玖足手帖-アニメブログ-

富野由悠季監督、出崎統監督、ガンダム作品を中心に、アニメ感想を書くブログです。

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創作幻視小説版「夢兄妹寝物語」 2003年9月 第9話 第2節

サブタイトル:第9話 [家庭教師VSニンフェット!頭令兄妹誕生の秘密です!!]

  • 四つ辻にある四つの塔のある新豪邸の来客用昼食の間


 頭令そらは、7月に24時間テレビジョンに出演し、先月にはそれに絡んでマスコミや少女売春組織と揉め事を起こし、目を付けられた。そのために今まで住んでいた被差別部落地域のボロアパート四ツ屋荘から、ソレイユ病院と同じ都道府県の田園の片隅にある、豪邸に転居することになったのだが、これらを用意したのが、先月そらと知り合った金髪に白い仮面を付けた家庭教師・社亜砂(やしろ・あずな)であった。
 東西南北に角を持つ一辺100メートルの正方形の敷地の中に、45度傾いて東西南北に面を持つ一辺40メートルのピラミッド型の屋根を持つ広大な屋敷の一室、来客用の昼食を取るための部屋に、社亜砂と頭令そら、そして頭令そらの養父である80歳くらいの老人、頭令礼一郎が、白く長い食卓を挟んで居た。

社「気に入ってもらえましたかな?頭令さん」
レイ「ええ、息子の転院、娘の引越しまでお世話になり、ありがたいです。その上、手料理までごちそうしていただきました。あなたは有能な人間です」
 と、頭令礼一郎の顔と黒い和服羽織を被った宇宙人レイは、社亜砂が頭令家お抱えの宇宙人メイド3体と豪邸の厨房で作った引越し祝いの料理を、その口の中に作成した異次元空間に放り込みつつ、向かいに座る仮面で目と耳を隠した赤いスーツの男に礼を言う。
そら「田舎だけど、私は別に気にしないし。良い家だとおもうよ。四つも塔があるお城みたいな所が面白いね。ま、社は手続きをしただけで金を出したのはあたしだけど」
 レイの隣の下座に一応は座っている白いブラウスに紺のスカートを穿いた少女が、そら。テーブルの双方の背後と出入り口の三か所に、同じ顔をした三体のメイドが控えている。
社「それでも数十億の物件ですし、今後の進路の相談もありますので、そらさんを養子にされたお父様にわざわざ、お出で願ったわけです。この手料理はささやかな感謝の気持ちとお考えください」
レイ「確かに、重要な事ですから、私も社さんに直接面会する判断をしました」
 普段は頭令そらの直接の執事である宍戸隷司を名乗るレイだが、今は頭令そらの偽造された戸籍上の父である富豪の老紳士・頭令礼一郎の姿に化けている。頭部に被った人間の皮を膨らませ、髪型を変え、人型ロボットの体を折り曲げて、肥満体の老人に変形しているのである。
社「礼一郎さんは普段は海外で投資活動をされているとか。その割に、養女のそらさんは質素な所に住んでいらっしゃったのですね」
そら「あそこ、身元の審査が楽だったのよ」
社「なるほど。では、私はこの屋敷を買い取る手続きに役立つことができたというわけですな。ここも辺鄙で人目に付かない屋敷ですが、昔は没落貴族の邸宅だったらしく、それなりに由緒のある建物なのですよ。今日はいらっしゃらないそうですが、執事の宍戸隷司さんも気に入ってくださいましたし」
 ”宍戸隷司”と言った時、仮面のレンズの奥の目を細めて社は、レイに笑いかけたと宇宙人達は察知したが、宇宙人にはハッキリと地球人の嫌味はわからず、そらはそれは見ずに、社の用意した豪奢な食事にガッついていた。
そら「もぐりもぐりもぐりもぐり……ごっくん。こくん。私、こんなものを食べるのは初めて。面白い味ね。なんか皿も無駄にピカピカしてるし」
社「家庭科も教え甲斐がありそうです」
そら「あら、うちの執事が作る料理も、必須栄養素が入っていたわ。ねえ、お父様」
 そらはニヤニヤして、養父に変形しているレイに話を振る。自覚は無くとも、珍しい物を食べ面白がって興奮してふざけているのは年相応の子供だ。9月のまだ暑い昼の光が西側の窓から射し、そらの唇を濡らすオリーブオイルを光らせている。
レイ「うむ。宍戸隷司は、そらの健康を第一に考えている」
そら「そうそう!隷司もがんばってるのよね、お父様っ!アハッ」
社「しかし、頭令さん。料理や食事には栄養だけでなく、人間にとって大切な文化や歴史、そして知恵や品格も込められているものです。頭令そらさんは今まで独学でいらっしゃったそうですが、それでは視野が狭くなりすぎる」
そら「それで、家庭教師をやりたいって言うのね。あんた」
社「そうだ。そして来年の春には君を山向こうの私立セントウォーター女学院中等部に入学させる。ちょうど学年も合う」
そら「ヲタ女って名門じゃない。半年でお受験?」
 長いまつげの目を細めてスープをすすりながら、そらは鼻で笑う。
社「そらさんの模擬試験の結果ですが、理科と算数は今すぐにでも編入できる成績でした」
そら「なら、別に中学に行かなくても今まで通り独学でいいじゃん」
社「社会の成績と一般常識と心理テストは、メチャメチャだったがな」
 今度の社は口も使って笑ったので、そらはカチンときた。
そら「確かに、そーいう本はあんまり読んでない。でも、たまたま、今、そうなってるってだけの人間の社会の事なんて意味がないわ。
 私は、植物人間の兄を救う方法を見つけようとしてるの。それはあんたもあたしをストーカーして知ってんでしょ?なんで中学に行ったりして、無駄な周り道をしなきゃなんないのよっ」

