玖足手帖-アニメブログ-

富野由悠季監督、出崎統監督、ガンダム作品を中心に、アニメ感想を書くブログです。

当サイトはGoogleアドセンス、グーグルアナリティクス、Amazonアソシエイトを利用しています

「吉本隆明語る 思想を生きる」に無常を感じる

京都精華大学で富野アニメを学ぶためにダブルスクールをしていました。
というか、情報館に通いつめていたのですが。そんな京都精華大学が40周年記念ということで、200円で吉本隆明のDVDをくれるというのでもらった。
http://www.kyoto-seika.ac.jp/1968+40/event/takaakiyoshimoto.html
私には思想がわからぬ 。私は、はてな村のアニメオタクである。 ホラを吹き、ガンダムと遊んで暮して來た。
ですが、大人になったのだから思想ぶるのも良いかと思いましたし、200円で動画を見るだけならば本を読むより安くて手軽なのでもらいました。


結局のところ、著書を読まず、wikiで来歴をざっと読んだだけの思想家の語りを聞いてもわからんのである。なんか死んだ知り合いの話を語る爺さんの思い出話のような印象で、あまり良くわからん。知らん。
わかってる人のブログ感想はこちら↓
http://blog.goo.ne.jp/kagamigawa/e/e5513cae30e1ad46d01cae28363ddee2
わかってる人の解説はこちら↓
http://ramble-in-books.cocolog-nifty.com/blog/2009/09/post-c511.html


わたくしの感想を、印象的な部分のところについて書く。

60年安保闘争当時、匿名・署名の手紙が多く舞い込んできて、「おまえの言うとおりにしたため、思想的、精神的に安定せず、就職もなくフラフラしている」といった類の非難を浴びせられた。
それについて、聞き手の京都精華大学名誉教授(宗教思想史)・笠原芳光氏が「それはそいつのせいでしょう」と言う。吉本氏も「そいつのせいだよね」と言う。
京都精華大学の学生の就職率が低いと言うことは友人から聞いている。なるほど。
まあ、それはそれとして、思想と言うのは何のためなのか、私はわからなくなりました。
思想がよりよく生きるための科学的方策であるのならば、言うとおりにするとよりよく生きられるはずである。
そこで、「言うとおりにしたところうまくいきませんでした」という反証が寄せられると、それは単なる実験結果であるのだから、それを取り入れて再考すれば良いだけのことです。
しかし、思想はそうではない。思いて動くことは結局は個人の人生や脳に集約されるのである。再現性がない。ゆえに科学ではない。
(まあ、最近は科学を再現するには莫大な費用がかかるので庶民からはブラックボックス化しつつあり、疑似科学のほうが理解しやすいという側面もあります。が、まあ、それは世界の仕様とヒト脳の仕様の差でしょうな)


では、思想とはまったく意味がないのではないのかと言うと、紀元前から現代に至るまで思想家と言うものが存在するのだから、売春婦と同じ程度の意義はあるはず。よーわからんね。
まあ、人間は日本語や英語、言語を媒介に思考するんだから、言語から単語を学ぶように、思想から文脈を思考回路に組み込んでいくのでしょうかね。


また、「吉本のせいで自殺した奴がいる」という手紙をもらったりと言う話もあった。
聞き手の笠原氏は「若者がそのように言うと言うことは、吉本さんを頼って尊敬していたと言うことでしょうね。そして、その体験があったからこそ、吉本さんはその後さかんに『自立の思想』を唱えるようになったのでしょうか」と言う。
吉本、答えて曰く。
「それは大きくあります。その後、読者にも責められ、政治運動の人にも責められ、共産党にも保守派にも民主主義者にも睨まれたので、頼れるのは自分だけであると。孤立感を感じた。腹をくくって覚悟せねばならぬと思った。」


面白いのは、二人の言う自立の意味が違って見えることです。
笠原氏の文脈では「若者は吉本さんを頼りすぎていたので、『若者が自立の思想』を持つべき」という言い方のようです。
吉本氏の答えた自立と言うのは、「支持者にも怒られたから『吉本隆明が自立の思想』を持った」という。
話し合いと言うのは難しいものですわね。

  • 自立と無我

このDVDの結末はこうである。

同席していた大学のスタッフが吉本に問いかける。
ずっと孤立感とか孤独感を抱きながら、大勢の人のいるところに寄りかからずに、鮎川(信夫)さんや埴谷(雄高)さんなどの先輩と対立しながらも、自分を保ってきた強さはどこから来たんでしょうか?と。

吉本はスタッフの方に目をやり、力強く語りかける。そこには老いたとはいえ、昔と変わらぬ吉本がいた。

「その人が固有に持っている、誰にもかえられない個性、好み、考え方、親から教わった生き方とか、ある意味宿命的なもの。自分には動かしようがない、でも自分固有の資質・個性。それを見つけて底の底まで誤魔化しもなしに心の中に入れて持っていて、その上で人は人の生き方、社会や国家のことを考えられる。
これができたらもう言うこと無いんじゃないか。偽り無く自分の思ったとおりのことをやってまちがったら、それも自分固有のもの。(それで)ひでえ目にあったら、ある意味少し利口になる、いい体験になるということもあるので、まんざら捨てたものじゃないんじゃないか。」
笠原さんの言うように、自分の生き方を通せたらそれが強さといえるのかもしれないけれどと、言葉にはしたものの、吉本は自らを「強い」とはひと言も言わなかった。

