玖足手帖-アニメブログ-

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創作幻視小説版「夢兄妹寝物語」 2003年11月 第11話 第13節

サブタイトル[ラスベガスと王の心]
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そらの出番が少ない。

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 場所は、アメリカ合衆国ネバダ州、米軍の新兵器開発実験施設であるエリア51を擁する広大な砂漠、ネリス射爆場の東部。西のエリア51からも、南のネリス空軍基地からも死角になっている標高約1000メートルの岩山の中。この直径100メートルほどの窪地に異形の老人が二人。
 前後の長さが2メートル以上ある金属製の巨大なクモ型ロボットの頭部に人間の上半身を載せたような姿の超能力サイボーグ、キング・オブ・ハートこと、ザック=タンク・江戸川。50センチ四方の折りたたみデスクを挟んで、真黒なコートの襤褸切れを着て人間の皮を被って偽装している宇宙人、レイがデスク据付の簡素な椅子に腰かけている。。
 この二人の会談が現地時間15時に開始された。数分前までの激しい戦闘と爆撃と嵐が嘘のように止み、風の無い晴天が水を吸った地面を急に焼いて陽炎を上げている。
  
  
大江戸「ご存じのように、私は以前はヨーロッパと中東で兵器産業を経営しておりましたが、それで恨みを買って爆弾暗殺をされかけましてサイボーグ手術を受けたのです。
 そのショックでオーバーマンとなった訳ですな。なにしろ、生身で残っているのは、脳と頭の半分だけなので、失った肉体の代わりに精神が発達したのか・・・。オーバースキルの発動原因はC4に加入してからもわからないのですが」

レイ「そう、か」
大江戸「ええ。しかしご心配なく。精神感応のオーバースキルと、このサイコフレームのボディがあるので不自由はありません。ただ、飲めなくなってもティータイムにアールグレイを嗅ぐ楽しみは捨てられませんな」
 微笑みながら、大江戸は上半身だけ着こんだカシミヤの黄褐色をしたスーツの袖の中のロボットアームを静かに*1持ちあげ、ティーカップを鼻の下に添えて、わずかに残った鼻粘膜で香りを楽しんだ。紅茶を飲みはしないでまたソーサーの上に戻し、
大江戸「・・・。ふぅ・・・。
 では、単刀直入に、私どもがあなた方をここにこのような形で呼び出した理由を述べましょう。
 あなた方、黒色遊星人奴隷諸国連邦に、われわれカード・クラッカーズ・民族同盟に加入していただきたい」

 大江戸の喉に当たる部分にあるスピーカーから、落ち着いた低音がよく通るように合成された声がした。
レイ「何故、落ち着いている?カード・クラッカーズ・民族同盟には宇宙人が多いのか?」
 レイは、レイの体に宿る奴隷諸国連邦0番国の官僚たちは、初めて精神を直接読まれるという経験に戸惑い、地球人への音声通話に支障をきたしている。だが、宇宙人を前にした大江戸は社会人クラブ活動に誘うような軽さで落ち着いている。それが宇宙人達をさらに混乱させているのだ。そもそもレイ達、黒色遊星人は地球人のような物質の肉体をもたず、ほとんど精神だけの存在であるので、余計に精神的影響に弱い。
大江戸「驚いておりますよ?私も地球人以外の人と直接対面するのは初めてです。ただ、私は感情を表に出さない体質でして。
 それに、私にはあなた方が人間ではなく宇宙人であろうと言う事は数ヶ月前から予想できておりましたので。今はそれほど衝撃はありません」

レイ「何故、我々が普通の人間ではないと知ったのだ?これは我々の安全保障上の問題である」
 レイの前に置かれたティーカップは空。お互いに飲料が不要だと了解して、大江戸はレイにはカップだけ出した。
大江戸「私は全ての地球上の生命体の精神状態を把握する事ができます。
 そこで、2年ほど前でしょうか、宍戸隷司さんを偶然観測しました。そこで、1人の人間にしては有り得ないほどの密度で、私でも読み取る事の出来ないほど雑多な精神があなた方に宿っていることに気付き、興味を持っていたのです。
 それから、今日の会見をセッティングするのに、何カ月も時間はかかりましたが、今日はお目にかかれて良かったです」

