玖足手帖-アニメブログ-

富野由悠季監督、出崎統監督、ガンダム作品を中心に、アニメ感想を書くブログです。

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リーンの翼新装版3巻 第七章「ホウジョウの名」

一気に読んでたら頭痛くなったので、頭痛薬を飲んだら眠くなってきた。
えーと、あらすじ。迫水真次郎がホウジョウ国の王となり、彼と同世代で建国した地元の部族長や地上人が老いて世を去り始め、次の若者たちの時代となる。
だが、リーンの翼の聖戦士である迫水は40代手前と言った若さの肉体を保つ現人神として祀られ、だが彼の精神は老いた男の寛容さを身につけ、立憲君主制による賢政を行おうと律する。
が、世界は動乱し、迫水の旧友アマルガンが反乱軍を立ち上げ、迫水の娘リュクスがリーンの翼の靴を持ち出せば、オーラロードが開く!
ここでやっとアニメの前日譚が終了。かな?
もう、すごい眠いから適当に書く。

  • 構成

基本、迫水を視点人物に置いた半三人称小説なので、三巻の章の中では一番読みやすいかもしれん。
哲学や政治学や歴史やら…についても、たいていはそれまでの章について出てきたので。
ただ、3巻末の後書きで富野由悠季自身が書いているが、戦後50年の時代経過をぶっ飛ばすという富野編集マジックが炸裂している章でもある。
基本的に、歴史の転換点の事件だけを描写している。細かい節に分かれているのですね。そのなかでも時間経過の粗密が操られていて、
だいたい
1、まず時代背景とそれまでの経緯をざっと描く。
2、次に迫水を中心としたその時代の会話劇、それに対する迫水と地の文の感想。
3、2でのシーンをそれなりに積み重ねた所で、やや詩的な短文でその時代をまとめ、シーンの結果として次のシーンまでに起こった事件をにおわせる。
4、2行の改行空間で時間を飛ばす。
というのが基本的構成テクニック。
3番でのまとめが俳句の心にも通じると言うか、粋です。
あるいは、ミヒャエル・エンデはてしない物語の「それは別の物語である」というような流しのテクに近いかもしれないが、これはもっといい類例があるんだろうな…。
 
 

  • 老人の時間

迫水は若々しい肉体と小山力也ボイスの王様なのだが、少しずつ着実に老人としての意識になっていて、それが富野由悠季が感じたであろう実感かもしれないと思うとファンとしても楽しいし、リアリティがある。富野さんは「想像で全部書けないと作家ではない」とか言うけど…。王の心はもってるけどまだ読んでませんが。
死んだ王様と言う代わりに、肉体が若いまま、死んでいく同僚を送り、執務をしながら若い世代への世代交代の熱気をも可愛いものと思える老人、と言う風に、迫水が視点人物として観察する王様です。
同時に、実際の執政者としての苦悩もあるのは王の心とは違う。3人の嫁に対する肉欲も迫水の若さだったりするし。
ただ、
最初のアピアには30代で仕事を手伝ってくれたパートナーとしての愛と長男を失った母の悲しみと時の流れの中での死別、
二人目のエミアは理想の女性として幼少の頃から父のように育て愛した源氏物語のような感情とリュクスの母としての温かさと突然の事故死、
三人目のコドールには老人が若い世代の知恵と自立心や物言いを愛でる、
というような、男が女に対する性的魅力の変遷を描いていて、爺お盛んだなー。3人の嫁を通じて男性の一通りを書いてる。
同時に、その3人の妻は皆どこかにリンレイ・メラディの面影を持ち、初恋を忘れられない迫水の仕方ない男らしさも描いている。
同じ初恋の面影を持つ別の三人の女たち迫水がその時々の違うやり方でいとおしいと思うのを読み、読者はそのような迫水を可愛いと思う。
そして、迫水が超巨大空中戦艦フガクを建造するのはリンレイ・メラディと共に地上界に帰還した事を再現したいと言う、望郷と恋心が融合したものである。それは英雄王迫水の妄執でもある。同時に国家臣民の利害関係の産物でもある。
 
