玖足手帖-アニメブログ-

富野由悠季監督、出崎統監督、ガンダム作品を中心に、アニメ感想を書くブログです。

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Gのレコンギスタ第14話「宇宙、モビルスーツ戦」の道徳とエロスの価値観

監督=富野由悠季/脚本=富野由悠季
絵コンテ=望月智充斧谷稔
演出=越田知明
キャラクター作画監督=杉本幸子・豊田暁子
メカニック作画監督=阿部邦博 仲盛文(戦艦)


お正月返上で?昨日までGレコの1クール目のメカのまとめブログを書いていたし、14話は初見ではあんまりはっきりした感想が湧いてこなかったので寝かせていたんですが。
みなさん、いかがお過ごしでしょうか?もう15話も関東で放送されて周回遅れとなったこのブログ。ですが、とりあえず、14話の感想が下りてきたので書きます。


みなさん、どの場面が印象的でしょうか?



機動戦士ガンダムの後半のアムロのようなベルリ・ゼナムの数え撃ちでしょうか?




美少女ファッションショーでしょうか?


望月智充氏の落ち着いた絵コンテでしょうか?


私は…




アサヌママさんが演じるリンゴ・ロン・ジャマノッタくん!


美少年だあああああ!!!!!!!!!風と木の詩ジルベールだあああああああああああ!!!!!!!!

序盤の美少年枠を抑えていたクリム・ニック君がどうも女とイチャコラしながら大量殺戮する大統領の御曹司という邪悪な人物なんじゃないか?っていうことで女子人気が低下しつつあるところに投入される美少年!やったぜ!(アンジェロ君のお客さん並感)



オサレインナー!!!ていうか、捕虜、萌えるよネ…。


違う!ホモじゃない!そういう性欲の話じゃないんだ!もっと、こう、根源的な善悪の価値観の話なんですよ。
リンゴ君が尊いのは、目の前で自分の同僚をぶっ殺したG-セルフのベルリに対して銃を捨てて降参した所なんです。

ベルリの数え撃ちが非常にメカアニメらしくて格好良くて印象的な分、落差としてリンゴ君の降参が目立つ。

単に負けそうになったから降参したんじゃない。逃げようとしたら逃げられるし、実際もう1機のモランは逃げきってる。

リンゴ君が銃を捨てて「スコード!」っていうベルリと同じ宗教の価値観を信じているところ、さらに言えば「蛮族の地球人が使うG-セルフも無抵抗のMSは撃たないだろう」という人間の普遍的な倫理に対する信頼、「G-セルフは前に見たことがあるから、敵が使うのも何か事情があるのかもしれんぞ?」と言う自分の直感への信頼。この「信じる」という姿勢が美しいわけです。


スコード…!


もやしのような歴史でも、それを保ってきたリギルドセンチュリーのスコード教という思想への信頼ですね。
また、海賊部隊やキャピタル・アーミィなど、タブーを破っていく勢力が1クール目には多かったわけですが、ここへきて「地球人がタブーを破って技術革新をする原因になった宇宙人の勢力の中にもタブーの宗教を守る人がいる」と言うのをぶち込んできて、ちょっとした変化があって面白いわけです。
だから、リンゴ君は単なるドレル・ロナやアンジェロのコピーの美少年じゃなくて、Gレコという物語のピースとして重要な役割を果たすキャラクターなんですよ!


で、この「信じる姿勢」を軸にしてみると、14話は「価値観」というキーワードでくくれると思い、それで今回改めて14話の感想を書き直す気になったのです。
以下、箇条書き風にまとめてみます。

  • マスクとクンパ大佐とマニィの価値観のずれ。

ノウトウ・ドレット将軍の艦隊について、マスクは

「ここで暗殺をすればいいだけのことでしょう?」と言い、それに対してクンパ・ルシータ大佐は
「聖域ではだめだ。世界中の信者に嫌われる。宇宙戦艦とともに沈めることに意味があるのだ。戦死なら、名誉の死と言える」と、価値観を語る。マスクは戦士なので「殺そう!」と言うんだが、クンパ大佐は「殺すことは悪いんだけど戦場なら信者は納得する」、という宗教戦争の面での政治的な面を言ってる。
で、ここで面白いのはマスクに恋をしているマニィ・アンバサダ。

クンパ大佐は「新兵のお茶汲み娘に政治的な話をしても何にもできないだろー」って感じでマニィの存在を無視して聞かせているんだが。(以前の話でもクンパ大佐は「地球人はつくづく絶滅してもいい動物に入るな」って秘書の前で言い放っている)