レイ「そら、スープをひっくり返すのはやめなさい」
 そらが喋りながら激高し、机を殴りつけたので、レイが父親役を演じる。
そら「お父様は黙ってて!」
社「そういう態度を、君のお兄さまが見たらどう思うだろうな?」
そら「なによ!」
 動物の耳を模した付け耳カチューシャと眼鏡をつけた3体のメイドが、ひっくり返された食器や汚れを片づけている間、そらは社をキッ!と睨む。
社「つまりな、貴様はお兄さまを目覚めさせることだけにとらわれ過ぎているというのだ。お兄さまが目覚めた後の事を考えた事はあるのかな?」
そら「話をすり変えないで」
社「すり変えてなどいない。むしろこれが本題だ。
 貴様が先月東京ドームの地下で暴れた時に何人死んだか覚えているか?24時間テレビジョンの影響で人生が狂った者の数は?」

そら「最初っから知らないわ。だいたい、あれは事故よ。今までに、あたしが手を下したやつは一人もいない。そうよね?ミイコ」
ミイコ「ええ、そら様。そら様は何も悪くありません」
 取り替えたテーブルクロスを整えながら、四角い眼鏡をかけたメイドが言う。
社「3月だったか?君の前のアパートに来た民生委員の女性とトラックが接触事故を起こして怪我をしたのも、貴様たちのサイドカーの乱暴な運転が原因だったらしいではないか」
そら「あら、その頃、あんたはまだ塀の中にいたんでしょ?熱心なストーカーね。
けど、あの事故でも私が悪いっていう人は誰もいなかったわ。隣に住んでたヤクザの車がおばさんを巻き込んで勝手に転んだのよ。
 こないだあんたがそいつらを始末してくれたのは、ほめてあげるけどさ」

社「やはり、貴様には何も見えていないな」
そら「私にはあんたが何を言いたいのかわからないわね」
レイ「あまり、娘を挑発しないでいただきたい。あなたは娘の進路相談のために私を呼んだはずだ」
 レイは主であるそらが暴発したり、得体のしれない仮面の男に宇宙人の秘密を暴露すまいか、また自分が暴力を振るわざるを得ない事態にならないか、それを懸念した。
社「失礼。わかっていただきたかったのは、頭令そらさんに何が足りないか、です。足りない部分を補い、導くのが家庭教師の仕事ですので」
そら「足らない足らないって失礼ね!私に何が足らないってのよ!」
社「人への共感と配慮だ」