玖足手帖-アニメブログ-

富野由悠季監督、出崎統監督、ガンダム作品を中心に、アニメ感想を書くブログです。

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#富野由悠季の世界 富野由悠季の感想

 イラストや映像についての感想は次回に書く。
 なぜかわからないが、いつの間にか僕はインターネットに棲息する富野オタクの謎のポジションになってしまい、「グダちんが富野由悠季の世界展を見ないのは文化的損失」と言われるようになってしまった。(自分で自分を見ると単なるオタクの屑だと思うけど)
 精神異常者をつけあがらせるとよくないって、すげこまくんでも書いてあった!


 まあ、逆襲のシャアの絵コンテを見た時間も含めると富野由悠季の世界展に3日、20時間費やしたので、それについて感想を書くことは他のオタクにとっても有益であろう。デカルト

 後の人は前の人が終えたところからはじめることができ、かくして多くの人の生涯と仕事とを合わせることによって、各人が別々になしうるよりもはるかに遠くへ、みんなでいっしょに進むことになるのである。

 と言っているので。


 富野由悠季の世界展の福岡展と兵庫展は終わってしまったが、島根や富山や静岡や青森の展示も残っているので、まあ、僕が感想を書くことも無意味ではなかろう。
富野由悠季 全仕事 (キネマ旬報ムック)

 とは言うものの、図録や実際の展示を見ればわかることのネタバレをするつもりはない。いや、普通に金を払って見ろよ…。図録は買え。

富野由悠季の世界

富野由悠季の世界

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: キネマ旬報社
  • 発売日: 2019/06/22
  • メディア: 単行本
 あと、会場限定のパンフレットには音声ガイドのレイハントンコントの台本が収録されているので会場で聞いたことを忘れたくない人はパンフは買おうね。
(僕はアニメ海賊なのでオタク人脈の力でチケットを譲ってもらったが)
 というわけで、富野由悠季の世界展の情報ではなく個人的に気づいた感想を書くようにする。
CAUTION!
 イラストや映像や情報を書かず、感想しか書いてないつもりだが1万9千文字あります!オタクなので!
CAUTION!



 20時間ほど鑑賞して、22Pノートにメモしたので、それについて改めて整理していく。
 また、今回の項目では富野監督の作品について記述して、美術品としての各種画稿については次回に分けて書きたい。

  • 第一部「宇宙にあこがれて」

 幼少期、大学時代、虫プロ時代、フリーコンテマン、「海のトリトン」「勇者ライディーン」「無敵超人ザンボット3」の展示である。幼少期の富野監督が宇宙に憧れていたのは事実だろうが、初期監督作はあまり宇宙に行ってないので、うーん。ザンボット3が宇宙に行ったのもラストバトルくらいだし…。


 まあ、そういう学芸員の人の文脈はともかくとして。


 富野監督が幼少期に父親の日本軍から委託された与圧服の写真や小松崎茂のイラストなどから宇宙ロケットなどに興味を持ったことは事実のようだ。


 ともあれである。
 富野喜幸少年の宇宙旅行に関する自由研究とか、小中学生の時に架空の戦闘機を描いたペン画や水彩画などが展示されていたのだが。
 その殆どに「Tomino」とか「喜幸」とか「富野喜幸」、あるいは「芥子」という画家のような気取ったサインが入っている。これはかなり自己愛が強い子供だったということを感じさせる。富野監督は戦前は研究者だったのが、戦後に教員になって35歳頃から90代で没するまで余生を過ごしていたという父親を反面教師にした、というインタビューがある。が、同時に父、富野喜平氏と母親から1字ずつ名前をもらって喜幸と名付けられた長男である。そういうわけで、父親に対する反目もありつつ、そういう名前を持つ子供出る自分に対する自己愛や愛されている実感などはあったようだ。長男だから。
鬼滅の刃 3 (ジャンプコミックスDIGITAL)

 まあ、ちょっと生意気っぽいし、子供のペン画の癖に画家のようなサインを入れて今日まで残しておくという性格はちょっと自己愛が強すぎる気もする。ダリのような子供だったのかもしれない。まあ、富野監督の実績や商業効果は天才画家に匹敵するものでもあるが。
 それを未だなし得なかった子供の頃から富野監督は自意識が高い子供だったようだ。それが小田原小学校の丸坊主のガキどもの中で一人だけポマードで頭を固めている富野少年らしさを感じさせる。そして禿げた。
 また、富野監督の父の富野喜平氏敗戦の日に軍事資料を焼き払ったが、隠し持っていた与圧服の写真に添付した日記に「喜平 雲泉居士」とサインをするような人であったので、文化的な意識が高い家庭だったのかもしれない。
 エッセイ「ターンエーの癒し」によると富野本家は分家の喜平さんに後年、マンションを相続する程度には金持ちだったらしい。富野監督、弱者の味方のように見えて実家が太いのでちょっと底辺としては…。まあ、アニメ業界人の条件として実家が太くないとダメ、みたいな風潮はある。ジブリの二人も実家太そうだし。出崎哲出崎統兄弟の経済事情はどうだったんだろうか?でも出崎統は学生時代から貸本漫画で稼いでいたのですごいよな。


