玖足手帖-アニメブログ-

富野由悠季監督、出崎統監督、ガンダム作品を中心に、アニメ感想を書くブログです。

創作幻視小説版「夢兄妹寝物語」 2003年9月 第9話 第14節

サブタイトル:第9話 [家庭教師VSニンフェット!頭令兄妹誕生の秘密です!!]
1997年9月20日の話が続きます。  

  • 1997年9月20日。イの1号室前

レイ「そら様。この病室が一番目のしもべです。そして、この中で守られているのが、そら様のお兄様であり、そら様と同じく我々の元首であらせられる頭令倶雫(ズリョウ・グダ)様です」
そら「わかった。会おう。開けろ」
 この地方病院への道すがら、頭令そらは宇宙人から生い立ちを漠然と聞いていた。それで、よくわからないながらも、宇宙人が自分たちに酷い事をした事、一生家来になるという事、だから自分は宇宙人たちよりも偉いお姫様であり、その自分と釣り合うのは王子様の兄だけだという事だけはわかった。その宇宙人たちに対する軽蔑と怒りは、そらの無意識に宿った初めての感情、あるいは殺された時の記憶が蘇えった物かもしれなかった。それ以後数年間、奴隷に対する復讐心はそらの底で持続するものとなった。それで、兄の病室に来るころには既に尊大な言葉遣いとなっていた。
 レイが受付で借りた鍵を回し、扉が開き、そらはイの一号室の体内に入った。
イの一号室「ようこそ、そら様。我々が一番目のしもべ、イの一号室です」
 白い壁の病室を満たす空気そのものが、主の片割れに挨拶をした。レイはイの一号室の領内に踏み入らず、暗い廊下の扉の前に侍り、ミイコは病院の外で警護していた。
 白く薄い、素っ気ないカーテンを透かして、仄かに朱い秋の西日が灰色のリノリウムの床に、病室の中央のベッドの影を映していた。そこに横たわっていたのが15歳の兄だ。
イの一号室「この方が頭令倶雫様です。そら様と同じく、我々奴隷を統べるべきお方で、そら様のただ一人のお兄様です」
そら「これが、お兄ちゃんか。確かに寝てる。起きないの?」
 ベッド脇で見下げ、言いつつ、妹の紅い瞳が動き、羽虫が跳ねる如くすばやく、兄の体の上の数ヶ所に視点を飛ばした。
 まず、顔を覆う防疫用の黒いマスク、続いて犬の鎖のように喉に繋がれた人工呼吸器のチューブ、機械的に布団を上下させる胸、蒲団の端から何本も垂れさがったコードやチューブ、その一つに繋がったベッド脇に吊ってある尿袋、それら体調を示して生かしもする各種の装置など、を妹はピンポイントで確認した。
イの一号室「倶雫様はこの6年間、昨日までのそら様よりも深い昏睡状態にあります」
そら「そうね。ちっとも動かない。これが私のお兄ちゃんなの」
イの一号室「倶雫様のお顔をご覧下さい」
 ふわ、と見えない宇宙人の力で兄の顔を覆う半透明の仮面が浮き、妹に素顔を曝した。
 眼を閉じた顔の、日の光を浴びていない真っ白な肌に静脈が透けている。髪は自分よりも長い白髪、男子の顔、10歳も年上、しかし、
そら「あたしにそっくりだ。本当に、あたしのお兄ちゃんだ」
 妹は直感した。
イの一号室「そうです。頭令倶雫様は頭令そら様のお兄様です」
そら「そうか……。あんた、椅子」
 イの一号室の中に在るパイプ椅子がそらの後ろに滑り来たので、妹は下着を付けていない白いスカートの尻を落とした。
そら「ズリョウ・グダって変な名前。変な漢字。読めない。あんたたちが付けたの?」
イの一号室「はい。頭令というのは我々奴隷の頭領として命令を下して下さるように、との願いを込めた苗字です。
 倶雫様のお名前は、倶雫様が一度亡くなられた今わの際に名乗られた名です。それをそのまま使わせていただき、漢字は我々が音にあてはめました」

