玖足手帖-アニメブログ-

富野由悠季監督、出崎統監督、ガンダム作品を中心に、アニメ感想を書くブログです。

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ベルリの殺人考察第3部第19話A 宇宙で働く地政学

 放送当時の感想
nuryouguda.hatenablog.com
 放送当時の感想でもかなり深いところまで書いているので、なるべく重複を避けたいのだが。過去の自分がライバル!


目次
「はじめたいキャピタルGの物語」・「ガンダム Gのレコンギスタ」感想目次 - 玖足手帖-アニメブログ-
Gレコ2周目の感想目次 殺人考察&劇場版(パリ) - 玖足手帖-アニメブログ-


 前回の殺人考察
nuryouguda.hatenablog.com
nuryouguda.hatenablog.com


 劇場版Gのレコンギスタの公開日時が決まった。11月29日である。この殺人考察シリーズは本来2017年には仕上げておきたかったものだが、2017年に労働して過労で体を壊してしまったせいでできていなかった。本当に労働に向いてない。あと三ヶ月で残り7話の考察をしていきたい。


 なお、今回の19話は殺人シーンがないので殺人考察としては軽く流せるかと思ったが、ベルリ・ゼナムの心の動きはそれなりにあるし、ドラマの思想的な部分で新発見もあったので、書いていく。また今回はキャラクターのグループごとのテーマ性もあるのだが、絵コンテのカッティングのつなぎが上手いので、キャラクターごとに書くというよりは、時系列順に見ていこうと思う。(まあ、これが一番ラクなのでいつもこれなんですが)
 そして、殺人シーンがないのにクレッセント・シップ宇宙旅行の楽しさを美しく描いているので、やはり分量が増えてしまい、AパートとBパートで分けて考察します。(ページが重くなるので)(今更?殺人考察シリーズも1話2話に比べると格段に長くなっている・・・。僕なりに解像度が上がりすぎているのかも)
 2万4千文字あります。くどすぎる。


 軽妙な音楽が鳴っていて、太陽に照らされた名もない小惑星が通り過ぎる

 カメラを振ると、太陽系中心部の金星に向かってクレッセントシップが飛んでいる。

 クレッセント・シップにはメガファウナもランデブーしていて一緒に航行している。

 そのクレッセント・シップを囲むような円のチューブをアップにして、フェードアウト/インして内部を映す。

 それをぐいっと90度回転させると、円周の内部を走っているキャラクターが見えてくる。
 と、今回は導入の30秒からとても丁寧に描写している!
 富野アニメでは割りと近景をいきなり映してから遠景に引いて驚かせるようなカメラワークが多用されるが、今回のクレッセント・シップの導入は遠景から順序よく段階を踏んで見せている。それだけ、今回はクレッセント・シップという惑星間航行巨大宇宙船を見せていきたいという気持ちが感じられる。
 クレッセント・シップGのレコンギスタの企画が∀ガンダム2という仮呼称だった頃からイメージボードにあったものだし、富野監督の思い入れも強いと思う。また、軌道エレベーターが嫌いだと公言しながらGレコの前半でキャピタル・タワーを描いた富野監督としては、「宇宙船」という大好きなガジェットが描けて嬉しいという面もあろう。
 ともかく、今回は戦闘シーンが後半までほとんどないので、その分ゆっくりしっかりとカットの繋ぎがきれいに描かれている。戦闘がないので、殺人考察としては脱線かもしれないが、ベルリの心情を追うと同時に、丁寧な繋ぎの意味を見ていきたい。





 我らが主人公のベルリ・ゼナムくん。当然のごとくペースメーカーのロボット・ハロビーのノベルの後について首位を走る。主人公だし、皇子だし、一番強いガンダムパイロットなので。特に言及しないけど、こういうところでベルリくんのやる気を見せていく。
 殺人考察シリーズでは戦闘によるストレスでのベルリの疲労度合いも見ているが、今回はベルリ君は前回のガイトラッシュとの死闘の後、数日間の非戦闘状態で健康的な運動などをやっているので、ストレスは少なく、元気になっているようだ。元気のGなので、ベルリくんがどれだけ元気なのかはGをレコを見る上での指標になる。




 プロの軍人のオリバー、ルアンに続いて、若い女性たちとリンゴとケルベス。リンゴとケルベスが後ろにいるのは、ケツを見たいからだと思う。操舵手のステアもケルベスの後ろで健闘。やっぱり若さ。



 続いて30代40代男性チーム。特に順位は競ってないけど、ゴール前で抜きにかかるのは副長としての意地だろうか?珍しくサングラスも取って本気モード。



 あんまり体力を使わないバックオフィスチーム。ハッパさんはもやしだけど頑張っている。



 初老のミラジ・バルバトスさんの後ろで走る、カナリヤ役と言われるジャマ・デリア。ジャマ・デリアは特に決まった役職がなく、カナリヤのように先に死ぬことで危険を知らせる役割という、割りと差別されてるっぽい朴訥とした男性だ。僕もいじめられっ子だったので、ジャマはちょっと気になる。まあ、大した役割や物語への影響はないんですが。

 出番は少ないけど、金髪ですっぴん娘のマキ・ソールちゃん、健康的で好き。(電気系統担当なので賢い)


 ドンケツはお腹が出ている50代60代おじさんチーム。ロルッカさんが「まだ走れる」っていうのは、年齢による衰えを認めたくないエゴの強い政治家の虚勢、という説も聞いた。まあ、ロルッカさん、暗躍してるしな・・・。


