玖足手帖-アニメブログ-

富野由悠季監督、出崎統監督、ガンダム作品を中心に、アニメ感想を書くブログです。

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夢喰いメリー第3話ポリタンミュージアム

第3話「夢の向こうから」
夢喰いメリーのテンポについて - まっつねのアニメとか作画とか
承前
この作品の演出のテンポは、美術館で絵を見て、次の絵に移る時のテンポに似ている、と思った。
これは、結構かなり個人差があって、昔からデートの問題になっているんですけどね。
だいたい、僕が美術館で絵を見る時は、全体を見て、部分を見て、ペンタッチとかそのつながりとか、意図とか、構図における物の関係とかを見て、大体満足したら次って感じですかね。面白かったらもう一回最初から見たり気に言った奴だけ見たりするけど。


メリーの絵はねー、ゆきゆきえさんの背景とか、撮影レベルでの色遣いの妙とか、一枚絵でもおもしろいんすよ。だから、それを鑑賞するわけです。それでも、アニメの絵は飽きるわけです。けなしてるわけじゃなくて、ファーストインパクトが薄れるっていう感じね。
そこで、「そろそろ次の絵が見たいな」とか思った時に親切にカットが切り替わってくれるので、嬉しい。
切り替わり方も「引きの後はアップがほしいな」「甘い絵の後は辛いのがほしいな」って時に、気を効かせて味を変えてくるコース料理のようで美味しい。それで、一つ一つの絵も美味しいんだけど、「次の皿!」「次の皿!」「次の色を!」「次の色を!」という状態に成る。
和風のいちまちゃんの絵の後に洋風のメリーが出たり。暖色、寒色。光と黒。めまぐるしいのがおいしいな。
こういう美術的な貪欲さを僕に感染させるのはキャシャーン Sinsで画家ロボット石田彰のマルゴーを出した山内重保らしいな、と思う。


山内と言えば、ブレンパワードの愛の淵の絵コンテなんですけど、富野アニメのテンポも「ちょうどいいタイミングでカットが割られる」「一枚の絵の中での情報量の咀嚼時間と視聴時間がマッチ」してます。
富野由悠季の場合、それを僕が一番意識したのは伝説巨神イデオンのテレビ版で「あ、このクオリティの粗い絵をあとコンマ1秒見続けたら不愉快」っていうギリギリのタイミングでカットを割ってくれるアクションシーンでしたね。*1イデオンはちょっとネガティブな理由でしたけど。メリーは一枚絵もきれいで、その上で次々に見せてくれるので嬉しいな。
あ、富野アニメでも「ワンカットの中で、アンサンブルがきちんと芝居をしててダレないから見やすい」っていうテンポの良さもありますし、新訳Zの戦闘シーンのカット繋ぎはすごく気持ちよかった。



あと、絵を見る時は、やはりオブジェクトに沿って視線が誘導されて、目を動かすという筋肉運動が生じて、それが動物的生理を刺激してくれるんですが。それで、「もうちょっと下の方も見たい」と言う時にスッとカメラが動いてくれて心地いい。「メリーはどこに立ってるんだ?見たいな」と思った時に、次のカットで鉄塔の上だって見せてくれる。
次の皿を食べたいっていう欲求、適度な空腹感をコンマ何秒で僕に与えてくれてから餌をくれるから、さらにおいしい。空腹はスパイスだからね。
こういうリズムが、なんか生理的に合う。かなり好みが分かれると思うんだけどね。生理の問題だから。次々に切り替わるけど、早すぎるわけでもなく、一つ一つの絵を味わう時間が在って、ちょうど飽きる時に差し替えっていうコンマ何秒の世界です。絵コンテ至上主義だよなー。これは監督が全部コンテを書くしかないかもしれん。編集かな。


あと、逆に欲しいと思ってない絵を入れられてびっくりってのも意外に心地いい。
今回目についたのは、Aカットでキャラが右から左に動いて、目がそれを追ってったら、Bカットでカメラがイマジナリーラインを超えて、キャラが左から右に動いてるのを映してから急に止まるってのが多くて、それで眼球が急制動を賭けられて、ちょっとした驚きを喰らうって演出が多かった。これもまた気持ちいい。
キャラの動き以外にも、桜の花びらや扉とか電車とか、強制的に眼球を動かすオブジェクトがあるし。一枚の絵の中でも、構図で視線誘導してて、次の絵を見る時に丁度キーに成る所に視点を置かせてもらってからカット割れるし気持ちいいなあ。
ロングカットとアップの交錯もそこら辺の、眼球の距離感の錯覚、眼筋の強制運動にともなう半物理的快感に近い。山内は「六感、あるいは七感、そこら辺をくすぐる」らしーし。