 しかし、「グダ」は少年の喉が発した短い断末魔に過ぎず、宇宙人たちはそれを勘違いして兄の名に付けただけだ。もし、宇宙人たちが少年の小学校の名札を、ただの無機物として捨てずに調査していたなら、少年の本名も当初の家族の存在も判っていただろう。
そら「それで、あたしは宙ばかり見ていたから頭令そらか……」
イの一号室「御改名なさいますか?」
そら「別に、他のも思いつかないからこれでいい」
 妹は横たわる兄の顔をずっと見つめたまま、名の由来を聞いた。それから、生まれて初めてやりたい事を思いついた。
そら「お兄ちゃんに触ってもいい?」
イの一号室「そら様が入られる時、我々が完全滅菌しました。御随意に、お触り下さい」
 直径十センチほどの小さな妹の掌の柔らかな十指の先が兄の頭のそこここに、触れた。
 その瞬間。


Jack IN
   
   
  切り出され磨かれ白く輝く大理石で出来た円形劇場。
  その夜、ローマかギリシアか、おれは異国の劇場にオペラを見に来ていた。
  野外劇場の客席に囲まれた擂り鉢の底である舞台は暗く、照明の当たる中央だけが丸く見えた。
  そこに、一人ずつ、白い布をまとったふくよかな白人の男たちが歩み出て、知らない言葉を次々、朗々と歌い上げる。
  「フィイイイイロ!ッ!」
  「フィィイイイロティーオッ!」
  「フィィロティウォーーーネッ!!!!」
  おれは「フェラチオか?なんとも大声で淫語を叫ぶ奴らだ」と思った。しかし、同行していた隣の女が教えてくれた。
  「あれは、愛についての唄よ」
  「ああ、ラテン語か。いろんななまりがあるが……」
  「愛って、そういうものじゃない?」
  おれは何と答えたものか。
  「すごい声だな……」
  終劇後、かがり火がまだ灯る劇場を後にした。
  道々にも点々と、かがり火が有り、夜空の星々の光と混ざり合っていた。
  美しい女だ。
  
