サブタイトル:第9話 [家庭教師VSニンフェット!頭令兄妹誕生の秘密です!!]
- 2003年9月20日 ソレイユ病院第11セクション第011科11号室
レイ&11の11の11&クロムのロザリオ「ハッピーバースデー♪そら様ー♪
ハッピーバースデー♪そら様ー♪
ハッピーバースデー♪ユア・ハイネス!
ハッピーバースデー♪トゥーユー♪」
そら「あんまり上手くないわね」
レイ「これでも、我々の中での最高のミュージシャンを集めたのですが……。地球の空気振動音楽は難しいです」
黒い執事服のロボットと病室とロザリオに宿った宇宙人に歌わせ、妹はニヤニヤとご満悦した。
そら「まあいいわ。気持ちは分かったし。それから、やっぱりあんた、辛気臭い死体の皮よりロボットの顔の方がかっこいいわね」
レイ「地球人に見られる所ではロボットの顔は出せません」
そら「あたしたちの前ではそれでいいでしょ」
兄のベッドの横に据えた白く丸いテーブルに、レイから取りださせて置いた小さく丸いバースデーストロベリーショートケーキをむさぼりつつ、初めての誕生会を妹は楽しんでいる。初めての誕生日も、初めての誕生日会も、兄の隣で体験できた事がうれしいのだ。そしてダージリンのストレートで口の生クリームをすすいだ。
そら「あんたらさ、お兄ちゃんの誕生日は知ってる?」
レイ「そら様と同じく、肉体が再生完了したのは1991年9月20日です。便宜的に、倶雫様の誕生日も9月20日としております」
そら「いや、あたしはお兄ちゃんに体を貰ったから今日で良いんだけど、お兄ちゃんはその前から生きてたわけでしょ?だったら元々の誕生日が有るでしょ」
レイ「大変申し訳ございません。我々と衝突する前の倶雫様の観測記録はございません。1991年6月時点では日本国長崎県の男子小学生だと推測できるのですが」
そら「お兄ちゃんは今年で21歳だって夢の中で言ってたんだけど、誕生日まではあたしもわかんないわ。うーん。やっぱり、お兄ちゃんを目覚めさせないとね。
ってか、あんたさ、お兄ちゃんの過去を調べないで、どうやって養子にしたの?養子ってことはさ、お兄ちゃんの元々の家族がいるのよね?それはどうなったの?親兄弟もいたかもしれないでしょ……。たまにそういう人が夢に出てきたし……。いや、夢だから誰が実在する人なのかわかんないんだけどねっ」
レイ「当時は肉体の再生と自我の捜索にほとんどの労力を割いておりましたし、セブンセンサーも整備されておらず、我々も地球人に対する理解が足りておりませんでした。よって、倶雫様の元々の家族関係は知り得ません。
養子縁組の際には、元々の経歴は例によって偽造いたしました」
宇宙人は生死傷害については罪悪感や倫理観が強いが、法的意識や感情は地球人とは異なっている。兄の人生を擬装しても宇宙人は兄が生きてさえいればそれでいいのだ。
レイ「倶雫様を頭令礼一郎の養子にする際には、鈴井倶雫という戸籍と、鈴井家と言う元々所属していた家族の戸籍を作成し、そこから養子に迎えた事に致しました」
そら「元々の家族全員まで嘘なの?」
レイ「当時は戸籍が電子化されておりませんでしたが、役所の棚に適切な書類を存在させればよいだけの事ですから、それは合成いたしました」
そら「つまり、礼一郎とお兄ちゃんも、血が繋がってない事なのね?」
レイ「はい」
そら「鈴井家の人たちはどうなったの?」
レイ「鈴井家の人間は存在しない戸籍だけの存在ですので、1992年から1993年に倶雫様を残して全員事故等で死亡したとして書類上で処理いたしました」
そら「ホント、無茶苦茶するわね、宇宙人は」
レイ「物質組み換えはエネルギーを多少使いますが、数枚の紙を錬成するくらいはどうという事はございません」
そら「そういう話じゃないんだけどね。ま、いいわ」
ケーキをまた一口。
そら「あたしは元々みなしごだけど、お兄ちゃんを養子にした時にあたしも一緒に養子にしてもよかったのに」
レイ「そら様と倶雫様を実の兄妹として戸籍を作り、養子にすることも可能でした。ですが、それをするとそら様は倶雫様と結婚できなくなっていました」
そら「それは困る!」
突然叫んだのだから、妹の口から唾液交じりの生クリームとスポンジとイチゴのシャワーがレイに飛びかかったが、レイの寸前のバリアはそれをゴミ箱へ流した。しかし、そういう行儀の悪い事は今の会話の本筋ではない。
そら「あたしはお兄ちゃんと結婚するんだからね!」
レイ「そら様が倶雫様と結婚を望むようになる事は、当時の我々には予測できませんでした。
ですが、二つの理由からそら様にはみなしごになっていただきました。
まず、我々が地球の日本の法制度への理解が浅かった事です。一つの方策で失敗した場合を考慮し、お二人には別々の手法で戸籍を取得していただきました。
そして、そら様の自我を捜索する間、養護施設に肉体を置くには、むしろみなしごの方が都合がよかったのです。そら様は倶雫様と違い、生後間もなかったので以前の戸籍を用意する必要もございませんでした」
そら「そーいう偶然の運命で、私はお兄ちゃんと結婚できるのね!うふっ。うふふふふふっ」
レイ「そうです。現在、倶雫様は元の鈴井家が断絶して頭令礼一郎の養子という扱い。そら様は頭令礼一郎の特別養子、つまり実子と区別しない養子です*1。特別養子はそれ以前の家族とは縁が切れるものです」
そら「その、お兄ちゃんの元になった実在の親族が嗅ぎつける可能性は?」
レイ「現在まで、そのような動きをする地球人は観測されておりません。倶雫様の素体は、おそらく直後の火山の爆発か、それを見物に行って海に落ちたか、そのような事故死として地球人側に扱われていると推測しております」
そら「あいわかった!ピースは全て完璧!あたしはお兄ちゃんと結婚できる!」
レイ「そうです。最初に申しあげたとおりでございます」
そら「あははははっ!!!よおおおおおっしっ!
あとはお兄ちゃんの夢を探り!目覚めさせれば結婚である!
やるぞおおおおっ!」
Jack IN
2003/09/20
Jack OUT
そら「お兄ちゃんって、夢の中でもモテてる……」
*1:縁組時、頭令礼一郎には頭令麗子という架空の配偶者が居たとする