 というか、半ば事故のようにメガファウナと一緒に金星を目指すことになってしまい、トワサンガレジスタンスはそれでいいのか・・・?ロルッカさんとミラジさんがいなくてもそこそこの活動はできる?まあ、トワサンガレジスタンスはMS部隊も持っていないようだし、大勢に影響はないかも。むしろ、皇子と皇女とラライヤと一緒にいたほうが情報収集ができる、という腹づもりだろうか。
 わりとユーモラスなスポーツ描写で特にセリフで明示していないのだけど、ちゃんと順位でキャラ付けしていて演出の丁寧さを感じる。メガファウナのクルーは個性的なので、吉田健一さんのキャラクターデザインワークスを読んで下さい。
ガンダム Gのレコンギスタ キャラクターデザインワークス




 それで、ヴィーナス・グロゥブの調査員だったというフラミニアさんに視線を送って、


 自然な流れでフラミニアさんがさり気なく全員の遺伝情報を調べているし、ヤァンという職員とも親しいという伏線を描く。ヘルメス財団クレッセント・シップの設備での調査なら、やっぱりベルリとアイーダ姉弟というのは確定のようだ。



 ドニエル艦長が女子シャワー室に間違えて入っちゃうの、ギャグなんだけど。全裸で全裸中年男性のドニエル艦長を押しのけるノレドさん、健やかで強い。という、特に全体に影響がないお色気シーンなのだが。ここで男女別を意識させることで、この次のシーンのラライヤに対するケルベスとリンゴの恋愛感情を盛り上げる。あと、今回はノレド、マニィ、ラライヤが三人娘で行動することが多くて、会議室シーンでの席のとり方も自然に男女で分かれている感じになっている。そういう伏線の効果も狙ってるのかも。




 美形のリンゴくんとラライヤを取り合う感じになっているケルベスの冷やかし。ガールフレンドがいない連中のことも考える成人男性だったのに、大人気なくなっている。というか、ケルベスもリンゴくんも社会人何年目くらいなんだろう?ケルベスもリンゴくんも正規過程の軍人のようだが。(MSの訓練も受けている)リンゴ君は美少年に見えるけど、意外と成人しているのかもな。(マッシュナー艦隊が美少年を集めているという説もある)
 ケルベスは第1話での指導教官だった頃に比べると格段に子供っぽくなってる。無職になったからだろうか。



 そんな男子のぼやきを否定して、ラライヤさんはアイーダさんにフラミニアさんはスパイではないという。(まあ、もっとひどい人だったんだが)(関係ないけど、このカットのラライヤさんのまつげの感じが可愛い)

 「女性の復元力を描きたい」というのが富野監督がGレコの企画段階で言っていた裏テーマだけど、一緒に走っていても、なんとなく会話やフラミニアさんなど同じものに対する受け止め方で男女別になる感じを出している。



 ラライヤさんにフラミニアさんがスパイだということを否定されたからか、ビーナス・グロゥブに詳しいところを見せて挽回しようとしたのか、うっかりクンタラの話をしてしまって怒られるリンゴ君。なかなか上手く行かないのだ。しかし、女子の気を引こうとしてうっかり会話で地雷を踏んでしまう残念なイケメンのリンゴくんという若さ故の過ちを70代になっても描ける富野監督は新海誠監督以上に思春期を保ち続けているな・・・。
(ちなみに、本放送の時の感想でも書いたけど、ビーナス・グロゥブに鳥などの生き物を運んでいるようだ。マラソンで汗を流させる人間と違って、鳥の雑菌は吐き出させるのが難しそうだけど…。何やら化学研究員のような服装の人たちが何かしている。地球で復活した自然の生物をビーナス・グロゥブのオーシャン・リングに持ち込んで地球を再現しようとしているんだろうなあ・・・)




 (ラライヤさんのお腹の肉の感じが良い)久しぶりにクンタラの話をしたと思ったら、久しぶりに海賊の話をしてしまうケルベス。スポーツしながら女子にいいところを見せようと思って会話を振って、ちょっと滑って嫌がられる男子、という微妙な心情描写をしている。やっぱり、ケルベスはあんまりモテないんだろうなあ・・・。(視聴者にクンタラと海賊を思い出させる効果も)

 しかし、アイーダさんは彼氏いたことあるし、男性の好意やアプローチにそこそこ免疫があるので、特にケルベスに怒ったり説明したりせず、弟に「明日はスカッシュをしますよ!」と言って会話を打ち切る。
 メガファウナのクルーがスポーツをする自由が与えられてるとか、宇宙船のスポーツと言えばやっぱりスター・トレックのころからスカッシュだよね、とかそういう描写でもある。
 ていうか、リンゴとケルベスはラライヤさんやアイーダさんの気を引こうとして色々喋るけど、先頭を走ってるベルリ君は飛び級性だし真面目なので、アイーダさんに声をかけられるまでしゃべらない。好きだったけど姉だったし、声をかけづらいのかも。でも、姉は他の男性とスポーツするより弟とスカッシュするっていう。うーん。富野監督なりに宇宙船のSF描写をしつつ、恋愛というか青春描写をやろうとしたのかなあ。まあ、走ってるだけといえば、だけなんですが。
 恋人を殺されたけども、姉は弟を気にかけている、という。

  • 船外活動

 ビクエスト島を発進して今までは戦闘の連続でまとまった修理ができなかったからか、金星までの間に戦闘の心配がないので、かなりしっかりとメガファウナの船体やモビルスーツの補修作業やメンテナンスをする。

 モビルスーツと人が一緒になって作業をするのは、モビルスーツの汎用性を感じさせるけど、同時に動きが面白い。アイーダさんがMSグリモアに乗っているオリバーの忘れ物を推してあげるのを手伝って、マニィも推して、グリモアの大きな手がつまみ上げたら、二人はちょっと宙を舞ってしまう。

