玖足手帖-アニメブログ-

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創作幻視小説版「夢兄妹寝物語」 2003年11月 第11話 第16節

サブタイトル[ラスベガスと王の心] 
前節
創作幻視小説版「夢兄妹寝物語」 2003年11月 第11話 第15節 - 玖足手帖-アニメ&創作-


 土下座をしたまま大地を震わせた音で、レイは懇願した。
レイ「我々の力では、頭令倶雫様を目覚めさせる事は出来ない!!!我々では12年間、頭令倶雫様の魂のありかが全く分からなかったのです!!!!
 頭令兄妹両陛下への罪を償おうとしても償えないのです!!!!そして、世界の裂け目が我々の罪だと言うのなら、それに気付けなかった事もまた、我々の罪!!!!
 お願いです!!!!同盟加入だけとは言いません!なんでもいたしますので、あなた達の超能力で頭令兄妹両陛下を助けて下さい!!!!お願いします!!!!!!」

 黒色遊星奴隷諸国連邦の宇宙人の大群で出来ているレイは第零番国10兆人の総体であるため、表面的には沈着冷静、無駄の無い動きをする。が、その内面は地球人よりもよっぽど情にもろい、純粋な精神の集合体なのだ。頭令兄妹への罪悪感と愛に満ちている。
大江戸「顔をおあげください。レイさん。
 私は教育者として、頭令さん達にも良い人生を送って欲しいと思っております。それに世界の裂け目に関する怪異に巻き込まれた人を助けるのも、オーバーマンの務め」

レイ「ありがとうございます!」
大江戸「しかし、残念ながら、C4のオーバースキルを結集しても、世界のどちらでもない夢の世界から頭令倶雫君を救う事は出来ないでしょう」
レイ「・・・。
 なら、別に同盟に加入する必要はありません」

 あっさりと土下座から一挙に意見を逆転させてレイは立ち上がったのだが、大江戸はそれに対して義手を振って違うとアピールした。
大江戸「いえいえ、頭令倶雫君を復活させる望みは残っています。
 あなたもそれに賭けている、頭令そらちゃんです。同じ世界の裂け目の影響下にありながら現実世界で生きているそらちゃんなら、お兄様へ干渉する事も可能でしょう。そのため、彼女の力を訓練したい、と言うのが私の提案です」

レイ「なるほど、そら様!
 そら様をあなたの経営する学校に入学させたいと言うのも、そのため、ですか」

 振り返ろうとした動きを止めたレイが中途半端な姿勢で問いただす。彼らにとって頭令そらの話題は特別なのだ。
大江戸「ええ。オーバーマンではない頭令そらちゃんはあなたの作った世界の裂け目に影響されているだけ、とは言え普通の人間とは異なる存在ではあります。ですから、我々に近い所に居てもらいたい、と言う事です。
 以前、私が彼女を保護しようとしたのですが、*1その時に依頼した一般人の民生委員は頭令そらちゃんのじゃじゃ馬ぶりに振り回されてしまいました。覚えていらっしゃいますか?」

レイ「あの今年の3月の事ですね。あれもあなたの計画だったのですか」
大江戸「はい。それで私も普通の手段、普通の人ではそらちゃんを手懐けられない、とわかったんですな。私の学校の教師には他のオーバーマンもおりますし、そらちゃんには良い経験になると思いますよ」
 怪我を負った民生委員には悪いが、大江戸はにこりと笑い、レイは姿勢を正した。
レイ「それで、あなた方の学校に通って、そら様がオーバースキルを発現させることができれば、倶雫様の復活もあると言う事でしょうか」
大江戸「いくつか確証の少ない条件がうまく運べば、そう言う事もあり得るでしょうな・・・。しかし、あなた方だけでいるよりは可能性は高まる。それがオーバースキルと言うものです。オーバーマンとの共鳴でオーバーセンスが高まる事は、あります。そして、オーバーセンスを持つ子供たちを守るのも我々の責務」
レイ「なるほど。では、社亜砂先生。彼もあなたの息のかかったオーバーマンだったのですね」
大江戸「ええ。彼のオーバースキルはあなた方も何度か見たはず」
レイ「彼の人間離れした運動能力はオーバースキルだったのですか。地球人の運動性能の個体差の範囲ではなく」
大江戸「社亜砂君は優秀です。特に、そらちゃんのようなじゃじゃ馬には適任でしょう」
 そう言って、大江戸の生身の部分の右目が閉じた。ウインクをしたのだ。
レイ「そのために、彼に性犯罪者矯正仮面を被せてまで仮出所させる司法取引をしたのですね」
 社の陰のスポンサーであり、そらの家庭教師になるように手配したのが大江戸だということは、9月の時点でセブンセンサーは掴んでいた。それは地球人としての正規の「物理的な」司法取引だったからだ。
大江戸「ええ。彼に依頼したのは私です。ここだけの話ですがね。
 彼がオーバーマンと言う事は警察も刑務所も、彼の前職のDEAも知らない事です。ただ、彼は若いころから同盟の優秀なエージェントでもありました」

