玖足手帖-アニメブログ-

富野由悠季監督、出崎統監督、ガンダム作品を中心に、アニメ感想を書くブログです。

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WOWOWノンフィクションWの「富野由悠季 宇宙エレベーターが紡ぐ夢」みた

今さらだが入手したので見た。
内容の詳細はこちら

TOMINOSUKI / 富野愛好病 宇宙エレベーターで新作を作り、宇宙世紀をも再構築しようとする富野由悠季
取材地 取材する対象 取材内容

  1. 宇宙エレベーター競技会 日本大学理工学部精密機械工学科・青木義男教授や 競技の実際風景と問題点
  2. 東芝エレベータ開発塔 開発部機械開発担当・浅見郁夫氏 高速エレベーターの運作とシステム
  3. 静岡大学電気電子工学部 井上翼准教授 カーボンナノチューブ
  4. 京都大学大学院工学研究部 科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業さきがけ・岸本直子研究員 プランクトンの形と運用
  5. 千葉工業大学工学部生命環境学科 矢沢勇樹准教授 土壌の作り
  6. 第3回宇宙エレベーター学会 青木義男氏をはじめ各分野の専門家数名 構想図を一緒に検討してもらう

ちなみにこの番組は、財団法人日本科学技術振興財団が設立した第52回科学技術映像祭の部門優秀賞受賞をしたそうです。おめでとうございます。
TOMINOSUKI / 富野愛好病 祝!WOWOW「ノンフィクションW 富野由悠季 宇宙エレベーターが紡ぐ夢」、第52回科学技術映像祭【部門優秀賞】受賞!


たしかに、科学ルポとして良くできていたと思う。
宇宙エレベーターというテーマの柱を中心に、富野由悠季という科学者ではないがバイタリティと知名度と人脈を持つ人間の取材活動を主人公にして、ガンダムという有名な話題性で修飾し、東京スカイツリーのエレベーター・カーボンチューブの製作現場・プランクトンの形状の力の分析・宇宙で土壌を作るテラフォーミングなどの現在進行の個々の研究を上手くまとめて紹介する番組になっているのは上手い。
また、ニュースやドキュメンタリーも多く手掛ける榊原良子様のナレーションが、暖かに年齢と見識を重ねたナナイという感じで、実によかった。
そして、技術の羅列にとどまらず、未来への志向性を感じさせるのも、若者(僕よりももっと年下の高校生くらいの人)へのメッセージという感じで良い。
消費社会への警鐘ということで、僕のような無能者は早めに死のうとは思うけど。

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富野監督が、今現在もスポンサーがつかないし、制作の目途も付いていない作品のために、実際に東奔西走して資料収集するのも面白かった。富野監督はガンダムで有名だからこういう番組になるけど、他の監督たちも目に見えない所でこんなに資料収集をしているのだろうか?だったらすごいね。富野はガンダムの知名度を武器にしてるかもしれないが・・・。本当に色んな大学の研究室にずかずかと乗り込んで見学するんだね!
SFファンタジーなんだから、好き勝手に創作しちゃえばいいというものだが、(実際にガンダムミノフスキー粒子Iフィールドを使ってるし)「富野の好きに作ってはいけないという枷」を自覚的に設けるために、世の中や基礎研究を知ろうとする態度は好感が持てる。本もたくさん読んでるし。(でも、本棚に資料に混じってトーマの心臓が・・・)
ファーストガンダムでも、「宇宙空間のスペースコロニーでも人は地球に近い生活を望むだろう」→「だから雨が降る」→「雨宿りからドラマが生まれる」→「ララァアムロの出会い」という風に、好き勝手なファンタジーだけを描くのではなく、リアルな社会や人間心理を元にした枷を逆に利用してドラマのきっかけにするという態度は、実に綺麗だ。やっぱり視聴者も社会的動物だから、社会集団と関係した所から生まれるメインキャラクターのドラマには心を引かれる。(これは社会性を排除してメインキャラクターのみで進行するゲーム的アニメ作品とは違う所だ)
本当に作品を作る気満々ですね。富野。
ガンダムと関係するか、それとも全く別の宇宙SFになるかはまだわかりませんけど。この宇宙エレベーターの研究を生かして描いた未完の短編小説「はじめたいキャピタルGの物語」はマン・マシーンが登場するし、ガンダムに繋がっていそうですが。


