天文学と数学に通じ、江戸時代に独自の暦を算出した渋川春海(安井算哲)の物語ということで、ミステリ的な話や学究的な話かと思っていたが、意外にエンタメ性があった。ラブとか人情や習俗もアクションも権謀術数もいろいろバランスよくあった。主人公の成長や熟成や、心情の喜怒哀楽が物語性を持って色んな事件を通じてうまく構成されているので、単なる歴史解説ではないドラマとなっていて、映画として見やすかった。掛け合いの面白さや、演技・芝居としての面白みもかなりあった。
多少、大げさにしたために趣味が分かれるだろうな、という部分もあった。特にラストは計算通りに成功しても良いと思ったが、天体運動の複雑さや天文物理学の奥ぶかさを表現したと見るべきか。
原作は長そうだが、映画は割とちょうど良かった。絵としても品があり、時代劇だが、俯瞰の画角を広くとったカット等があり、ちゃちなセット物が多い凡百の時代劇ではないスケール感があった。
美術にも端正な説得力が有り、CGに頼った部分が少なく、日本を舞台にした映画として見ていて違和感やストレスを感じなかった。まあ、細かい所としては現存した資料がないためにオリジナリティを発揮している部分もあるが、見ているあいだには不快に感じる違和感はなかったと思う。
滝田洋二郎監督の作品は見たのもあるし見てないものの方が多いが、わりと好感触のものが多い。
冲方丁はピルグリム・イェーガーの最初の方と蒼穹のファフナーのアニメくらいしか知らないけれども、格段にきちんとした物語になっていて驚いた。ファフナーは志は高かったんだけど、アニメシリーズとしてはちょっと表現しきれなかった部分もあるというか、って思う。
天地明察では、たくさんの人物や時間経過が機動戦士ガンダムAGEよりも多く描かれていたのに、機動戦士ガンダムAGEよりも一人ひとりの個性が描かれ、全体としてのドラマ性の要素として役立っていて、格段の差がある。来週最終回のガンダムAGEは昨今「登場人物が多すぎて掘り下げが足りない」と言われているが、登場人物の数の問題ではなく、がんばればできたんだなあ。
他の本を大量に積んでいるので、原作小説は読む予定はないが、映画は2時間程度で江戸時代の数十年間を描いているが、ダレずにさっぱりと見れて良かった。
学者が主人公の成長譚としては、最近はグスコーブドリの伝記を見たのだが、それとはテーマ性は違うと思った。グスコーブドリの伝記はやはり幽霊や奇跡など幻想的なものが主軸であり、この天地明察は明快な数学と地道な人間の研鑽努力を描いている。ただ、まあ、主人公が実直に頑張っているところは似ていたかなあ。
また、主人公の岡田准一を支えるヒロインの宮崎あおいも良かった。主人公は学者なので、家を長く留守にして観測に行ったり、世間の常識的な振る舞いが下手だったり、上手く計算ができなくてイライラしたり、不安定な部分もある。
ですが、妻となってからの宮崎あおいが、主人公がダメな時もいい時も変わらずに毎日を過ごすように支えるというシーンがあり、そこが良かった。こういう内助の功はとてもいいと思うし、理想的な女性である。逆に、女性の側からしても主人公は支えがいのある人物だったのだろうということだ。こういう関係性はとても好きですね。美女に支えられるに足る、きちんとした人物に憧れます。ちなみに、私は境界性人格障害や回避性人格障害を患っているのですが、そのような不安定な精神病患者には、このようにどんな時も態度や評価を一定に保って付き合ってくれる人が頼りになるらしいです。うらやましいですね。
また、私個人の事情としては、私は高校時代に地学準備室で氷菓のように青春を過ごし、地学部天文課長として望遠鏡を操ったり流星や日食や黒点の観測をしたりしていたので、この映画の天文観測の描写はなかなか楽しめました。
地軸変動による北極星の変化や近日点について、ちらっと映画で触れられていて、ニヤリとさせられました。
というわけで面白かったです。
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