でも、マニィは「マスク大尉がそんなことをするなんて・・・」って動揺して、学生時代の親友のノレドに「私、軍人になったんだよ!」「彼を助けられると思っているの!またね!」って叫んでマスクを助けるために今後動くんだろうなー。という伏線がじわじわする。



その後、マスクはマニィに「危険な作戦になるからガランデンの中の方に居ろよー」って、恋人を心配する言葉をかける。思い合ってる。恋人が大事って言う価値観は共有している。でも、マニィは「マスク大尉に奥の方に居ろって言われる私はあの女(バララ)と違って役に立たないんだ…。モビルスーツの操縦出来なくっちゃ…」って変に戦果の価値観を意識してしまう。マニィ・・・。単に花を添えるだけの美少女じゃなくてこの子もこの子なりのドラマが今後在りそうなんです。
「女は男の帰ってくる場所を守ればいい」をいう価値観をマニィが演じきれなくて迷走しそう。その迷走の予感を演出的に強調するためにも、わざわざマニィはノレドに会いに来て「私はガランデンに帰る!!!」って宣言してる。
もしかしたら、マスク大尉はマスクの下でとっても優しい顔をしてマニィに「帰る場所にいてくれ」って愛を語っていたのかもしれないけど、仮面の下の恋人の顔は分からないので。だから、マニィはマスクの戦闘者としてのマスクしか見えないので、「私も戦わなきゃ」って誤解してしまう。
仮面の男は自分の表情でコミュニケーションできない、マスク大尉はクワトロ大尉や鉄仮面のダメな部分を受け継いでいる?


そして、戦闘局面ではマスクとクンパ大佐のずれも徐々に明らかになってきて。ガランデンでもサラマンドラでもなくザンクト・ポルトから、大佐がミノフスキー粒子を散布して戦闘を煽る。
マスクは(クンパ大佐はわたしを使っているつもりだろうが、わたしは本気でドレッド艦隊をいただくつもりだ)と思う。
クンパ大佐はマスクに「ギニアビザウを花火にしろ」と命令しているんだが、マスクはそれに従わず、

ギニアビザウの鼻先まで迫ったのに攻撃はせず、メッセージカードを送る行動に出た。

  • 戦士たちの価値観の一致



月のトワサンガに住むロックパイ・ゲティと地球人の艦隊は敵対して戦っているんだが、「ザンクト・ポルトは大事」って価値観は共有している。


また、

ミック・ジャックはクリム・ニックに「あのマスクの大尉はクンタラですね。我々の鼻を明かすつもりで突進突撃」と言って軽蔑して見せたし、クリムも「今回はお友達作戦ではない!」と言ったんだが。



戦闘の後、ガランデンとサラマンドラでは、
マスク「これで敵艦に撃ち込んだメッセージチューブを、艦隊の連中が読んでくれれば、勝利の道が開けます」
ガランデン艦長「間違いなく届きましょう。降参すれば、地球に住まわせてやるという内容ですから」
マスク「トワサンガの船乗りは、みんな地球に移住したがっているという話です」
と、
クリム「ドレット艦隊の中には、我が軍に協力してくれる連中がいるとみたな、わたしは」
ミック「地球での居住権を餌にしましたものね」
と言う会話があって、クリムもマスクがドレット艦隊にメッセージチューブを送ったという情報を共有しているようにも見える。(マスクとクリムが相談したのは、前回のラストでクリムがロックパイと殴り合いをした後に大聖堂を出た時だろうか?)


マスクとクリムが共同戦線をしているのかははっきりとしないが、マスクとクリムも「トワサンガの連中は地球に住みたがってるんだろう」という価値観は共有している。「スペースノイドはなんだかんだ言って地球に住みたいし、地球に住んでる奴は特権階級」という価値観は以前の富野ガンダムとも共有している。
そして、その価値観はおそらくトワサンガの戦士たちとも共有しているんだろう。なぜなら、そういう価値観がトワサンガの側にもなかったら今回マスクがやった行動は無意味だし。物語として意味がある場面だとするんなら、メッセージチューブを受けてトワサンガの人々は動くだろう。そんな風に「価値観」を政治的駆け引きの武器にするのが今回の見どころかな。

  • 宇宙での道徳

今回、ラライヤ・アクパールは2回、悪いことをしました。

ザンクト・ポルト付きのコックさんたちが一所懸命、要人の会食に向けて品揃えをチェック確認しているのに、ラライヤとノレドは林檎を窃盗して喰いました。目先の食欲に負けるとはまるで犬か猫ではないか。

