玖足手帖-アニメブログ-

富野由悠季監督、出崎統監督、ガンダム作品を中心に、アニメ感想を書くブログです。

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リーンの翼新装版4巻 第十章「ホウジョウの王」

さて、ざっくり感想を書くつもりが、やっぱりアニメ一話分が2段組み80ページだとこってりしますね、って事で。
とりあえず、
はてなブックマーク - 玖足備忘録 - 2010年11月4日
とか、
リーンの翼コォナァ ガラマニ作
とか、本文とか、昨日読んだけど、大体忘れたので、なんとなく書きます。
リーンの翼 COMPLETE [DVD]

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  • まず、ファンタジー世界がスタートです。

アニメのリーンの翼の第二話に相当するのが新装小説4話ですが、これが一つの転換です。

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と、言うのは、ここから多重夢世界、集合無意識の物語が始まるからです。
1〜2巻はバイストン・ウェルに落ちた迫水真次郎が異次元世界で武人として生きて行きますが、それはそれで、その世界の現実なんですね。リーンの翼と言う謎の魔法具も出て来ますが、基本的にはちょっと空が飛べるだけの侍っていうリアリティでもある。
3巻では、ホウジョウ国建国と21世紀の地上世界の陰謀が交互に描かれて、それはそれで陰と陽の世界の人々の思想や技術が異種として並行しつつもすこしずつ近づき、違う楽器が同じような旋律を奏で始める予兆がありますが、それでもまだそれぞれの舞台は二つの現実世界として隔絶している。
2巻ラストのバイストン・ウェルから地上への帰還において迫水とリンレイとの意識が溶け合った一瞬はあくまで前編のラストであり、特異点です。
あそこで迫水は一度絶頂を極めたんですが、特異点なので、一気にまた次元移動します。
そんで、アニメ版1話の地上での出来事を挟んで、この「ホウジョウの王」の章で迫水が「白衣の男」として4巻に本格登場してから、多重夢というか夢主が定まらない本当のファンタジー、夏の夜の夢が始まります。
主人公もエイサップ・鈴木と迫水の競合体制です。グダグダです。
一段落ごとに視点人物が変わります。小説と言うより映画のカット割りだと考えないと読めません。「エイサップが自分に引かれて現れたと考える迫水には、エイサップの背後にある巨大なモメントを想像する事は出来ない」とか、神の視点のような地の文も出ます。富野小説の視点が神の視点って言うのは割とよくあるんだけども。今回はバイストン・ウェルという、「生き物の想念で作られた、それ自体が生きている世界」というものすごい妖怪じみた世界が舞台です。
水の国の妖精の王ジャコバ・アオンも出ます。でも「この世界の長の私にもリーンの翼の事はわからん」「バイストン・ウェルの意思に任せましょう」とかふざけています。そんな婆はいきなり魚相手にキレる。夏の夜の夢だなあ。
でも、バイストン・ウェルの意思が作者の富野由悠季の意思かと言うと、それはそれで謎。というか、富野は「トールキンなどの西洋ファンタジーとか、西洋中世物語をなぞるだけのファンタジーではなく、日本やアジアやイスラムも含めた人々がいる地球の現実を統合する表現にしたい」とか、もうなんだかよくわからない神官のような事を言ってます。
リーンの翼萬画版1巻の巻末のインタビューで

我々は今そういう言葉しか持ってないわけ。「一つにしちゃえ(併呑)」なのか「共存」なのか。
この間にね、もう一つ、何かあるんじゃないか。
「そんなのねぇよ」って迂闊に言う日本人がいたら
「ほんとお前らバカだ」って言いたい。

リーンの翼 (1) (カドカワコミックスAエース)

リーンの翼 (1) (カドカワコミックスAエース)

というわけで、いろんな人の精神がぐっちゃぐちゃのマーブル模様のように生き生きと混ざり合った小説になってます。
アベニールをさがして、での銀河大菩薩のアベニールの星雲にガレッカやフール・ケアの星が瞬いているようなアレです。

ダンセイニ卿のファンタジーのように、新しい世界を作ろうとしてます。

  • 異世界生態系

バイストン・ウェルは異次元なので、バイストン・ウェルの地表の上の空には海が広がっていて、水の国、ワーラーカーレーンがあります。あるんだからしかたない。
で、その描写がいかす。
地上人の侵入に対して、いきなりクラゲが海底を叩いて仲間たちに信号を送ります。
海のトリトンです。アニメでもクラゲはいたけど、小説はもろにトリトンです。もうだめだ・・・。やっちゃった・・・。処女監督作のセルフオマージュだ…。

