玖足手帖-アニメブログ-

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創作幻視小説版「夢兄妹寝物語」 2003年11月 第11話 第7節

サブタイトル[ラスベガスと王の心]
前節
創作幻視小説版「夢兄妹寝物語」 2003年11月 第11話 第6節 - 玖足手帖-アニメ&創作-
   

前書き:筆者は軍ヲタではないので、表記の間違いはある。そして、基底現実の兵器と小説内現実の兵器文明は同一ではない。
つまり、大目に見て欲しいのである。
 ちなみに、宇宙人同士の超時空会話ではエリア番号、地の文と台詞では租界の愛称で表記する。
そして、今回はついにレギュラーキャラクターが誰も出てこないという事態になる。

  • ネバダ州 クリーチ空軍基地司令センター

 52歳の白人で、後頭部にだけ白髪を残した禿頭のチャールズ・マッケイン大佐はクリーチ空軍基地司令を務める人物であるが、幾つかの事で当惑している。前日の核爆発の影響でエリア51を中心とした射爆場の監視機器や通信装置が破壊されてしまったが、それは多忙の原因となっても当惑にはならない。半日も経てば破壊された部品を電磁シールドされた倉庫に保管されていたスペアに交換し、電磁波攻撃に強い光ファイバー網での通信は回復しつつある。基地の地上部分のコンピューター等の機材は破壊されたが、最重要ホストコンピューターも、やはり地下の電磁遮蔽施設に保管されていたがために無事だ。ラスベガスという歓楽都市にはEMPの影響がほとんどなく、民間人への影響がなかったため、基地が損害を受けたという事実の隠蔽も容易であった。時間が経てばマスコミに情報が流出する可能性はあるが、諜報は彼の任務ではない。
 むしろ彼を当惑させているのは、被害そのものよりも突然最前線に成ってしまい、異様に高揚している将校兵員の気分である。彼自身も含めて、である。ネリス空軍基地アメリカ空軍戦闘センター司令リチャード・ジョーダン少将との電話通話もその一つとなる。


ジョーダン少将「それはそうだろう。ラスベガス中央にあるネリスからスクランブル発進でもしようものなら、民間人に不安を与える。郊外の君のクリーチが中心となって遂行してくれたまえ」
 ラスベガスの市街地の北東に位置するネリス空軍基地には電磁障害の影響がなく、95号線をラスベガスから北西に70キロ進んだ小都市インディアンスプリングスに在るクリーチ空軍基地との有線の通信に問題はない。
マッケイン大佐「しかし、この基地は最前線での実戦は初めてのことですので・・・・・・」
ジョーダン少将「当たり前だ。国内が戦場に成るわけがなかろう。グレーム・レイクはじめ、射爆場内の基地と連携してくれればいい。大きな動きはできんが、陸路の部隊もある。それを使え。
 なに、事故調査が終わるまでの緊急訓練と思えばいい。温存中のプレデター部隊で哨戒しつつ、爆撃を繰り返すだけだ。君たちの得意分野だろうが」
マッケイン大佐「了解です。しかし、こちらにも電磁的損失がありまして、長時間の爆撃には」
ジョーダン少将「だからそれも、こちらから運搬するという事だろうが」
マッケイン大佐「はっ」
ジョーダン少将「核爆発などは一発の事故で済まさねばならん、というのが連邦政府の意向なのだよ。事故調査も政治的な物だ。そういう事態なのだから、何者かに侵入されてはいかんのだ。くい止めてくれ」
 そう言われても、予測もできない敵のために爆撃を繰り返せという上層部からの命令にはやはり困惑するというのが、戦場の経験のないマッケイン大佐の心情だ。常に警戒し、エリア51などの秘密基地群への侵入を拒むはずのネリス射爆場の監視システムが破壊された代理として、万が一の侵入者に対し射爆場内で無作為な絨毯爆撃を繰り返すという作戦方針は論理的には正しいと理解できる。が、万が一に対するには弾薬の無駄遣いではないかとの個人的懸念もある。もちろん血税が消費されても彼の収入には変わりがないのだが。
  