富野が、風に翻弄される宇宙エレベーター競技会の実態を見て、本当に、地上の風だけでも大きな力だし、それに自転や気圧の変化、月の引力なども加わるとかなりダイナミックな変動がゴンドラにもケーブルにも強いられるんだなあと、見て取れた。やはり、実験はそういうのを実感できる。
そういう外力に対抗するために、実際の東京スカイツリーのエレベーターを製造している実験棟や、カーボンナノチューブの研究室や、やプランクトンの研究を見学した、というのが面白かった。
特に面白かったのがプランクトンで、岸本氏は立体プリンターを使って、CTスキャンで得られた微小プランクトンを拡大して立体模型を作っていて面白かった。立体にすると、プランクトンが実に幾何学的な形で、人口衛星に似た機能的な形状をしているという事が実感できた。
巻貝などもそうですよね。これは実際に建築にも応用されている。

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宇宙エレベーター学会で、青木氏がエレベーターの富野案について「固定的な宇宙エレベーターではなく、気象、重力、潮汐力に応じて動的な揺らぎを取り入れた形は良い」と評したのも面白い。
三次元立体ではなく、動きや加速度も含めた多次元構造が巨大建築には必要なんだなー。
しかし、機動戦士ガンダム00軌道エレベーターの話が全く出ない番組だったな。サンライズなのに・・・。ガンダム00軌道エレベーターの存在が最初から自明な物で、イノベーターへの進化も迷いなく描かれ過ぎていたので、あまり疑問視出来ないというか、考えにくいものだったとは言えるか。
軌道リングや、メインシャフトと、それを覆う外装とか、メカニカルデザインは面白かったけどなあ00のエレベーターも。たしかに、螺旋力を強調する富野の言う話を聞くと直線的過ぎるとは思うけど。


ただ、参考にしたDNAのらせん構造に節があるっていう富野デザインは二次元的過ぎる!DNAには節はない!2本の核酸は大体等距離です!


あと、富野案は面白いし、節を作ることはともかくDNAやプランクトンを参考にしたデザインは面白い。ただ、やっぱり富野は高齢者だし、まだメカニカルというか古めかしいデザインだと思う。
富野はモビルスーツの名称の案の候補でシルエット・マシーンと言ったり、イデオンブレンパワードでピラミッドパワーを出したり、キングゲイナーではシルエットマシーンを制式採用して、「形自体に力を持つ」というモチーフが好きな人だ。
ならば、機械的整合性よりも、もうちょっと生物的でオーガニック的で良いんじゃないかな。地球へ…の映画版の宇宙船ではなくとも。
∀ガンダムに登場したザック・トレーガーはちょっと生々しいデザインで面白かったけど。


ザック・トレーガーは地上の打ち上げ設備と、宇宙の衛星と、そこからのびるケーブルと、船を固定する桶の部分という風に役割分担をしていた。
有機的な宇宙エレベーターも全てが一本の柱ではなく、地上、大気層、宇宙といった環境に合わせた分割構造にして、それぞれが有機的に繋がったり離れたりという事を動的に行う構造にする、というのも動きがあって面白いし、デザイン的にも美しくなりそうだなあ、って思ったけど、詳細を言うとパクられるから黙っておく。
この番組で描かれた、「プランクトンのようなミクロな物を、宇宙エレベーターという超マクロに置き換える」というアイディアは面白かった。私の大学時代の専攻は有機化学だったのだけど(劣等性だったが)、たんぱく質は正に形を成すことで力(というか化学反応の連携性)を持つ物なので、それをマクロに応用できないものか・・・。
地上部分のマスドライバーをダンテの神曲の煉獄山として、宇宙エレベーターの各基点を天国階層のように描いて、そこに生活圏を置いたら、宗教的神話的文化的民俗学的な要素も付加できて、ドラマティックにもなりそうだ。アニメのフラクタルよりももっと深い世界観が構築できそうだ。
リングワールドも早く読むべきだとは思ってるんですけどね。長生きするつもりだったらば。
と、そんな風に色んな想像力が刺激される面白い番組でした。


ただ、富野の言う「十万年後も人類が繁栄する宇宙大航海時代」や「宇宙エレベーターだけでなく、消費社会ではない新しい知見に支えられた新しい文明」というのはちらっと単語だけ出たけど、この番組ではまだまだふれられていなかったので、監督の頭の中には物凄い色んなものが渦巻いているんだろうな。と、それも楽しみでした。
監督はあの年で新作を作る気満々で、最新科学をガンガン取り入れていて、やっぱり面白い爺さんだと思う。
アニメのスポンサーがつかなかったら、最悪漫画原作者とかでも・・・。

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