前回のあらすじ
nuryouguda.hatenablog.com
まあ、前巻は割と長ったらしく感想を書いたけど。物語も終盤になってくれば、もうほとんど語ることはなく、本を読んでくれという気持ちだ。
ただ、もう、個別のキャラクターを取り上げることはしないが。(アイドルマスターシンデレラガールズのアニバーサリーで時間を使いまくったので、面倒くさくなっている)
今回は「未来」がテーマだと思う。
DUST計画が成功するか?そして未来に繋げられるか?それが成功するのか、失敗するのか、平和的に済むのか、人を傷つけることになるのか、責任はどう取ればいいのか、個人の安心を優先するか、大義に殉ずるか。
様々なキャラクターが様々な立場と、様々な条件のもと、未来というものに対峙している。
そして、未来というのは未だ来ぬものであり、見知らぬものであり、わからないものである。コンピューターのシミュレーションや、過去の積み重ねからの脳内の計算や予測で確率は計算されるが、確率は存在しない予測であり、結果が収束したときにはゼロか100かでしかない。
なので、未来というのは怖い。知らないもの、わからないものは怖い。これが動物としての本能だ。
機動戦士ガンダムZZの前期エンディングテーマみたいなものだ。
これは本作、機動戦士クロスボーン・ガンダム DUSTが富野由悠季監督が描いた機動戦士Vガンダムよりも未来の宇宙世紀を、かつ過去のクロスボーン・ガンダムシリーズから地続きで、描こうとしている作品の本質ともリンクしている。
(G-セイバーは地続き感が少し弱かった。ガイア・ギアもシャアの復活という個人キャラクターによっている感じで、Vガンダムをちょっと飛び越えているようでもある。(いや、Vガンダムのほうがガイア・ギアより後出しだけども))
わかりきった宇宙世紀年表の中の穴埋めは安心感がある。なあなあでわかる。アナザーガンダムもアナザーな世界でありながら、ガンダムの歴史をなぞったような作品がある。WとかXとかAGEとか。モビルスーツのパワーアップもだいたい富野由悠季監督作品の流れを踏襲しているのが多いようでもある。(Reゼロや異世界転生が流行るのも、死の恐怖を分かるものにして希釈する効果があるからなのかも)
まあ、アナザーガンダムの批判が目的ではないのだが。
とりあえず、わからないものは怖いということだ。未来は怖い。この作品がガンダムの後継者だからこそ、それが未来を、産みの親の富野由悠季監督が「滅ぶ」と決めつけた宇宙世紀世界の未来を、描いて切り開いて進むのは作者も読者も怖かろう。
なので、わからないものは怖いということから逃げるために、わかりやすい弱者をいたぶるような悪役も出てくる。高度な脳を持つ前作の主人公のフォント・ボーもこれまでの過去を振り返って、キゾ中将と首切り王への恐怖から、悲観的な未来を予測する。
また、方舟コロニーの王様のタルス・バンス王の娘で体の弱いオリエは、幼いながら自分の死を予測して受け入れる理性と、恐怖する生存本能が内面で相克する。
未来の終着点は「死」なのだが、死は誰も体験したことがない究極の未知であるため、究極の恐怖となる。なので、多くの人は死を避けようとするし、多くの宗教は死を定義しようとしたりする。
その「未来」や「死」という恐怖に屈するか、立ち向かうか、それがヒーローと愚民の差なのだろう。
主人公のアッシュ・キングにとって、未来はわからない、断絶されたものではない。決戦の日も彼にとっては、終わりでも始まりでもない、長い日々の中の一部だ。それは彼がニュータイプでもなく地道に運送業をしてきた仕事人だから持った思想でもあろう。
(フォント・ボーは冷凍睡眠によって過去と一種断絶している)
自分の死について、アッシュ・キングがどう考えているのかはよくわからないが、ある程度覚悟のうちのようでもある。殺人者でもあるので、けじめでもある。ただ、自分の死を恐れて立ち止まらずに、その可能性も視野に入れながら行動する。ヒーロー。
首切り王も結局、偉そうで強そうだけど、未来を恐れていて、未来を変えるために行動するヒーローにはなれない。エバンス・ジルベスターであった時は地球連邦政府の秩序を維持する保守派であり、首切り王になった後は「人類は憎み合い殺し合うのが当然の生き物で、宇宙世紀は滅ぶに決まっている」ということが変わらないと思っている。だから未来や他人の戦いが自分の悲観的な思想の予測に沿って進むことに喜びと安心を覚える。
(僕も思想的には首切り王に近くて、人間の思考の大半は本能的な反射であり、人間の自我は信用できず、人間は単なるけだものだと見下して人類社会を嫌っている面があるのだが、同時に科学文明や文化については尊敬の念を持っている。FGOのマーリンみたいな感じ)
