玖足手帖-アニメブログ-

富野由悠季監督、出崎統監督、ガンダム作品を中心に、アニメ感想を書くブログです。


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リーンの翼新装版4巻 第十二章「王の奸計」

アニメ版4話「王の奸計」の前半、エイサップ君が反乱軍の基地に恭順同意書を届けに到着するまで。
今回の見どころは、大会戦が始まる前の、作戦会議や、密会、出撃における各人の描写というところか。
破局の前の、人間関係を、いちどクリップするという感触。
しかし、意外とアニメ版とやっている事自体は同じなんだなあ。これは、富野小説が事件レベルでアニメからかなり内容が変わっているという事が多い、という過去の事例に比べたら非常に異常だ。
だが、それなのに、かなり印象が違うな。
アニメは、本当にドキュメンタリーチックというか視聴者が理解できないくらいの、現実に匹敵する情報量を、現実と同じくらい無造作かつ説明抜きで提示するアニメだった。
小説は、アニメと内容の事柄が同じであっても、行間というか、登場人物の心理描写が追加されていたり、リアクションを芝居ではなく文字で書いてあるために理解しやすい。というか、アニメでは見流していて、小説でやっと意味が分かった部分とか多い・・・。
特に迫水王の「アマルガンを縛ったり鞭で打ったりさせて悪いなあ」って思いながらやらせるというのは、小説じゃないと、悪いと思ってる事自体が分からんしな。いや、アニメでもちょっと表情の芝居を追加したらニュアンスは出せるんだけど、アニメ版のリーンの翼だと、本当にやりっ放しな部分が多かったからなあ。すごい一方的に拷問とか侵略をする暴君って感じが多かったアニメ版。
小説だと、「やりたくないけど、部下や臣民の手前、また、異邦人の自分が部族社会を統率するために、威厳を保たねばならんので、旧友アマルガンを苦しませるのもやむなし」という、行動の裏の心理や、それを醸成した状況が見えてる。
アニメでも、安彦良和湖川友謙みたいな役者だったら分かりやすかったか?
でも、アニメも小説を踏まえてよく良く見直したら、作戦会議で迫水王がロウリィと鈴木君では露骨に眼の色とか声色が変わってる。ロウリィは情報源として話を聞くけど、ロウリィの個人的な要求など、余計な話は一喝して黙らせる迫水。鈴木君が慎重な意見を言うと、ちょっと満足そうに「うむ」って婿の知性を喜ぶような小山力也の頷きである。
迫水可愛い。
こういうメディアの違いの相補性は面白いな。


てなわけで、かるーく見どころを整理。

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  • まず、ロウリィと金本とテロリスト

まあ、こいつらは小物でワンセットなので、こいつらから。
こいつらはなんか、太郎冠者と二郎冠者がちょっと悪くなったって感じですなー。
賢いが空気の読めない過激派のロウリィが要らん事を言って迫水に怒られて黙ったら、頭脳派の金本が言葉を継ぐっていう文章上の機能を持ったキャラだなー。
今回は迫水王の地上界侵略図上演習に参加します。
一応、この図上演習会議は、「万が一オーラロードが開かれた場合、日本国を早期に制圧する作戦であるが、オーラロードが開かれる可能性は低いので、地上人の見聞をコモン界の若い武者に伝えて、士気と世界への夢を持ってもらうのが目的」との名目での物。
アニメでは「地上界侵攻」を重点的に言われていたけど、小説では「若い物に夢を持たせる」という事の方を強調してる。迫水王はちょっとアニメより、まるくなってる?
というか、やっぱり6話2時間弱では無理な内容の物語やったんや・・・。
まあいい。


矢藩朗利と金本平次は演習で、アニメ以上に地上の東京の防衛システムとか、地下の構造をペラペラと迫水に話す。大江戸線や防水壕を通って首相官邸自衛隊を制圧する方法とか、押井守的な知恵を異世界の王に授ける学生とか、希望の国エクソダスナルニア国を強引に混ぜたようなカオス小説だな。これ、何ジャンルだ。まあ、富野だから仕方がない。あるものは全て描く。
あと、こういう学生でも、「憂国の志は現役ですから、自分の国の急所はわかってますよ」と言って、自衛隊の海楽と田中以上にペラペラと内部情報を話せるのが日本の危機管理のずさんさかなー。オウム真理教の作ったソフトを防衛庁が買ってたとか、富野の小説のなんか出てたし。そういう時事批評はありますね。
まあ、ネットがすべてではないと、金本は言ってるけど。


ただ、そう言うロウリィと金本に対して、「君たちの憂国の志は認める。エゴイスティックなのもよかろう。成果を出せ」ってピシャッと言う迫水真次郎王はやはりすごいかっこいいな。


