前々回の記事で「富野由悠季の世界展の図録が気に食わない」というブログを書いてプチ炎上した。
nuryouguda.hatenablog.com
キモ・オタ・ムーブをしてしまったせいで傷つけてしまい争いを生んでしまった…。俺は本当にひどいやつ。宇野常寛は10年以上前から嫌いだけど。
僕は「富野監督の功績を強調して他のスタッフへの敬意が足りない」とか外野のくせに好き勝手書いたけど。「ママ4のページで井内秀治監督を富野監督の下のように書くのは良くない!せめてワタルの功績を書くべき」とプリズムヤクザ仕草をしてしまったのですが。
僕みたいな外野のオタクは好き勝手書くけど、やっぱりその、実務だと予算とか諸々の事情があって御苦労なさっているわけで。何の苦労もせずに単に富野オタクをしてるだけの僕が偉そうに書いて傷つけるの、本当に良くない。
僕は偉そうにデカルトを引用して「歴史を物語のように整理すると事実と異なってしまう」とか書いたんですが。
いだてんの嘉納治五郎ですが「双方理あり!」です。自分の意見のほうが100%正しいとか、宇崎ちゃん巨乳ポスターのような不毛なポジショントークで争いをするつもりはない。
僕の意見は無責任なファンとしての立場で、図録を作成した人には僕には推し量れない(というか見てないし知らない)ご苦労や様々な事情があるわけで。まあ、何事も100%の完全な作戦にはならんものです。ただ、それでも富野由悠季の世界展という人の心の光を見せてくださったことには敬意と感謝を持たないといけないなあ、と反省した次第でございます。
- 富野由悠季の世界展に行ったけど・・・
そんな邪悪な富野ファンの僕ですが。「グダちんさんが富野由悠季の世界展に行かないのは文化的損失」などと複数の人におだてられて調子に乗って、チケットも数枚融通してもらい、Gレコの先行上映会にも当選したので(倍率は4倍だったらしい)行ってきた。
行ってきたのだが。
展示、殆ど見なかった。
というのは10時に開館して入場したのですが、Gレコの上映が14時からで、トークショーが終わったのが17時前で、その後オフ会に行ったので。展示を見る時間は4時間しかなかったわけですが。
その前日にツタヤで逆襲のシャアのBDを借りたんですよ。で、富野由悠季の世界展には逆襲のシャアの絵コンテが展示されている。4分冊1セットで、全編の絵コンテを読むことができる。
読むに決まってるだろ!オタク!他の展示も見たいけど、どうせ一日で見切れる量ではないしまた来るので、その時にまた前日に逆襲のシャアのBDを借りると110円が無駄になるでしょ!(せこいよ!)
そういう訳で、富野由悠季の世界展の他の展示は捨てて、会場と同時にア・バオア・クーで十字砲火を突破するガンダムのように、他の人が序盤の展示室で団子になっているのを尻目に、最大戦速で逆襲のシャアコーナーまで突貫した!途中の部屋の美術館の人からは無人の部屋を一気に突っ切る僕は異常者のように見られたけど、オタクなので。
でも、展示は順番に見なくても空いてるところから見るというのも一つの戦術ですよね。途中であきまんの油絵とか各種立体物とか、説明を読まなくても一瞥で良さが分かる物はちらっと見た。(まあ、あきまんの油絵、画集を持っているので概要はわかっているので、実物としての質感をチェックする、という感じで)永野デザインは考えて読まないとわからないので、飛ばした。
で、結局逆襲のシャアの絵コンテを読むのに3時間かかりました。うーん。事前にBDを見てチェックポイントを60個挙げてきたのですが。富野書き込みが無いページなどを速読で飛ばしたんですが、チェックポイント以外のページでも富野書き込みや本編と違う所などは読み込んだし、やっぱり初見だと3時間かかるな・・・。まあ、別にアニメーターになるつもりもないし、絵コンテを読めても何の得にもならないというゴミのようなオタクなんですけどね!
