再放送で7月ころに放送された録画を10月に見るというやる気の無さだが。もっと他に書くべき記事があるのだが、見てしまったので書く。
第90話「ロボット対人形」1969年12月13日放映(51年前!富野喜幸28歳)
鉄腕アトム(虫プロ)、リボンの騎士(虫プロ)、冒険少年シャダー(シノ・プロダクション在籍中のアルバイト)以後、富野喜幸がシノ・プロダクション退社後、フリーコンテマンとしてやって行き始めた最初の作品。(放送は巨人の星90話より、アニマル1,夕やけ番長、海底少年マリン、どろろ、紅三四郎、男一匹ガキ大将、ムーミンのほうが早いが、富野由悠季全仕事では4番目に記載されている)
富野由悠季全仕事のフィルモグラフィー制作のリスト制作委員 原口正宏氏によると
本作は86話以前のエンディングクレジットに「コンテ」の表示そのものがないため、富野が他にどの回のコンテを担当したのか、フィルムからは知ることができない。
富野自身の作成した総年譜によれば「コンテ―七、八本」。また、自伝『だから、僕は…』には「長浜監督との出会いはかなり鮮烈であった。「巨人」の放映される前に出会い、「巨人」の初めの方の七、八本のコンテをきらせてもらったのである」と書かれている。だが、90話は「初めの方」とはいい難い話数である。
今回、あらためて本人に確認をとったところ、初期の一時期に関わり、少しブランクを置いてから再び参加した記憶がある、とのことだった。また、初期の担当話数については、1クール目の終わり(10話前後)から3クール目の終わり(40話前後)に、ほぼ1ヶ月1本のペースで参加した可能性が高いということだが、いずれにしても詳細の解明には至らなかった。
とのこと。
不明瞭な富野喜幸の巨人の星参加だが、クレジットが残っているのはこの第90話が唯一。巨人の星自体はもっと続くのだが、どうやら90話で抜けたらしい。なお、1969年9月6日放送のテレビバラエティ特番の「巨人の星対鉄腕アトム」の絵コンテも担当したとのこと。
また、巨人の星自体が変な番組で、長浜忠夫監督も独特な人だ。出崎統が1970年のあしたのジョー(原作は同じ高森朝雄(梶原一騎))で鮮烈な監督作をする前から、アブノーマルカラーの多用、実写映像や実写新聞とのコラージュ、オーバラップ、イメージや回想のゴーストショット(透け合成)とか、まあ、色々とテクニカルなことを50年前からやっている。これらは富野由悠季監督の現在の作品にも受け継がれている技法なのだが。
そういうわけで、若かりし富野喜幸絵コンテだけが特別に優れているとか言うつもりもないんですが。でも、僕は富野由悠季のオタクなので書く。
そもそも、この第90話が構成の段階でおかしくて、まず野球番組なのに野球回ではない。前回、日本シリーズ勝利を収めた後の読売巨人軍と大リーグのカーディナルズとの日米交流戦での野球のためだけに育てられた野球ロボットのアームストロング・オズマと星飛雄馬との勝負が描かれる。飛雄馬は大リーグボール1号を変化させて辛くも勝利を収めるのだが、神経をすり減らして入院する。で、今回は飛雄馬が入院していてある程度、回復したところに病室にアームストロング・オズマが会いに来る話なんですが。(大リーグボールの投げ過ぎで神経がやられて入院って、どういう診断名なのか、静養しているだけで治るのか、それも謎)
で、次回は飛雄馬が沢村栄治の話を聞く話なので、野球のシーズンオフでちょっとダレ気味の時期なのかも。(当時の巨人軍とこの漫画が、どれくらいリアルとのメディアミックスしていたのかは世代ではないので知らない)
V9(ブイ ナイン、ブイ きゅう)とは、読売ジャイアンツが1965年(昭和40年)から1973年(昭和48年)まで、9年間連続してプロ野球日本シリーズを制覇したことである。この期間をV9時代ともいう。
ファーストカットで秋らしいイチョウの枯れ葉が風に吹かれて野球場前に流れてくるところから始まるのが、なんとなく映画をやりたがってる富野らしさとも言える。まあ、小技なのでそこまで大したことないけど。
あと、星一徹に「飛雄馬の見舞いに行くな」って言われて、明子ねえちゃんが「私も野球人形だわ!」って台所で泣くシーンで手前にピンぼけの水道の蛇口をナメて、そこから涙のようにしずくをこぼすというのもテクニカル。