ラスボスであろう首切り王であっても不確実なものは怖いのだ。しかし、アッシュ・キングは一歩一歩、一つ一つの行動から未来を作って進もうとしている。
無印クロスボーン・ガンダムのトビアと同じく、神様じゃないので、不確実な未来を作るために人としてやれることをやるだけだ。アッシュは自分のDUST計画にそれなりの正当性と筋道を持っている。かなり頭がいい。だが、荒くれ者として暴力で意見を押し通してきた面もあるので、自分の考えと違う人間がいることも分かっているし、それを無理に説得するつもりもない。(対話を重視するフォントとはちょっとちがう)
なので、自分の意見が間違っているかどうかは、戦って押し通れるかどうかの賭けで決める。
成功はコンピューターの確率とか予測ではなく、自分で成功させるために押し通す。それが未来への恐怖を減らす彼なりの手段なのだろう。
あと、やっぱりアッシュは少年時代にファントムのおかげでギリギリでギロチンから生還したので、おまけの人生みたいな感覚があるのかもしれない。祖父も偶然出てきていきなり消えたりしたので、無常観みたいなものはもっている。アッシュは見た目もFate/stay nightのアーチャーみたいなのだが、アッシュとフォントの戦いは衛宮士郎と衛宮切嗣の時代を超えた戦いっぽさもある。なので、衛宮士郎を長谷川裕一先生がどの程度参考にしたのかはわからないが、自分の死をそこまで恐怖している感じではない。一回死にかけているし。ギロチンで死ぬことより、生き延びた後の人生のほうが辛かったりする。他のキャラクターが未知なるものとして死を恐怖しているが、アッシュは死を知っているのかもしれない。まあ、女好きで現世主義な面もあるが。
まあ、長々と考察してみたが、結局これは少年漫画なので。
「頑張ってうまくやれ」ということです。
アッシュは荒くれ者だけど、物理学にめちゃくちゃ詳しいからな!少年よ、学びたまえ。
いや、無職の子供部屋おじさんの俺が言っても説得力はないが。僕はKLabで十分に働いた!(自律神経がぶっ壊れた)
まあ、僕はおじさんなので大した可能性はないんですが、少年漫画を読むような少年は頑張って未来を作って欲しいものですね。
あと、アッシュの行動指針の理由で付け加えるなら、未来や予測について、理論や計算ではなく、「自分で救いたい人たちを見て、人々の重さを自分の心の天秤に乗せているから、ちょっとした困難がもう片方の皿に乗ってきても気持ちが揺るがない」ということなんだろう。
フォントは理が勝ちすぎるところがあるし、キュクロープスに協力したのは論理的だけど、軍属になることで人々の生活の現場から離れてしまったという面もある。(冷凍睡眠もあるが)
首切り王は人の命の重さ自体がないと思っている。たまたま死んでないだけって思っている。
だから、まあ、単純に「知ってる人を殺すのは嫌だよね」という割と当たり前な感覚で。それはフォントも心の奥には持っているので、賛美の民が暴走したらアッシュと協力する。
9000万人を救うという数だけでなく、一人ひとりを見ているということ。アッシュは手下も自分の目で見定めてヘッドハンティングしてきたし。
現実はマクロな面もあるけど、顔を見ることが大事っていう面もある。いや、飲み会とか社内政治が苦手でKLabでいじめの対象になって仕事を死にかけるまで押し付けられたりして、人間嫌いの無職としてヘラヘラと孤独に生きている僕がこういうことを書いても説得力はないんだけど。
まあ、現実の人間はコロナウィルスという共通の敵を得ても自分の対策の考え方が正しい、相手は間違っている、という争いの方に力点をおいてしまって、結局人間の敵は人間という感じで驚異をダウンサイジングして大自然という現実から目を背けているようにも見えるんだが。
漫画や虚構の中だけでも人の夢とロマンと愛と希望を見てみたいですよね。
あとは、木星共和国のカーティスの動向が気になる。
そして、様々な名の王たちが群雄割拠する物語としてのDUSTで「聖剣エクスカリバー」に相当する、クロスボーン・ガンダムたちが受け継いできた大剣「ムラマサ・ブラスター」の系譜にあたる「クジャク」が宇宙漂流しているのだが。フォントのモビルスーツのファントムが一度、「クジャク」をレオのモビルスーツに投げ渡したのだが。
アッシュのモビルスーツのアンカーはトレードマークでもある必殺の盾を失い、イカリマルも刃の半分を失った。レオのモビルスーツのブラン・リオンは右手首を失って、「クジャク」を手放してしまった。
聖剣は最後に誰の手に。最後に残る王は誰だ?
次巻、完結!
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