 それを見て、ベルリとノレドとラライヤは笑う。

 その笑い声はオープンチャンネルになっている宇宙服の無線で届いて、アイーダさんとマニィが「笑った」って言うが、バカにされたというニュアンスというよりは、ベルリが珍しく笑ったことに驚きつつ喜んでいるようにも見える。ベルリはアイーダさんに戦士をしろと言われたり、アイーダさんが姉だとわかってからキレてガランデンに喧嘩を売りに行ったり、ガイトラッシュと激闘したりして張り詰めていたと思うが。スポーツをしたり、キャピタル・ガード候補生の能力を活かして宇宙作業をするなかで、緊張が解けていった、とも見える。
 アイーダさんもベルリのストレスとかは気にしてくれているようだ。姉なので。



 戦闘ではなく、宇宙で働くことで、ベルリはキャピタル・ガード候補生時代の頃のように宇宙での仕事に目を輝かせる少年っぽさを取り戻す。ベルリは天才パイロットなので戦ってストレスを溜めてきていたが、やっぱり基本はこういう宇宙運搬業の平和利用の仕事が本来の志望なんだろうなあ。こういう健やかにテキパキ働く青少年は富野監督の一つの理想でもあるんだろう。宇宙船という地球から離れたSFな場所だが、富野監督のキャリアの一つである世界名作劇場のネロやマルコのような、きちんと労働して生活する少年、という描写。



 男女の違いを強調したと先に書いたけど、女性同士の気安さで、アイーダさんとマニィはアメリア軍とキャピタル・アーミィという軍服の違いを超えて会話する。アイーダさんが面倒見がよくて優しい年上の女性だからか、宇宙では人恋しくなるものだからかもしれない。
 あと、マニィはノレドと一緒に、2話でちょびっとだけラライヤとチアガール部をやったけど、その後に記憶を取り戻したラライヤのことはわからないので、ラライヤに話しかける前にアイーダさんに人間関係を聞いてみる、という心理だったのかも。ノレドとマニィは仲良しだけど、そこにラライヤさんが入る時にすぐに仲良くはならない、という女子高生の心理。



 マニィがガランデンでの経験を活かして、宇宙での仕事をできるようになっているのも名作劇場ぽい。もちろん宇宙船のロマンや子どもに宇宙を見せたい気持ちもあるけど。

 太陽風のオーロラについて、アイーダさんがマニィに教えてやって、特に理由もなく作業の途中でジャンプして星空を見る。アイーダさんなりに、(女王を目指しているからか)キャピタル・アーミィから1人だけ乗り合わせてしまったマニィに気をかけてやっているんだろう。宇宙で仕事をしながら、さり気なくお互いを思いやる若者たちが描かれているのはいいなあって思う。(終盤でマニィが暴走するにしろ)




 そういう風に同性に気を使ってもらっても、恋愛関係のロマンスの感情は如何ともしがたい、というドラマもあって見ごたえがある。アイーダさんがマニィが泣くのを察したのか、スッと引くのもいい。

  • MSメンテナンス


 ベルリのことを気にしてやる同性の大人として、ハッパさんが居る。 

 ベルリはわりと細かいことを気にする面もあるけど。やっぱりパイロットとしてはヘッドレストのゆるみは気になってたのか。そこを直してやる有能なハッパさん。

 トワサンガのロルッカとミラジがしこんだレイハントンコードも、ハッパさんがいつの間にかもとに戻しておく。というか、もとに戻したということは、一回どこかで変更されたのか?(多分フラミニアさんとヤァンの仕業)


 鈴木千尋さんの演技も柔らかでとてもいい。第10話の「恋を知ったんだ。誰が死ぬもんか」というベルリの言葉をハッパさんは聞いたのかどうか。アイーダさんとの血筋のことで悩んでいる面もあるベルリにポジティブな言葉をかけてやる。イデオンの宇宙逃避行とか、結構ギスギスしてたけど、こういうクルー同士のメンタルケアの相互関係は暖かでいいよね。それがTV版Zガンダムアーガマにあったらなー!(ノースリーブは本当にひどいやつ)
 Gレコはベルリが不本意な殺人を繰り返してしんどくなる話、という風に殺人考察を見てきたけど、戦闘がない時はベルリのストレスに気を使ってやる人の優しさも描かれているのだ。(エヴァンゲリオンネルフはほんとにひどい)





 まあ、マニィと同じく、ベルリも泣くけど。ハッパさんがすっと引いて1人で泣く時間を取ってやるのも優しさなのかなあ。ベルリは両親のいたわりに感動するけど、同時にアイーダさんが姉というのはまだ引っかかっていて、泣く。両価性みたいなのがレイハントンコードにはある。
 本放送時はクレッセント・シップの宇宙のロマンに注目して感想を書いたけど。こういう、気にかけている人の流れがシーンの繋ぎで示されているのがいい。マニィの涙とベルリの涙も緩やかな意味合いの連想で、つながっているようにみえるし。血縁の失恋によって泣くベルリと、恋人と遠くに分かれてしまったことで泣くマニィの並列。
 (しかし、メガファウナの隔壁一枚で宇宙と隣り合わせのデッキで、宇宙服を着ないで平服でリラックスして仕事をしてるの、結構度胸あるな・・・)

  • 流星狙撃


 メガファウナの人たちに対して、クレッセント・シップの人たちが流星を狙撃するショーを見せてくれる。いちいち親切というか、観光させてくれる。レイハントン家への敬意なのか?演出的にはメガファウナのクルーが自由でクレッセント・シップに歓待されているので、後半にジット団に拘束されることで落差が表現されてる。

(ノレド・ナグさんは瞬きをしただけです)
 ラライヤさんは流星の大きさと速度がわかる性能が良い双眼鏡を持ってるなー。そして、ラライヤ、ノレド、マニィの三人娘のグループ感覚ができてるっぽい。チアガール部復活。夏色キセキぽさもある。



 マラソンと同じく並びが重要で、ノレド・ナグさんはベルリのことが好きなんですが、離れている。黄色い宇宙服のラライヤの隣りにいる。ベルリの宇宙服は赤。アイーダさんはピンク。
 


