玖足手帖-アニメブログ-

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創作幻視小説版「夢兄妹寝物語」 2003年11月 第11話 第15節

サブタイトル[ラスベガスと王の心] 
前節
創作幻視小説版「夢兄妹寝物語」 2003年11月 第11話 第14節 - 玖足手帖-アニメ&創作-  

前書き:仮面ライダー剣みたいな話です。

 渡されたカードの内部に分子暗号で刻まれた規約は、やはりC4が一般人から存在を隠した超能力者団体という事を示してあり、レイ達が予測したものと大体同じであった。
レイ「またカードが出現した。これは世界の裂け目から出現したのか。これは大江戸、あなたの能力か」
 卓上のカードを摘み上げ、レイが問う。
大江戸「文面を起案したのは私です。しかしカードを出したのは簡単なトリックでして、単に5次元空間上にカードの情報を置いて、指定の日時と場所にこちらの地球とカードの位置が交わった時点で乗り換えるようにプログラムしただけです」
レイ「と、するとカードは送り込まれたのではなく」
大江戸「はい、カードの方は時空座標系で停止していて、あなた方の部屋が地球の自転に合わせてカードのある位置に来た、だから見かけ上はカードの方が出現したように見えるのです」
レイ「カードは最初からそこにあった」
大江戸「そう。昨日の核ミサイルの方も同じように座標を3次元的に停止させただけで、発射されたのではなく動いたのは地球の方です。タネを明かせば簡単でしょう」

7(瞬間移動ではなく、時現式だったとすると、送信元の重力変動が観測されなかったこととも合致する)
レイ「なるほど。
 その手法ならば、少しでも予測の日時とは違う所には送れないわけだな」

大江戸「あなた方の第一の心配事は、頭令倶雫君とそらさんの安全でしょう。ええ、このオーバースキルの使い方だと、あなた方のバリアーやジャミングで十分に防御可能ですよ」

7(信用はおけないが、観測結果とは合致する。対処の強化を皆に徹底させる)
0(同じ手は食わない)

大江戸「実際に会談が成功しましたし、先ほどのあなた方の戦いぶりで同盟の反対派にもあなた方との戦闘行為は損だと説得できます。
 あなた方の君主への我々の同盟からの攻撃はまずなくなるはずです。こちらへ招待するためとはいえ脅迫をしたことは謝罪いたします。しかし穏健派の私は最初から人間の頭令倶雫君とそらさんに危害を加えるつもりはありませんでした。仮に主戦派の襲撃があるとしても、トリックを開示しましたので、出現爆撃戦術はあなた方には効かないでしょう?
 これを以って我々の誠意ある停戦提案としていただきたい」

 レイは手の中のカードをすっと掲げるそぶりをして、
レイ「我々は我々の能力でこれのメッセージを解読できたが、できなかった場合はどうするつもりだったのだ?最初から、オーバースキルで我々の正体は分かっていたのではないか?」
大江戸「確かに、心を読まずともあなた方は物質に憑依した精神生命体であるだろうという事は、調査で分かっていました。ですからそのオーパーツカードに微細加工でのメッセージを記入したのですが。
ですが、それが読めなくともあなた方がオーバーマンならばこの会談に来るように仕向けるような仕掛けを、あのカードにはしておりました」

 また、大江戸校長は目を細めて茶の匂いを嗅いだ。
レイ「やはり我々の能力を試していたのだな」
大江戸「こちらもあなた方の脅威を判定する必要があったので。
 たとえばあなたが心理系のオーバーマンならサイコメトリーでメッセージが読めたはずです。幽子回路テレパシー中継器も組み込んでおりましたし、未来予知者でもやはり私たちの会談を予期できたでしょう。
 もし、カードの中のメッセージが読めず、あなたが反応していなかったら、朝のニュースの後に電話をかけて『カードとミサイルの謎を解きたいならラスベガスに来い』といえば済みましたし。我々C4はオーバーマン同士のファーストコンタクトについてはノウハウを積み重ねています」