そして、前回の素材とセリフをコラージュして前回の野球勝負のダイジェストと飛雄馬が病院に運ばれる経緯をまとめるのはツギハギ編集が得意な富野さんって感じです。
で、アームストロング・オズマが病室に来るんですけど、「お前は俺と同じ野球のためだけの野球人形だ!」とスッゴイ失礼な事を言いに来る。(せっかく来日して、途中で飛雄馬が倒れた後、カーディナルズは残りの試合を快勝したのだからオズマは余裕で日本観光をするなりしたらいいのに。彼に何の得があるのかわからんのだが、ライバル宣言をしたいのか、悪口を言いに来る。)
星飛雄馬はオズマに対して「試合が終われば昨日の敵は今日の友」と友好的で、星飛雄馬は野球少年に人気なので、少年雑誌の記者が二人の対談を記事にしようとしてテープレコーダー(デカい)を回しているのに、オズマはありえん失礼ぶり。飛雄馬の握手も断る。小林清治さんの若々しい演技も尖っている。(ていうか、古谷徹さんも半世紀声優していているおじいさんなのに名探偵コナンで女子をメロメロにしててすごいな)
ほんで、飛雄馬に「お前には恋人がいるか?お前は野球以外の本を読むか?お前は野球以外の友だちがいるか?」とか問い詰めて「お前には野球以外の青春はないのだ!俺が野球ロボットなら、お前は野球人形だ!」とかカブトボーグ並の精神攻撃をしに来る。病院に。本当にお前は何なんだよ。
しかし、ライバル心と言うか「相手を潰してえ」って気持ちは富野アニメの歴代ライバルの持ち味。富野監督自身も今もなお「自分より才能のあるやつをぶっ潰したい!」という気持ちで仕事をしているので。富野アニメも戦闘中のレスバトルが重要なので。
で、飛雄馬は退院するんだけど、オズマの精神攻撃が効きすぎて混乱してて車道に飛び出してウッカリオープンカーに轢かれそうになる。カブトボーグなみに唐突な交通事故展開。
オープンカーに乗っている青年は腰が低く、事故しかけた飛雄馬を心配するしすごい謝る。で、飛雄馬が野球選手だと気づくと、彼のファンだと言ってドライブに誘う。金持ちかな?って思ったら中産階級の工員で、たまにストレス解消のためにレンタカーでオープンカーを借りてドライブするのが趣味とのことで、金持ちっぽく鼻にかけたところはない。飛雄馬は基本的に金持ちが苦手なので。
そんで、その青年はレンタカーだけどイカすオープンカーのパワーで女子二人をナンパして海までドライブする。使い捨てヒロイン!
海で記念写真を取ろうとするんだけど、飛雄馬はシャッターボタンを押すだけでいいカメラも使えない。もちろん、海にいても楽しくないし、女子がなぜか持っていたアコースティックギターで歌っていても歌えない。(なんでギターを持ち歩いてたんだろう)(富野さんが演出したさすらいの太陽よりも以前の作品)
(歌は「ズー・ニー・ブー」というコーラスグループのヒット曲の「白いサンゴ礁」作詞は富野さんと家族ぐるみの交流があった阿久悠さん)
ここで青年が「露出も気にしないでいいカメラなんだよ」って言うの、微妙に写真少年だった富野さんのアドリブっぽい。
女子さえもオープンカーを運転できるけど、飛雄馬は運転もできない。
なんかあしたのジョー終盤ののりちゃんの「矢吹くんには青春がない」の下りに似ているのだが。これ、巨人の星の原作にあるエピソードだっけ?
で、極めつけが夜の街のディスコ(ゴーゴー喫茶?)です。謎ディスコは富野喜幸コンテのあしたのジョー第54話にも登場する(漫画版の原作にも登場する)し、出崎統監督の「ASTRO BOY 鉄腕アトム 特別編や白鯨伝説やコブラなどでも出てくる。なので、謎ディスコといえば富野さんと言うより出崎統なんですが、巨人の星のほうが先なのか。
そしてブち込まれるグループサウンズの挿入歌。
ゴールデンカップスの「クールな恋」という歌があって、「巨人の星」でこれが劇中の架空の歌手グループ「オーロラ3人娘」の歌として歌われました。
橘ルミの声は増山江威子なので、どうもアニメではこの人がリードボーカルのように思えます。
https://www.youtube.com/watch?v=pQ7geacnZYA
(第90話はオーロラ3人娘(ダサい名前)ではなく、ディスコの生オーケストラですが)
は????