 ハッパさんはベルリと仲がいいからわかるけど、ベルリとアイーダさんの間にアダム・スミスさんがいるの、どういう意味だろう。甲板長として姫様を守ろうという気持ちだろうか。ベルリの方が好きだったけど姉だったアイーダさんの近くにいたいけど隣には行きたくないという心理だろうか。





 三人娘の仲良し感。そして、怯えるマニィに対するノレド・ナグさんの豪快さ。ラライヤさんの賢さ。 
 そこから自然に、ラライヤさんのセリフがキッカケでビーナス・グロゥブへ視線を送ってシーンが切り替わる。今回はこういう風につなぎがすごい丁寧。

 で、球形バッテリーを多重リングにしたビーナス・グロゥブの遠景を見せてから、


 その視線の先のビーナス・グロゥブのビーナス・リングの中で、クレッセント・シップに向かってくる不審な人物や物語上の障害物として、マシーンの上に屹立しているキア・ムベッキ隊長をわかりやすく映してくる。教科書のようなカットつなぎだ。
 (金星の磁気嵐はノーマルスーツを超えて人体に悪影響はないのだろうか?というか、太陽風や日光の熱のほうが問題かもしれないけど、割りとみんな日向にいるな・・・。)
 マシーンの上に屹立しているキア隊長は異常な行動に見えるけど、演出的にはこれがわかりやすい。パッと見で「あ、敵だ」ってわかる。まあ、単なる敵ともいい難いのが後々効いてくるのがGレコのらしさでもあるけど。とりあえず初見で敵は敵らしく登場してくれる。

 初登場なので誤植は仕方ない?

 本当にわかりやすく移動方向がぶつかるようにクレッセント・シップに対する敵だって感じで来てくれる。Gレコ、わかりやすい時は本当にわかりやすい。
 しかし、まだ距離があるので、クレッセント・シップの人たちはジット団に気づいてなくてG-セルフについての授業をしている。クレッセント・シップは大きいし航路も決まっているからジット団に見つかったが、ジット団のマシーン隊はクレッセント・シップの警戒網に引っかからなかったのか。クレッセント・シップも衝突コースの流星は見つけるので、警戒してないわけではないんだろうが。









 形そのものが性能になるという、オーバーマン・キングゲイナー以前から富野監督が提唱していたシルエット・エンジン理論。(ピラミッドパワーとかにも富野監督ははまっていたらしい)これ自体は富野監督らしいんだけど。
 前回、レイハントンサインでレイハントンのG-メタルを筐体に読み取らせてヒッグス・ルート・カプセルを開放したのと矛盾してないか?
 わざわざベルリが「レイハントンコードは関係ないですね」って言ってるのだが。いや、前回は、めっちゃレイハントンコードに反応してエンジンが作動してたのだが?
 そして、エル・カインド艦長もベルリとアイーダに「ヒッグス・ルート・カプセルの解放、ありがとう」って無線で言ってたのだが。それは他のメガファウナのクルーには聞かせてなかったのか?
 ヒッグス・ルート・カプセルはどこに行ってしまったのか・・・。


 というか、フォトン・リアクションという現象についてトワサンガ人のミラジさんが知ってるのも謎だ。クレッセント・シップG-セルフと同じフォトン装甲で出来ているのだろうか?あと、宇宙船の循環系というのもよくわからない。バイクとかだと循環系は水冷とかの冷却系なんだが。あとは生物の心肺機能が循環系と言われる。巨大宇宙船のフォトンバッテリーの循環系というのは、イマイチよくわからないな・・・。
(そもそも、フォトンバッテリーが交流なのか直流なのかもわからないし。バッテリーと言うからには直流なのかもしれないのだが、巨大な宇宙船でプラスの部分とマイナスの部分がある電流の循環系なのか?わからん・・・。)

https://em.ten-navi.com/dictionary/2792/
循環電流
 2台以上の変圧器を並列に接続して運転したとき、各変圧器の変圧比の差によって変圧器のループ回路を循環して流れる電流。横流おうりゅうともいう。


 変圧器のインピーダンスは小さいので、二次側電圧のわずかな差によって大きな循環電流が流れる。
 循環電流の大きさは、全負荷電流の10〔%〕以下に抑えることが望ましい

 循環電流はむしろ少ない方がいいらしいとのこと。うーん。これじゃないのかなあ。


 宇宙船全体に電力を行き渡らせるという意味での循環系に、フォトン・リアクションが関係してくるのだろうか?
 ビームやレーザーのエネルギーを電力としてチャージするリフレクターパックと同じようなものだとハッパさんに言われるので、アインシュタインで有名な「光電効果」なのかな。(英語だと「photoelectric effect」)(「光化学反応」は英語だと「photochemical reaction」 または「light‐dependent reaction」という。)
 うーん。キャピタル・タワーは大気圏の上層部のスプライト(上向きの雷のようなもの)の電流をエネルギーとして取り込んでいるので、クレッセント・シップにもそのようなシステムがあるのかもしれない。宇宙船とか飛行機は外からの電流はむしろ吸収するより受け流すようにできてる気がするけど。フォトンバッテリーフォトン装甲は未来の技術なので違うのだろうか。そして、ヒッグス・ルート・カプセルはどこへ行ってしまったのか。
 フォトンバッテリーですらアグテックのタブーで内部構造が秘密なのだが。それの輸送船であるクレッセント・シップのメインエンジンのヒッグス・ルート・カプセルは、フォトンバッテリーよりヤバい高度な技術だから、地球人には秘密なのかなあ。(前回のお礼の無線がアイーダとベルリにしか聞こえていない場合)


