玖足手帖-アニメブログ-

富野由悠季監督、出崎統監督、ガンダム作品を中心に、アニメ感想を書くブログです。

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傷物語I鉄血篇の演出を初見で解釈(明示暗示される意思)

演出過多な映画だったので、演出について書こうと思う。
初見で解釈するのはどうかと思うが、初見も糞も一介の精神障碍者に過ぎない僕には映画を2回も三回も障碍者割引で買う余裕がないのだ。なので、今回も頭の中で感想を書きながら映画を見るという邪道をした。


あらすじは例によって外注。僕が書いても他人が書いても同じになるところは外注で済ますのが後発の強み。ジェネリックです。

TVアニメの無機質でカラフルで、シルエットに近かった背景は、映画ではほぼ現実の映像を加工したようなCGとなっており、それに伴ってキャラクターデザインも、かなりリアルな感じに変更されていました。


暦の家や学習塾のデザインも変更。暦の家はテレビシリーズとは違い、丘の上ような場所に1軒だけ建っており、室内もフローリングなどがリアルに描写され、現実的な"家"に近い内装に。学習塾もどんだけ人が収容できるんだよ!
b9life.hatenablog.com


nlab.itmedia.co.jp


尾石達也に関するブログ記事まとめ


各界の反応。

尾石達也、再び。

というわけではないけれども、いい意味でまどマギのあの不気味さ(女の子いじめではない)を思い出す。

シャフト臭い。そもそも怪異全開の異能伝記バトルが傷物語なのだ。


homusora.hateblo.jp

 ハイパーリアルな美術の中を時に繊細に、時に荒々しい線で描かれたアニメキャラクターが跋扈する画面のインパクトがまず半端ではない。丹下健三の手になる山梨文化会館をモデルにしたと思しき建物を背景に、アニメっぽいキャラが活動するのはそれだけで異様。というか予告でも出てきたこの建物がまさか学習塾跡だとは。


 冒頭、その廃墟のビル(山梨文化会館)を阿良々木がひたすら歩くわけだけれども、そこに言いようのない迫力みたいなものが宿っている。ストーリーの語りと離れて会話のための会話ともいうべきだべりが多用されるのが『化物語』の演出の特徴のひとつだといえると思うんですが、『傷物語〈Ⅰ鉄血篇〉』においては会話劇はそれほど前景化しない代わりに、演出のための演出ともいうべき饒舌な作画と美術が演出を特徴づけている、という感じがする。ドラマツルギー、エピソード、ギロチンカッターの敵役三人組の発話は声が加工されているためまったく聞き取れず、会話不能に他者として現前するのも、会話劇であった『化物語』と対照的な作風を端的にあらわしている。
amberfeb.hatenablog.com

作画に気合が入り過ぎなおぱんつ様も劇場版の豊潤な予算で揺れまくるおっぱい


エロ本のくだりを経て(酷い落差だ)メインとなるキスショットとの邂逅シーン。もうこれ、ホラーですよね。原作だと地下道だったような記憶があるのですけど、駅の入り口から入って、階段を降りて、エスカレーターを降りて、駅のホームへ…というこの阿良々木さんが恐る恐る声のする方へ近寄っていくシーン、先に待ち受けているものが何なのか観ている人は知っていてもやはり阿良々木さんの感情に入り込んでしまいます。怖い場面ですがすごく上手く演出するなと思いました。


「くぁwせdrftgyふじこp」とあったのは慌てふためく様子を表したのでしょうが、さすがにこの場面においてはねーよ!としか言いようがありませんでした。


吸血鬼殺し登場。会話の脱線もなく物語のすじも非常にわかりやすいので、つい最近のアニメ終物語なんかを思い出すと、これが同じ物語シリーズなのか…という気分にもさせられます。そういう意味でも原点な作品傷物語。今回に限れば3人とも忍野に見せ場を与えるためだけの存在なので出番はここだけでしたが、台詞も阿良々木さんの混乱モードの演出によって加工された音声、しかも聞き取れないという、声優さんからすればちょっと悲しい扱いとなってしまいました。まぁそれはさておき、忍野の登場シーンですよ。あほみたいに動きまくっててめちゃくちゃかっこよく描かれています。