 富野監督は絵が描けない監督と言われるが、思春期の頃の作品はかなり頑張って絵を練習しようという感触があった。まあ、10代のレベルなのだが。ていうか、喜寿を過ぎて10代の頃の絵が残っている物持ちのいい実家がすごい。ペン画の他に水彩画もあるが、富野監督は先日の質問会で「影響を受けた芸術家は、ゴッホクリムト」と、短く答えた。
 まあ、富野監督は絵がかけるしデザインセンスもあるけど、アニメーターという人種はもっと化物じみた画力の持ち主がゴロゴロしてるからな…。絵を書かない演出家と言われてもしかたないか。ザンボット3の神勝平が叫びながら泣く所は富野原画らしいけど。(キングゲイナーやGレコのキーアニメーターの吉田健一さんにも「線がよれよれだけど、僕はこんな感情は描けないのですごい」と褒められた)


 学生時代のフォトコラージュや脚本、演出、撮影を務めた自主制作映画は軽率に死なせたり、死を超える愛情みたいなニュアンスがあったり、まあ、芸術学部の映画学科に入っちゃうような中二病っぽい雰囲気があった。また、自主制作映画は白黒でホラーっぽいが、(セリフがないので話は殆どわからんが)女性が男性を引っ張っていくような感じがあり、富野青年の女性の趣味が伺える。


 大学生になった富野喜幸学生運動の時代のさなか、体制側の日大執行部の書記長などをやっていた。それを音声ガイドのアイーダ・スルガンさんははしゃいでいたと言うが。

 しかし、富野喜幸青年は体制側だったにせよ、広島の原水爆禁止世界大会に取材している。その戦後18年の60年代の時点で広島の原水爆禁止世界大会は分裂したと富野は記している。
 父親が軍事工場の研究者であった富野であるが、その時点で若者には戦争体験がないという。(幼少期に空襲は受けたらしいが、従軍はしていない)そして、戦争体験の世代間や、被爆者や軍人や大衆などの違う立場の人の間での戦争についての意識の共有などがなされていないことを糾弾している。(このエッセイが載っている誌名は「世代63」である)
 それは戦争反対と言うだけでなく、日本人が偏狭な視野しか持っていないこと、日本人全体が戦争責任から目を背けていることを批判している。これは富野監督の70歳を超えてなお通底している思想であるようだ。構造主義の影響もあったと思う。また、家庭においても戦争体験を黙して語らず、仕事に逃げているような父親への鬱憤もあっただろう。どの家庭でもそうかもしれないが。私も自分の親の来歴より富野監督の来歴のほうが詳しい。親は自分の恥を子供に語ることはしないのだ。


 また、富野青年の所属する執行部は体制よりだったらしいが「核兵器全廃」を掲げた私学連のポスターを描いていたらしい。
 核兵器の脅威や無責任な大衆への怒りは後の富野作品に共通しているもので、それが大学時代にすでにあったということ。
 現代の若者はともすれば経済発展のための抑止力を持つためとか、北朝鮮への恐怖からか核兵器を容認する意見を持つ人もいるが、幼児の頃に空爆を受けた富野青年は核兵器とそれを容認する社会やまとまりを欠いている左翼に怒りがあったようだ。それは現在まで続いている。
 キューバ危機やベトナム戦争に対する言及は展示されていなかったようだが。(機動戦士ガンダム自体がそれに対する批評という面もある)