 まあ、物語の展開には特に影響がないSF設定ですけどね!富野監督らしい、シルエット・エンジン論だと思っておけばよかろう。


  • ヘルメスの薔薇の設計図ガチャ

 G-セルフメガファウナはヘルメスの薔薇の設計図や古代の宇宙世紀のデータから建造されたレプリカだということが明かされる。




 基礎研究科学の知識がないのに、過去のデータでモビルスーツとか宇宙船を作ってしまうの、ビビる。まじかよ・・・。どういう高度な3Dプリンターなんだ・・・。(ビーナス・グロゥブのジットラボ内部で、ざっくり出力された状態のダハックとかジーラッハが写っている)
 機動戦士ガンダムAGEの新兵器を出すガジェットとして登場したAGEシステムやAGEビルダーを、文化批評的にGレコでアレンジしてみたのだろうか。でも、細かい部品とか電装系とか情報システムとかはある程度わかってないと組み立てられないのでは?
「この部品はこの部位に付けると動く」くらいのプラモデルっぽい知識はあるけど、基礎物理学とか基礎化学の仕組みはブラックボックスなんだろうか。スマホとかの暗喩なんだろうなあ。今も、専門家や企業は自分の専門の部品の動きや作り方はわかってても、違う部署(部品工場の国も違う)で作っている別の部品はわからないけど、なんとなく組み合わせて、結果的に韓国メーカーの携帯電話が爆発したりする。

 ベルリも呆れ果てる。




 でも、アイーダさんが言うには、アメリアにはアグテックのタブーで禁止されていたような宇宙世紀の技術が残っていた、ということもあるらしい。(関係ないけど、ここでアイーダさんの服のメスドラフ穴で胸の谷間の影が作画されてるの、Gレコでは割と珍しいな。えっち)


 しかし、G-セルフフォトン装甲って他のモビルスーツには採用されていないスーパーテクノロジーだし、実際戦闘でバリアになったり、ものすごいパワーを出している素材なのだが。

全身の装甲はインビジブルチタニウムと呼ばれる素材で出来たディスプレイを何重にも積層させるフォトン装甲であり、宇宙世紀時代のガンダリウム合金よりも軽量で剛性がある。同時にこれ自身がフォトン・バッテリーとしても機能し、これらから供給される豊富なエネルギーによって本機は稼働している。また、このエネルギーと各部に設置された強力なスラスターによって非常に高い機動力を実現している。他にも各所にはフォトンフレームが使用され、フォトンエネルギーの余剰出力を放出する事で発光するようになっている。

http://randal.blog91.fc2.com/blog-entry-2461.html

――フォトン・バッテリーについて教えてください。
安田:僕は光のエネルギーを封じ込めたものだと解釈しています。それを完璧に運用するためには、全身が光のエネルギーを無駄なく流す装甲で出来ているべきです。「宇宙のスカイラーク」(1928年。E.E.スミス著)というSF小説があって、その中で、ある科学者が無限に等しいエネルギーを生み出す未知の金属を発見するんですが、その金属はガラスのように透明だったんです。
当時の僕はそれにすごく未来的なものを感じて、「G-レコ」に光のエネルギーがあるなら、光ガンダムの装甲もそういった透明のものにしたいと思ったんです。


――G-セルフの外装色は塗装ではなく、素材の発光色だとお聞きしてますが。


安田:そうです。G-セルフは塗装されていません。

 フォトン装甲とフォトンフレームは安田朗デザインのG-セルフだけの特殊素材だし、フォトンバッテリーを最大限に活かすスペシャル素材なのだが、ミラジさんはデータから建造した時に、まず、その素材をどうやって作るのか、というところで疑問はなかったのだろうか。素材を作るための治具の設計図もデータにあったのかなあ。
トワサンガ軍がフォトン装甲を採用していたら、もっとピンチになっただろうなあ)
(GIT団のモビルスーツフォトン装甲なのかは不明)
G-アルケインはヘルメスの薔薇の設計図の本来の設計と宇宙世紀の技術でフォトン装甲を再現したかったけど、アメリアの技術不足でフォトン装甲、フォトンフレームは作れなかったらしい。ただ頭部の起動マークがフォトン装甲で点灯するらしい)
カバカーリーG-セルフに並ぶG系の最新型のG-ITらしいので、体の各部がG-セルフと同じく余剰フォトン発光するので、フォトンフレームを再現できたのかもしれない)
G-セルフフォトンフレーム自体がフォトンバッテリーといえるので、膝のバッテリーがメイン動力という説は間違い)(でも最終回では膝のバッテリーを破壊されたのがG-セルフの破壊の原因っぽく描かれてはいる)