ただ、まあ、なんとなく引き込まれて最後まで読んでしまった・・・。オタクなんだなあ…。それはBDも同じで、展示に行く前日と、この文章を書いている日中に逆襲のシャアのアニメを見たんですが、まったく退屈はしなかったですね。普通のTVアニメだと途中で集中力が切れて筋トレしたりグラブルやFGOの素材周回をしたくなるのですが、逆シャアはなんど見ても見入るな…。やっぱり面白いのかな、これ…。10回は見てるし、ほぼセリフ覚えてるんですが…。
- 逆襲のシャアの絵コンテを読むオタクの心
しかし、まあ、4分冊で1セットしかないので、結局僕が3時間独り占めするという蛮行を犯したわけですが。(あと2セットくらいあれば・・・)展示を見ていた人が逆襲のシャアコーナーに来るまでになんとか1冊目を読み切るように飛ばす努力はしたんですが。
でもさあ・・・。僕以外のお客さんは逆襲のシャアの絵コンテを2,3ページパラパラめくってすぐに棚に戻したので、売れない同人作家のような気分になった。
非売品の逆シャア絵コンテだぞ!尊いだろ!読めよ!オタク!
わかってない、わかってない!物販に力を入れるオタクはわかってない!富野は尊いだろ!(夢見りあむ)
と、文句をたれていたんですが、6月ころの福岡での展示にも行った人によると、福岡では絵コンテを読み込んでいた人が何人かいたらしい。
僕が不審者オーラを出していたので他の人が近づけなかった説・・・。めっちゃやむ。まあ、手元のメモと照らし合わせながら高速でページを手繰っているおじさん、客観的にはキモオタでしかないからな・・・・。でも、妙に集中して読み込んでしまって、義務感で読んだという感触はなく、絵コンテは設計図にすぎないけど読んでて楽しかったですよ?
まあ、僕も逆襲のシャアを3時間で読み終わった後、残り1時間はベルリとアイーダの音声ガイドを聞きながらざっと展示を見て、物販で8000円でTシャツと酒とトミスタグラムを買って、開始5分前にGレコ上映室に入った。
疲れていたのでほとんど内容が目に入ってこなかったけど、富野を呼び捨てにして妙に富野に対して距離感が近い(富野監督が描き下ろしたセリフだし、)レイハントン姉弟が仲良さそうにしている音声ガイドは、まあ、微笑ましかった。大体学芸員さんが作った展示概要に沿ったセリフだけど、学生運動時代の富野喜幸について海賊をしていたアイーダさんが凄い雑にまとめて言うの、すごく面白かった。本人だから書けるセリフという感じで、ここは聞いてほしい。若さゆえのアレですね。キャピタルの依頼でトミノオタクになったレイハントン姉弟というシチュエーションがもう、おもしろい。
というわけで、富野由悠季の世界展第一回目は「富野由悠季の世界展の展示をほとんど見ずに逆襲のシャアの絵コンテを読んでGのレコンギスタの劇場版を見る展」という、実質映画を2本見た展になりましたね。
そして、劇場版GのレコンギスタI「行け!コア・ファイター」が11月27日に本公開されるまでにGレコTV版の残り5話の殺人考察をしてしまわないといけない…。
最初はトミノアニメブロガーナイトという狂ったイベントで全26話について30分位で話した内容なのに、めっちゃ長くなってしまい…。今では1話書くのに4日かかるという。ギルティ・・・。10月頭に肺炎にすらならなんだら・・・。というわけで11月はほぼ潰れることが確定したので、次に富野由悠季の世界展に行くのは12月ですね!ラビリンス・・・。
- 逆シャアの絵コンテ・メカについて
というわけで前置きが長くなりましたが、絵コンテの感想です。
ただ、読んだ後Gレコの映画を見て飲み会に行って、月曜はGレコのトークショーについて書いて、火曜は睡眠障害で夕方まで寝た後無理やりGレコ終盤5話を一気に見たわけで。逆襲のシャアの絵コンテという至宝をせっかく読んだのに、あんまり詳細には覚えていない。
それに、好評を受けて普通に絵コンテが販売されたらここで書くことは無意味になる。そういう中途半端な記事を書きます。
まあ、語るが。とりあえず、最初はわかりやすいメカについて。