 
フガクと言えば、「フガク建造は戦艦武蔵の造船技術者であった蓼科中尉の遺言でもある」と書かれた後に蓼科中尉が迫水の所に遊びに来たりという描写があり、迫水が肉体的には若くとも、認識的には老人で、記憶が大雑把になってきているような雰囲気がある。
アンマ・ガルレアの事を迫水が名前を思い出すように回想するのも爺臭くて良い。
老人の時間だな。
ただ、事象を時間経過通りに漫然と描くより、老人の回想のようにズバズバと飛ばすテクニックとしては上手い。というか、これを使わないと戦後60年の間での異世界の興亡なんか70Pでは収まらないし収めた富野監督マジ怖い。
 
 

富野由悠季は明らかに天皇崇拝をしている人物である。
軍部の戦争責任を何度も糾弾しているが、天皇の戦争責任には全く言及していない。(組織が嫌いで個人攻撃が嫌いだからか?)
ファウ・ファウ物語と言う富野作の童話に昭和天皇が登場した時も温厚で理知的なおじいさんという風に描かれていた。天皇機関説天皇騎馬民族説の話は何かで書いていた気がする。
で!
そのように富野由悠季昭和天皇本人を悪く書けないと言う人なんですが。(謁見したかどうかは知らない)
迫水真次郎というリーンの翼の勇者で、また先の大戦の中心人物であり、戦後は技術立国新興国の国王として現人神となった主人公を通して、間接的に天皇を生々しく描いてるっぽい。
迫水は地上から降りてくるベトナム戦争ユーゴスラビア紛争の犠牲者を通じて戦後日本のあり様をある程度知っているようである。平和憲法なども。それを参考にすべきところは参考にしつつ、軍人として肌に合わないと思いながらも色々な人の意見を聞き、平和路線、技術振興の国家を作ろうとしている。それは戦後日本とも重なる。迫水は実際の超能力をバイストン・ウェルでは持つ現人神なので、裕仁天皇よりも天皇陛下の概念に近い。
また戦後日本では一種のタブーとなっていた天皇とは違い、行動する王としての側面もある。
しかし立憲君主制の元で、善政を敷こう、地上を参考に平和外交をしよう、民衆の声を聞く名君であろうとしつつも、各部族の派閥や産業、辺境部族の文化、自然破壊、抑止力外交バランスなどなど、地上世界の問題の影のようなものに押し流されて身動きが取れなくなっていく。
それでいて国の要でいなければいけない。若い姿のままの異邦人の王と言うもの自体が超常の存在で明らかに大衆の生贄になっている。天皇よりここら辺は露骨。ファンタジーだなー。
それでありながらも、迫水は体は若くとも心自体は円熟した老王で、合間合間での地上人や家族との語らいが暖かい。アニメでの妄執に取りつかれた王というよりは、上下の世代に聞く耳を持つ賢王という印象がある。勉強熱心だし。
迫水は、多少軍国主義少年だが、富野主人公らしく、基本的にはノンポリで素直で勉強熱心なんだよな。好感がある。
これも、エメリス・マキャベルのような偏った思想と人類破壊願望を持つキャラと同時に富野の中に生きて居る人物像なんだよなあ。
 
 