テクニカルな話ばかりしたが、絵は、あと、メリーのへそと腹筋と肋骨の下端と腰骨の間のくびれが女子中学生くらいの体型っぽくてかわいいね。へそ!
メリーがジグザグに歩きながら近づくのも山内っぽいアクションだなー。ふわっとしてて可愛いし。夢っぽいし。
3話はメリーが夢魔のいちまちゃんと戦うけど、殺すのが目的じゃなくて、向こう側に連れてってもらうのが目的なので、グロい戦い方をしなくて、「泣くまでほっぺたをつねる」ってのが、地味にかわいくて楽しかった。
いちまちゃん意外と良いキャラだな。和風ロリでオシャレで韻を踏んだセリフで現れたり、いきなり切れて悪魔的な表情とか、みなとや友達や夢路とメリーの命を何とも思わないような押し潰し攻撃をしかけて来て、結局泣くまでほっぺたつねられるとか、見てて楽しい。
いちまちゃんの目のグルグルの変化を見てるだけでも楽しいな。夢魔は瞳の中のメリーの四角やエンギ・スリーピース(遠藤綾)の三角がキーなのかな。


話は、子供のみなとちゃんの悩みに付け込む悪い夢魔のいちまちゃんをボコる。んで、みなとちゃんは年上のおにーさんの夢路君とメリーおねーちゃんのアドバイスを貰って、友達ができて良かったね。っていう普通のプリキュアみたいなスタンダードな話なんで、演出がトリッキーでも割と王道だったり。
でも、こういう単純な異世界バトル萬画だと、僕は「あ、中学生までが対象か」って思って見なかったかもしれんので、山内大爆走で良かったです。中学生向けのアニメは他にもあるしね。
ただ、みなとちゃんが夢から覚めた時に、夢路とメリーが滑り台の下に隠れているってのが演出的にも、夢路の優しさ的にもカッコよかった。夢路は自分も含めてデイドリームを幻だってみなとちゃんに思わせる事で、きちんとみなとちゃんが現実の友達を作れるようにしてあげたっていうのが超偉い。


藤原夢路は巻き込まれ主人公で、ちょっと夢占いできるくらいの超能力しかない普通の男子高校生だが、橘のおやっさん藤原啓二の薫陶が良すぎるし、ジョン・ドゥ中田譲二の薫陶もあるし、イケメンだ。優しい。
しかも、単に「美少女を助けたい」って言う巻き込まれラブコメ主人公だけじゃなくて「メリーに助けられたから、その分の恩は返す」という男らしい筋の通し方をしてて良いな。
で、メリーはメリーでそれとは別の思考を持ってて夢路の助力の申し出をまた断るわけで、そこのすれ違いも面白い。
いちまちゃんとか、ジョン・ドゥとか夢魔もみんな好き勝手なことをやって、世界の命運とか思想的背景なんか関係なく自分の落とし前しか考えてないのが潔くて俺は好みだな。
「おたくもコミュニケーションしましょう」とか言う程度の作者の思想の代弁をするためだけのキャラクターや、世界設定とかより、世界もキャラクターも勝手に存在する方がよっぽど生きてる感じがするぜ。
そーいう好き勝手な連中の中でも、主人公の夢路が「借りを返す」っていう筋を通すのが、公共に放送されるアニメの良心って感じで、良し。


で、エンギとの戦闘でメリーがピンチに成って、二人なら、やれる!とかに成るのかなー次は。演出もすげーけど、お話も楽しみだな。結構スタンダード。
他の夢魔が夢路の知らない所で夢路の日常を侵食し始めてて、文芸部の面々もそれなりに癖がありそうで楽しみです。
こういう風に、話の面でも伏線と言う名の興味と空腹感を与えて、来週の味を美味しくしてくれるのが、実に良い。
次の絵が、楽しみだ。

*1:新房演出もそう言う所があるか?