図録にもあったが、最初の方はヤクト・ドーガがサイコ・ドーガだったり、サザビーがザ・ナックだったりして名称が違う。何ヶ月かけて描かれた絵コンテなのかわからないが、途中で「以後、ザ・ナックはサザビーとします」と書かれて変わっていたり。
絵柄についても、ザ・ナックは永野版ナイチンゲールに似ている絵が描いてあったし、リ・ガズィも最初の方はハイ・ストリーマーの星野之宣先生版に似てるけど、デザインが上がってきてからは割りと本編のMSに似せて描かれている。富野監督は映像の原則で「絵コンテの絵は一生懸命描いてはいけない」って描いてたけど、まあ、ガンダムエースの漫画家ほど上手くはないけど、サザビーはサザビーに見えるようにだんだん絵柄が上達していってる感じがする。書き慣れてきたからか、アニメーターのデザイン作業や作画作業と絵コンテ執筆が平行していて富野監督も修正などでメカの絵を描く作業をしていたからだろうか…。
ギラ・ドーガのデザインも途中までできてなかったようで、「しばらくマラサイで代用します」ということでマラサイがギラ・ドーガの代役で前半の絵コンテに書いてあったり。確かに左右は違うけどシールドはマラサイとギラ・ドーガは似てるけどな。マラサイ、逆襲のシャアの3年くらい前のデザインだけど富野監督は気に入ってたのかなあ。
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MG 1/100 AMS-119 ギラ・ドーガ (機動戦士ガンダム 逆襲のシャア)
- 発売日: 2013/07/20
- メディア: おもちゃ&ホビー
また、サブフライトシステムについても、絵コンテではシャクルズ(仮称)とかベースジャバー(仮)と書いてあったのだが、劇中では名称が出ずセリフは「下駄」で統一されていた。途中でめんどくさくなったのか?結局、その後のガンダム辞典では仮称のシャクルズとベースジャバーが採用されていたのだが。
νガンダムのフィン・ファンネルの残りの数については図録の通り指示があったけど、サザビーのファンネルの残数(戦場での再装填は可能なのだろうか?核爆弾に巻き込まれたのもあるだろうけど)とかは絵コンテと完成版の映像で齟齬があるような。いつの間にかサザビーのファンネルが6基に戻ってたり。(ちなみに、サザビーがファンネルを放出する時にデザインやMGなどプラモデルではファンネルラックが開くけど、絵コンテではそのギミックは省略して、そのままファンネルが出るようにと指示して作画カロリーを減らそうとしている。)
チェーンが乗っているリ・ガズィが腰のランチャーを撃つけど、確かに最初に3発撃って、最後に1発をアルパ・アジールに当てるのだが、3発撃った後もランチャーに残弾が残っているように作画されていて…。まあ・・・。忙しかったんだな。
シャアがアクシズの中で撃つ3連装ランチャーも割りと残弾の描写が雑だったり。まあ、物語の面白さに直接関係する部分ではないのですが。
アムロのνガンダムのビームライフルをギュネイ・ガスのヤクト・ドーガが置きシールドで防いでシールドは吹っ飛ぶけど、(その後、ちょっと他の場面の描写があって)ギュネイ・ガスがケーラ・スゥを人質にしてアムロを脅迫するシーンでヤクト・ドーガのシールドが復活していて、作画のブレはある。(有名な話かもしれないが)絵コンテではシールドが撃破される指示はあるが、撃破された後のシーンでは特に指定がないので、なんとなく設定通りに描いちゃったのかも。
また、当時マクロスの納豆ミサイルが人気だったのでミサイルやファンネルについて何度も「ホーミングしません」と指示してある。で、サザビーとνガンダムの最後の1発のファンネル同士が巴戦をしながら同時にサザビーとνガンダム本体も打ち合うシーンは見せ場だからか「ここは君たちアニメーターが好きなホーミングを描いていい」というような指示があった。当時のアニメーターの流行りと、演出意図と、ミノフスキー粒子のあるガンダムとマクロスの世界観の違いと作画カロリーなど、複数の要素を気にしていることがホーミング作画の指示でも窺い知れる。
なお、最近は背景マンがGレコのナットの中でも新海雲を描くのが富野監督の悩みらしい。Gレコのナットの回転居住区高さ、設定によると40メートルくらいしかないので雲があるわけないのだが。(ていうか、そこでエフラグを飛ばすキャピタル・アーミィは狂ってるな・・・。絶対事故るだろ)