 しかし、我ながらこんだけメカ設定を羅列するの、ガンダムのオタクなんだなあという感じだ。



  • Gレコのメカの存在理由

 これは19話とは関係なく、富野由悠季の世界展がキッカケの話なのですが。
 Twitterで「Zガンダム以降の富野作品はほとんどMSばかりなので、ファーストガンダムイデオン異世界三部作のように、その世界になぜロボットが存在するのかという理由付けの考察が弱い。Gレコも脱ガンダムと言いながら、結局、宇宙世紀ガンダムミノフスキー粒子の存在を流用している」というご批判を目にしたのですが。(細かい言い回しは違っているかもです)
 たまたま19話のここらへんを見ていたので、反論っぽくしたのですが。
 Gのレコンギスタではスマホとか技術がブラックボックス化する昨今の時事の批評として「基礎学力なしにデータからロボットや宇宙船を作ってしまう思考停止した大人たち」を描こうとしたのかな、とおもいます。
 1979年の機動戦士ガンダムではNASAスペースコロニー研究とか、宇宙ロケットなどハードウェアや重厚長大産業で先進技術が、基礎研究をもとに作られていて、アニメファンレベルでもそういう技術進歩が未来予測としてもかっこよく見えた。
 しかし、ガンダムが40周年になった現在、重厚長大産業よりソフトウェア産業マネーゲーム的な経済システムの方がメインストリームになってる感じがある。富野監督もGレコのテーマは金融資本主義に汚染された社会について、とか言っている。
 そういうわけで、ガンダムはもう古いということを富野監督自身が一番わかっていて、だからこそ、古くて無批判に当たり前に存在するようになったロボットアニメとか、アシモができてから特に珍しくもなくなった現実のロボットとかの時代背景をベースに、それを抽象化して描いたのではないかと推理した。
 「存在理由を疑われずに、過去に栄えた文明(過去に流行ったアニメ)の遺産の設計図にロボットが載っているから、と言うだけの理由で作られるロボットがGレコのロボットの存在理由」という風に考えた。僕は。
 実際、グレートメカニックGでも「ロボット物アニメは30代以上より上の人が見るもの」とか書いてあるし、久しぶりに子どもにヒットした「新幹線変形ロボ シンカリオン」の記事でも、「シンカリオンはロボット物ではなく、あくまでプラレールの関連商品を売るためのホビーアニメとして作った」「本質的にはガンプラを開拓した機動戦士ガンダム以外にロボットものアニメはなくて、全てはホビーアニメだったのではないか(ホビーを売らないロボットアニメは芸術品)」というインタビューが載っている。
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なので、ガンダムの頃に最新の概念っぽくロボットをモビルスーツと言って出した富野監督も、40年を振り返ってロボットの古さ自体をある種のテーマにしたかったんじゃないかなあ。
 それと、基礎研究を大事にしないで「大気圏突入コーティングをしてもらったから(過去のガンダムがやっていたから)、思考停止して」爆散するサラマンドラとか、「G-セルフが本来はどういう性能を持っているマシンなのかとかを考えずに製造しちゃうロルッカとミラジ」とか、フォトンバッテリーというブラックボックスをエネルギーにしてタブーで技術を学ばないでなんとなく生きてるだけのスコード教の信者とか、そういう現状の大人たちのカリカチュアを描いて「やっぱり基礎研究を学びなさい」という啓蒙思想を子どもに植え付けたいという野心が監督にあったんじゃないかなあ。
 だから短くまとめると、ロボットの存在理由を疑いもせずに作られる思考停止した世界観を表すために、存在理由があやふやなロボットが出るのがGレコのロボットアニメとしての個性。なんですよ。
 信頼性が高いと言われるネオドゥも、土砂流出事故のどさくさ紛れに盗んできた機体なのに、伝統と信頼性が高いゆえにラライヤさんもミラジさんも事前チェックを油断して暴走させる。とか。
 あと、第17話の感想で書いたけど、「クンパ大佐がヘルメスの薔薇の設計図を地球に撒いて、それで(レイハントン家が紛争で滅ぼされた)月のトワサンガからもたらされる争いの種をもみ消そうとした、と言う。その目的は、むしろ地球人に基礎研究をさせて月に負けない技術力を持たせて強い社会を作らせようと考えたと推理できる。しかし、地球人はアホだったので基礎研究をすっ飛ばして戦争の道具ばかり作ってしまっているので、現在のクンパ大佐は地球人は腐りきっているし滅亡したらいいと思うようになった」とか。
nuryouguda.hatenablog.com



 まあ、直接富野監督に聞いたわけじゃないし、アニメ本編のセリフとか描写からの推測ですけど。推測だけでこれだけ文章を書いてしまう僕もちょっと気持ち悪いんですけど。


 話を戻すと、「宇宙世紀の技術は滅びの技術だけど、あった」というアイーダさんの言葉をついで、クレッセント・シップのエル・カインド艦長が、

 宇宙世紀末期に宇宙に取り残されて絶望した人たちがトワサンガビーナス・グロゥブを建設したと言う。ビーナス・グロゥブは月くらいの大きさの球体のフォトンバッテリーにするまで建設される。それくらいエネルギーを貯める目的は人類を永遠に生き延びさせるため。その真相は、この後にビーナス・グロゥブのオーシャン・リングで登場するラ・グー総裁によると「地球を別の銀河系に飛ばす」という壮大なもの。

  • 金星人に対する地球人の意見

ベルリ「地球では、科学技術であるアブテックは改良してはならない、というタブーを押し付けておいて、勝手ですね」

艦長「人類は、大量消費と戦争で地球を住めないようにしたのです。そんな人類にはアブテックのタブーは必要でした。その代り、財団はフォトンバッテリーは無条件で提供してきました」
アイーダ「エネルギーの配給権をキャピタルタワーに独占させたために、他の大陸の人々は…」

ノレド「アメリア人の感覚だけで喋るな!」

アイーダ「人の自由を侵害されています!」
ベルリ「人は自然界のリズムに従う物でしょう?!」

アイーダ「でも、アメリアでは…」
艦長「そのように教わってお育ちに成ったのですな」

アイーダ「えっ。教わった?教わったって…?」

ノレド「自分で感じた事ではないっていうことだよ」

ノベル「おそわる!入力!」
アイーダ「刷り込まれたということ?」

 それで、「思考停止せずに自分で考える事が大事」というGレコなのですが。ここのシーンの会話では、「ベルリとアイーダが『金星人は勝手ですね』と言う。だが、アイーダアメリアのエネルギー事情をもとに艦長に意見すると、ノレドとベルリに反論される。艦長にも、それはアメリアで教わって無批判に受け入れたことだと諭される。そして、ノレドにも批判されて、ノレドの横にいる(公平に喋るっぽい)AIのノベルにも「入力!」と揶揄される。それで、アイーダさんがしょんぼりして反省する」という流れが描かれます。


 映像の流れを言うと、もう、映像の原則でhighlandviewさんの記事を引用するのも習い性という感じなので辞めますが。(怠惰)

(ベルリとアイーダが同じ方向(艦長)を向いて金星人は勝手だと言う)(下手から上手に向かうので、反乱の意志)