ロウリィが「反乱軍が恭順しちまったら、戦争が出来ねえだろうが!」と怒るのに対して在日韓国人三世で岡目八目な金本が「日本は戦争に負けたから経済大国になったんだぜ。戦争だけがオーラを高める物じゃないよ」って言うのが、彼らの持ちつ持たれつな関係だなあ。
そこに、「さようさ、王は反乱軍の全てを利用してオーラロードを拓こうとお考えなのじゃ。そなたらもよく働けよ」ってコドール女王が割って入って、無駄にセクシーな衣装(でも貧乳なのが逆にリアル)をこすりつけるようにロウリィと金本の二人に言い含めて、それをコドールの間男のコットウ将軍が双眼鏡で覗き見て「王妃も何をお考えなのか」と愚痴るとか、いろいろややこしくなっていて楽しい。

  • 海楽と田中とセックス

だいたい、この作品はツーマンセルが多いな。
迫水、コドール、エイサップはハブとして関係性を作ってるけど。
えーと、大体、この二人は異世界に飛ばされた自衛官なんですが、70年前の迫水のように「勝たねば死!」という状況でもなく、異世界で出世をしたいという欲も必要もないので、あんまり行動しない。慎重派。もちろん、地上に帰るための動きと、ホウジョウ国で飯を食うために能力を発揮して見せるっていう大人の戦い方はしているのだけど。帰り方もよくわからないしなあ。
憂国のために戦争したがるロウリィと金本に対して、現実的に対処する大人って感じだな。まあ、同じ山口県岩国市民でも、思想テロの学生と、喰うための自衛官では行動原理が違うと。


というか、むしろ今回の彼らの見せ場は
田中「フェラリオはセックス好きなら、平和の使者なんですかね。みんな仲良しが好きな連中でしょ」
海楽「だから若いってんだよ。セックスってのは、あれ、戦争なんだぜ」
田中「えーっ!あれ、仲良しするものじゃないんですか?」
っていう、アニメでもあった問題のシーンだな。
小説で追加された説明によると、海楽さんは奥さんをオーガズムに導くために2,3日前から準備したり、セックスで失敗したら一ヶ月くらい生活に響くという生々しい夫婦生活らしい。妻帯者は頑張ってるなー。というか、良い旦那さんじゃないの。自衛隊の救命艇の機長って、かなり能力もあるし、体力もあるんだろうなあ。うーん。すごそう。
でも、妖精のフェラリオに「祈ってくれ!俺たちと一緒に岩国に行こうぜ!」「奥さんどうするんです?」「そう言う事は考えないの!」と、微妙なオカマ言葉です。わははは。富野だ。というか、海楽はイケメンだなー。


しかし、アレだ。
戦後のホウジョウ国では妖精のミ・フェラリオの大きさが30センチから1メートル以上の幼女の堀江由衣エレボスに成っただけでなく、フェラリオに対する若者の認識が変化してるなあ。
迫水がフェラリオを開放する時に田中に対して「若い女のフェラリオはコモン人の男どもに人気がある。あれらを与えるだけで、反乱軍の大半は武器を捨てる。そういう淫売だ」と簡単に答えたが。
リーンの翼の前編で、ミ・フェラリオのスパイの少女のノストゥ・ファウについて、コモン人の武者たちが「フェラリオにフェラチオさせるなんて、他の女が抱けない男だって馬鹿にされますっ」って言ってたのだが。アニメ版のリーンの翼でも、エ・フェラリオたちと救命艇07に同乗したホウジョウの武者が「フェラリオを見るんじゃない!触るんじゃない!」って上官にけがれたもののように注意されていたが。
小説版の後編だと、オタク趣味やメイド趣味の想念がバイストン・ウェルの若者に浸透して、軽薄に成ったのかな。そーいえば、アニメの3話で反乱軍の若者達がホリエレボスに言い寄って「あたしにも選ぶ権利があるんだよっ!」って言われたり、4話で「あいつら下品だ!」って言われてたりしたな。
エレボスはチャム・ファウと同じように、欲望のままに生きるフェラリオの中でも、勇気と賢さを持った可愛い妖精って感じ。エレボスは自分と一緒につかまって飛行艇の中で縛られているフェラリオ達に「今は祈るんだっ!」叱咤激励するし、フェラリオの中でも存在感を放つ。だから、次章でジャコバ・アオンの巫女に成るんだよな。
で、バカな淫売のフェラリオがエレボスに「あたしは祈るより、ご主人様の所に帰りたいだよっ!」って叫ぶのはエロ萬画の想念に対する富野なりの批評性を感じるな・・・。というか町田ロードがひらけます。
あと、小説エレボスがホウジョウにつかまる前に、大ペリカンを騙して空を飛んでみたり、ホウジョウのマットウタの町の市場を珍しげに散歩したりって言うのは妖精少女らしくて可愛いな。とんがり帽子のメモルっぽい。
で、容赦なく緊縛するのが富野な。