  
 防衛対象となった射爆場のエリア51内部から出向してきたグレーン大尉の喋り方もマッケイン大佐をイラつかせる。細面の彼が黒人だからという訳ではなく、とにかくせわしないのだ。
グレーン大尉「ですのでグルーム・レイク空軍基地は現在電子通信が未だ混乱しておりますっ。衛星も含めた通信状況がいまだ不安定ですので、自分は何度も往復しておりますっ。ですから、グルーム・レイクからの命令書のスケジュールで動いていただきたく存じます」
マッケイン大佐「それは君の都合だろう」
グレーン大尉「自分は伝令にすぎませんっ。連絡を繰り返せばそれだけ対応が遅れますっ」
 昨日からジープで砂漠を何往復し、汗と砂ぼこりの臭いのする大尉は、クリーンな司令センターでは似合わない。
マッケイン大佐「そもそも、指定された地点をただ爆撃しろ、それがいつまでかまでも未定だという命令は一方的過ぎる」
グレーン大尉「射爆場内部の情報をこのように外部に持ち出す事自体が異例ですのでっ」
マッケイン大佐「当基地は外部かね」
 と、マッケインの色白の頭皮に青筋が立った。
グレーン大尉「重要機密という事です。射爆場内は常に秘匿されていなければいけません。今回の事態の異常性はマッケイン司令もお分かりのことと存じますっ」
マッケイン大佐「準備は行わせているっ」
 司令センターに、マッケイン大佐の声が通り、女性士官の肩がビクリとはねた。普段は温厚な後方部隊の司令なのだ。異常事態と中央の意向、それに射爆場内部の秘密主義が彼の神経を逆なでし、脂肪で少しふっくらしている白人の後頭部が紅く染まる。
マッケイン大佐「ジェイムズ少佐、出撃準備はどうかっ」
 クリーチ基地の航空部隊の現場責任者のジェイムズの席に声を張り上げる。外部設備の復旧を優先したため、内線の調子は未だ悪いのだ。近代化した基地に慣れていたのが、いきなり半世紀前の戦場のように大声が飛び交うだけで不安をあおる。白人のジェイムズ少佐も声を返しながら司令に駆けつける。
ジェイムズ少佐「機体の出庫と準備は完了しています。司令の命令で即座に」
 この面長で鳶色の髪のジェイムズ少佐も普段とは違った雰囲気となっていると大佐は感じるが、後方中心のキャリアを重ねてきたマッケイン大佐が困惑しているのとは違う。パイロットあがりのジェイムズ少佐の奥まった目の動きは素早く、この状況に対応していると見える。
マッケイン大佐「では、グレーン大尉からエリア51のお達しを聞いて、フライトしてくれたまえ」
 結局、マッケイン大佐も文句を言いながら命令に従っているだけだ。
ジェイムズ少佐「遠隔攻撃ばかりの隊員には、基地周辺の実践爆撃はいい刺激ですよ。北の秘密基地の部隊にも我々の能力を見てもらういい機会でしょう」
 クリーチ空軍基地の擁する遠隔操作無人爆撃哨戒機のプレデターは主に国外の紛争地域の機体を、アメリカ本土から操縦するのである。が、遠隔機のパイロットは空軍においては正規のパイロットとは見なされず、隣のネリス射爆場で演習をする最新鋭戦闘機のテストパイロットからは腰ぬけ扱いされているという雰囲気もある。ジェイムズ少佐の言葉にはグレーン大尉への当てつけの臭いがあった。
グレーン大尉「自分の基地も内部は対EMPシールドされた地下であります。健在の機体の発進の可能性もあります」
ジェイムズ少佐「貴官はあくまで伝令か。共同作戦に支障がなければ・・・。いいだろう。
 では、司令。私はフライトセンターに移動します」
グレーン大尉「自分もオブザーバーとして管制室に同行させて頂きます」
  
  
 だが、それは単なる防衛弾幕では終わらず、数時間後の異星人・レイとの接触で実戦となった。
 接触した時にはレイとバイクは既に立ち入り禁止区域内に10km侵入して登山を開始していた。それでも、砂塵や岩陰に紛れ哨戒機や上空を通過する監視衛星から隠れつつの移動だったため、待ち合わせまであと1時間を切っていた。(もちろん静止軌道上の衛星も警戒を強化しているが、大気中のセブンセンサーが可視光線にジャミングをかけた)
 地球人より先に接触に気付いたレイはセブンセンサーの観測で地球人の基地内の動向や領域内の電磁波は全て把握しているため、爆撃区域周囲を巡回する無人機の航路をすり抜け、進行中であった。が、立ち入り禁止区域の爆撃は激烈であった。ピストン輸送のように無人機からは絶え間なく燃料気化爆弾が投下され、弾幕というより爆炎の霧を保っている。核爆発事件の後も変わらない日常を装うラスベガスから北に延びる国道93号線から西に山一つ挟んだテリトリーは一般人の目が隔離され、秘密基地の秘密空爆作戦が砂漠をさらに焦土と化している。ネバダ州のこの射爆場はかつてはいくつもの秘密核実験が行われた場所だ。
 クリーチ空軍基地から今回出撃した無人機はRQ-1プレデターと、MQ-9 リーパーの混成部隊。それとグルーム・レイク空軍基地射爆場からは実験評価試験中であった新型大型無人爆撃機が飛来し、挟み撃ちを受けた格好である。大型無人機には未だ制式番号は付けられていないが、広範囲索敵機能と攻撃性からグレートオウル(肉食大フクロウ)の愛称で呼ばれている。
  
  
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