サブタイトル[ロマンスの休日]
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創作幻視小説版「夢兄妹寝物語」 2003年10月 第10話 第3節 - 玖足手帖-アニメ&創作-
前書きなし
アレッシア「でも、私たちが兄妹と言う事は秘密なんです。さっきのアントニオたちにもね。だから、私も偽名を使ったの。おわかりかしら?」
そら「いや、全然」
そら「どうしてそんなことをしてるんです?イタリアマフィアとか?」
アレッシア「違うわ。
兄さんの本名は大臣(おおおみ)カズハル。私の最初の名前は、大臣アリサ。
今は、イタリアの実業家の家系に嫁いで、アレッシア・マセラティという名前になったわ。主人は年が離れていたから、一昨年に亡くなったのだけれど。
それで、大臣家もマセラティ家もそれなりの家だから、犯罪者の兄さんのことは表沙汰に出来ないの。
早い話が、兄さんは大臣家を勘当されたと言う事ね。
それが、何年前の話かしら」
レイ「大臣家というと、70年代に外務大臣などを歴任した政治家の大臣大次郎氏の家系ですか?」
執事はずっとそらの後ろで黙っていたが、今思い出したかのように、セブンセンサーを通じて地球の報道情報を検索し、そらに教えた。
アレッシア「そう、私たちはその大臣大次郎の子です。それで、母は正妻ではなくて、見ての通り、白人なんです。私は認知されて結婚まで大臣家の分家で過ごしたのだけど、兄さんは私達を棄てた母や周りの大人が許せなくて、アメリカに出ていって・・・・・・」
そら「レイ、あんた、執事の癖に社の本名をどうしてあたしに教えなかったの?身元調査はもっとしっかりしなさいよ」
そらは自分のかけたソファの後ろに突っ立っている黒服の執事を叱責した。
レイ「申し訳ありません。我々の調査でも逮捕当時の報道記録と裁判資料しか入手できませんでした。まさか、数年前に事件を起こした教育実習生の社亜砂という経歴自体が既に偽造されていた物とは思い当たりませんでしたので、それ以前の事実的な調査の必要を認めませんでした」
そら「チッ!使えないわねっ」
アレッシア「そらちゃん、使用人に悪態をつくのはおよしなさい。しかたないわよ。
兄さんもアメリカでスパイまがいの事をしていたから、徹底的に過去を消していたのよ。今、大臣カズハルが生きていると知っている人は、そうね、もう5人もいないでしょうね」
そら「そうか・・・・・・。レイ、あんた、出し抜かれたのよ」
レイ「そうなります」
そら「セーラ・・・・・・、いや、アレッシアさん。聞いていいですか?社は何でアメリカに?」
アレッシア「そうね・・・・・・」
ジンジャーエールで喉を潤す、アレッシア。
アレッシア「さっき、兄さんは母を憎んでいたと言ったでしょう。母もアメリカの名家の出身で、美しかったけど浮気性だったのね。外交で知り合った父と付き合って私と兄さんを産んでから、父も私たちも捨てられたのよ。
それから、母はアメリカに戻ったけど、父は私達兄妹のせいでスキャンダルを起こした政治家と報道されて失脚して、すぐに死んだわ。それからは親戚をたらい回し。とはいっても政財界の家系だから、不自由はしなかったわ。
でも、潔癖な兄さんはそれが嫌だったのね」
そら「・・・・・・。なんか、すごいです。あたしは親子のことはよくわからないですけど・・・・・・」
アレッシア「あなたには少し、早すぎたかしら?強い子だと思ったのだけど」
そら「いえ、隠されるよりすっきりします。で、その母親さんはどうなったんです?」
波乱万丈な教師の半生の秘密は、既にそらの怒りの対象から興味津々の冒険譚に変わってしまっていて、アレッシアに話を促す。
アレッシア「いえ、元気よ。アメリカで。私の今の仕事も、母の事業をアメリカとヨーロッパで折半しているような物なの。
兄さんもアメリカで母に会った時に、復讐なんて馬鹿らしくなったらしくてね。代わりに私に連絡するようにって言ってくれたと、母から聞いたわ」
少し照れ笑いをして、アレッシアは手元のグラスを揺らした。
そら「結構優しいお兄さんなんですね。ちょっと、いい話です」
アレッシア「でも、その後の兄さんは勝手にアメリカ麻薬取締局、DEAの捜査官のアシスタントに成ってね、その時に名前も何度か変えたらしいわ」
そら「うわ、ハチャメチャー。それで、社はあんなに強いんですね。なるほどぉー」
アレッシア「ふふ、そうね。そういう人が偽名を使って日本に戻って性犯罪者になってるって、大スキャンダルでしょう?私も兄さんがホームルウム服役事件を起こすまで、何年も会っていなかったわ」
そら「でもアレッシアさん、それって冷たくないですかぁ?お兄さんと再会した途端に、今度は何年も刑務所でしょ?
あたしも兄がいますけど、あたしなら耐えられないです。お金で何とかならなかったんです?」
アレッシア「兄さんも、今さら大臣や母の家の力を借りたくないと言ったわ。DEAの面子も有ったでしょうし。だから、兄さんはただの教育実習生の社亜砂として服役したの。
私も仕事があったし、兄さんの服役期間の後半からDEAに手を回して、身元保証人を引き継ぐくらいしかできなかったわ。あの仮面も日本の警察とDEAの取引でね、兄さんも刑期を短縮するために被ったんですって。それで、また目立ってしまって、大臣の票田を継いだ人は嫌がらせだって頭を抱えていたわ」
重大事を少女に教えたアレッシアは、ふぅ、と、ひじ掛けにもたれ、身の上話が一段落したと示した。
そら「・・・・・・え、っと。あたしは、やっぱりそういうこと聞いて良かったんですか?」
アレッシア「兄さんに会わせてくれたお礼代わりといった所ね。今日はビジネスでEUから日本に来て、空き時間にこっそり兄さんの生活ぶりを見るつもりだったのに、SPが追いかけて来てね。助かったわ。
あ、大臣の家の話は、盗聴されてる仮面の前ではなるべくしないでね。兄さんもそうしてほしいから、夕飯を作りに行ったんでしょうから」
そら「まあ、今、先生を潰す気はないから、黙ってますけど」
ジュースをストローですすりながら、そらは兄妹の交感とはこういうものか!、と少しドキリとした。
アレッシア「ありがとう。たすかるわ。
それに、実を言うと、あなたが兄さんの教え子だって事も私は最初から知ってたのよ。あなたたち兄妹の事もね」
ジュジューッ!(そらのジュースがストローを逆流する音。もし、ストローがなければ、そらは派手にジュースを吹いていただろう)
そら「えぇーっ!」
アレッシア「ふふ、言ったじゃない。“社先生が気になる”って。日本で家庭教師をしているっていう事は聞いていたから、そりゃあ、あなたの事も調べるわよ。
今日は会えてうれしいわ」
そら「ずるいですよぉー!それを最後に言うのはーっ」
アレッシア「ふふ、あなたも私に出し抜かれたって事ね。ほら、ジュースが垂れてる」
得意げに微笑むアレッシアの白い絹のハンカチがそらの顎のオレンジジュースを拭ってあげて、そらはくすぐったいと笑った。