玖足手帖-アニメブログ-

富野由悠季監督、出崎統監督、ガンダム作品を中心に、アニメ感想を書くブログです。

母をたずねて三千里のテレビシリーズの最終回は富野コンテ

ちゃんと最初から最後まで見た。原作も青空文庫で10分くらいで読んだ。短編だった。というか、イタリアの愛国小説クオレの中の一部の短編が母をたずねて三千里。昔の愛国小説だから簡潔に民族主義や少年の努力を奨励する内容が描かれている。
アニメ版はその小説を一年分に膨らませてあって、高畑勲や脚本スタッフの工夫が意識できる。
小説だと、貧乏なマルコが出稼ぎに行った母をたずねてアルゼンチンに行く、というのが大筋で、テーマとしては、異郷の地でもイタリア人同士が助け合う、イタリア人の少年マルコが頑張る、というもの。外国人にイジメられたマルコがイタリア人に助けられて母に会える、という右翼的な原作。
アニメだと、イタリア人に助けられるのはそのままあるが、旅を通じてマルコが貧しい人を救う父のような医者になりたいと志す、という要素が加わっていて、高畑勲監督のインテリ趣味を感じた。あと貧しいアルゼンチン人を助けるところとかの左翼っぽさ。パクさんだなあ。原作は二十世紀初頭の話だし右翼の精神主義な部分もあったが、アニメはインテリな医者の力で母を救うと言うのが高畑勲らしい。
高畑勲は冷静だ。
そんで、冷静ゆえに、主人公のマルコがひどい目に遭う所の描写が冷徹で客観的でマルコのかわいそさが強調されてた。
しかし、マルコが医者になる動機として、そのように父親を継ぐような教養主義小説的な要素を入れつつ、フィオリーナとのマルコの初恋を、最終回の後のご褒美としてさりげなく配置してあるのが映画的だ。初恋とか美少女との再会は映画的。フィオリーナは原作にいないけど、綾波レイみたいな薄幸の無口美少女で萌える。
教養主義に薄幸美少女を入れる高畑は映画監督だなあ。宮崎駿監督作品だと、もっと少女との距離が近い。高畑は付かず離れず、冷静に理詰めでシナリオを作って感動させる感じがする。

母をたずねて三千里(1) [DVD]

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そんで、私は富野ファンだけど、富野は絵コンテでこのシリーズに最初から最終回まで関わっている。コンテ千本切り時代の富野が実感できる。
富野の手がけた回は、マルコがひどい目に遭う話が多く、富野の後年の機動戦士ガンダムのような主人公イジメが感じられた。
怪我など、痛い目に遭うのも多いが、人に騙されたり無駄足になったり、不安感に陥る場合も多くてかわいそうだった。
心理的に他人への猜疑心や警戒心を感じるようなストレス描写が上手かった。
逆に、最終回はマルコの母と会えて母の病も治り、幸せな感じに満ちていた。綺麗な花や庭園や空が安心感を感じさせるようだった。ここらへんの背景は宮崎駿の天才的なレイアウトの手腕だろうか。
富野にしては幸福感がありすぎる(笑)。
こういう後日談的な総括がポルフィの長い旅には無かったなあ。いや、ポルフィは帰る場所がなくなってるから三千里とはまた違うんだけど。妹以外は全部捨ててるしなー。ポルフィ。あ、ポルフィには親友が一応いたのか。


それから、今、富野監督が書いた映像の原則改訂版を読んでいるが、カメラワークの角度や、カットやイマジナリーラインの切り替えなど、映像の原則に書いてある事が母をたずねて三千里のなかでも再確認できた。古いアニメは絵柄や映像処理がシンプルだし、ストーリーも奇をてらっていないので、映像の基本的原則が生み出す効果がわかりやすい。
高畑勲監督のソリッド(硬質)な造り方と、宮崎駿の抽象表現の上手さが結合していた時期の良さだなあ。富野はまだ絵コンテマンであり、中枢ではなかったと思うが?まあ、宮崎駿の叩き台としては上手かったと思う。あと、やはり富野コンテ回は苦難の痛々しさや、マルコの感情の起伏が伝わってきて面白い物が多かったと思う。


そんで、最終回には予想もしなかったような豪華さで、今までのマルコの旅で出会った人が総出演して嬉しかった。旅の幸福な終わりを原作以上に表現していた。高畑勲監督は冷静だが、こういうふうに途中経過の積み重ねをラストで構成し直して提示して感動を呼び起こすのが上手い。
フィオリーナの再登場が良かった。トニオ兄さんを演じる曽我部和行さんの良い声の歌で締めて良かった。


それから、Bパートの旅の帰り道は基本的に左から右に向かって帰るのが映像の原則だなーと。宇宙戦艦ヤマトとか。
ラストは中央奥に向かって歩いて行く主人公達から空にパンして、遠景で「おわり」。原則に沿ったコンテだなあ。

映像の原則 改訂版 (キネマ旬報ムック)

映像の原則 改訂版 (キネマ旬報ムック)

作画的には、柔らかな絵柄だし、特殊効果もないし、特徴らしい特徴はよくわからんかった。
作画スタッフで僕が存じ上げてるのは海のトリトンの羽根章悦さんくらいか。