今回の傷物語は、冒頭に太陽に焼かれ炎上する阿良々木さんのシーンを持ってきたり、キスショットとの出会いの場所を街灯の下から地下鉄のホームに変更したり、テレビシリーズで描かれた建物や町並みのデザインを変更したり、そして何より阿良々木さんのモノローグを一切描写しないという大胆な手法を用いていたり…とにかく演出や構成の端々にに腐心した形跡がありました。

sail-kamihitoe.hatenablog.com



尾石達也というのはアニメ演出家でカルト的な人気のある方でとにかく個性的で癖が強い。傷物語の監督、演出、絵コンテをやっている人です。(総監督は新房昭之)どんな演出をする人か。適当に特徴を列挙するとシャフト作品でやたら実写演出が目立ったら大体この人がやっている、タイポグラフィーの効果的な多用、音楽のPVやCMみたいな感じの気持ち良い映像のリズム、など色々あります。化物語物語シリーズ一期)でシリーズディレクターを務めた後、傷物語の制作に専念していたので尾石さんの関わる作品に触れるのは化物語以来久しぶりでした。傷物語はこれら尾石センスみたいなものが炸裂していて好きな人にとっては最高だと思います。
aamm-3333.hatenablog.com



つまりどういうことかというと記号演出が強いわけです。
実写を加工した切り絵気味のCGの背景です。実写ではないのです!かといって絵の背景でもない。実写素材を加工している背景画像であるが同じ樹木や煙突をコピペして増やしていて、実写の自然さではなく実写の素材としての強度を意図的に使っているわけです。
水面は圧倒的に水面であり、対岸の工場は絶対的に工場であり、自宅は自宅でしかなく、学習塾跡は必然的に廃墟であり、羽川のおっぱいとパンチラは尊いのでエロ本を買いに行くのは宿命であり、日の丸と日光は物理法則を超越した掟として吸血鬼を焼くのです。
そういう記号なんだからそうなんだよ。そう決まってるんだ。


作画もそうなのです。ものすごい濃いリアルな巨乳の白人のキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード中村明日美子の美少年のような阿良々木暦君や、かと思えばギャグ漫画のような絵柄のアララギくん、かと思えばエフェクトが炸裂する炎になった阿良々木君や、かぐや姫の物語の疾走シーンのように鉛筆のタッチが目立つ走り方や、ものすっごい動画を使って3DCG背景の中をゆっくり歩く阿良々木君や様々な阿良々木君が見れる。


原画 の後半ベテラン(ゲスト枠?)クレジット
名倉靖博 梅津泰臣
吉成鋼 吉成曜
ウエダハジメ

キャラクターデザイン
渡辺明夫*1
守岡英行


様々な灰汁の強い絵柄の阿良々木君が見える。あと、巨乳。あと筋肉。


これも全て記号としての強度を増すためでしょう。
血は厳然として血であり、SOSは誰が聞いてもSOSであり、地下へと続く階段を降りるのは否応なく降りざるを得ないし、死は死であり、怪異の王の声の本気の命乞いと赤子には勝てないし、手足が取れて血が出てる女を抱き上げたらびっくりして投げるのは当たり前だし、混乱した阿良々木君が携帯電話で救急車を呼ぼうとして「くぁwせdrftgyふじこp」と入力しているのは混乱している人としてこなすべきノルマだし、阿良々木君が命を擲つのも物語として当然なのです。


そういう話なんだからそうなんだよ!


阿良々木君が地下鉄のホームで列車が通過するところでキスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードと対面しても、駅にはモブキャラや他の人物はいない。
舞台演劇のように4人しか声優がクレジットされていない。(3人の吸血鬼ハンターの声はご丁寧に加工されていて聞き取れない)(熱血篇の予告編ではしゃべる)聞き取れないので絶対的に敵なので話し合いができないのだ。



なぜか。


「シャフトの記号的演出だよねー」ということは簡単だ。だが、記号は記号なのである。文字は文章で文脈を作り伝達するためのものなのである。
では何を伝えたかったのか。


それは意思の強度だと思います。


それは阿良々木君の人間強度とか、ほかの人間に影響されて行動するような人間ではなくまさしく主人公としての阿良々木君らしさでもある。同時に演出家の「これはこうなんだ!」という意志の強さでもある。
とにかく演出過剰で、走るときは全身で走るし、一歩を踏み出す決意は重たいし、体重を引きずりながら歩くし、泣くときは腹の底から泣き叫ぶし、燃えるときは全身全霊で燃えるし、吹っ飛ぶときは大いに吹っ飛び、「おいおい、なんでそんなところから飛ぶんだよ。何かいいことあったのかい」というくらいものすごい高さから落ちてくる。