そして、食べ残しを畑に投棄。
じゃあ、そういう事をするラライヤは嫌われるのかって言うと、むしろ逆で、それを見ていたベルリとアイーダは笑って容認している。
ベルリ「物を捨てるのはよくないけど…」
アイーダ「宇宙で生活する人って、ああいうのを捨てたと思っていないんですって」
ベルリ「食べ残しも肥料にするのは、キャピタル・ガードでも同じです」
アイーダ「ラライヤさんはトワサンガの人でしょ?」
ベルリ「純粋な宇宙育ちだから」
と、ラライヤの身の上の設定を語ると同時にリギルド・センチュリーの「価値観」を語っている。Gのレコンギスタは「お子たちに観てほしい」アニメでもあるのでドラえもんのように地味に道徳やポリティカル・コレクトネスの話も入れてくる。ただし、それは現代日本で政治的に正しい価値観ではなく、宇宙世紀を乗り越えた未来のリギルド・センチュリーでの価値観。
そういう描写も入れつつ未来社会のSFっぽい生活観も見せる。で、そんな盗み食いとポイ捨てのラライヤに対して

アイーダは「ラライヤを好きなんでしょ?」ってベルリに言って容認してやる。お子たちアニメとしては悪いことをして怒られたり嫌われるのはおつらいアニメになってしまうのだが、ちょっとした悪戯を認めてもらうと楽しいアニメになる。クレヨンしんちゃんとかもそうだよね。で、ベルリはダメ押しで「きちんと育てられた人じゃないですか」と褒める。彼らの道徳では、「在庫確認が終わった後の林檎の窃盗」や「畑へのポイ捨て」は許容範囲。
で、面白いのはそれが単に「こいつらは未来人ですよー」っていう説明に留まっていない所。
ぶっちゃけると、宇宙でモビルスーツ戦をしてるストーリーではラライヤが盗み食いしてポイ捨てするっていう場面はストーリー進行には全く関係ない。だが、現代にも通じる盗み食いやポイ捨てという身近な行動に対する疑問を視聴者に見せて、未来の道徳観念やマナーをアイーダとベルリが評論するという場面が大事。
つまり、今後はさらに宇宙で育ったスペースノイドの生活圏が舞台になるんだけど、そこで色んな価値観への疑問とか対立が出てくるんでしょうな。と言う伏線になってる。そのための気づきのきっかけを視聴者に印象付けるためのポイ捨てシーン。ポイ捨て自体はあんまりよくないけど、劇を演出するためには必要なこともあるということを表現規制の人も考えようよ!



また、何故か3連続で出てきたレンタルシャンクのおじさんですが。
「ポイントチケットが余ってますよ」って律儀に言う職員と、それをガン無視する軍人たちの価値観のずれを見せることで「あー、戦争やってんだなー」とか「戦士と平民には意識の違いがあるよなー」とか思わせてくれる。ポイントチケットの価値も劇の要素になってる。


要人会談での言い合いも価値観のぶつけ合いで政治戦だ。
グシオン総監「ヘルメスの薔薇の設計図がどこから出てきたのかについてはわかりませんでした。トワサンガで内紛があれば、地球に密航してきた技術者はいるでしょうが…」
ウィル長官「キャピタル・タワーでは伝統的にチェックしておりますから、密入国者はあり得ません」
法皇「半月後には、ここで年に一度のカシーバ・ミコシの降臨祭があります。そのときにいらっしゃる方が、穏当でしたのに」
ノウトゥ「アメリアの宇宙艦隊が唐突に宇宙に上がってきたから、我々が出ざるを得なかったのです」
ターボ「財団の連中は、フォトン・バッテリーの運搬以外のことは、何一つやろうとしない怠け者ぞろいで、手を焼いています」
ノウトゥ「トワサンガの産業革命は、100年前に終了していると考えております」


クリムとミック・ジャックの戦闘中の会話も価値を推量する。
「攻撃が始まったということは、モビルスーツ部隊が出てくるということだが、3機だけとはバカではないか!」とクリムは言って、自分たちのMSが弱く思われたように思う。

対してミックは「バカではないでしょ。自分たちのモビルスーツに自信があるんですよ〜やっぱりバカだ!光に飛び込んでくるのは虫だけだろっ!」
と、敵の性能の価値を戦いながら図る。
そして、クリムは「つくづく天才だよ!俺は!!!」と自己の価値を自分でどんどん上げていく。