大判作画についても各所でやらないように、普通の用紙でPANを描くように、という風に作画カロリーを抑える指示がたくさんあった。
ハサウェイのジェガンがアルパ・アジールのコックピットに近づくカットでは「絵コンテの絵ではアルパ・アジールが大きすぎるので直して」という指示があったけど、反映されてたかはいまいちわからんかった。
また、岩や破片や爆発についても「絵コンテ通りの数ではなく、もっとたくさんあります」という指示が多い。まあ、絵コンテ用紙の画像欄は狭いので。逆襲のシャアはイデオン発動篇ほどではないにしてもミサイルがめっちゃたくさん飛んでるアニメだったな。
そういうふうに指示書として絵コンテを読むと表現者としての富野監督と、監督として予算管理も頭に入れている富野監督の考えが察することができます。
メカアクションが高速なのが逆襲のシャアの見どころだが、速いので絵コンテの雑な絵で、段取りが番号で指示されていてもいまいちわかりにくいところがあった。撃ち合いのシーンのビームの順番とかワンカットの中でのMSの位置の変化など。
それで、図録にあったようにギラ・ドーガのビームライフルを奪うνガンダムの芝居を富野監督が自ら修正原画して「絵コンテの通り」としているように、作画段階でアクションの指示を出し直したりする場面が多かったと想像できる。ギラ・ドーガのライフルを奪うシーン、視聴者も気づきにくいけど絵コンテでも1,2コマでサラッと書いてあるので。
シャアとアムロがロンデニオンで格闘するところは、セリフも濃いけど、手刀をどうよけて、次にどうパンチするかという段取りが細かく書いてあった。そして投げられるシャア。
あと、シャアたちとアデナウアー・パラヤたち地球連邦高官やカムランと会談するシーンで机に乗っているスウィート・ウォーターとアクシズとルナツーの模型は市販品らしい。ルナツーは本来はもっとアクシズより大きいんですけどね。スケールは統一されてないようだ。
- 映像の原則の上手下手について
highlandviewさんのブログでも、富野展の図録でも5thルナが落ちることが確定してから上手に回るというのは描いてあって、有名な解釈だが。
今回見るにあたって、それだけでなく、クェスとハサウェイを乗せたシャトルが下手下側から斜めに上昇していくので、下手のクェスに対する圧倒的脅威として5thルナが落ちてくる、というアクションサスペンスの演出要素もあると思った。
また、揺れるシャトルの中での上手下手の演出も面白い。構図が斜めになった客席で(宇宙なので斜めもクソもないのだが、とりあえずカメラが斜め)上手にいたクェスがニュータイプ的に艦長に文句を言いながら、衝撃で下手下側に流れてハサウェイに抱きとめられて、上手下側でかがみ込んで神様に祈るアデナウアー・パラヤに下手上側からつばを吐くというのが、クェスの変化して反逆する性格やアンバランスな能力を表している演出だ。
5thルナが落ちるという大イベントの上手下手も大事だが、それに対面するキャラクターの心情演出のドラマの描き方も大事なんじゃないかなあ。
それで、シャトルを救うように現れるνガンダムのヒーロー性が強調される。これは主人公メカの描き方として重要。レズンに艦隊レベルのビームだと思われるのもかっこいい。
また、逆襲のシャアの展開は、だいたいアムロのνガンダムが下手にいて、最後に上手に回ってアクシズを押すという流れだけど、ギュネイがケーラを人質にする悪役ムーブをするシーンでは流石にアムロが善人に見えるようにνガンダムが上手だったね。
- キャラクターについて
また、クェスは地球連邦高官の娘で、ロンドベルとネオジオンを行き来するトリックスターでもあるので、アムロ、シャア、ハサウェイ、ギュネイ、ナナイなど相手や場面によって上手にいたり下手にいたりしている。映像的にもかき回しているキャラ。
ラー・カイラムの中の海の景色を映すルームで、クェスがハサウェイからアムロやニュータイプや家族の話を聞いてるときは、クェスは大体ハサウェイの聞き役として下手にいるけど。シーンの最後に「うちなんか、家族で地球にいたんだよ」とひとりごちるクェスの顔のアップは上手寄りになっていてクェスの主観セリフだと映している。