んで、エイサップ・鈴木君がワーラー・カーレンの変な植物とか、サイズのおかしい魚とか、堀江由衣の演じる妖精エレボスや水子の魂が花から生まれるクスタンガの丘を見て、「これは「ミクロの決死圏」か」とか今の大学生にしては妙にマニアックで古い映画に自分を例えます。俺も見たけど。
バイストン・ウェルの地表の森の中に落とされた自衛隊救命艇の機長の海楽は異世界の森の昆虫を怪獣と間違って、怯えながらも、自衛官らしく切るべき明かりと、点けておくべきエンジンを選別したり、救命キットからナイフを取り出してから窓を開けるとか、慎重に行動する。夜の森の臭いが腐葉土の臭いだと判るのは、彼が自衛官として訓練を受けたというキャラクター描写で、同時にバイストン・ウェルの謎な世界を活写している。
だが、その近くに漂着していた大学生のロウリィと金本が騒いで、巨大ロボットと戦闘機と虫と怪獣が融合したオーラバトラー・ライデンの操り手、ムラッサを呼び込んで遭遇してしまう。
巨大ロボットを操る女武者に対する新鮮な驚きを見せる役は金本達ガキの方がふさわしい。
それから、異世界人の老勇者アマルガン・ルドルは地上からバイストン・ウェルに戻ってから「こちらの空気の方が濃密で甘い」と感じる。
ここら辺の異次元世界の描写を分担させて生き生きとさせるのは上手いなあー。芝居としても転がってる感じがいいなあー。

バイストン・ウェルは人々の想像力や命そのものでできている世界で、そこに生きている人も半分は幽霊や妖精に近いものです。
ですが、そこに行った地上人とは触れ合う事が出来て、セックスもできるし子供もできます。
で、テレパシーで互いの言葉が筒抜けになります。
これは、聖戦士ダンバインというアニメで「異世界に集まった世界中の現代人と、異世界人が会話するために、母国語を喋っても、相手には言葉に込められた想念が伝わって会話ができる」という、ニュータイプと翻訳コンニャクを混ぜたような電波です。ぶっちゃけた話、アニメのための都合のいいでっち上げです。
で、テレパシーと言うと一番最初に気にするのがエッチな事です。
エイサップが異世界に行ったら、いきなりエロい恰好をした堀江由衣声の妖精エレボスに出くわします。おしり丸出しです。いきなりエレボスが現れるのが悪いんだがエイサップがそれに驚いていたら、お姫様のリュクスは「こんな子は見るのもけがらわしいでっす!」って怒る。お姫様かわいい。
意識は伝わるけど、人はそれぞれ意識を解読する脳が違っているので、同じ事でも違う風に受け止めて喧嘩になります。
萬画用の都合のいいでっち上げで始まった設定を真面目に芝居の要素にするのがすごい。ニュータイプとか、スペースノイドとの人種差別とか、ロボットと人間の関係性とか、オーガニック的な何かとか、富野は御都合主義を本気でやりすぎてテーマ性にまで高めてしまう…。
また、口で言っている発音と伝わる意思が違うので、エイサップが「名無しのオーラバトラー」と言うと、迫水は日本語を聞くのが久しぶりなので「ナナジンと名付けたか!」と聞き間違いで決定します。
リュクスがエレボスに言った「ジャコバ様によろしく」っていう言葉についてエイサップが「ワーラーカーレンに帰れないあの子に対して皮肉じゃないのか?」って抗議して、リュクスは「私は帰る努力をしなさいと言ったのです」と成ったり、伝わるようで伝わらない。
まあ、そもそも、リーンの翼の前編の迫水のチャンバラシーンで、互いの殺気や攻撃意図がテレパシーで伝わらないように気を使いながら斬り合うと言う、謎の世界観なので、もう、それはどうしようもなく無茶苦茶なルールの異世界だよなあー。って、割り切って了解するしかない。設定を気にしたら負け。


てな感じで、読んでるうちに色んな人の想念の共存と融合と不和と、会話と地の文の相互フラクタルマーブルの渦に落とされるようなトリップ感のある小説で、困った物です。
とりあえず、渦の中心であるだろう二人の主人公について。