戦闘後に「艦長、日誌を書くのはあとにしてください!」とサラマンドラの艦長が言われて、日誌に価値を置く艦長と船体チェックを先にやるクリムの対比になってる。


そして、マッシュナー・ヒューム中佐のジューシーポーリーイエイな言葉。
「そうだロックパイ。迎撃戦と追撃戦を同時にやることになりそうなのだ。ん?なに喜んでるんだ」
マッシュナー・ヒューム中佐とロックパイは男女関係っぽいんだが、ロックパイは公式サイトで「好戦的な性格」と明記されていて、そんな彼の性格の価値観も示されてる。



「敵の動きがザンクト・ポルトの上下で3つほどあるようなので、混乱しています。それにミノフスキー…」と、戦況をたどたどしく伝える兵士に向かって
マッシュナーは「戦場でそういうのは死ぬんだよ!世の中、手引書通りに行かないから人間がいるんだ!」と、∀ガンダムの御大将のように説教。ガンダムっぽい価値観ですね。


戦闘後、マッシュナー・ヒューム中佐は
「何、敵の船とMSを本国で捕えられるのだから、これでいいのさ。こちらは増援部隊と合流して、次のレコンギスタ作戦を仕掛けるだけだ」「惚れ直しな?」

と、戦略的な価値を男女関係の価値に置き換えて分かりやすくセクシーにジューシーポーリーに芝居をしてくれている。本当に愛し合っているのか、それは分からないんだが…。

  • 改めてリンゴくん



スコード教を信じてG-セルフに投降してメガファウナの新しい捕虜になったリンゴ君。サンライズのホモアニメとして名高いファイ・ブレインの主人公の大門カイトを務めた浅沼晋太郎さんの中でもかなり高い声。受けなんですかねー。どうなんですかねー腐女子の皆さん。
「トワサンガでは、地球人が来るなんて考えてないから。想定外のことに対応できる人間なんて、いやしませんよ」と、サラッと自国の弱点をゲロる。マッシュナー・ヒューム中佐の説教を喰らった兵士や、ミックにボコボコにされたエルモランの戦いぶりを見ると、トワサンガ艦隊は地球軍よりも強いわけでもなく、むしろ戦い慣れしていないし自分の頭で考えられる人間も少ないようだ。
ただ、「自分の国には想定外のことに対応できる人間はいない」と言うリンゴ君は対応できる人間なんだろうか?彼はどんな風に自分を意識しているのだろう。
失われた何か 「Gのレコンギスタ」と全体主義-状況に流される人達の物語
キングゲイナームラ社会に引き続いて、12年後のGレコでも富野監督は全体主義を描くようだ。全体主義の社会の中での個人のありようとは?という他人と自分とのすり合わせというテーマはかなり人類の長いテーマなのだが。そして、機動戦士ガンダムのジオンも全体主義だったし、遡るとザンボット3トリトンにも行ける富野のエコ思想では「地球や宇宙全体に対してみると人間自体が害悪なのでは」というデカい全体主義も描いてきた監督だ。

17世紀までの人たちはどうやって生きてきたか。ハンナ・アーレントは簡単に回答を出しています。物事を信じて生きてきたんです。信じるだけで17世紀の間、歴史を作ってきた。このことの意味を考えてください。だから、人類には宗教が必要だった。教義を信じるということは、ものを考えなくて済む、信じれば済むということ。
「僕にとってゲームは悪」だが……富野由悠季氏、ゲーム開発者を鼓舞 (4/6) - ITmedia ニュース

政治哲学者のハンナ・アーレントが指摘しているように、「独自に判断できる人々はごく限られた人しかいない」
宮崎駿は作家であり、僕は作家でなかった――富野由悠季氏、アニメを語る(前編) (3/3) - ITmedia ビジネスオンライン

では、リンゴ君のように「独自に判断できる人はいない」と言う人間は独自に判断できるのか?というパラドックスが生じて、そこに中世と近代の自我のありようの変遷が見えて、そのコンフリクトが芝居を盛り上げる。
リンゴ君は宇宙人の癖にベルリと同じスコード教を信じている。でも、信仰だけで行動しているんじゃなくてとっさに敵に寝返って行動もできる。しかし、その彼の楽観主義の裏には「スコード教を信じていれば悪い結果にはならないだろう」という信仰心があるのかもしれないわけで。初登場のリンゴ君ですが、なかなか何をどう考えているのか興味深い人ですね。単に美形だからって言うだけじゃないぞ!

