玖足手帖-アニメブログ-

富野由悠季監督、出崎統監督、ガンダム作品を中心に、アニメ感想を書くブログです。

創作幻視小説版「夢兄妹寝物語」 2003年10月 第10話 第3節

サブタイトル[ロマンスの休日]  
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前書き:

七夏:生涯想いつづける
   そう信じられる恋だってあります
吉田基已恋風

  • 社のマンションの一階、オートロック・ロビー

 そら達の乗ったサイドバイクロンが入ったマンションの地下駐車場は広かったが、他の住民がいないので、隅に社の真っ赤なスーパーカーが用途別に何台か有るだけだった。そこにサイドバイクロンを待機させ、そら達はマンションの大理石敷きの玄関ロビーに乗り込んでいる。社亜砂を収監しているマンションの玄関ロビーは硬化テクタイトの自動ドアで外界から隔絶され、本人の持つカギか内側からの解錠コードでしか開かない。
そら「レイ、社の部屋につなぎなさい」
 レイの白手袋が、磨かれた鈍色の、小さめの郵便ポストくらいの大きさの四角い機械のプッシュボタンを叩き、社の部屋へのインターホンの番号を入力すると、ややあってから社の声が出た。
そら「こんにちわ?もうこんばんわ?社先生ー来たよー」
社『全く……。宿題は終わらせたのか?』
そら「当たり前じゃん。っていうか、ちょっと社ー。せっかくカメラ付いてるんだから素顔を見せてよー」
 高級マンションのインターホンだが、社の部屋を映す内線電話カメラはオフになっている。
社『今、私も帰ったところで仮面のままだ』
そら「いや、それがさ、道で困ってた女の人と一緒に来てるから、家に上げてくんない?タクシーが来るまで休ませてよ。ちょっと寒いし」
社『帰れ。私の家に女性は入れん』
セーラ「私は構いません。それとも、社先生、あなたは女性を夜道に放り出すんですか?
 監督官の方はどう思うかしら」

 子供のそらの頭越しにインターホンのスピーカーとカメラを詰問する女の身長は、ハイヒールも付いて高い。
社「ちっ。
 仕方がない、慈善活動として入れるなら良いだろう。警察に書類を出さなければならんがな。全く……」

 すぅ、と硬化テクタイトの自動ドアが開き、二人の女性と一国の宇宙人群体は最上階までエレベーターに乗った。

  • 社の部屋

 最上階全ての面積を占有する最高級の居室に、社元受刑囚は住んでいた。いつもと変わらぬ仮面と赤いスーツのままの社がそら達を招き入れたリビングルームには、先ほどの黒服の一人がいた。そらに蹴り飛ばされたアントニオは斜面を転がって破れたスーツの代わりに社の真っ赤なジャケットを借りて、大男の割に窮屈そうな猫背でガラステーブルを囲む白い革張りのソファに座っている。
そら「社!あんた、山賊とグルになってたのね!セーラさん、すみません!
 レイ、下がるわよ!」

社「何が山賊だ。彼はその女の護衛だ」
そら「え?え?」
社「頭令、よく知りもしない人に暴力を振うのはやめろと言ったろう」
 臨戦態勢を取ろうとした矢先に、逆にお説教をされ両肩を掴まれて、そらは考えがまとまらず、止まってしまう。主人が止まれば、召使いのレイも硬直する。


社「アントニオさん、私の教え子が失礼をしました。よく言って聞かせるので、この事は内密に(伊太利亜語)」
セーラ「アントニオ、私からもお願いするわ。今日の事が外に漏れたらあなたたちを解雇します。その代り、漏れていなければ半年ごとにボーナスをあげます(伊)」
アントニオ「奥様がそうおっしゃるのなら……。社さんには助けていただき、ここまでオートジャイロ*1で運んでいただきましたし……(伊)」
セーラ「ありがとうアントニオ。この人とは古い知り合いなんです。でもご覧のとおりの仮面の男だから、あなたたちにも黙って会いに来るつもりだったのです。悪かったとは思います。
 スケジュールには影響しないように戻りますから、貴方はロミオを下の駐車場に案内して、少し待っていて下さいます?
 パンクが直ったと、ロミオから携帯電話にメールが来ているはずだわ(伊)」

