 中村八大作曲の「遠くへ行きたい」を歌う。
空想の中でのぞみは海を元気に泳ぎ、花畑を元気に駆けまわり、異国の町で美少女たちに囲まれる。
しかし、現実ののぞみは貧乏なボロ家でみじめに歌うだけなのだ。空想と現実の違いで泣く。せっかくの歌唱シーンなのに辛そうな歌声だしシチュエーションも可哀想なので爽快感が一切ない。
この話のラストは江川先生がのぞみを助けてくれるのか見捨てるのかというハラハラ感なのだが。
言葉では美紀をほめて、ピアノの演奏ではのぞみが来てうれしいというように弾んでいると女中に言われる。
では彼の本心は?
というと、ラストシーンで江川は「二人とも嫌いだ!香田美紀は嫌いだが、目の前の金のために付き人になった望みはもっと嫌いだ!どうしてお前たち二人は俺をいつも失望させるんだ!」と、中年のおっさんが心の中でキレて、江川宅を後にする二人の少女の後姿をにらみつけるのだった。
中年の作曲家の芸術家のおっさんのキレる心情を強調するとか、アイドルアニメでは考えられないな…。
富野監督は「少女ものにしたかった」と言っているのだが。理不尽なコーチはのちのエースをねらえ!に通じるものもあるんだが、やっぱり出崎統のエースの方が元気と明るさがあるんだよなあ。
正直富野監督が元気を売りにしだしたのはキングゲイナーくらいからだし…。
いや、さすらいの太陽は藤川桂介先生の原作萬画の時点から陰惨なのだが。

さすらいの太陽 (1977年) (ソノラマ文庫)

さすらいの太陽 (1977年) (ソノラマ文庫)