  
Jack OUT

そら「なに、なにいまの!どこ?」
 妹は全く知らない物を見た。そこには目覚め、正装してさえいた兄がいた。兄に向けて、女が何か知らない事を言っていた。自分はどこにいたのだろうか?その女が自分だったような気もする。兄の後ろにいた気もする。兄の眼でものを見た気もする。そして、今は眼に何も見えない。真っ暗だ!
イの一号室「そら様。ここは病室、イの一号室です」
ロザリオ「そら様。そら様の自我が、約38秒間、我々の観測範囲から消失していました」
イの一号室「他のしもべたち、何か気付きましたか?」
 妹に耳に、宇宙人たちの似たような声の会話が聞こえた。
レイ「いえ、何も観測されませんでした」
ミイコ「我々も同様です」
 レイとミイコも妹の傍らに来ていた。二体は妹を両脇から抱え、椅子に座り直させた。
そら「……眼が見える」
 妹は兄の胸の布団に顔をうずめていただけであった。
イの一号室「そら様は倶雫様のベッドに倒れられたのです。いかがされたのですか。覚えていらっしゃいますか」
そら「お兄ちゃんが、歩いたり、唄を聞いたり、星を見たり、してた」
 それは宇宙人にまったく理解できない発言だった。
イの一号室「そら様の自我が消失したことは我々にもわかりましたが、その間に倶雫様が動く様をご覧になったと言う事ですか?それは不可能です。倶雫様は動けませんし、そら様には自我が無かったのです」
ミイコ「404号室、散開していたゴースト、地球全体のセブンセンサー、いずれの観測点でもそら様の自我の通過は確認されていません。おそらく本星でも同様でしょう」
 妹の周りに集まった宇宙人たちは、その女主人を気付かせるために、宇宙人内の回線ではなく空気音声で会話していた。その声音は宇宙人のスポークスマンの声を翻訳機と音声発振機を通したものなので、変わらず落ち着いていたが、宇宙人国家の内部では百兆人の宇宙人が混乱し、議論研究を重ねていた。その時間の流れは地球の宇宙とは違う。
そら「何の話をしてるの、あんたたち……。お兄ちゃんは外国にいたんだよ」
 パイプ椅子の背もたれに体を預け、吐息まじりに妹がつぶやいた。それも、宇宙人たちが議題にしている現象とは全く違う言葉だった。兄は外国へ行った事などは無い。
レイ「……一つ、推論が我々の中の研究グループにあります」
 黒い執事の姿をした最初のしもべの体から声がした。
レイ「そら様は夢を見ていたのではないでしょうか?」
そら「夢?……。学校の絵本で話を聞いた事は、ある。寝てる男の子がまよなかのだいどころに行ったりする……」
レイ「そら様の先ほどの状態は、睡眠中に自我の働きを弱めた人間の状態に近いものです。ですから、そら様の自我は以前のように外に拡散し、戻ってきたのではなく、睡眠中に見るという夢の世界の内側に落ちてから目覚めたのではないでしょうか」
ミイコ「それならば、我々がそら様の自我の通過を感知しなかった事と合致します」
ロザリオ「しかし、我々は直近から観測していましたが、そら様の自我は確かに消失し、突然回復されました。我々がそら様の自我をインプットしたのですから、確実な観測です。睡眠中の人間より、はるかに極端な変化でした」
レイ「そら様のボディーはシンプルに再構成されているからかもしれません」
そら「あんたたち、何を言ってるのよ……」
 一番混乱しているのはたった6才の妹だった。妹はそれまで、夢を見た事が無かった。自閉症のようであった昨日までの、覚醒中の記憶は物質として脳に蓄えられていて、薄らと再確認できるが、夢を見た経験は無かった。
 その妹は突如ビグンッと体を震わせ!
そら「痛いっ!」
 眼を押さえた。
宇宙人「そら様!」
そら「何、前がぼんやりする。なんかすごく変だ」
 視界を歪めたのは続々と妹の目からこぼれる涙の雫だった。妹はそれまで、泣いた事もなかった。乳児の頃から声を張り上げ、涙を流した事は無く、眼球を潤すだけの涙腺だった。そこから初めて大量の涙がボタボタと噴き出ていた。
そら「あああああっ!ううっ!ああっ!」
 女の妹には一生体験できない事であろうが、それはまるで精通を体験する男子の味わう驚きに近かった。それを快感ではなく痛みとして、たった6才の幼女が顔面で感じていた。
ロザリオ「そら様。そら様は泣いているだけです。ご安心ください。人間の生理機能の範疇です」
レイ「今日は多くの事がありました。感覚が耐えきれなくなり、ストレス成分の排泄行動を起こしているのです」
 そのような異種族の解説はもがく妹には届かなかった。
そら「お兄ちゃん!たすけてっ!」
 再び、倒れこんだ妹の震える指が兄の顔や首の肌に突き立てられた。兄の肉に妹の爪が食い込み、確かめるように握りしめた。
宇宙人「そら様!お気を確かに!」
 宇宙人たちはまた自我が消失する事、あるいはその余波で妹が死ぬ事を恐れた。が、妹の震えと荒い息は、ゆっくりと治まり、兄の胸の上で幼子は安心した。お兄ちゃんは、温かい。妹は兄の胸に頭を置いたまま、顔を兄の顔に向けた。もう涙は布団に染み込んでいた。
そら「宇宙人たち、大丈夫。あたしは大丈夫」
 穏やかな声になっていた。
そら「お兄ちゃんも大丈夫。そう……夢だったのよ。あたしはお兄ちゃんに夢の中で会ったのよ。さっきは初めてだったからびっくりしただけ。いや、初めてじゃなかったかも、なんだかとても懐かしい感じもした。
 今のあったかい感じ、それとさっき歌を聞いてたお兄ちゃんの感じ、同じだもん。だから、あたしはお兄ちゃんに夢で会ったの」
 宇宙人たちには理解できなかった。だが、反論する事も出来ないものであった。そして、さらに妹は予想外の事を言った。
そら「あんたたち、愛って何?」
レイ「何故、その様な事を聞くのです?」
 愚かな宇宙人は質問を返した。
そら「お兄ちゃんはね、夢で愛の歌を聞いたの。それで、お兄ちゃんはそれを、なんだかすごく気にしていたの」
イの一号室「倶雫様の気持ちがわかったのですか」
そら「うん。わかった。それで、きれいな女の人がいて、その人は私かもしれなかったんだけど、愛が有ったの」
 兄の夢についての6才の幼女と宇宙人の会話は、不可思議を論じる物になった。しかし、精神だけの存在に近い宇宙人たちにはそれこそが本質的であったかもしれない。
レイ「愛とは幸せをもたらす感情」
イの一号室「愛とは相手を守りたいという希望」
ミイコ「愛とは相手を素晴らしいとする理由」
ミニコ「愛とは相手に与える原動力」
ミミコ「愛とは相手に近づく引力」
バスケットゴースト「愛とは相手と混ざり合う様」
バレーゴースト「愛とは相手を信じる様」
野球ゴースト「愛とは相手を必要とする様」
ピンポンゴースト「愛とは決断の理由」
ビー玉ゴースト「愛とは自分の影を残すもの」
クロムのロザリオ「愛とは自らを強くするもの」
セブンセンサー「
サイドバイクロンは『愛とは自らを捧げて悔やまぬ事』
404号室は『愛とは関心と無関心を分ける物』
と、申しております。我々にとって、愛とは真実を枉げぬ信念」
 頭令兄妹のしもべとして地球に集った宇宙人奴隷諸国同盟、8つの国、14の地域がそれぞれの代表する「愛」を語った。それは6才の幼女に解るものではなかった。
そら「たくさんある。わからない」
レイ「我々の中の人間にもさまざまな愛があります。地球の人間にもさまざまな愛の解釈が有るようです」
そら「それが、愛……」
レイ「そら様は夢の中で倶雫様と愛について語り合ったのですか?」
そら「わからない。でも、なんだかとても大事な事だと思う」
レイ「はい。愛は重要です。そのために、我々はここにいるのですから」
そら「あたし、お兄ちゃんとまた愛を見つけたいな」
レイ「しかし、そら様。本日は本当にたくさんの事がございました。そら様は初めて目覚められ、初めて話し、初めて歩き、初めて倶雫様とお会いになり、初めて夢を見、初めて泣かれました。本当にお疲れと存じます。4番目のしもべ、404号室へご案内します。そこで、お休みください」
 西日は落ち、窓は濃さを深めていた。
そら「そうね、そうするわ。続きはまた明日……」
 と、言ったそばから、妹は兄の布団の上で夢のない眠りに落ちた。それをレイは抱き上げ、4番目のしもべである四ツ屋荘404号室へ瞬間移動し、用意した寝床にそらを横たえた。
 こうして、そらの初めての誕生日は終わった。

