玖足手帖-アニメブログ-

富野由悠季監督、出崎統監督、ガンダム作品を中心に、アニメ感想を書くブログです。

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ドラマ『岸辺露伴は動かない』「密漁海岸」に友愛を見た

 荒木飛呂彦の萬画「ジョジョの奇妙な冒険」「岸辺露伴は動かない」を原作にしたNHK製作のドラマの第9話「密漁海岸」を再放送で鑑賞した。
岸辺露伴は動かない カラー版 2 (ジャンプコミックスDIGITAL)


 うむ。面白かった。僕もジョジョの奇妙な冒険はだいたい読んでいるし好きである。


 おおむね原作どおりであるが、ドラマ版はジョジョの奇妙な冒険の特色である「スタンド」を「ギフト」と言い換えている。精神のパワーを持つビジョンであるスタンドはドラマ版においてはスタンド使いではない視聴者には見えなくても成立するように演出してある。


  • 服装からの演出

 ところで今回印象に残ったのは衣装である。泉京香編集者のドレッシーな服も普通の女性の服とは少し違っているのだが、まあお洒落なんだろう。
 僕はあんまりお洒落ではないが、自殺した親がジュリーのレコードジャケットのデザイナーだったのでイタリア製の服を学生時代から着ている。レディースはメルカリで売っているけど、イタリア服は縫製がしっかりしているので3年でダメになるユニクロの服よりも長く着れる。WWII戦前の服も来てたりする。


 そして、終盤の潜水服。バカみたいなデザインである。まあ、それについては後述する。


 序盤の潜水服。アナクロである。あんな真ん丸の金属製ヘルメットで今時潜水する奴はいない。
 つまりだね、最初から「空想特撮怪奇ドラマシリーズ」という演出を服装一つで宣言しているというわけだ。



 ジョジョの奇妙な冒険の実写化と言えば第4部「ダイヤモンドは砕けない」の実写映画でスタンドの特撮が微妙だったとかそういう話を聞く。僕は金がないので見ていないのだが。


 「岸辺露伴ルーヴルへ行く」は原作もカラー大判を買ったし映画も見に行った。


nuryouguda.hatenablog.com


 「ルーヴルへ行く」もかなり邦画としては気合が入った現地ロケと謎の特撮怪奇現象が描かれていた。水とか。ドラマ版「岸辺露伴は動かない」は萬画に比べると怪奇描写や特撮は控えめである。その分、映画の基本であるカメラワークや照明や演技力で緊迫感を出しているのだが。それが萬画原作を知っていても視聴者を引き付けるメディアの違い、ちばてつやの萬画に対するアニメ版「あしたのジョー」の出崎統のような!


 「ルーヴルへ行く」でドラマ版「岸辺露伴は動かない」のスタッフ班も何かが変わったのか、今回の「密漁海岸」も特撮成分が増えていた。水とか。垢とか。ふつうはあんなアホみたいに変形したりビニールみたいな垢は出ない。歯も普通は生えない。(原案の筒井康隆先生には許可を取ったのかなあ?)
薬菜飯店(新潮文庫)



 でも「ルーヴルへ行く」では映画版ならではのハチャメチャなことをした割に興行収入が10億円を超えて(儲かったのかは分からんが)そこそこ成功したので、特撮をやってみようとなったのかもしれない。


 だから演出が子どもっぽくなったとか、脚本が小林靖子さんじゃなくて「岸辺露伴は動かない」の演出・監督だった渡辺一貴さんになって路線変更したとかそういう表層的なことを言いたいんじゃない。
 脚本劇からビジュアル系になったとは言えるかもしれない。


 というわけで終盤の変な潜水服のデザインだが、昔のウルトラマン、というかもっと格下のレッドマンとかダイヤモンドアイみたいなゴムスーツである。まあ、ドラマ版「岸辺露伴は動かない」は萬画原作ではもっと変なデザインの服を実写の現代服飾にアレンジするところが見どころであったのだが、さすがに序盤で古臭い潜水服を出したとはいえ岸辺露伴は「突撃!ヒューマン!!」みたいなシルバーの潜水服でトニオ・トラサルディは「T」ってイニシャルを入れた「ミラーマン」みたいな緑色の潜水服。馬鹿なんじゃないか。
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 だが、バカな服装にも演出意図はあって、それは木を隠すなら森、ということで。


「潜水するのに頑なにヘアバンドを取らない岸辺露伴とコック帽を被っているトニオ」という、もっと変なものを馴染ませるために変な潜水服を着ているんだと思う。
SH 岸辺露伴 フィギュア 映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』


 それはキャラクターの記号だからなのか?いや、僕はそうは思わなかったね。なぜならこれは「ルーヴルへ行く」に続く国際対決だからだ。原作ではスタンド能力で医食同源をしているトニオだが、ドラマ版では全世界を飛び回って世界中の毒物や希少生物や料理や化学物質を研究している国際人としてアレンジされている。患者との関係も大人っぽい感じだ。


 というわけで岸辺露伴先生のヘアバンドは、今話ではねじり鉢巻きの漁師のオッサンも何人か登場するし、なんとなく「日本男児が戦いに赴く時の鉢巻き」のように見えた。
 そう、日本男児は自分にはあまり得がなくても義理人情で助太刀いたすのである。サムライ!
岸辺露伴は動かない カラー版 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)



 コマを割っている萬画よりもトニオと岸辺露伴の顔が近く睨み合うカットも多かった。岸辺露伴役の高橋一生さんは、まあ、ハンサムな部類だろう。だが、日本人である。顔は平たい。
岸辺露伴 ルーヴルへ行く