  • 男と女のラブ価値観ゲームとお姫様の役割

で、マッシュナー・ヒューム中佐がロックパイに惚れ直させたのも戦いの成果を「男女関係」に置き換えて分かりやすくしたものなんだが。
結局人間は動物なので、「セックスして子供が出来たらいいよねー」という本能はプリインストールされちゃってます。
なので、オタクっぽく「あの時どのモビルスーツが何機登場して何を装備していたか」って言う話より、「あ、セックスしそう」って言う方が分かりやすく感じさせられてしまう…。

ステアが宇宙服の前をはだけて「艦長、何見てんですか!」っていうセクシーシーンも、「女は自分に価値を持ってると思ってる」世界観の価値観。

お姫様のオシャレポイントを褒めるのも極上!!めちゃモテ委員長アイカツ!やプリパラにも通じる普遍的な価値観。

戦争をしていても、男女の恋と愛に生きていることは変わらないし、
むしろこうした男女の関係こそ戦争や宗教にも関わっている。

物語とは男の女の関係で描かれる。
そんな作品、特に富野作品の根本を見せつけてくれた14話だった。
失われた何か 男と女の物語としての「Gのレコンギスタ」

っていうおはぎさんの感想を解説すると、ディズニーで言えば男の子はヘラクレスや野獣的に戦って王子様になって、シンデレラや美女の承認を受けるって言うおとぎ話のような価値観がある。


で、そういう世界での最高の価値は「お姫様に褒められてセックスさせてもらうくらいの功績をたてる」ですし、実際ベルリの行動原理、戦う理由は「アイーダ姫様のお尻を追いかけていたい」です。


で、姫様もそれを自覚していて、ベルリに対して今回は頻繁にダメ出し説教をしてきます。(マッシュナーやミックが色気を出して男を操縦しているのに対比しているんだろう)
ドレスを褒められたら「ついでに褒めたでしょ?」とか「女の子の扱い方はそんなんじゃだめだからね!」みたいな。


戦闘中でもお姫様ぶってダメだし。
ベルリ「月まで行くんだから、ここでかすり傷1つ受けるわけにはいきませんよ?」
アイーダ「何他人事いってるんです…!?ハッパ中尉が!」
「宇宙用のバックパックをセットしてくれました」
「はい、良くできました」
ベルリ「任せてください…とは言えませんけど」
アイーダ「言いなさい…!こういうときは、うそでも人を安心させるものです」


で、戦闘の後にたくさん人をぶっ殺したベルリはお姫様に褒められます。

「今日の見事な戦い方で知りました。あなたは立派な戦士です!違いますか?能力がある人は、その義務を果さなければならないんです!」
と、ベラ・ロナやディアナ様が放棄した「騎士を叙勲する」っていうコスモ貴族主義の姫様、女王様の義務を果たすアイーダは「その代り、騎士は義務を果たして戦いなさい」と言う。
アイーダが好きって言うだけで(キャピタル・ガードとして海賊や宇宙を調べるという言い訳をしつつ)戦ってきたベルリはめちゃくちゃうれしいはずなんだが。「やったぜ!これでセックスさせてもらえそうだぜええ!」と、おはぎさん流に言えば半勃起で先走り汁が出てる感じなんだが。

すっげえ顔で反論する。
「人をおだてたって、早々乗れるものじゃありませんよ?おだてには…乗りません…!」
と、ベルリはすごい汗をかく。汗もかいてるし先走り汁も出てるんだろうね。
これは、あれだ。姫騎士が「クッ殺せ…」→「チンポには勝てなかったよ…」となるのの男バージョンで
「女のおだてには乗らない!」→「女には勝てなかったよ…」でしょうね。


そんな王子様騎士のベルリに対して、片思い中のノレドちゃんが

「男をやれって言われてんだろ!うれしがってやりな!」って言うの、おつらいでしょう・・・おつらい・・・。


そんな風にせっつかれて、ベルリは「僕がここに帰って来られたのも、みんながいてくれて、メガファウナがあったからです!だったらやることはやってみせます!」と、すごい表情を殺して優等生発言を。そのみんなの中になぜか捕虜のリンゴ君が入ってるのもじわじわ面白い。
でもベルリ君は「みんなのおかげですー」という建前より「俺は姫様に褒められたいんじゃー!」という欲求がめっちゃある。めっちゃあるから、逆にみんなの前で姫様本人に褒められたら本心を隠して「おだてには乗りません」とか言っちゃうし表情も隠す。思春期ぃ〜。