レイ「ところで、なぜラスベガス近郊の砂漠を会談場所にしたのだ?」
大江戸「ちょっとした模擬戦を秘匿するにはちょうどよかったのですよ」

 と、大江戸は冷めたティーセットをトレイごと背中の箱に戻しながら微笑んだ。
  
  
レイ「……しかし、この規約だと、ジョーカーとされる我々は同盟の全貌を知らされない事になる」
大江戸「私としては、あなた方は外郭会員のジョーカーとして参加していただくのが一番適当だと思っております。……と、申しますのは、あなた方は頭令兄妹の二人を守るため活動していらっしゃるのでしょう?ならC4に参加しての活動は最小限にしていただけるようにと配慮させて頂きました。それに、あなた方は確かにオーバースキルと言える能力と世界の裂け目をお持ちですが、宇宙人ですので地球人のC4構成員とは別枠とさせていただきたく思います」
レイ「恩着せがましく聞こえるが……。我々以外にも宇宙人のジョーカーがいるのか?」
大江戸「うーむ。……その方については私の口から語る事は出来ない、というのがジョーカーと言う存在です。元々会員規約のジョーカー部分はその方のために在るものでしたし。
 ですが、そのジョーカー自身から、あなた方をC4に迎えるにあたって、あなた方をもう一つのジョーカーにするべき、という推薦がなされたのです。
 私からその方について教えることができるのはここまでです」

 折り畳み椅子に腰掛けたレイの前で、六本の義足を折り曲げて虫のように静止した大江戸が首の人工声帯で言った。そのはぐらかしたような態度をレイは追求しようとした。
レイ「しかし、」
大江戸「あなた方にとって我々の実態把握は本当は些末なことなのではないですか?本当にご心配すべきは、頭令兄妹を守ることでしょう?他の宇宙人がいるかどうか、ジョーカーがどういう存在か、あなた方にとって本当に重要なのですか?
 確かに、私はあなた方が宇宙人だと知りました。あなた方が12年前に世界を裂いて飛来した微小宇宙人であり、物体に憑依しエネルギーを操る能力を持ち、第七番国のセブンセンサーは地球上の物理現象をほとんど把握できている、と言う事も。
 ですが、私たちはその事を一般社会には公表しません。ジョーカーのポジションでも、あなた方の情報はC4の会員としてオーバーマンによって保護されます。
 それに、あなた方が宇宙人であると、私が超能力で知り得たと公表して困るのは私どもですからね。
 繰り返しますが、C4の主戦派も、米空軍とあなたが渡り合ったのを知れば、あなた方や頭令兄妹への攻撃は控えるでしょう。私は事を荒立てたくはない。ジョーカーの件も、です」

 大江戸はそのようにレイの追及をかわした。
レイ「筋は通っているか。それで、我々の宇宙人としての存在をC4は本当に一般の地球人から保護してくれるのか?」
大江戸「ふむ……。そうですね。過剰に期待されるのもお互い危険でしょう。それに、正直、我々は同盟といっても利害関係の一致でまとまっているだけの互助団体ですし、完全な保護は保証できかねます。その点は、まあ、あなた方もこれまでと同じように自制して行動していただきたい」
レイ「そのようにして我々の力を削ごうというのが本音か?」
 これはレイの皮肉なのだが、微笑ではなく引き攣ったように口角が伸びた。喋るときに老人の死体の皮を動かすが数年間使っていても人間らしい表情は下手だ。対して、ザック=タンク・大江戸氏はサイボーグでありながら残った片目と鼻と唇で、自嘲と驚きの混じった人間らしい笑顔を見せた。
大江戸「ふっふっふ。そうですね。いや、失礼。
 あなた方は本当に人間的、というか心の深い方々だ。全く、宇宙人とは思えませんな。商社時代の交渉を思い出します。
 正直に言ってしまえば、C4だの秘密の超能力者同盟だのといっても、小さなサークル活動ですよ。世界から隠す必要もないくらい少人数しかおりません。ですから事を荒立てたくないというのは我々の生存戦略で、お願いする立場にあるのは我々の方です。強大な宇宙国家であるあなた方には、どうかわれわれのような地球人の亜種の集団は、お目溢し願いたい」

レイ「確かに、同盟の規約は人間社会から隠れる方針であり、実際の世界の動向を見ると、超能力者集団の規模は小さいと予想できる。だが、人数が少なくともオーバースキルは我々に拮抗する可能性がある。それは先ほどキング・オブ・ハート、あなた自身が証明した」
大江戸「私の行動は計画を練って先手を打って、やっとあなた方に拮抗できるかどうか、という事を示したのです。ですから、イレギュラーな存在としてあなた方を排除しようと考えていた数人のオーバーマンは今頃震えあがっているでしょう。ふふ」
レイ「今頃?」
大江戸「ええ、私のテレパシーオーバースキルで私の意見は同盟員に共有されていますから。同時に、同盟員の感情も私には感じられます」

