サブタイトル:第9話 [家庭教師VSニンフェット!頭令兄妹誕生の秘密です!!]
前書き:ウルトラマンとファイバードのパクリのつもりだったけど、もしかしたらイデオンを無意識的にパクっていたのかもしれん。見る前から。
- 2003年9月20日、川岸
覚えてもいるはずのなかったレイの話は、12年前に生まれたばかりの自分が殺された話であった。それで頭令そらは暴発した。
そら「なにそれ。
あんたがお兄ちゃんを壊したの?私もその時に殺されてた?あんた、なんてことをしてくれたの!」
レイ「大変申し訳ない事をしました。そら様。その代り、我々はその日から我々の命を貴女方に一心に捧げてまいりました」
そら「あたりまえよっ!」
そらが怒りまかせに投げたリンゴくらいの石がレイの腰に当たって二つに割れた。
レイ「続きをお話してもよろしいでしょうか?」
そら「っていうかさ、あんたたちって何なの?いきなり来て私たちを殺してさ!あんたロボットじゃないの?その前は流星だった?早く教えなさい!」
興奮し、混乱し、荒げた息で少女の唾が飛ぶ。
レイ「我々は、地球人の住む素粒子で構成された宇宙の、その基本素粒子よりも微小な、地球人の用語でのマイクロブラックホールの周囲を公転する周辺系で発生した人間です。
ですから我々自身が流星ではなく、我々の住んでいたマイクロブラックホールの太陽系、つまり黒色遊星周辺諸国連邦と、この地球の両域の界面がエネルギーと粒子を相互に交換する事で、地球側に発生した光子が流星のように発光し……」
そら「ふざけるな!別に光る原理なんかどーでもいいっ!もっとわかりやすく言いな!」
レイ「申し訳ございません。現在、通常の外交官ではなく、我々の中の物理学専門者が、お答えさせていただいております。また、これらの事象は我々にとっても、まだ研究途上であり日本語への翻訳が困難であります。それゆえ、返答が迂遠になる可能性が高いのです。
一問一答でご質問していただけると円滑と存じます」
そら「ぐっ……。まあ、あんたらの話下手には慣れてるけどさっ!
大事なことみたいだし、聞くけど。とりあえず、そこのベンチに座るわ。それとオレンジジュース」
話している間に川岸には団地が立ち並び、公園もある所まで来ていた。ベンチに腰掛けたそらに、レイは良く冷えたバャリースの缶ジュースを懐から差し出す。そらは一口、うるおしてから質問を再開する。
そら「えーと、じゃ、まず、あんたらってどういう人間なの?なんで目に見えないの?なんで物に取憑いてんの?」
いきなり三問続けた。が、関連している事である。
レイ「現在のわれわれは平均10兆人強の人口を持つ0から7までの氏族国家の民が役割を分担し、そら様と倶雫様を元首とする奴隷諸国連邦を形成しています。その国の中には、そら様の目には見えませんし地球人と形も違いますが、多くの人間が暮らし、各種産業を成り立たせております」
そら「はぁ?国?日本とかアメリカとか?セブンセンサーは地球を薄く覆ってるらしいけどさ、レイとかミイコは人形だし、11号室とか四ツの家は建物で、サイドバイクロンはサイドカーで、ゴーストはボールじゃん。クロムのロザリオなんか、これよ?
国って言うには小さすぎない?こんな中に10兆人もいるの?」
レイ「おそらく、我々の宇宙の尺度と、地球のある宇宙の尺度が違うのです。我々の住む世界は、地球のある宇宙から見ると、素粒子の間に収まります。ですが、我々は地球の物体に定着するコロニーを建設し、地球側宇宙の素粒子や力に干渉する技術を開発いたしました。現在、我々が地球の物体に駐留しているのはそのためであります」
そら「ふぅん。見た目はわかったわ。で、人間だったら何を食べてるの?あんたたち、食事をしたことないでしょ」
川面の太陽の照り返しを眺めながら、オレンジジュースをまた一口。
レイ「元々我々はブラックホール本星の重力場を食料とエネルギーにしている生物でした。地球の生物の光合成生態系や光電池の媒体が光子ではなく重力子になったような物です。現在の我々はコロニーを定着させた素粒子と地球と太陽の運動による重力双極子変動からエネルギーを得ております。ですから、そら様と倶雫様を直接守る0番奴隷国の我々と1番奴隷国の11号室は、一番比重と強度の高い戦闘用人型ロボットと病院の特別室にコロニーを建設しました。逆に、観測と移動補助のためのセブンセンサーはエネルギーをあまり必要としませんので、軽く広い大気粒子にコロニーを建設しました」
そら「コロニー、か。それが固くて重い物に宿るほど、強い、と」