それと、迫水王に仕立てられたプリキュアみたいにかっこいい鎧や専用のナナジンを与えられて、王と手を組んだように見えるエイサップに対して、海楽が「アレックス・ゴレム岩国基地司令とパパブッシュ艦隊のエメリス・マキャベルが手を組んだみたいだな。親子って同じような事をするんだな」って批評するのが、バイストン・ウェルと地上をも含めた人間関係の相似性を分かりやすく言ってくれてるな。
というか、海楽は一歩引いて批評する係の人物か。

  • エイサップと武者

カスミだけでなく、武者カリギュラという新キャラが良い味を出してるな。
地上界侵攻についての図上演習の時、カリギュラとエイサップがテレパシーで口げんかするのが良いな。
反乱軍に騙し打ちをしようとし、地上界で戦争をする事を想定しているカリギュラに対してエイサップがキレるのが、エイサップが潔癖で男らしいと、アニメよりは評価が上がってる。
というか、エイサップがバイストン・ウェルという人の心で出来ているために、心が読まれる異世界で謀略に巻き込まれないように自分の表層意識を気取られないように気を付けたりするのがニュータイプっぽい。
気を付けてるけど、戦争に対しては激高して意識を飛ばしてしまうのがエイサップの若さか。聖戦士を戦に利用する事に対しての怒りか?
しかし、そういうテレパシーでの喧嘩も迫水王は感知して、「双方ともやめよ。オーラロードが開けるかどうかについては、あくまで想定上の事でしかない」と場を収めるのが王だなー。テレパシーの喧嘩を収める王ってのはすごいぞ。しかも、自分の計略については想念の部分で黙っているという自制心がすごい。
武者カリギュラとエイサップに迫水が「気易く喧嘩ができる相手というのは、戦場では良いパートナーになれる」と取り持つのが王の威厳であり、ディレクターぶりだ。カリギュラの出番は少ないけどね・・・。地上に出た後もダーナ・ガハラマくらいの存在感のある武者だったら面白かったけど、そこまでの余裕はなかったのか・・・。

  • エイサップと王と王妃とセックスと姫

図上演習の席において、迫水王がコドールの差し出した書類を読み終わり、微笑するのを見て、エイサップは敏感な青年なので、「アレが夫婦か」「そうか、セックスしてんだ!」って富野っぽい思考の飛躍をするのが富野。
あー。
それで、「そうか、俺もリュクスとセックスできるかもしれん!っていうか、最初に遭った時から抱き合ってたじゃん!」ってそこまで飛躍してしまう。あらあらうふふ。やっとラブに気付いたのか。この草食系男子が!
マッチョ迫水王と浮気症コドール王妃の淫靡な肉食オーラを目の当たりにして、やっと気付いたのか。
エイサップは第十章で、迫水王のオウカオーとナナジンで対決した時、操縦席に相乗りするリュクスの尻の温もりを大切に感じたので、死なぬように逃がしたのだが、性的な対象とは思ってなかったのね。なんて優しい紳士なのか。
で、第十一章でリュクスを取り戻したが、またリュクスは牢に閉じ込められて離れてる時にエッチについて気付くとは、どれだけ鈍感な21世紀少年なのか。
で、その時に勃起しそうになって「しずまれーっ!親父が目の前に居るぞーっ!」ってなるのがもう、富野過ぎる。
しかも、テレパシーでそう言うのが伝わる世界だから、もう、危機感がすごい。チンチン立つだけなのに。チンチン立ってるのがばれたら死刑に成りかねないという・・・。富野小説は1ページでこれだけ飛躍するから手に負えない。


まあ、案の定、そういう雰囲気は口には出さないがコドールと迫水に伝わって、コドールは「エイサップ殿をリュクスに会わせてあげましょう」という風に恩を売るし、迫水は「エイサップとリュクスか・・・」と感じ入って、最初の妻のアピアとの結婚写真、死んだ長男のシンイチを抱いた二番目の妻でリュクスの母のエミアの写真を見たりと、老人というか父親らしい事を思いつく。
迫水が家族写真を気にかける様はぐっと来る描写だ。
しかし、コドールとの写真は一緒においていない。「あれが大学院の頃の写真なら・・・」というのが、現在の夫婦の複雑な関係だ。
コドールは幼馴染で同じ部族コットウ・ヒン将軍と姦通しているし、違う部族の血を引いているリュクスを憎んでいる。それを迫水は半ば知っていても黙っているようだ。これが、まあ、政治と絡めて後妻を娶った王という立場だな。
むしろ、コットウに対しては迫水の方が横恋慕したのではないか、という気分で容認しているのかも。源氏物語の朧月夜と内通した光源氏に対する源氏物語千年紀 Genjiの朱雀帝のような感覚で。
コドールがコットウと結婚しないで、上昇志向の強い女で政治に関わろうとして、長く独身でいて、迫水と結婚したのが色々と面倒なことになった原因かもしれんが、そういう女と王の関係というのも、まあ、あるんだろうねえ。コットウとはセックスしていても、コドールは彼の男の器量を添い遂げるには小さいと思ってるようで。それで、器の大きな迫水王と結婚して両方を満足させようとするのだから業の深い女だ。