   苦しくても己れの歌を唱へ
   己れのほかに悲しきものはない
   つられて視てきた
   もろもろの風景よ
   わが友ら知り人らに
   すべてを返済し
   わが空しさを購はう

強く自我を通すと言うことは、自分の固有のものを通すと言うことです。
そして、その自分の固有のものと言うのは、地縁血縁体質経験文化事故事件という他者に押し付けられたどうしようもないものでもある。
そのどうしようもないものと折り合いをつけていくのかねえ。
自我と言うのはあるようで、無い。
無常ですなあ。


坂本真綾の歌もこんな感じの詞が多いけど、坂本真綾さんや岩里祐穂さんも吉本隆明を読んでるのかなあー?
最近、坂本真綾を聞いてよく泣いてるんだよ。
岩里祐穂詞や坂本真綾詞は好きですね。

どうにもならないことや
どうしようもない気持ち
そんなものがきっと道をきめてゆく
Love is glowing


手渡された悲しみ
それは乗り越えるためにあると空見上げ思う
誰も一人で死んでゆくけど
一人で生きてゆけない
いつか誰かと僕も愛しあうだろう
(「ユッカ」 アルバム「DIVE」収録
作詞:岩里祐穂、作/編曲:菅野よう子
歌:坂本真綾

あー、泣く。岩里さんは押し付けられた自己を乗り越えて誰かと愛し合おうと言うのか。
いいね。
アンインストールアンインストール。
http://www.utamap.com/showkasi.php?surl=B24445


しかし、吉本隆明という人が「知の巨人」で、権威に迎合しないので強いという物言いも良くわかりませんな。
科学的に正しい、理があるところや、好感をもたれる人が権威になるのは自然なのだから、そこに反するのが正しいと言う価値観がわからん。
ま、言葉遊びか。


というか、「自分のエゴを大事にしよう」というエゴイストに教えを請うと言うのも原理的に良くわかりませんね。


まあいいや。ノリ!気分!
坂本真綾の歌を口ずさむ程度のものですよ。思想なんざ。でも、それでちょっと元気が出て寝床から出てご飯を食べる気になればよろしいか。


あ、あと、僕は大富野教信者なので、富野由悠季吉本隆明の関わりについて。

富野由悠季×安彦良和対談(ガンダムエース 2009年 09月号)

http://d.hatena.ne.jp/tobofu/20090728/1248776734


富野 何の教養も知識もない35くらいの僕が子供に何の話ができるかというと、それはコモンセンスしかないんですよ。安彦さんに危険な部分があるとしたら、若いときから、あるイデオロギーを持ったことだと思う。僕はイデオロギーを持てなかったんですよ。本が読めなかったから。



安彦 僕には一つ忘れがたい思い出があるんですよ。吉本ばななさんが富野さんに会いに来たことがあるんだよね。彼女がまだ作家になる全然前の話だけど。そのときに富野さんが僕に、吉本隆明という人の娘が会いたいって来てるんだけど、会ったほうがいいかなって訊いたんですよ。富野さんは、吉本隆明のことを知らなかった。そのときに僕は、富野由悠季って人は僕とは違う世界から来てるなと感じたの。まさに政治で区切ったときの戦間時代から来てる人だと。



富野 僕が安彦さんのことを危険だと思うのは、若い頃の影響だけじゃなく、今の言い方も含めてなんです。勉強ができたり知識のある人のヤバいところは、まさにこういうところで、安彦さんは今、簡単に時代性の話をしたよね。この2、3年のズレがどうのって。そんなのお利口な人が頭の中で考えただけのズレであって、人の暮らしっていうのは10年、20年、50年通してのものなんですよ。2、3年のズレなんて全然問題じゃないの。お勉強ができる人たちにとっては大きな違いなのかもしれないけど、多くの人々にとっては、そこには何の違いもない。

安彦さんは吉本隆明を知らなかっただけでそこまで富野を馬鹿にしなくても・・・。
富野監督は一応、2000年の[∀ガンダム]全記録集2のインタビューでは「こないだ吉本隆明さんの『私の「戦争論」』という本を読んだ」と言っていたし、2003年の吉本隆明大塚英志の対談「だいたいで、いいじゃない。」にも解説文を寄せているのだから、最近はトミノさんも本を読んでいるだねー。がんばってるなあ。


「〔ターンエー〕ガンダム」全記録集(2)



というわけで、何がいいたいかというと、吉本隆明氏が爺になるまで思想家なんていうやくざな職業で生きられて猫と戯れられて良かったですね。おめでとう。
ということくらい。


あと、真綾とガンダムは超面白い。


あと、トミノも吉本も「最近の若者ってよく言うけど、あんまり変わらないし、われわれの世代のほうがアレだったかも。」とか言うのが似てて面白いなーって思った。