レイ「設備や任務にも寄りますが、大まかに言えばそうです」
そら「じゃ、次の質問。そのブラックホール本星はどこから来て、何故地球でお兄ちゃんと私を殺して、今はどこにいるの?」
レイ「大変申し訳ありません。我々の黒色遊星周辺諸国連邦のブラックホール本星の宇宙はあまりにも小さいため、我々の文明が発生してから、他のあらゆる物体や波動と接触せずに光速以上で漂っておりました。
そのため地球と接触し、その結果として倶雫様とそら様を破壊してしまったのは予測がつかない事故でありました」
そら「っったく、宇宙人は無茶苦茶するわね。で?」
レイ「現在、本星とその周辺諸国連邦は地球からは30億から134億光年先の宇宙を運動しております。その途中で倶雫様の失われた自我を探しています」
そら「お兄ちゃんの失われた自我?お兄ちゃんは死んでるの?」
レイ「いえ、生きておられます。
そら様の自我も衝突の衝撃で光速を突破し外宇宙に散逸しましたが、我々の6年間の捜索で発見し、今のそら様を再生できました。
ですから、倶雫様の自我もどこかにあるはずです。それを取り戻せば、おそらく倶雫様は覚醒いたします」
そら「お兄ちゃんの目が覚める!ちょっとあんた!それを最初に言いなさいよ!そんで早くしなさいよ!」
ベンチから手を伸ばしたそらの片手がレイのスカーフを引っ掴めば、レイはそらの前にひざまずくしかない。
レイ「落ち着いて下さい。また、この話は6年前にもいたしました。
この12年間、我々の本星や、分遣部隊が地球からの事象地平の向こうにもいくつかの中継点を設置し、捜索活動を続けておりますが、倶雫様の自我はこの宇宙の90%の領域では発見されておりません。大変申し訳ありませんが、我々にも有効な対策を立てられないのが現状です」
そら「あんた!なんて無責任な宇宙人なの!子供のあたしにそんなことを一回言っただけで済んだと思ってたの?ぶっ殺すわよ!」
椅子から真横に伸びたそらの足がレイの顔面を蹴り、踏みにじる。宇宙人の駐留するサングラスはバリアで割れる事はない。スニーカーに顔面を押されたまま、レイは言葉を継ぐ。
レイ「大変申し訳ありません。万死に値する事は承知しております。しかし、我々のうち何億人が死んでも意味はありません。そら様と倶雫様をお守りするため、生かしていただきたく存じます。
そして、思い出して下さい。そら様。そら様は倶雫様の夢を見る力があります。この力は現在の我々の科学でも解明のできない物です。
そして、その倶雫様の夢が存在するということが、倶雫様の自我に至る手掛かりになるとの仮説もあるのです。
……申し訳ございませんが、この事も6年前にお伝えいたしました」
そら「……あたしが、お兄ちゃんを助ける、鍵……ッ!
そう……。
ちょっと待って、頭を整理するから。あんたの話は社の授業より入り組んでる」
レイ「はい」
深く腰掛け、何度も息継ぎをしながら、そらはジュースを飲み干す。片膝を付いたままのレイが差し出したシルクハットの中の異次元ゴミ箱に空き缶を捨てる、その指が震えていた。
そら「……。ん……。あんたたちの事は大体わかったわ。それにしても、あたし、あんたたちの事を何にも知らなかったのね」
言いながら、そらはちょっと猫背気味になってしまい、垂れた髪を背中の方に掻き直す。
レイ「6歳のそら様と初めて謁見した時に概略はお伝えしてあったのですが」
そら「またそれか。あはは……。6歳で覚えてるわけないわよ。
やっぱり、あんたは宇宙人ね」
座っているだけなのにそらの鼓動と呼吸が乱れ、いつもの憎まれ口にも力が入らない。
レイ「6年間同居いたしましたので、知っていただいていると認識しておりました」
そら「うるさいわね。自動車のエンジンが動く仕組みだって、こないだ社に教えられるまで知らなかったのよ?あたし。
あんたも車と同じ。いつも見てても気にならなかったら知らないわよ」
レイ「そうですか」
そら「そうよ。じゃあ、次の質問ね。そうね……」
背もたれに長い髪を沈めて目を閉じて、ゆっくり五回呼吸した。
そら「順番から行くと、殺されたあたしたちはどうやってよみがえったのか?ということね」
言い終わってから目を開け、レイの返答を見る。
レイ「それは、まだ本星の元老院議会が地球に滞在していた時、我々奴隷諸国連邦が編成される前の事となります」
そら「また、長くなりそうね。なんかさ、お兄ちゃんの病院に行きたくなった。そこで聞くわ」
座ったまま、そらはレイの手を取ると、ソレイユ病院の近辺へと飛んだ。