また、クェスがジェガンの前でチェーンと口論になった後、ハサウェイとロンデニオンのコロニーをラー・カイラムの窓から見るカットの冒頭では、ハサウェイにロープで助けられて恥をかいたと思っているからか、クェスの機嫌が悪いらしい、みたいな指示があったような・・・。でも、男子に気安くされて機嫌が悪くてもロンデニオンのコロニーを見て感動して機嫌を治すので、クェスは感覚が変化するキャラクターだ。少女である、ということが丁寧に描かれている。
そういうふうにクェスの心情が描かれているので、クェスという新キャラが魅力的に見える。
また、冒頭にクェスが逮捕されるシーンは、追われるクェスやクリスチーナたちのカットの前にマンハンター部隊(絵コンテではマハという名称はない。警察って書いてあったと思う)の車とか兵士のアクションカットがあったけど、それはカットされている。
で、重要なのは、富野由悠季が描くクェスは可愛いということです。逆襲のシャアの絵柄は大友克洋の影響とか80年代っぽさがあって個人的に全部が好きというわけではないし、劇中のクェスもあんまり13歳という幼さに見えない場面が多いのだが。富野由悠季監督はクェスを可愛く描こうという気持ちがあるっぽい筆致だった。他のキャラよりも念入りに書いてあるように思えた。
ネオ・ジオン国歌(我らが願い)を電車で聞いた後、シャアと一緒に車に乗っているクェスが座席であぐらをかく(かわいい)のは絵コンテで指示があったけど、三つ編みになっているのは絵コンテ段階では指示がない。
というか、クェスは衣装持ちでネオ・ジオンに行ってからも2回位私服を新しくしているのだが、絵コンテ段階では指示はない。(衣装やキャラクターデザインも絵コンテと平行だったのだろう。ケーラの髪型が絵コンテで違っていたりする)
ロリコンとしての僕が好きなクェスのビジュアルはハイ・ストリーマー新版のクェスですね。
クェスの服装にはあまり絵コンテの指示がないが、冒頭でνガンダムに飛んで行くチェーン・アギのキュロットとファー付きのジャケットについて「チェーンはダサい」とわざわざ鉛筆で付け足してある・・・。ひど・・・。まあ、チェーンはヒロインである前にメカニックマンだからな・・・。
ロンデニオンで照れるハサウェイのバタ足が分裂するギャグシーンは絵コンテどおり。
ハサウェイはネオジオンでメキメキとパワーアップしていくクェスという超能力少女と対になるように、あんまりかっこよくないのだが。男子は地道にやらなくちゃという感じで。プチ・モビルスーツを購入するシーンでは「実技に強くなくっちゃ」の後、「コロニー公社の試験に受かるために」というシーンがあって、それは本編ではカットされている。若干段取り臭いからか?(嘘ついてるシーンでもあるし)
ところで、ブライトがアクシズの坑道の中で乗っていたプチ・モビルスーツがハサウェイが乗っていたものと同じ型だけど、同じものなのだろうか?さり気なく父親と子の関係を描いているのだろうか。
ナナイについては、色々あるけど、全部を覚えてはいない。シャアと酒を飲むシーンでは裸足であることが強調されていた。酒の入ったコップを投げた後に髪をかきあげる芝居についてもいくつか書いてあった(忘れた)。ただ、シャアがナナイの胸にグラスを当てる芝居やシャアの頭を抱くナナイのカットなど、ちょっとエッチな男女の芝居については絵コンテでは明確な指示はなかったので、少し意外だった。
他にも、逆襲のシャアは心情がドラマチックなカットが多いのだが。主役周りだけでなく、アクシズを押しに行く連邦軍やギラ・ドーガなど、感動的だが。
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いちいち文字で「ここはこういう気持ち」とか野暮なことは書いてなくて、若干等身が低い富野絵のレイアウトと状況描写で設計していった感じだ。ただ、ジェガンばかりの映画で作画を明確にするためか、援軍のGMIIIに付いてはGMIIIだと注意書してある。