 一方、トニオ・トラサルディを演じるAlfredo Chiarenzaさんはイタリア・シチリア島出身の白人である。原作のトニオよりも、阿部寛さんよりも、もっと彫りが深く鼻が高く鷲鼻であり、高橋一生さんと向かい合ったときに日伊同盟とか日本男児とイタリア男の骨格的な対比が強く印象付けられた。そのための鉢巻きである。日本男児は鉢巻きをするのである。イタリア人はその職業にちなんだ帽子をかぶるのである。文化なのである。異文化交流なのである。


 というわけで、伝説のヒョウガラクロアワビの密漁について書いた古文書は和本であり、神にささげる神聖なアワビを密漁する者は謎の浪曲?(日本人なのにあんまり詳しくなくてすまない)や和風の謡いに包まれて謎神社空間に送られるという、和風ホラーテイストバリバリに演出されている。自分の愛する人のために日本を訪れた外国人が日本の土地神の因習呪術結界や日本固有特別生物によって処分されるというホラーの文脈である。
(そんなヤバいアワビの稚貝を養殖している杜王町の漁協組合は何者なんだよ…)


 だが、ジョジョの奇妙な冒険はホラーテイストであってもホラーではなく、バトルマンガである。


 岸辺露伴やジャイロ・ツェペリは伝統や先人の知恵に敬意を払っている。敬意を払っているが、それは戦いを止める理由にはならないっ!
「神様の物を取ってスミマセン、退散します」とはならない。
 敬意を払っているからこそ、正々堂々、自分の能力の限り戦うのがジョジョ。
 というか、この岸辺露伴が最も好きな事のひとつは自分で強いと思ってるやつに「NO」と断ってやる事だ…。


 それこそが自然の神との戦いであり、密漁であり、狩猟の本質なのだ。(まあ、岸辺露伴は動かないと言っている割に岸辺露伴は負けず嫌いで好奇心旺盛なのでピンチに自分から突っ込んでいったり逃げたりもする)


「この岸辺露伴をなめるなよ!」


 というわけで蛸で攻撃します。


  • 日本特撮文化

 日本の実写特撮文化において「大ダコ」は特別な意味を持つッ!日本特撮の「大ダコ」キングコングとかキングギドラとか固有の名前とデザインを持つ怪獣とは違って、あんまり名前がついてない場合が多い。ていうかデザインも変えてなくて時には生きている本物のタコをミニチュアセットにおいて怪獣に仕立てるという雑さ。
 マジで「タコで攻撃する」って漫画っぽくてアホな絵面だし、CGでなんでもするアメリカ映画と違う日本特撮っぽさがバリバリなんだけど、「先人の知恵に敬意を払う」とか「日本の漫画や特撮は海外でも人気」という文脈がセリフや珍妙な潜水服のデザインで出来ているので、「うん、やっぱり海では怪獣蛸が妖怪鮑と戦うよね!」ということに「納得」せざるを得ないッ!


 世界よ、これが日本のタコだ!


 というわけで、変な潜水服や鉢巻き日本男児岸辺露伴やイタリアでも読まれているクールジャパン文化も全て「蛸を食う」というラストシーンに収斂するように設計されていて、それは見事だと思った。


 そして、イタリア人男性シェフと、イタリアの家庭料理を作る日本人女性と、日本男児主人公の岸辺露伴と日本文豪から名前を取った海外旅行に行きたがる泉京香が和やかに食卓を囲んで終わる。(その後に露伴先生は虫の交尾に夢中になるけど)


 つまり、日本の伝統とか世界中の食文化とか土地の風習とか土地神とか能力バトルも大事な要素なんだけど、本質的には「外国人とも仲良く世界平和を願って食卓を囲もう」という友愛のメッセージなのだ。


(まあ、蛸を食べたがらない文化の人もいますけど、日本人は明治に哺乳類肉食を解禁してから本当に世界中のなんでも食うようになった。毒のあるフグも昔から喰うし、ヴィーガンをする人もいるし、ビジエする人も昆虫食をする人もいる。僕みたいに痩せるために人工甘味料のガムばっかり噛んでノンシュガーコーラばかり飲んでるのもいる)


 ドラマ版のトニオ・トラサルディがスタンド能力ではなく「世界中の食材のケミストリーのマリアージュで中華的な医食同源で病を治す」というのも、結局、日本が比較的平和というか戦争をしていないので世界中の食材を貪欲に輸入しまくって喰いまくっている国だから成り立つわけなんですよ。世界が平和じゃないと海外の食材は手に入らないし、日本の食糧自給率はクソなので戦争をするとすぐに餓死者が出ます。
 それに、手塚治虫先生を源流とする日本漫画界は結局第二次世界大戦の敗戦から価値観を出発させているし、トキワ壮系やジョージ秋山のような社会闘争系も水木しげるのような軍人上りも割と日本の漫画は左翼的なインターナショナリズムや平等主義や平和主義を根幹として協調と友愛を訴えるものが多い。もちろん、ミリタリー系の右翼的な国粋主義の漫画もあるが、それも排斥せずに面白ければ表現の自由を守るというのが日本の漫画文化だと思う。


 そういうことを、世界中で虐殺が続いている昨今、NHKのドラマがジョジョの奇妙な冒険のような変な萬画のドラマ版でさりげなく匂わせているのは大事なことなんじゃないかな。


 外国人ともなかよく食卓を囲もうというウルトラマンエースみたいな…。(ジョジョの奇妙な冒険の人は割と国際結婚してたりナチスドイツの軍人とも友人だったりするし…)


 つまり、色々と文化の違いはあるし、それは戦いになることもあるけど、本質的には人にやさしく、なかよくしようよ。ってこと。それが人種を越えた人間賛歌なんじゃないかな。

人にやさしく

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