今まで巨人の星、青雲高等学校の応援歌(青雲健児の歌)以外には挿入歌はなかったけど、いきなりグループサウンズとのコラボですよ。著作権とかどうなんだ?富野さんが抜けた後にもオーロラ3人娘として挿入歌が起用されているので、富野さんだけが暴走したわけではないようですが、ちょっと唐突感がある。
(まあ、青雲高等学校の青雲健児の歌も、グラウンドでの戦いを歌い上げていて、野球部を冷遇していて柔道部が名門の校風とは微妙に合ってないんですが。まあ、梶原一騎ワールドだからな・・・)
で、星飛雄馬は野球しか知らんのでいきなりディスコで踊ろうとかナンパなことを女子に誘われても、その盛り上がっている群衆の中に巨大なアームストロング・オズマの顔の幻影(ヤバい演出)を見てしまって「ウワーーーーー!」ってなってしまってディスコを飛び出して逃げる。
巨人の星は誕生日クリスマス回がひどいことで有名だが、これもこれでひどいな・・・。
ディスコの軽薄な若者たちを見て「こんなものが青春であるものか!」って星飛雄馬は苦悶する。豆腐メンタル。
で、飛雄馬にオズマの幻影の声が聞こえる。
お前は野球だけでも青春だと言ったな、
お前はほかの青春を知らなかったらからそんなことが言えたんだ…
青春とは音楽と詩と、希望と夢とは、若さという自由の中にあってこそ言えるんだ…
オズマ、病院の対談ではそこまで言ってない…!というか意味がわからない…。飛雄馬の中のオズマは割とロマンチストで青春がどうとか言う。謎ポエムの精神攻撃。後年のガンダムのニュータイプたちのレスバトルにも通じる。
で、夜の街を走り抜けた飛雄馬はいつの間にか巨人軍の練習場の多摩川グラウンドに倒れ込んで、ピッチャープレートで夜を明かす。無意識に練習場にたどり着いたことで、結局自分は野球だけだと思い込みを強くした飛雄馬。
夜明けに飛行機が飛んでいく。それにオズマが乗っているかどうかは不明瞭だけど、飛雄馬の中では、その飛行機は帰国するオズマが乗っていることになっている。思い込みが激しい。
「オズマ、アメリカに帰れ!俺は野球人形の青春を必ず作ってみせるぞ!」とオズマが乗っているかどうかハッキリしない飛行機に向けて叫ぶ飛雄馬でEND。整合性はともかく、場面転換のダイナミックさは認める。
富野監督もヤバいんだけど、長浜忠夫監督も梶原一騎もヤバいからなあ…。
- 巨人の星の熱血とは
島本和彦先生は梶原一騎などの熱血をパロディにしているうちに熱血マンガ家と呼ばれるようになったようだが。
島本和彦漫画は過剰とも取れる主人公の内面の思い込みが激しいモノローグがギャグになっているのだが、巨人の星はそれをギャグではなく真剣にやっている。そして飛雄馬のモノローグの中でオズマの概念や星一徹の概念が響いてきたりして独特の内面世界を作る。
また、島本漫画は熱血の主人公が割と人の目を気にしてメンタルの不調を発症したり迷走するのが面白いのだけど、星飛雄馬もかなり人の目を気にする。
矢吹丈はそんなに人の目を気にしてない感じなんだけども。
島本漫画は熱血をギャグにしていると評されがちだが、巨人の星の時点で過剰な自意識の内面と他人からの評価を気にする外交の不安定さは表現されている。島本漫画はギャグで巨人の星はマジ、と言われるかもしれないけど、やってることに大差はないような…。
熱血というのは、もっと、こう、強く独立独歩な感じだと思っていたけど、飛雄馬はわりとウジウジしてるな。
あと、巨人の星は1960年代なのに、「男なら泣くな」ではなく「涙を拭くな」なので、割と飛雄馬も伴宙太も盛大に泣く。割と湿っぽいのかもしれない。というか感情の振れ幅が大きい。島本和彦先生が参加した機動武闘伝Gガンダムのドモン・カッシュも強いときは強いけど落ち込むときはとことん落ち込むからなあ…。
そういう点で巨人の星は現代から見ると色々と変なのだけど、現代までの作品にも影響はしているんだなあ。まあ、変だけど。
- ほしい物リスト。
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