  • アマルガン・ルドルという男

アマルガン・ルドルはシッキェ連合軍の裏でホウジョウ国を侵略しているかと思われたが、アマルガンは本当に流浪の老人になっていた。
シッキェはホウジョウに盛り返されて顔のない官僚たちの国のまま、ホウジョウの国の脇に追いやられた形になっている。それでも軍事力のバランスでホウジョウには依然外圧をかけ、ホウジョウの軍備増強の理由となり、それがさらにチッの国や辺境部族も含めた軍拡冷戦になっている…。
そんな中、諸国を遍歴したアマルガン・ルドルが迫水のもとを訪れる。
賢人王たらんと努める迫水が唯一心を震わせる男!
しかも、同じころにホウジョウの国を立ち上げた仲間の地上人が70,80になり世を去って行った頃に、地上人たちよりも前に始めてバイストン・ウェルで自分を助けてくれた勇者アマルガンが、老いたりとはいえ青年のような闊達さで来訪してくれた!
迫水は彼に殺されかけ、アマルガンは迫水の女を殺した。
だが、歳月は怨みを流し、青春をともにした相手との再会を、生きて来た自分の確認として迫水を喜ばせる。
アマルガンの渾身の謝罪と後悔も、迫水の許しも電車の中で読みながらボロボロ泣けた。やっぱり、富野小説は男と男だ…。女はその間のものか。
いや、男と女の小説も描いてるけど、リーンの翼は男の話だな…。
妻、コドールや娘のリュクスはその二人の感情を知りはしない。
アマルガンは侠客として迫水に一度詫びを入れてケジメを付ける。が、同時に戦士の勘、遍歴の老武者、何よりもバイストン・ウェルで生を受けたコモン人として、迫水をみれば、若さを保ち資源を浪費し、王として辺境を考えつつも実際を知らず、オーラ力をゆがめる存在かもしれないと直感。それを糾すべきだと思い、涙を流しながらも迫水を討つ反乱軍に身を投じる。反乱軍もオーラバトラーで近代化した軍であり、アマルガンはそれにも歪みを感じるが、戦う事になる。まだ、嫉妬も残っているのだろうか?
アマルガンは老いた勇者として反乱軍の若者をまとめ、迫水の軍から軍艦やオーラバトラーを鮮やかに奪う。
が、迫水はそれすらも戦友、かつての師匠が再び見せてくれた技だと感じて怒るどころか、「見事!」とひそかに喜ぶ。
男!
むしろ「内政に窮した時に国をまとめる外敵の役をアマルガンが引き受けてくれたのではないか?」と心が通じ合ったように思う迫水。
老いて落ち着きを持った迫水の血を再び燃え上がらせるのは、青春の強友アマルガン・ルドル!
ああ、やっぱりこの二人が一番カップルだよ…。萌える…。っていうか迫水は男にも女にもモテまくってマジヒロイン。
殺し合いをし合う男同士のカップルとか、シャアとアムロみたいで最高です。
その闘いの渦中こそがまた迫水を地上に向けてくれるかもしれない、という期待も迫水にはあるのだろう。
 
 

バイストン・ウェルの大学院で学ぶ才女コドール・ハッサ、後添えになってからのコドール・サコミズは∀ガンダムのキエル・ハイムみたいだな。アニメ版よりもやはり細かい魅力が描かれてる。タダの政略結婚ではなく迫水がきちんと惚れた女なのか。迫水は本当に実直な男だ。娘のリュクスには反抗の種にもなるのだが、迫水は好きになれば娶る男か。側室やハレムは作らなかったんだな…。
それはそうと、地上も含めて学問をして、コドールが地上のテロリスト大学生と同じように「余剰軍人を老人福祉に回すべきではないでしょうか?」とか軍備と資源の関係性や、原子力エネルギーについて王に若い意見を投げかけているのは面白い。
地上世界とバイストン・ウェルの双方の時代が、神話の時代よりも近付いている。
近代戦と人口爆発で死者が激増した事が、バイストン・ウェル人に転生するのではなく、記憶を持ったままオーラロードを落ちる地上人の増加につながっていると言う。世界が混とんとしている。
しかし、リーンの翼においての核兵器の描写は富野作品でも独特だなあ。富野作品は核兵器、およびそのメタファーを持った物がほぼ必ず登場するのだが。反核の時もあれば、単なる道具である時もある。リーンの翼反核かな。
ダンバインではオーラバリアの強さと地上人の現実を強調するためにボコボコ撃ってた。ガンダムでは南極条約があるにはあるが逆シャアでは発破扱いだったなあ。地球上ではダメって言う事か?
リーンの翼とシンクロ率400%になって第三の原爆を粉砕した時の迫水の認識力によると、核爆弾は物質の組成からオーラ力そのものを揺るがす、押し込められた黒い物の塊という物らしい。
うーん。その辺はどうもよくわからん。私は、物理的に爆発するようにできてるんだからそこまで精神的に影響するほど大げさなものだろうか?と、思う。生命を量子的に考えて、量子効果を使った大規模爆発はオーラに影響するとかだろうか?そういう描写はまだないが。まあ、小説なんだから何とでもいえるわな。
太陽は核だが、バイストン・ウェルは太陽系ではなく地球の知的生物の産物らしいから核爆発には弱いのか…?全宇宙的なイデとはまた別かー?