  • 愛にあふれた王の心の迫水真次郎

王の心は持ってるけど、まだ読んでない。
しかし、アニメ版のリーンの翼での悪役というかあらぶる迫水に比べると、内面描写ができる小説ではキチンとした人物に見える。1,2巻の勇者とか3巻の建国の父からの続きだし、老境の迫水も若いころから連続して苦労して頑張ってるんだなーって愛着が持てる。基本的な行動は変わらないのだが。むしろ、アニメ版のちょっとしたセリフの裏の意図がやっとわかる面もある。メディアの違いだなあー。
「打倒アメリカ」というのは、3巻の地上のアメリカ人と友人に成ったり、同時多発テロで異次元に飛ばされた犠牲者を雇用したりというのとは矛盾するか…?
アフガニスタン情勢やイラク戦争の犠牲者からもアメリカの覇権主義や戦争資本主義で人殺しが増えて、バイストン・ウェルと地上界の境界が揺らいでいると言う事を危険視していると言う事だろうか?
迫水は哲学者でもある。


やっぱり、内面描写が出来る小説だと、迫水の心情がわかるなあ。愛だなあ。テレパシーの世界だけど、何だかわからんが伝わらないんだよなあ。
迫水はみんなを愛そうとしている王様だ。
後添えコドールの地上世界を見てみたいっていうキエル・ハイムのような少女じみたロマンと新進気鋭の気の強さを愛している。コドールの肌のつやを愛して、オーラロードが開いた大事件の夜も早く眠るように気遣う。自分の先妻であるエミヤと小さいころから親しかったコドールが美しく成長した体を愛している。90歳の長老王だから、コドールが生まれたころから知ってるからなあ。スーパーロリコンだ。
コドールも迫水の強さ、知らない世界に連れて行ってくれそうな聖戦士の野心を愛している。迫水の若々しく引き締まった肉体も愛している。(幼馴染のコットウと浮気もする)
同時に、迫水はコドールと言い争う先妻の子供のリュクスも愛している。自分が半ば意図した事だが、リーンの翼の靴を盗み出して予想以上にオーラロードを開いたリュクスの力を愛している。
だが、リュクスもリンレイ・メラディの再来と呼ばれたほどの英気を持つエミヤ・スッカの娘。血気盛んでオーラバトラーを乗り回し、艦隊にもぐりこんで時空旅行する。それで興奮してるし、後添え様に対する敵愾心もあるし、迫水が先陣を切って武者ぶりを発揮したり武力政策をとるのに反発する。90歳を超えてもコドールを愛する迫水の男の部分が思春期の女の子として嫌なのかもしれん。
それに、リュクスはホウジョウ国の有力氏族のメッサラ族スッカ家(オーラシップの船建造係)の血筋で、コドールはもう一つの大氏族オルッメオ族ハッサ家(オーラマシンの材料となる怪獣捕獲係)の血筋。このような血筋の違う部族意識もリュクスの癇癪の種である。リュクスの母を暗殺したのはコドールではないかという王宮らしい噂もある。
メッサラ族はホウジョウ国の母体となったメッオを作った氏族で、前編で迫水が戦った強獣軍団を擁する武力国家のガダバにすら目コボシをされて独立を保ったほどの弱小民族。ただし、オーラマシンの原型の燐気舟で空を飛ぶ仕掛けを作り、賢者バランモンを大事にするような温厚な氏族なのだろうか。
対して、オルッメオ族はホウジョウ国において、オーラマシンが戦闘用として特化して行くにつれて、材料となる強獣を狩り集める役割を担った部族で多少武闘派?
敵国はシッキェの国。これは迫水とアマルガンが前編で建国したが、アマルガンが迫水を追放した上に政治を投げ出して流浪の旅に出たために官僚による覇権主義に陥った連合国家であり、弱小国家であったメッオを侵略してきた。
これに対抗し、迫水はオーラマシンによる武装を強化し、ホウジョウの国力増産に勤めたのが3巻。
で、武装化に伴ってオルッメオ族の発言力が強まり、オーラマシン製造のための強獣狩りでの環境汚染や民衆の疲弊にも繋がっている。
そういうイデオロギーや外圧や内政との関係もあって、リュクスは父王迫水に「王は武力ではなく、政治に専念してください!」と意見する。(しかし、リュクス自身もオルッメオ族の武者のムラッサ達と幼少の頃から親しくして、オーラバトラーの操縦を練習していたのだから、簡単に割り切ってもいない)
親子関係、民族関係、理論対立などを総合して、迫水は家族をマネジメントして行かなければいけないという立場なのだ。
姫と妃と同時に、家臣や民草に対する示しもディレクションしていかなければならんので、リュクスがエイサップの発生させたリーンの翼に乗ってきた時に、「姫が男を従えて帰還した」(姫の権威の保持)と報じさせて、コドールには「リーンの翼は娘ではなく男が出しているし、私はリュクスに靴を与えていない」という政治的に老獪な言葉使いをしている。
迫水はみんなを愛そうとしているし、見た目は精力旺盛な40代、精神は90歳なので建国当初から培ってきたホウジョウ国も、ホウジョウ国を支える若い世代も愛そうとしている。
迫水と一緒にオーラマシンを作った仲間であり、先に死んだ地上人仲間の蓼科中尉の遺した理念に沿った巨大戦艦フガクも地上とバイストン・ウェルを行き来するための夢の船として愛している。二つに分かれた世界を一つにして、陰陽を和合させ、世界のゆがみを正す可能性として愛している。
民もそんな迫水を愛し、皇居であるヒップ・クレネ城は日本軍の戦艦を模した形に渓谷を切り出した上に建っていて北条の家紋を有したシンボルとして戴いている。
基本的に自分は武人だと自覚している迫水は祭り上げられすぎるのは嫌っているのだが、氏族達をまとめる伝説の聖戦士として象徴の役割や老いる事のない自分の身の不思議な運命も受け入れているので、民衆が迫水の城を地上風文化様式で建造する事に反対する事は出来ない。
だが、それを迫水の中央集権覇道主義の表れとして見る勢力もあり、アマルガン・ルドルの反乱軍をそだてることにもなっている。