(そして、アイーダさんが高く手を上げて、上手から下手の聴衆にアピールするようにアメリアがタブーで人権侵害されているという)

(そこを、更に上手から反論するノレドに下手にアイーダさんが押される)

アイーダさんをノレドと挟み撃ちするように、ベルリがアイーダさんに反論する)

(で、カメラが反転してエル・カインド艦長を説得力の有りそうな上手の安定した構図で映す)

(またカメラが反転するとアイーダさんは下手に向きが変わっていて、目線も下を向く)

(上から畳み掛けるように、アイーダさんは思考停止していると、ノレドが罵倒する)

(それで、アイーダさんは反論するでもなく、顔をノレドからそむけてうつむいて反省する)


 という風に、アイーダさんがアメリア人の勝手な理屈を言って、弟にも反対されて、事情通の金星人の艦長に大人の目線から諭されて、ノレドにも非難されて、アイーダさんは結局言いくるめられる。というのが視線の動きから演出されているわけですが。
 これはかなりわかりやすく「アイーダさんが論破される」という映像になっているんですが。(第3話でクンパ大佐にアイーダさんが「(カーヒル大尉は)神にでもなれるような方だったとでも言うのかな」と論破されるのに似ている)


 これが邪悪な演出なんですよね。
 何が邪悪なのかというと、アイーダさんだけが思考停止しているように見せているけど、ベルリやエル・カインド艦長は本当に自分の実感から世界の全部を感じて意見を持っているのか、というと、そうじゃないんですよ。
 ベルリは「人は自然界のリズムに従うものでしょ」と言っているけど、これは典型的なスコード教信者の考え。フォトンバッテリーの塊のビーナス・リングを見ても、ベルリは未だにフォトンバッテリーを運ぶクレッセント・シップカシーバ・ミコシキャピタル・タワーのシステムは人為的なものではなく「自然界のリズム」だと言っている。ベルリの養母のウィルミット・ゼナム長官も「 フォトンバッテリーを運んでくださるカシーバ・ミコシの働きは、宇宙の鼓動そのものなのですよ」と言っているので、ベルリもその考えを刷り込まれて育ったといえる。まあ、フォトンバッテリーを太陽光で充電する、っていうのは自然界の太陽活動のリズムと言えなくもないのだが。
 ノレドという普通の女子高生がアイーダ以上に経験して自分で考えて意見を持っているのかというと、それも疑問。
 エル・カインド艦長も「人類を永遠に存続させるために充電を続ける」というビーナス・グロゥブの千年近くに渡って受け継がれてきた思想を持って仕事をしている。
 なので、演出的には「アイーダさんは考えてない!」と論破される絵になっているんだけど、文脈的には「考えてない人たちに『お前は考えていない!』と言われたことで、逆にアイーダさんが自分で考えようと反省するきっかけになっている」と、割りと逆の意味合いになっているんです。まあ、アイーダさんが女王になるために色々と考えるし、そのきっかけになるような経験を積んでいくっていうのがGレコのテーマの一つなのですが。
 これ、ちょっと演出として難しくないですかね・・・。


 と、僕がこういう発想に至ったのも、ちょっとカンニング気味でして。
 8月24日に福岡市美術館ミュージアムホールにて開催された『ガンダム Gのレコンギスタ Ⅰ』「行け!コア・ファイター」』の日本国内最速となる試写会の後の富野監督のトークセッションで、富野監督が「アメリアもキャピタルも全体主義でまとまっている」と発言したらしい。もちろん、ビーナス・グロゥブも「過酷な環境に耐えて科学や文化を保全してバッテリーを充電していこうな!」という全体主義でまとまっている。全体主義の組織が複数あって、それ同士が紛争している。
 同時に、そのそれぞれの組織の中でも全体主義の体制派(だいたい軍拡主義的なグループ。アメリア大統領の軍隊、キャピタル・アーミィ、ドレット艦隊、ロザリオ・テン(これはちょっと軍拡とは違うか?))と、反体制派(海賊部隊、ベルリやケルベスなどキャピタル・ガードから出奔したもの、レイハントン派のレジスタンス、ジット団)に分かれて内紛も抱えている。
 そういう構図が富野監督の発言から出た。全体主義の描写というと「国民を支配するヒトラーのような独裁者」をイメージしがちだが、富野監督の最近の全体主義の描写はそういうわかりやすいWWII時代のような統率者ではなく、体制のルールとして皆がなんとなく従ってしまう「空気のような全体主義システム」を描こうとしている。
 アメリア帝国はアメリア帝国のエネルギーを獲得するための全体主義キャピタル・アーミィはそういう地球の紛争国家からバッテリーを守りつつタワーを運営する全体主義トワサンガのドレット艦隊はちょっと違うかもしれないが(全体主義なのはハザム政権の方かもしれないが)、月が金星のヘルメス財団に負けないように独自の軍を作っていきたい全体主義。金星もヘルメス財団の理念による全体主義。その金星を含めた全体の流通システムを規定するスコード教全体主義


 なので、どの陣営も自分たちの権益を優先することが正義だし、そのルールを思考停止した無批判な態度で内面化した構成員で作られている。


 だから、異なる全体主義組織の構成員同士で「お前は考えていない!」と言うのは、むしろ自分が思考停止して自分の陣営の全体主義を信奉する態度を強めること。
 で、「お前は考えていない!」と言われたアイーダさんは逆に「考えよう」ってなる。


 ややこしい理屈を書いてしまった!