ただ、富野絵は等身が低いのと狭い絵コンテ欄に描いてあるので、完璧ではない。νガンダムの移動中にアムロが眠っているチェーンを起こすところでは「図のようにおっぱいを触るのではなく、腕を叩いて起こすようにしてください」などと、描いてしまった絵の不備を訂正する指示がいくつか。
シャアのサングラスは絵コンテで黒くベタ塗りされているけど、絵コンテの段階でも既にダサかった。クワトロ大尉のサングラスのほうがかっこよかったのになあ。
ケーラの死体をあんまりはっきり描かないように、という配慮もあった。
- カットされたもの
図録でも書いてあったけど、それ以外にもシャアが何度かサイコフレームを渡した、とか「情けないMS。私のMSも初陣なのだぞ」とか「サイコフレームを上手く使えよ」とかいうセリフがあったが、最後の「命が惜しかったらサイコフレームの情報など渡すものか」以外は全カットされている。絵コンテの段階で書いた段取り臭いところをカットすることで、サイコフレームがシャアから渡されたということの真実が最後にドンと置かれる構図になっていて効果が高まっている。サイコフレームの謎についてはオクトバーさんのセリフやセリフなどでも匂わされていたが、シャアが渡したという名言がされるのは最後の最後。
また、サイコフレームの発光などは近年の非富野ガンダムでテーマになっているが、原典である逆襲のシャアでは、あまり重視されておらず、結構そっけなく「資材の発光」とか「オーロラ光みたいなもの」という風に絵コンテの段階では書いてあった。小説のベルトーチカ・チルドレンでも「サイコフレームが共振したのかもしれない」という程度で、そんなにサイコフレームは重視されていない。要素の一つではあるが。ベルトーチカ・チルドレンでの描写はむしろ「νガンダムそのものが、光の化身になるように見えた。」という風に、サイコフレームよりガンダムを重視しているようだ。まあ、ベルトーチカ・チルドレンは終盤の芝居も違うし、サイコフレームよりベルトーチカが重視されているから。(ただ、ベルトーチカ・チルドレンのアムロはシャアがサイコフレームをサイコ・ドーガ経由で自分に挑戦状として渡したことを自覚しており、それを乗り越えることで父親になろうとしていた。なので、アニメで描かれたサイコフレームを知らなかったアムロとか、クェスの父親になれないアムロとはやや違っている)
ただ、光の帯がアクシズから太陽へ向かうのは小説版でも明記されている。しかし、それがララァ・スンのシルエットに似ているとか、エンディングロールで地球を取り巻く光の帯の中を一つの光を二つの光が追いかけている、という演出は絵コンテでは描いてない。発光とかは撮影段階での指示だろうか。
また、ララァ・スンの夢は本編ではカットされたが、絵コンテでは二つあった。アムロがνガンダムを受領するために月に向かう下駄のシートで眠っているときにも、絵コンテではララァの夢を見ていたが、煩雑になるからかカット。
その時のララァはアムロを咎めるような表情をしている、とあったが、本編ではもっと超然とした感じの表情だった。
ララァに化ける白鳥についても「白鳥が親子で飛ぶのか?飛ぶのです」というような意見が書いてあった。
まあ、ララァ・スンはわけがわからないというか、超人の女性なのであんまり明確に定義するのは野暮なんだろうなあ。
チェーンの死後、サイコフレーム資材がνガンダムとサザビーの戦場に流れてきて、アムロはそれを「チェーンが来たのか?」と言うが、絵コンテの注釈では「資材そのものが来たのではありません」と書いてある。オーラというか思念の象徴のイメージとしてT字のサイコフレーム資材が描写されているということらしい。現実的に考えるとチェーンと一緒にサイコフレーム資材はリ・ガズィの爆発で四散したはずなので。戦場に四散し、宇宙に拡散した人の意志のメタファーとしての光だったり、T字だったりということだろう。
サイコフレームではなく、人の思いの方が大事ということなので、そこは近年のガンダムと違っているところだ。