迫水は一徹に愛そうとしているのだが、民衆同士の覇権争いや民衆の勘違いの間でどんどん祭り上げられていき、市井の声も届かないように官僚に操作される。
迫水は前編で、特攻自爆に失敗してバイストン・ウェルに飛ばされて、生き恥をさらして目的もないまま生き続けるために白刃の中を武人として生きた。その建国戦争で一兵卒から将軍になっていく中で、迫水は日本軍のあり方の間違いを考えるに至った。ガダバの皇帝ゴゾ・ドウやその息子の将軍たちを屠ったり、ガダバの軍人と友人になったりして、モンゴル帝国型の中央集権国家の瓦解を見て、民族差別意識よりも大きな視点で物事を考えられるようにもなった。3巻では第二次世界大戦で敵国だったり同盟国だったりした外国人と協力して異世界で国を作り、流浪で落ちぶれ老いたアマルガン・ルドルの裏切りを許す愛も持った。
ただの軍国少年が、異世界に投げ出されて殺し合いを経験し、得たのは王の愛である。
だが、その愛が正しく機能するとは限らない。それは天皇裕仁が国民を愛しながらもああいう戦争を45年8月まで止められなかった事にも見える。私は裕仁の詳しい事情は知らんが……。
とりあえず、ここでは迫水である。
迫水は軍国主義を対象化して、冷静に見ることができる、王の視点は手に入れた。
だが、迫水は天皇は崇めていた。そのため、迫水は昭和天皇と同じような地位になってしまったが、天皇と同じに成った自分を対象化できていないのではないか?
地上の日本で天皇その者を冷静に観察するほどの経験も無かったし、バイストン・ウェルでの政治は部族社会からいきなり近代化した。
現代の皇族のシステムを見ても、国家の象徴としての天皇の機能は心理的には穏やかであっても、政治的には不穏な物を孕んでいると愚考する。
迫水もどうしていいかわからんのだろうか。俺も判らん。
平安時代での天皇や江戸時代の将軍は部族諸侯のトップの血筋であるが、近代国家における象徴元首はまだ模索段階だ。
しかも、迫水真次郎はまさに天から舞い降りた聖戦士であり実質的な力を持つ神話の王でもある。同時に、どの血族にも属し得ないマレビトの王でもある。
それでも、迫水はいろんな要素を必死でディレクションしようとしているよなあ。
富野ディレクターっぽい。
さすらいの絵コンテマンからサンライズを大ヒットさせて、しかしあくまでフリーランスで契約してる富野監督の個人的な思い入れの強いキャラクターだなあ。そもそも、迫水は富野初のオリジナル小説の主人公だしなあ。特攻隊から異次元のチャンバラ勇者って、富野の世代のあこがれのヒーロー像その物だもんなあ。
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んで、迫水は愛機オウカオーも愛している。
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花王の複雑な変形機構はアニメでも格好良く描かれていたが、それを小説ではもう一段進めて、「可変翼による巡航と格闘戦の状況変化に対応した実験機」という位置づけになっている。2001年の同時多発テロ等の戦争で大量の技術者がバイストン・ウェルに転生したため、コンピューター技術の粋を結集して変形機能を実装したとの事。9.11をそういうドラマツルギーに使うのかよ!
で、オーラバトラー開発初期からのテストパイロットでトップエースで数十年の経験を持つ迫水自身がオウカオーの飛行テストをして、手のかかるわが子のように愛して「桜花」の名を付けている。
そのオウカオーを駆って、迫水はかつての自分の親友であり、今は反乱指導者となったアマルガン・ルドルを迎え撃つ!
「アマルガンならどう攻めるか?」それを読みつくした迫水の敵意は愛に近い。
偵察兵のオーラバトラーを夜陰に散開させつつ、高空に上昇し、オウカオーの翼の燐光でアマルガンを誘ったのは王の余裕。そして、アマルガンが夜空の自分の誘いを見分けて、応じるだろうとの信頼。
その誘いに応じたアマルガンとの空戦での愛と憎しみと友情と恨みと痴情のもつれがロボット同士の剣劇として顕れる!おお!これぞお芝居!
ユテルスの風防は半透明だからお互いの顔が見える。
しかも、オーラ・バトラーは女操り手ムラッサが語るように、ロボットではなく獣の死骸をつなぎ合わせたフランケン・シュタインの怪物であり、また、世界を支え世界と繋がるオーラの力を宿して動く神獣や式神に近い物でもある。格闘では機体独自の反射神経の優劣、乗り手の心の強さが反映される!
これも愛や心の戦いだ。ファンタジック!
アニメ版や萬画版での待ち伏せ戦法より、画を書かないでイメージさせる小説の方が戦場の射程距離を広く取れるから、ロマンティックな蝶の羽ばたきによる星空の誘いから急降下した格闘による決闘になるんだよなー。スピード感がすごい。
まあ、アニメでも富野戦闘の射程の広さはすごいわけだが。