  • ヒロイン、リュクス・ホウジョウ・サコミズ

うわー!黒髪で和服男装ニーソって!やばい!かわいい!
リュクスがすごくかわいくてたまらん。
シンイチ・サコミズは偉大な王に厳しくしつけられて幼少の富野みたいに髪をポマードで七三にした上で風邪であっけなく死んだ弱い子だったが、リュクスは年を取ってからの子だから奔放だ。しかも迫水譲りの一徹さで男装して武芸に励む。母を亡くしてからは喪に服すという頑固さ。後添えのコドールにもずけずけ言うし、親父にも「その結婚に愛はあるんですか!」とか熱血だ。
国事やコドールに目を向ける父に当てつけてオーラバトラーの訓練に打ち込んだり、とてもかわいい。
ソシエか!
そんなリュクスを超可愛がる迫水も爺かわいい。リーンの翼も迫水が超あげちゃうし。
バイストン・ウェルの妖精界の長老婆、ジャコバ・アオンと堀江由衣エレボスにも幼いころ目をかけられていて、運命のおまじないを授かっている。
っていうか、オーラバトラーの訓練をして、父のリーンの翼をも我が物にするリュクスが、すごくスーパーロボットものの正統派主人公みたいだ。マジンガーZだ。姫だからナウシカっぽくもあり。
親父に対する反発心が国家の一大事に直結する熱血さもヒーロー的だし、思春期の富野主人公っぽい。ベラ・ロナか?
鉄仮面カロッゾ・ロナは「女は御しがたい」って言うけど、迫水は超逞しいし、超おじいちゃんだから、そんな娘の反抗も「元気じゃのう。かわいいのう。かわいいのう」って、もう、孫か!孫なのか!
兜十蔵なのか!
リュクスも戦闘の気配を感じたら即座に乗り込んでいきなりオーラロードを開くし!超強い。
あれ、エイサップ・鈴木君…リュクスにも主人公度で負けてる…。ロウリィの方が今まで出番が多いし…。前半の聖戦士で70年間描写された迫水には敵わない。
リュクスは神託を受けて訓練して、父王の遺産を受け継いでる正統派戦闘美少女姫。鈴木君は一応米軍大佐の息子だが母親に部屋を覗かれて怒ってバイクで逃げて米軍に追われる程度のボンクラ大学生。
せっかく空から女の子が降ってくると言うのに!鈴木!
もしかして、鈴木君って史上最弱の聖戦士ですか?剣道はちょっとだけやってるけど、レギュラーには成れてない。
いや、リュクスとエイサップの二人でオーラキャッチプリキュア
なのかな?ピンクだし。
つーか、鈴木が金髪さんなので、富野的には鈴木がヒロインじゃん。うん。鈴木君がヒロインならいいかな。ヘタレ主人公って流行りだし。オッケーオッケー。特に何もしなくても空から女の子が降ってくるんだから、ラノベ主人公としてはむしろこれでオッケー。だと思う…。
 
 
と言う感じで、これから3巻最終と4巻がガールミーツボーイです。
でも、親父ミーツ婿になる方が萌えるのか?そうでもあるが!