また、香港の空港で黒人のカップルが手前にいることが明記されているが、スウィート・ウォーターの街に黒人を描きすぎたら「コードに引っかかります」と書いてある。でも、本編ではスウィート・ウォーターの電車とかには結構黒人もいる。各軍のクルーにもいろんな人種がいる。そこら辺は作画段階で調節したのかな。1988年の映画だけどポリコレに敏感な富野作品。
- 付け足されたもの
まあ、色々あるんだろうけど、一つだけ印象に残っていたのは、ロンデニオンでクェスが寝返るとき、クェスがシャアを助けてアムロに銃口を向ける芝居が絵コンテではなかった。(私の読み飛ばしだろうか?)かなりインパクトの有る芝居なので、付け足されたとしたら、絵コンテ段階よりクェスとシャアのキャラを強調したいという気持ちがあったのだろう。(まあ、メカデザインも絵コンテの途中で変化するという制作状況だったようなので、色々と変わっている)
- 一番面白かったのは
νガンダムとサザビーの決戦は互いにファンネルやビームライフルやバズーカや拡散メガ粒子砲やビームサーベルなどの武器を使い果たし、男同士の殴り合いで決着するのがとてもいいのだが。
その殴り合いの終盤でブライトが仕掛けた爆発でアクシズが割れて、バトルフィールドが崩壊するのだが、その時にシャアはナナイの思念を受けて、「何、戻れというのか?ナナイ、男同士の間に入るな!」と叫ぶ。そして、そのスキにνガンダムに後ろからぶん殴られて「うわーーーっ!」ってなってサザビーがぶっ壊れるのだが。
ぶん殴られる直前にシャアの顔の後ろ(の全天周モニター)に迫っているνガンダムがかなりハッキリと描いてあって「これからこいつを殴りますよ」という感じでとても面白かった。アニメ本編ではシャアの背後をパスするνガンダムと、シャアの顔のアップのタイミングがずらされている。
でも、男同士の最後の決着が、女に気を取られたスキに後ろから殴って終わる、というのがなかなか好きだなあ。アムロはそういうところ、本当に容赦しないので。
- しかし、逆襲のシャアは本当に面白いのか?
短期間で逆襲のシャアを2回見て絵コンテも読んだのだが。
アクションも口論も派手な映画なのだが。
でも、ミサイルが飛んでると言っても、伝説巨神イデオンほどでもないし、そもそもイデオンよりスケールが小さい戦闘だし。
隕石が落ちなかったという点で、ノストラダムスの世紀末予言をやっつけるような構図ではあるが。
アムロとシャアの決戦ではあるが、難民や地球連邦の問題はまったく解決していない。(地球連邦の腐敗はF91に持ち越される)ハサウェイとクェスなど大人に振り回される不幸な子供の問題も解決していない。(なので、閃光のハサウェイやVガンダムにテーマ的に続く)
なので、逆襲のシャアは名作なんだけど、イデオン発動篇ほどすべての決着をつけたわけではない。まあ、イデオンはイデオンで強引すぎるんだけど。
逆襲のシャアは意外と狭いテーマの映画なのかもしれない、って思ってしまった。アムロとシャアの決着っていうのがメインテーマなので、コロニーの難民だの、地球連邦の正義だのと言っても、結局二人の男の意地の張り合いなので。
でも、映画を見ている間は引き込まれていたし、絵コンテも一気に3時間で読み切ったし、このブログも6時間かけて熱中して書いてしまったし、やっぱり名作なのかなあ・・・。単に僕が富野監督とガンダムのオタクだから好きで、過集中しただけかもしれんが。
しかし、もちろんこのブログで取り上げたこと以外にも逆襲のシャアの絵コンテにはもっと情報量がある。また、僕はアニメーターや動画製作者ではないし、タイムシートを切ったりするスキルもないけど、スキルのある人が読んだらまた印象が変わると思う。
なので、富野作品の絵コンテが市販される未来を祈って・・・。
Gのレコンギスタの劇場版のプレミアムバンダイ限定版パーフェクトパックBDには絵コンテが付くので、買え!私は既に予約したぞ!そして絵コンテに商品価値があるってことを上げていきましょう!
p-bandai.jp
さて、明日から本格的にGレコの考察作業に復帰しなくては・・・。スペースイシュタル様とデレステとグラブルは・・・。まあ、シナリオを読めたらいいかな、くらいで・・・。
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