その過去の英雄二人の決闘は、やはり若さを保つ聖戦士に軍配が上がる。
アマルガン・ルドルは異次元人だから一概には言えないし、根っからの武人だが、老人であり、操縦ができるのを反乱軍の若い娘に褒めてもらえないって愚痴っぽい考え方をするようになってしまっている(笑)。
そうして彼のギム・ゲネンの手足を切り裂き、アマルガンに引導を渡そうとした時、その迫水を邪魔したのは!
アニメではとりあえず登場させておいたロウリィの戦闘機の機関砲だったが、小説では新しい聖戦士、エイサップ鈴木君の操る新式オーラバトラー制式番号九〇九ことナナジン
主人公来た!
しかも、小説版のナナジンは青っぽい白という、ガンダムみたいなカラーだ!超かっこいい!

リーンの翼シリーズ No.2 ナナジン (ノンスケールPVC塗装済み完成品)

リーンの翼シリーズ No.2 ナナジン (ノンスケールPVC塗装済み完成品)

そして、ナナジンがこの戦場に来れたのも、迫水が兵たちに「エイサップが聖戦士の素養があるかを見守れ」と愛のある密命を下したからだ。
迫水は自分に刃向おうとしてくる新しい世代の日本人のエイサップも、その傍らで自分に反抗する娘の癇の強さも愛している。
愛しているからこそ、決闘はアマルガンからエイサップに移行して、エイサップと格闘しながら彼の力量を見定める!とりあえず組み手で力量を計るのが男だなー。
それで、エイサップと議論して、言い返されて逆に喜ぶ。若者の頭の良さも推し量る。
迫水王は愛に溢れすぎているな!
しかし、迫水はエイサップのユニクロっぽいだらしなさとか、顔が幼く見える世代の違いにちょっとイラっとしてる。でも、それに対して自分で、「いや、混血だからって差別するのは良くないよな。横浜に居た時の白人は鬼畜じゃなかったし」って反省したりして可愛い。エイサップから久しぶりに日本語を聞かされて喜んでるのに、名無しを聞き間違えたりするおじいちゃん可愛い。
エイサップの捕虜になっても慌てたり騒いだりしない鷹揚さにちょっと感心したり、少しずつ品定めしてる。
品定めしながら「婿になれって言ったのは早すぎたかな?でも、結構見所があるし、俺の直感も悪くないかもな」とか色々考える迫水が可愛い。
富野も娘さんを嫁に出したし、孫もできたからなー!