  • 2003年9月20日 ソレイユ病院第11セクション第011科11号室

そら「思い出したわ。6年前の今日も、こうしてお兄ちゃんと寝て、あんたたちの話を聞いてた」
 兄と同衾しながら、宇宙人の話で妹は自らの人生のすべての記憶を再確認した。眼の前でカバーに包まれた兄の横顔も6年前より、男の顔になったと感じる。
レイ「はい、そら様。1991年9月20日からそら様は目覚められ、倶雫様と毎日お会いになるたびに感情豊かになられ、お勉強され、成長されました。夢見も今では自由に行われるように」
そら「っていうか、9月20日って、今日じゃん!」
 穏やかに枕語りを聞いていた妹だったが、またしても布団を蹴上げて起き上がった。11号室はまた何度も布団を兄にかける羽目になる。
レイ「そうです」
そら「あたしの誕生日って、今日だったの?」
レイ「そうです。そら様の元になった新生児はもっと前に生まれていましたが、今のそら様の体が地上に顕現したのが1991年9月20日。先ほどお話しいたしましたように自我に目覚められたのが1997年9月20日です。身分証にもその様に書いてあります」
そら「いや、あんたとあたしって、たくさん経歴偽造してるから、てっきりそれも嘘かと思ってたのよ。6歳の時は日付まで覚えてなかったし」
 妹のその認識も異常なのだ。
レイ「本日がそら様の誕生日です」
そら「バカッ!宇宙人!あんたがいつも嘘ばっかりついてるから、あたしは自分の誕生日まで嘘だと思ってたじゃないのさ!このカス!」
 いきなり妹がレイの顔の皮を剥ぎ、レイのロボット顔が露呈した。皮に棲んでいる宇宙人にとっては大地震である。
レイ「そら様。ビックリします」

そら「うるさい!この人の皮を被ったロボットの宇宙人め!あたしはこんなに髪も伸びて可愛く成長したのに!あんたは全然変わらない宇宙人ね!
 あたし、一回も誕生日パーティをしてもらった事が無いわ!全部あんたのせいよ!」
レイ「その様な衣食住と倶雫様に関係のない御命令は一度も頂きませんでしたので」
そら「宇!宙!人!!」
 確かに、12歳になった妹は成長し、その欲望の質も少しずつ変化させているのかもしれない。