アントニオ「かしこまりました、奥様。なるべく早くお戻りください(伊)」
 そう言って、丈の合わない赤ジャケットを着たサングラスのイタリア人男性は退出した。玄関まで彼を見送り、社亜砂は一言二言謝罪し、冷凍物を電子レンジで温め直したピザの入った香ばしい箱を渡した。それから、女たちと宇宙人のいる居間に戻り、
社「……さて、どうするか。まさか、お前たちが一緒に来るとはな……」
 アントニオに出していたコーヒーカップを片づけながら、社は独り言のように言った。
そら「ちょっと!結局、誰と誰がグルなのさ!オートジャイロって何よ?」
社「私が屋上のヘリポートに到着した時、上から貴様たちの車が駐車場へ降りるのが見えたが、そちらは気付かなかったようだな」
セーラ「あら、あなた、イタリア語が解るのね」
 すでにソファに悠然と腰掛けている女がそらの語学力に感心して見せたが、またロザリオが同時通訳しただけだ。だが、今回は宇宙人が誤訳するのしないのという以前に、そらには話題の人間関係が判らぬ。
そら「ええ、オートジャイロって単語くらいは聴き取れます。って、そうじゃなくって、社とセーラさんはどういう関係なんです?」
 リビングに隣接するダイニングキッチンの方に行った社と女の間を何度も視線を往復させて、突っ立ったまま、そらは混乱した。が、この場でロザリオやレイの宇宙人ネットワークに質問するわけにもいかないという判断はつく。
セーラ「”社先生”?どこまで話していいのかしら?」
社「教え子に嘘をつくわけにもいかんだろう。要するにだな、この女は私の身元引受人だ。それとセーラというのは偽名だ」
セーラ「偽名ではないわ。変名ね。本名はアレッシア」
 とりあえず、女と自分用のジンジャーエール、そらとレイの分のオレンジジュースのグラスをリビングのテーブルに並べ、溜息のように社が言ったのを女が引き継いだ。もうアレッシアはグラスに口を付けてくつろいでいる。
社「それは結婚した後の名だろう。未亡人になっても居座っている家の」
アレッシア「”社先生”こそ、自分から家名を捨てたのでしょう?」
 テーブルで向かい合った金髪の大人が言い合っているので、桃色の髪の少女は取り残されていると思う。
そら「ちょっと、ちょっと!勝手に話を進めないで!セーラさんはセーラさんじゃなかったの?
 っていうか、社も社じゃない?え?え?え?」

アレッシア「ごめんなさいね。でも、セーラというのも私の名義の一つではあるのよ。不用意に本名を明かせない身分なので、ね。ここにつくまではそちらを名乗らせてもらいました。
 とりあえず、おかけなさいな。
 先生、あなたの身の上を教えた方がいいのではなくって?きちんと言わないと、この子は納得しませんよ」

社「・・・・・・ああ、そうだな。そうしてくれ。夕飯はまだだろう?用意してくる」
 また社がキッチンの奥の方に隠れて行くのと入れ替わるように、セーラ・クルーゼことアレッシアの席からテーブルの角を挟んだ右にそらは腰をかけて、足を組んだ。それからガラスカップのオレンジジュースをグイッと半分飲んだ。
そら「うー。あー、えっと。
 もう、どこから聞けばいいのかわかんない!あたし、社の事信用してたのに!ウソの名前だったなんて!
 あたしは、人を騙しても騙されるのは大っきらいなのにっ!
 えーと、えーと、結局どういうこと?!」

 自分の長い髪の毛を両手でつかんでバタバタと振り回し喚いてから、キッと、そらは金髪の女を睨みつけた。
アレッシア「私から話すわ。ただ、わかってほしいのだけど、先生は悪気が有って社亜砂を名乗ってるわけじゃないのよ。
 まず、私の身分ですが、私はあの人の妹です」

そら「兄妹!」


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*1:やや大型のGEN H-4のような物