  • エイサップ・鈴木 その愛

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迫水真次郎は一徹に愛する男だった。
リンレイ・メラディを抱ける男に成りたい一心で戦い、愛する国を守りたい一心でホウジョウを建国し、愛する地上にバイストン・ウェルを知らしめ、地上世界に世の理を教えようとした。
熱血愛。
それに比べると、鈴木君の愛はちょっと違う。
確かに、富野小説の主人公なので、ヒロインと一緒にいたら、ヒロインにどう思われるのかを気にかけるんだけども。迫水に比べると、愛に距離感がある。
リュクスと何度も抱き合って飛んで肉感に溺れても、異世界での自体の変転の連続で、スケベな発想をしていない。携帯電話を二人で使って、ぽっぺたが触れてもエロい感覚はしない。
2度も3度も抱き合って空を飛んだあと、ホウジョウの城で落ち着いて、それからやっと「憧れていた女性はこんな風に凛としたタイプだったのかな」って薄らと思いつくくらい。
リュクスの体ではなく、気品のある物腰や伸びた姿勢という立ち居振る舞いの方に魅力を感じている。
草食系?
これは、迫水真次郎がエイサップと同じ19歳の時に、淫らなフェラリオのハロウ・ロイに誘われたにしても、半分は自分の欲求から(「宿屋の主人が女の隣の部屋に俺を泊めたのが悪いんだ」と言い訳しながら)セックスしたのとは好対照である。

リーンの翼 1

リーンの翼 1

迫水はその前に米軍と戦って、バイストン・ウェルに落ちたらガロウ・ランの野盗と剣劇をしたので、死を振り払うためのセックスと言えなくもない。が、エイサップも異次元で謎の妖精女王ジャコバ・アオンに翻弄されたり、女郎屋そのもののような煌びやかなワーラーカーレンのフェラリオ達に囲まれたり、という異常体験をしている。
リュクスと二人きりの部屋に監禁される前に超怖い親父の迫水とも議論してる。これは、小説版のエイサップが曲がりなりにも岩国海兵隊司令を務める父親のアレックス・ゴレムとそれなりに話せる関係を鍛えていたから。同時に矢藩朗利や金本平次たちネット学生テロ組織ジスミナのメンバーともルームシェアして会話するっていう岡目八目的な視野を持つ。
エイサップは剣の代わりに、基地司令って言う国際セレブとも地元のダメ人間とも付き合える、高貴さと雑駁さを併せ持つ頭の柔らかさを鍛えた少年と言える。だから、迫水も「政治をつかさどる聖戦士」をやってくれと直感的に言ってしまう。
(一応、エイサップも3巻では高校の時は剣道部で重い竹刀を使って鍛えていたらしいが、レベルの低い高校だったから迫水と違ってキチンとした指導を受けていないで、地区大会で負けるレベル)
まあ、剣と言葉の戦いの違いもあるし、エイサップはジャコバの強烈なグレートマザー性やリュクスの姫っぷりに最初から圧倒されていたからエロに走らなかったって言うのもあるかも知れんが…。そういう母性のディストピアみたいな見方はちょっとしたくないな。
あと、エイサップは男同士のルームシェア環境で、同居人と気を使い合いながらネットのエロ画像で充実したオナニーライフしてたけど、迫水は軍人で慰安所で童貞を軽く捨ててたって違いがあるか。
でも、エイサップが金髪ツインテールの妖精のエレボスに「私は可愛いフェラリオですよー」って言われて、「そりゃあ、可愛いけど、自分で言わない方がもっと可愛い」って返すのはスマートな金髪美形の返し方って感じでナイス。これは新装版で追加されたシーンで、明らかに小説としての迫水との対比。エレボスがロリータ体形で羽が生えた妖精だって言う事もあるけど、エイサップはエレボスを見て「普通の人と同じに見える」って感じたのだから、抱こうと思えば抱ける。ベランダという密室で、リュクスは室内で寝ているのだから、エレボスを口説く事もできる。
だが、エイサップはドアをノックしてリュクスを起こす。紳士。
若い迫水はアマルガンも寝ている宿屋でフェラリオのハロウ・ロイに「わたし、きれい?」と言われて「綺麗だ」って言って、そのまま獣のようなセックス。
エイサップはリュクスと同じ部屋に居て、リュクスが眠るために靴を脱いでも、エロい事を考えない。むしろ「お姫様の靴を脱がすのを手伝わなかったのは、失礼だったか?」と紳士的。ちょっと神経質?リュクスが寝入っても、近づくのも畏れ多い。
エイサップはナナジンのユテルス(=子宮;操縦席。コックピット=ペニスを入れる膣という隠語よりは上品な言い方)でリュクスの太股に触れたりして、ちょっと身をひいたりするんだけど、逆にリュクスの方が気にしてなかったりする。リュクスは高貴な姫だから、鈴木君程度の男の子が協力者として触っても、別に気にしない。
まだある。決定的な物が。
エイサップはナナジンに乗って、リュクスを太股に跨らせて、その尻の温かさを感じたままオウカオーと対峙したが、リュクスが興奮して立ち上がってくれて、足が涼しくなったので、逆に冷静に成って戦いの恐怖を冷ました。そして、お尻の温度が無くなったからこそ、リュクスを守るためにリーンの翼の靴をリュクスに履かせて逃がす。