レイ「それほどの人だったのですか」
大江戸「あなたがたと頭令さん達には、それだけの価値があると言う事ですよ」
レイ「なるほど。これまで以上に倶雫様を目覚めさせるための希望はそら様、ということがはっきりした」
大江戸「ええ」
 と、顔面の皮膚を内側から引っ張る人工筋肉で、片目の大江戸は上手に人間らしい笑顔を作った。
レイ「了解しました。」
  
  
レイ「ひとつ補足説明を求めます。そら様はオーバーマンではないのなら、そら様にオーバーマンの事を伝えてはいけませんか?」

大江戸「構いませんよ。
オーバーマンはC4やオーバーマンの事を世間に公表してはいけません。ですが、彼女は既にオーバー・ファクト(超常的事実)の渦中にある。その彼女には自分の置かれた状況をあなたから伝えていただきたい。正直、私には子供でじゃじゃ馬の彼女と、こうして落ち着いて説明するのは難しいので・・・。彼女はあなたの言う事なら聞くでしょう。
 ただし、お分かりだとは思いますが、他の人間には他言禁止です。そらちゃんについては他人を気にするような無駄なことをするような子ではないとは信じております」

レイ「了解しました。倶雫様とそら様にまつわる夢の有益な情報を得た」
大江戸「私も嬉しく思います。
 では、同盟していただけますね」

  
   
 大江戸の大江戸の右の義手がゆっくりと差し出され、
レイ「了解しました。同盟しましょう。
 ただし、先も申し上げたように我々の行動は以前とは変わらず、頭令兄妹両陛下のために行動する。この同盟も、そのためです」

 レイも右のロボットアームを差し出しながら言葉で釘を刺した。
大江戸「結構です。
 では、春にそらちゃんが合格できるように助けてあげて下さい」

レイ「そら様は必ず合格する」
 大江戸はロボット義足で器用に折り畳み式のテーブルを背中の蜘蛛の胴体のような部分の箱に納めながら、
大江戸「ええ、それでは、また。
 ああ、ここにある戦闘の跡は、C4の方で処理しますので、そのままで結構です。
 さようなら」

 そして、握手をして別れた。


 大江戸が機械の体を仰向けさせると、金属製の蜘蛛の胴体のような部分から地面に吸い込まれて行き、バク転するように砂の大地へと消えた。ただただだだっ広い砂漠の中の岩山に、レイがぽつんと残された。
レイ「消えた。これもオーバースキルによるもの」
セブンセンサー「観測をしたが原理解析は困難。
 だが、C4が敵対勢力ではなくなったとは言えよう。我々が宇宙人だとC4には知られたがC4が一般地球人に我々のことを暴露することもあるまい。0、2、3、5、6もワープでそら様の所へ帰還するべき」

ミニコ「発言します」
 大江戸の機銃で宿っていた体を粉砕されたミニコを構成する宇宙人たちはレイに同化していたが、レイの体の中から声を出した。
ミニコ「私、先ほど、ここに来る前、エリア51の近くの宇宙人通りを通って宇宙人クッキーをお土産に買いました。4キロほど北に落ちてるので、それもピックアップしてワープしましょう」
レイ「了解した。そら様もお喜びになるであろう」


 こうして、宇宙人達もアメリカから撤退した。現地時間、11月12日、16時前の事であった。

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*1:第三話参照