  • 一番考えてるインテリ集団 G-it Laboratory

 金星の体制派のクレッセント・シップ艦長が「アイーダさんは地球の田舎のアメリア帝国の価値観を刷り込まれて育ったので、世界全体のことを考えてないですよ」と批判した直後に、金星の中でも「俺達は自分で考えて行動する!」という反体制派で研究者集団のジット団がマシーンをクレッセント・シップに飛ばしてくる。本当に皮肉を絵に描いたような演出のシーンつなぎ。



 ジット団はトワサンガのハザム政権からクレッセント・シップにくっついたメガファウナを処理しろと言われているけど、「地球圏の奴らの言うことなんか信用できない」「だから自分で確かめに行く」と、自主性を出している。
 また、ジット団は後にラ・グーから語られるけど、ピアニ・カルータ事件での「人がビーナス・グロゥブで劣化していく姿に対して、地球上で人間に弱肉強食の戦いをさせて、人の強化が必要だという宣言」の思想に啓蒙されて、地球で自分たちを強化して発展していこうというレコンギスタを目指している。
(そういうジット団の突出をも、200歳を超えるラ・グー総裁からは「(宇宙世紀から)変わらない人間の(争いを好む)行動」とか「6つのビーナス・グロゥブのコロニーの海が満ちる時代になった人の心の緩み」と総括されるのだが)


 また、G-it団は宇宙世紀ガンダム系の技術、つまりガンダムシリーズそのものの黒歴史を研究している技術集団である。メタファーとしてはガンダムオタクとして「俺達はガンダムを知って、賢者として歴史に学んでいるからニュータイプなんだ、オールドタイプより考えてるんだ!」という感じの人々。歴史オタクの安彦良和先生とニュータイプ至上主義の福井晴敏先生が悪魔合体したような・・・。

 
 ロルッカとミラジなどトワサンガ人も、アイーダアメリア軍も、ヘルメスの薔薇の設計図ガチャでFGOみたいに古代の英雄ロボットのデータを出力して、特にその内面はあんまりわかってないし、基礎科学も重視してないし、古代の宇宙世紀の成り立ちは断片的にしかわかってない。そういうことが描写された後で、古代の宇宙世紀の技術を基礎研究レベルで頑張って再現しようとしているガンダム大好き集団のG-it団が攻めてくる。


 金星という新しい場所での強敵の出し方としては、論理的な構成だ。主人公たちはタブーのせいで勉強の機会を奪われて、仕組みがわからないメカを誤魔化しつつなあなあで使っているのに、敵はちゃんと科学を勉強して自分たちでガンダムを再現できてるので、賢いし強い。強敵だ。
(ただし、G-セルフはレイハントン家が持ってたヘルメスの薔薇の設計図ガチャの極大成功SSR確定ガチャチケットでチート召喚された星5サーヴァントモビルスーツ(しかもバックパック礼装を付け替えることでいろいろなクラスの能力を引き出せて弱点はない、俺TUEEEEロボ))


 哲学的にも、「思考停止している全体主義はよくない」という雰囲気を描いた後に、「(ピアニ・カルータという過激思想家に扇動されたにしろ)全体主義組織を離脱して、自分たちでちゃんと考えた上で、独自に暴走する集団」が敵としてやってくるので、テーゼ的な問題意識も高まる。常識を守って所属する組織や社会に疑いを持たず暮らしていくのがいいのか、常識にとらわれないで本質の理論を考えて社会や自己を改革して強化して発展させていこうとするのがいいのか、迷っちゃいますね。


 富野監督は個人的は「これ以上文明を発達させたり人口を増やしたら駄目」という考えを持っているとインタビューで語るけど、「文明が発達しないようにエネルギーなどを規制されていると、反動分子も出てきてあらそいが起こる」ということをアニメーション作品の物語では描く。物語の中で自己批判や議論をしていくようなもので、正解が描かれない。
 これが、富野監督が「未来の子どもたちに考えてほしい」と言う一因だろう。同時に現状に対する「70歳になってたくさん本を読んでも答えが現時点でわからない悩みや葛藤」がロボットバトルアニメという、主人公たちの正義を主張していくのが定番のジャンルにぶち込まれている。なので、Gレコ自体が富野監督の迷いの象徴かもしれんし、そりゃあ視聴者もよくわからなくなるのも当然だし、見難いアニメと評価されるのも仕方がない。
 新世紀エヴァンゲリオンはああ見えて、精神世界を描写したりして「このアニメは迷っている!」ということ自体は分かりやすかった。Gレコは国家の主義や文化とか抽象概念の葛藤が物語の構造としてはぶつかっているけど、抽象概念だとわかりやすい現代アートみたいな使徒じゃなくて「40年間見慣れたモビルスーツ」に乗せて描かれている。なので、迷っているということも分かりにくい。ファンとしても、これはなんなんだって思いますね。まあ、何なのか考えたいのでこういう長文を書いているんですが。


 さて、ベルリ少年とアイーダさんたちは宇宙船の生活の中で、お互いを思いやるように見えたが、地元の価値観の違いから口論を始めてしまった。
 そこに金星のジット団のG系軍団が襲ってくる。いまだ企みに気づかないクレッセント・シップの命運やいかに!


 うーん。期待が高まりますなあー。


 というところで、次回に続く!と成ればいいのだが、2日徹夜しても、実はまだ第19話のAパートの解説なのだ。19話の半分なのだ!たった10分の解説に2徹してどうする!こんなに長文を書いたのに!長文を書きすぎてグーグルノートの挙動がカクカクしてきたぞ。
 というわけで、一旦睡眠をはさみつつ、Bパートに望んでいきたいと思います。Aパートは戦闘がないから簡単に書けると思ったのに・・・・。オタクって本当に気持ち悪い。

  • 次回

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  • 目次

「はじめたいキャピタルGの物語」・「ガンダム Gのレコンギスタ」感想目次 - 玖足手帖-アニメブログ-
Gレコ2周目の感想目次 殺人考察&劇場版(パリ) - 玖足手帖-アニメブログ-

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 そして食費が減るとGレコの映画をたくさん見れる!(身も蓋もない・・・)


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