7(我々の重力波超時空通信とは異なる原理のようだ。我々には盗聴できない。それらしい行動をする人間も認識できない。全人類の脳の原子の動きをリアルタイムでモニターするのはエネルギー効率が悪すぎる)
0(脳スキャンは無駄だろう。人間の精神そのものに作用する、まさに物理法則を超えたオーバースキルなのだろう)

大江戸「ですから、もうあなた方に対抗しようという者はおりません」
レイ「無論、我々は頭令兄妹両陛下が安寧であれば良いし、あなたの言葉の真偽はともかく今後も警戒は続ける」
大江戸「問題はないでしょう?ただ、あなた方は私どもと同盟し、敵対しないようにしていただければよろしいのです。不用意なファーストコンタクトで突発的な破局が起きないようにする、というのが私の役割です」
  
  
レイ「そうか。我々に対してのC4の態度は分かった。それは良い。
 だが、我々にとってもっと重要な事がある。そら様だ。
 あなたは、頭令そら様が受験しようとしている聖ウォーター女学院の理事長兼校長だ。
 なぜ、そら様をあなたの学校に入れようとする?」

大江戸「ええ、それがもう一つの大きな議題ですな」
 レイは無駄に動かないが、大江戸理事長は一つの納得を区切るように、うなずき、頭部を支える首の硬質ゴムのコルセットとの境の顎に皺を作った。
レイ「そら様もオーバーマンなのか?」 
大江戸「結論から言いましょう。NO。です。
 あなたがが仕えている頭令そらさんはオーバーマンではありません。しかし、あなたもお気付きだと思いますが、彼女には夢に関する怪異が起きていますよね」

レイ「そこまで我々を読まれたか。
確かに、頭令そら様は植物状態の頭令倶雫様の夢を見ることができる。この怪異はオーバースキルではないか?」

大江戸「うむ……。見方によってはそうなのですが、我々C4の定義で見れば、オーバースキルはあくまで世界の基盤を裂き、新たな法則を世界に侵入させるものなのです。そして、この場合、世界を裂いたのはあなた方の黒色遊星なのです。頭令兄妹の夢の怪異は……、あなたの作った世界の裂け目に影響を受けたもの、と考えております。
 ですから、オーバーマン・ブラック・ジョーカーとして、頭令兄妹ではなく、あなたを任命する事になったんですな」

レイ「私が、そら様と倶雫様の世界を破壊した……のか」
 宇宙人達の心に、地球時間で12年前の悪夢が、頭令兄妹の元になった人間を殺した時の恐怖が思い出される。
大江戸「ええ、頭令兄妹の二人はあなたの作った世界の裂け目に迷いこんだだけ。自ら世界を裂いてはいません。そして私のオーバースキルでも頭令倶雫君の魂のいる夢の世界までは見通せません。
 頭令兄妹を作りなおし、新しい世界の法則を与えたのは、あなただ」

 ザック=タンク・大江戸は半分が機械の顔を真っ直ぐにレイに向けて言い切った。その表情は硬いが、基裂者としてのオーバースキルに自信を持った顔であった。対して、ロボットに寄生している宇宙人のレイは表面上は全く動かなかったが、それに宿る多くの精神が騒ぎ始めていた。
レイ「……しかし……おかしい。
 我々は、世界を裂いたつもりなど、ない。私はあなたのようにオーバースキルを、世界を裂く力を、操れていない……。世界の裂け目などは知らない」

大江戸「でしょうな。あなた方が世界を裂いたのは、我々のようなオーバーマンが魂の力で内側から世界を裂いたのとは違い、単にあなた方が我々の世界の外の宇宙から来た結果ですから。
 あなた方の力は宇宙人としての文明の力で、超能力ではない。ですから、あなた方は正式なオーバーマンではなく例外的オーバーマンのブラック・ジョーカーと見なされるのです」

レイ「なるほど」
 そして、レイは一気に大江戸の足元へ、跳んだ。滑るように四つんばいで着地すると、
レイ「お願いです!我々を救ってください!!!!」
 地面に向かって叫んだ。


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