意思の話なんだなあ。
阿良々木君の主人公性は特に身体能力に優れていたりすごく頭が良かったり超能力が使えるとかすごく金持ちというわけではなく、「することにしたことをする」という点なので、それを引き立てるために、こういう演出にしたのは得心が行く。舞台演劇のように極度に記号化した背景舞台装置やキャッチーな絵柄や動きや、人が意思の力で引いた線の動画や、選択の意思で切った絵コンテが「決定論」的な「圧」をこの映画に与えている。



正直、話としてはクエスチョンマークが多い。
そもそも吸血鬼ってなんだよ。とか、なんで出会ったんだ、なんで命を差し出すんだよ、なんで吸血鬼ハンターとナチュラルに敵対してるんだとか、なんで借金を背負わされるんだ…。なんで羽川翼ではなく戦場ヶ原ひたぎを選んだんだ。
とか、いろいろな疑問点が多い。


そんな疑問を抱かせることすら許さないように、演出が濃いし、記号で純化されて、「これはこうなるのが当たり前なんだ」「こう進むことに決まったのだ」という説得力を伝えようと頑張っている。
「勝手にそうなるだけ」という化物語らしい思想を文章とは違う形で表現している。


まあ、それでもやっぱり原作者本人や新房昭之総監督ですら「なぜ羽川を選ばなかったのか」とか未だに悩んでるらしいし、視聴者がそのメッセージを肯定するかどうかは、やっぱり阿良々木君がそうであるのと同じように、みんなに選ぶ権利があると思う。まあ、作品を作る人は作る人で見る人は見る人なんだけども。

傷物語 涜葬版


そろそろ夕飯を作るので、感想をまとめるわけだが。

富野由悠季信者の映像の原則厨としては、超かっこいい救いのヒーローの忍野メメが舞台のめちゃくちゃ上手の上の方のすごい高い煙突から飛び降りて超ピンチの阿良々木君を助けに来るところがスーパーかっこよかったです。
あと、阿良々木君を助けて廃墟まで案内する道中や学習塾跡の会議シーンで忍野が阿良々木君に頼りがいのある所を見せるところでは忍野は画面上手で、
逆に予告編で見せたように阿良々木君がベンチで隣り合って座って忍野にビビり気味で疑惑を感じるところでは阿良々木君の下手に忍野が座っていて、学習塾跡の会議シーンで忍野の提案を聞いてから吟味して咀嚼している阿良々木君は画面の外からアホ毛を出しているだけだったりするところが、映像の原則を繰り出しているというか、新訳機動戦士Zガンダムカミーユとクワトロ大尉みたいな関係性だなーって思いました。
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忍野に対して阿良々木君が「借金するよ」っていうところでは上手から阿良々木君が意思の力を見せたので、ここら辺の忍野に対する阿良々木君の映し方の上手下手の切り替えのカット割りはすごい判りやすくてなるほどなーって思いました。
映像の原則 改訂版 (キネマ旬報ムック)
highlandview.blog17.fc2.com



記号表現が多いアニメだけど、それで衒学的に混乱させようとかおしゃれな雰囲気だけ匂わそう、とか情報量を増やそうというわけではなく、記号の力を使ってすごいわかりやすい風に「意思」を込めていたのが特徴的だなあ。


実は原作は読んでないというか、同じ三十代の西尾維新先生がうらやましいしねたましいというか、アニメーションは芸能だから文化的経験として映画鑑賞は多少わね?
傷物語 (講談社BOX)


なのですが、原作にあった阿良々木君のモノローグセリフをものすごい削ったらしい。
どういうセリフが削られたのかは知らないけど、まあ、迷ったり困ったりする一人称なのかなあ。しかし、それを削ることでより一層、アニメ版では「勝手に阿良々木君が助かったり助からなかったりする」っていう必然性とか、キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードの「圧」とか「存在感」が高められていたかと。


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でも、続くバトル熱血篇とか冷血篇では悩んだり羽川と会話したり感情を揺らしたり人間を超えたり人間に戻ったりするいろいろな阿良々木君が見れるんだろうなーって思いますし、敵の吸血鬼ハンターとの西尾維新セリフの言い争いもバトルに華を添えるんだろうなあ。
いろいろなアニメが見れそうで楽しみです。


業物語 (講談社BOX)


でも、終物語のアニメそだちロストはもうちょっと最後まで井上麻里奈さんでシコらせてほしかったけど、ラストの渡辺明夫さんのエンドカードの水着老倉育はシコれた!


ぽよよん・ろっくキャラクターズ