 思い返すように、大江戸の片目だけの瞼を伏せてしみじみと説明した。左目の義眼のカメラは自動的なのか、細かく顔の半分を左右に揺れている。
レイ「そうか。では、もうひとつ、我々の観測ではあなた方のC4という超能力者集団は発見できなかった。なぜだ?」
 全身を機械の義体にしている大江戸も動かず、人型ロボットに憑依している宇宙人のレイも動かない。大江戸は人工声帯で、レイは空気を直接振動させ、音声を出している。唇も動かない。
大江戸「……。隠れるオーバースキルもある、とだけ言っておきましょう。
 他のオーバーマンのオーバースキルについては、オーバーマン同士であってもみだりに口外できないのです。ご了承いただきたい」

 顎を軽く引いてお辞儀気味に、人工筋肉でも器用に申し訳なさそうな顔をしてみせた。
レイ「なぜ、我々を同盟に加入させるのか?また、今回の攻撃の意図は何か」
大江戸「ふむ。
 これまでの攻撃はいうなれば、あなた方が同盟にふさわしいかどうかというテストも兼ねていたのです。この点については無礼を申し上げたと謝罪させて頂きます。C4内部でもあなた方への対処は意見が分かれておりまして。しかし私は精神感応のスキルを使って地球上の超能力者を発見しC4に勧誘するのが役割です。たとえ、それが地球外生命体であっても」

 と、ここは真っ直ぐに大江戸はレイを見てはっきりと、要求を言葉にした。
レイ「我々には、同盟に加入する理由、利益が、、ない」
大江戸「メリットならあるでしょう。あなた方は頭令兄妹を守らなければいけない身。無用な争いは極力避けたいはずです。
 C4は互助団体ですが、オーバーマン同士の暴走や闘争を抑制する相互処理機関でもあるのです。C4とは関係なく超能力を行使されると、我々同盟への脅威にもなります。ですから、我々の管理下にないオーバースキルは存在してはいけない」

レイ「それは脅迫だ!我々は絶対に両陛下を守る!」
 混乱していたレイであったが、頭令兄妹を守るという基本方針は反射的に声明できた。そして、大江戸に対抗しようと椅子から立ち上がりかけたが、大江戸は義手を掲げ、静止しつつ言った。
大江戸「いえ、私はあなた方の味方です。
 私はあなた方とは最初から敵対したくありませんでした。ですから先ほどの戦闘を見せて、あなた方と我々が拮抗する超能力を持っている―――少なくともC4があなた方と衝突するのは不利益―――と、他のC4会員に証明し意見を統一する必要があったわけです。
 それが果たされた今は、我々C4の側が、あなた方に和解と同盟加入をお願いしたいという状況です」

 言い終わって禿頭を下げる大江戸の言葉で、レイは再び椅子に座った。
レイ「冷戦による相互抑止というわけか」
大江戸「いえ、相互扶助ですよ。我々の同盟は私の読み取った情報で、あなた方の脅威を認めると同時に同盟員からのあなた方への不用意な攻撃を抑制します。
 あなた方には我々という超能力者が地球にいるという事を認知した上での行動を期待いたします。平和的な助け合いはお互いを認め合い、尊重し合うことから生まれると、私は考えております」

レイ「だが、我々にとっては損だ。我々は今までの生活を変えるつもりはない。頭令兄妹両陛下を守護すること、それだけが目的であり、他の物のために行動はしない」
 レイは、大江戸がどこまで自分の事を見抜いたのか探りつつ、先に大江戸の口から出た自分たちの秘密については既知の物として会話を進め、探ることにした。大江戸は一見誠実そうで紳士的に笑顔も交えながら取引を持ち掛けてきているが、先ほどは戦闘機に乗って攻撃してきた人物だ。だから依然、警戒は解いていない。レイが超合金製の拳を振り上げるだけで、大江戸の人間部分である脳を破壊できる。
 と、セブンセンサーが超次元通信でレイに語りかけた。
7(エリア0、我々の観測では、米軍の攻撃は完全に停止している。たしかに、この大江戸の仲間が米軍に浸透しているのだろう。
 だが、それが誰か、この地球上にどれだけのC4の構成員がいるのかは観測できない。重力波逆算型全地球測位システムですらこの有名人の大江戸が超能力者だという証拠も観測できなかった。我々の催眠迷彩よりももっと高度な秘匿手段、この男の言うオーバースキルで超能力者の存在自体を隠しているのだ。
 そこで、エリア0には、この男からC4と地球人の関係、組織の実態を調査するよう要請する)

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*1:人工筋肉駆動であり、関節部のモーターの音は非常に小さい