こんな異常な状況でそんなことを思いつくのはエイサップの能力ではない。かと言って、リーンの翼の沓の意思でもない。

じゃあ、なんで思いついたのかと言うと、「お尻の温度の喪失感」お尻パワー。
そして、オーラバトラー同士の戦いで「お尻の温もりを持つリュクス」を傷つけるわけにはいかない、という想像力と洞察力を持ったやさしさ。大切だから、離す。
戦いの中で互いを奮い立たせるために、セックスしたサコミズとリンレイとの対比にもなっている。
これは草食系男子の良い部分でもあるよね。
ただ、やっぱり後半は迫水節になっちゃうし、富野監督自身も「僕は草食系男子が描けないんです」って発言したりするから、どうなんでしょうね。
まあ、エイサップも姫のお尻がいとしいとは思ってるから、不感症ではないんだろうけど。
とりあえず、今のところのエイサップは、ヘタレに見えて案外王子っていう金髪キャラなのかな。基地司令の息子って言う事は世が世なら王子だしなあ。
微妙に第二次世界大戦の時の戦闘機の名前で陸軍所属か海軍所属かわかるのは、岩国基地の司令の息子と言うか、山口県クラスタらしい軍事ヲタだなあ。テロ屋の友人のロウリィの影響かもしれんけど。
迫水が必死で生き抜く肉食系男子の強さの愛だとしたら、鈴木の愛は余裕のある草食系男子のしなやかな愛。
ラノベ主人公らしいって言えるんじゃないでしょうか。
ただ、ライトノベル主人公っていうと、アニメ版の福山潤さんの声はまだちょっとカッコよすぎるなあー。今日のSTAR DRIVER 輝きのタクトでもスガタは王だしなあ。ルルーシュとかキースの旦那は強いんだよ。下野紘のヘタレバージョンでwww。えむえむっ!ジュンジュンはヘタレのドMっていうより、なんか濃い。


  • ちなみに、

迫水とオーラバトラーで組み手をしながら、「その戦略の知識を生かして、我が軍門に下れ」って言われたアマルガンが「ホウジョウのお前がトクガワ・ショウグンのように太平の王になれるのか!」とか地上人の論理で反論するのはちょっとおかしかった(笑)。勉強したのかなー。
2巻まではアマルガンが迫水を参謀にしてたから、徳川幕府の話も聞いてたかな。わりと前半はうろ覚えになってきた…。


あと、この記事を書いたり、小説を読みながら2話を100回くらいリピート再生したけど、音楽が素晴らしくて覚えちゃったよー
リーンの翼の音楽は、2時間のファンタジー映画に寄り添った、オペラのような素晴らしい出来栄えです。
これはサントラが出ない方がどうかしてると思います。
http://www.tanomi.com/metoo/r/?kid=73525

樋口康雄 CM WORKS ON・アソシエイツ・イヤーズ(1972-1991)

樋口康雄 CM WORKS ON・アソシエイツ・イヤーズ(1972-1991)