じゃあ、その「女のために戦う」価値観と、全体主義を暴くテーマとして「信じるもの、みんなのために戦う」か、それとも「自分で考えて戦う」か?という間での摩擦がある。
摩擦があるから、ベルリはアイーダ姫に褒められて「はい、姫様!喜んで戦いまする!」と中世の騎士のようになるんではなく、「おだてには乗りませんよ…」と、一回迂回する。迂回した所を他の女に後押しされて戦うように…。


この、「女に褒められたい」と「自分で自分の本心をごまかす」って言うのは、ベルリの今までの行動で反復されている。
Gのレコンギスタ第2話「G-セルフ起動!」は女に褒められたい - 玖足手帖-アニメ&創作-

「そんな新型を出して来るからでしょ!そんなもので変形したりするからでしょ!教官殿がそんな小手先のことをやるから!!!」

と、泣きながら叫ぶベルリ。

新型とか変形とか、小手先の細かいことを言い訳にしているのはベルリ自身で、ベルリはデレンセンを殺した自分を滅茶苦茶ごまかす。前の感想でも書いたが、こいつはこういう癖がある。ここまでやってもまだ現実が見えていないのか!お前は!!!

キャピタルガードの生徒としてアメリア軍の情報をスパイするとか、女海賊を助けるとかそういう英雄気取りで目の前の現実が見えていない!シロッコ以下!


ベルリも「あれはデレンセン大尉の声じゃなかった」って生理的な記憶を理性の言葉を自分に言い聞かせて防衛機制でごまかそうとしている。メンヘラアニメだ・・・


Gのレコンギスタ第6話「強敵、デレンセン!」宇宙世界は地獄! - 玖足手帖-アニメ&創作-


さて、もともとスコード教の信者で「自分の能力をみんなのために使うことで立身したい」と言うのが初期設定で、同時に「みんなよりもすごいMSや活躍で良い女をゲットしたい(だからノレドでは満足しない)し、飛び級して俺TUEEE!したい」ベルリはこの物語の最後に「自分で考えて行動できるニュータイプ」に成れるのか?それとも「考えてこないで行動してしまったツケを支払わされる」のか?
作者はどういう価値を提示して見せたいのか?それに対して僕たちはどんな価値観で反応するんだろうか?
哲学アニメ、「フィロソフィー・フィクション」としても絵柄が似ているエウレカセブンのような興味がありますね。
監督がはっきり自白しているように、中世の信仰と近代の啓蒙主義の対立でもあるし、全体主義個人主義の対立でもある。
オーバーマンキングゲイナーでも見られた作劇であるしZガンダム逆襲のシャアでもそう言うニュアンスはあったが。

  • お姫様になれない女の子は薔薇の花嫁になるしかない


惚れているベルリに向かって「アイーダ姫に対して男になりなさい」と、滅茶苦茶屈辱的なことを言わされるノレド・ナグちゃん。
でも、女の子同士の会話では「そうだよ!かわいくて元気な、ノレド・ナグさんだ!」って言う。本当はベルリに「ノレドは可愛くて元気だね」って言ってほしいんでしょうな…お辛いでしょう・・・お辛い・・・。



バララに嫉妬するマニィは女と言うだけでマスクの心の愛を持っていることに気づかず、戦うデュエリストになりたがる。お姫様になれない…。
というか、自分がチアサーの姫様だということをマニィは断髪で捨てちゃってますし。そこで愛されることより戦うことを選んじゃうマニィの不器用さは若さなんだろうなあ。



自他ともにお姫様であることを期待されて振舞うアイーダ・スルガン姫様だが、さて「ベルリの姫」ではいられるかな?



少女革命ウテナみたいだと、ラライヤ・アクパールが髪をほどいてアンシーエンドということもあるんだが。
ベルリ・ゼナムは鳳暁生よりは善良だろうけど。どうなんでしょうね。でも、火の鳥望郷編みたいに倫理の価値観の届かない世界の果てまで宇宙をっていうルートもあるわけで、どうなんでしょうねー。

男の人は多分 頼もしい役を演じて
女の子に見破られてる こぼれてしまう真実


覗いた横顔が 実は照れくさそうにはにかむ その表情が愛しくて
男の人は多分 思いっきり嘘をついて女の子に愛を伝える
心を隠しきれずに


ハニー・カム / 坂本真綾

ハニー・カム

ハニー・カム

ここで坂本夫人を上げるのが僕の90年代脳なんですよ。