エイサップが迫水王のマッチョぶりを見て、リュクスをやっと女性として意識したのは、前章のリュクスに似ている。
リュクスはアマルガンに「あなたが聖戦士でないのなら、あなたはこの世界のリーンの翼とエイサップ殿を結びつけた仲介者なのではないですかな?」と指摘されて、そこでエイサップを初めて異性として意識するとか。
なんだこの純情カップルは。さいっしょっから抱き合っていながら…。
結局、肉食系おっさんの導きかよ!
まあ、迫水とアマルガンの肉食ぶりは異常。もう、恐竜とか平気で食ってるからな。戦場でもとりあえず一発だし。

  • とらわれたリュクスと親

で、継母の命令で国家反逆罪にされて死刑になるかもしれないというのが、一時、反乱軍と一緒に行動したリュクス・サコミズの立場だ。
この章では、コドールの差し金でエイサップと会話する。エイサップに恩を売るためか、エイサップがコドールの掌の中にある事をリュクスに見せるためか、という女王の思惑だ。
リュクスはエイサップと意識を交感して、彼が周りに気を付けているし、気力もあると思う。が、コドールの怖さも知っているから怯える牢獄のお姫様だ。エイサップの底力に期待するしかない。
次の場面で、リュクスは城の牢獄から、巨大戦艦フガクに移され、アマルガンの隣の営倉に閉じ込められている。
迫水が地上世界に出る事を想定しているから同行させるのである。そうなれば、コドールがリュクスをどうこうする場合ではあるまいという王の野望であり、また娘に対する愛情だ。
リュクスはアマルガンに地獄のガロウ・ランの長のメッヘルのように哄笑する王の威圧的な野望の声と、母に捕らわれた自分をいたわる父親の面と、両方を見る。
迫水王は厳めしい甲冑姿だが、それも「下の物に対する示しである」と娘に説明し、いたわりの声をかけるので、リュクスは何も言えない。さて、次章では迫水と切り結ぶわけだが。
この時のリュクスは己の無力感をかみしめるだけに成る。なるほど、気を溜める段階か。無力な姫というだけでない。爆発力を溜める。さて!


  • 迫水とアマルガン・ルドル

さあ。この二人がこの物語の最初から最後まで居るドラマなのだが。
今章はアマルガンが捕らえられて反乱軍に対する騙しのための血印を取られ、縛られ、閉じ込められ、迫水に挑発されるという屈辱の連続だ。
迫水はかつての親友にそういう事をしたのを悪いと思って、きつい縄を切らせてやったり優しさがアニメより増えてる。が、縛られたマッチョ老人の痛みの描写もアニメ版より増えてる。富野は縛りが好きだなあ。
それで、アマルガンの前で「娘が日本に行った。私も帰りたい。でもできない」って泣きそうになったり「私は王になど成りたくはなかった!」とぶちぎれて縛られたアマルガンにビンタしたり、「勇者アマルガン!私を憎め!憎むのだ!その心も吸い取ってオーラロードを拓いてやる!」って笑うとか、迫水王はやっぱり親友の前では本音を見せられるというか、すごい情緒不安定ですね。アマルガンをボコボコに嘲笑したすぐ後に娘を優しくいたわるとか。
王の心ェ・・・・。
やっぱり、老人の旧友に対する愛憎というのはありますね。
富野監督は「富野に訊け!」で中高生の交友関係の悩みについて、「あなたの歳ではそれは大事でしょうが、僕の歳になると、昔の同級生はいじめたりいじめられたりした相手でも、会えば友人です。そして、僕は友達が少ない。仕事上の人は多いですが。僕にとって友人とは、数年に一回会うかどうかという人です」とか言ってる。そう言う老人の感慨を、僕は実感する年齢ではないが、そういうものなのか・・・。
こういう人間関係は、やおいとかホモとか言うよりは、もっと深い人間性を感じて、まあ、結局、それはそれで萌えます。