 長男として親から名前をもらったというプリミティブな自己愛とプライドと、戦争などの後ろ暗い過去を燃やして黒歴史にして継承してくれない戦中世代の親や大人たちへの怒りなど、相反する感情が富野喜幸の思春期を作り上げていったような。
www.asahi.com
 戦争責任を日本人が隠して戦後を有耶無耶に生きていたのは、ナチス・ドイツを人道上の罪と定義して人類が罪を繰り返さないようにとしたキリスト教圏の戦争への感覚と違って、日本人は恥の文化なので個人的に隠すような感覚だろうか。しかし、キリスト教圏の国のほうが結果的に9条を押し付けられたにせよ、平和憲法を持つ日本よりたくさん戦後も戦争をしている。(しかし、私の祖父は陸軍中野学校のエリート憲兵だったので、仲間内の飲み会では武勇伝話で花を咲かせていたようだ。対外的には敗戦は恥だが、仲間内では朝鮮人に対する虐待などは武勇伝になってたりする。そういう日本人の老人は僕も見てきたのだ)


 そういう戦争責任についての記述は∀ガンダムGのレコンギスタの企画書にも記述してあり、富野監督の一生の問題意識なのだろう。人を殺すロボットなので、殺人の責任と義務というのはガンダムのテーマなのだ。


 それで、虫プロ時代になるわけだが、虫プロは倒産したにせよ、バンクシステムが多用されていたからか、かなり丁寧に絵コンテが番号を振り分けられて封書で保管されていると感じた。(経年劣化はあるものの)全部が全部残っているというわけではないのかもしれんが。
ロボット ヒューチャーの巻

ロボット ヒューチャーの巻

ロボット ヒューチャーの巻

  • 発売日: 2018/10/20
  • メディア: Prime Video
 ↑これが富野氏の人生初演出。オリジナルストーリー。


 シートン動物記の絵コンテも展示されていたが、完成品を見てないのでよくわからなかった。資料集めに苦労したということはエッセイで了解済。

シートン動物記[図書館版](全15巻)

シートン動物記[図書館版](全15巻)



 海のトリトン勇者ライディーンザンボット3もこの部で企画書が展示されているが。これがすべて実作品で描かれたかというとそうでもない。しかし、キャリアの初期であるにも関わらず、売れてきた伝説巨神イデオン聖戦士ダンバイン機動戦士Zガンダムの企画書にも負けず劣らず、かなり観念的でファンタジックな要素がある。他のアニメの企画書はあまり詳しくないので、富野作品の企画書の体裁が正しいのかはわからないが。

海のトリトン DVD-BOX

海のトリトン DVD-BOX

 少年はいかに生きるべきか、いかに成長するべきか、戦争と文化とは、などの哲学を云々するようなストーリー原案がキャリアの初期から書いてある。あまり娯楽の見せ場やおもちゃの商品展開ががどうこう、というような文章ではない。(全く娯楽やおもちゃを無視しているわけでもないのだが)(富野監督が書いた企画書はあくまでストーリー部門で、玩具との連動企画は別の人が書いたのかなあ。村上天皇とか)70年代の流行りだったのだろうか?しかし、現在に至るまで富野作品の企画書は観念的である。
超合金魂 GX-41S 勇者ライディーン DXフェードインセット

最終話 燃える宇宙

最終話 燃える宇宙

  • 発売日: 2016/09/01
  • メディア: Prime Video

 かといって、富野アニメが観念的かというとそれだけでもなく。観念の要素もありつつ、絵コンテのアクションさばきも冴えているために、見ていて楽しいバトルアニメになっている。観念的な世界観とストーリーを設定する思考と、感覚的に楽しい演技の素養の両方が富野監督にあるとわかる。(Gレコをコマ送りで見ていたけど、70代にもなってめちゃくちゃ速い剣戟のアクションの工夫をしている)

  • 第2部人は変わっていくのか?

 機動戦士ガンダム伝説巨神イデオンの企画書、デザイン、原画、プラモデル、名場面動画などの展示がある。
 機動戦士ガンダム伝説巨神イデオンについては記録大全集や安彦良和原画集や当時の映画のパンフレットなどで既知のものが多かった。
 それでも企画書など珍しいものもあるのだが、それは図録や展示で見られるので、特にここでは書き残さない。ニュータイプ論とかイデ論というのはあるのだが、企画書の思想がそのままアニメになっているわけでもないし、作っている間の気分とか制約とかノリとか、そう言うので変わっていくわけであるし。まあ、どちらも名作なので普通に見るといいと思う。

機動戦士ガンダム大事典 アニメック別冊16号
機動戦士ガンダム大事典―一年戦争編 (ラポートデラックス)
機動戦士ガンダム宇宙世紀 vol.1 歴史編 (ラポートデラックス)

 しかし、イデオン発動篇のラストの動画上映は素晴らしいので見入った。哲学的、宗教的、SF的な名シーンであるが、テレビの39話とか発動編の激闘を経て、最後にいがみ合っていたキャラクターたちが穏やかになるのは、続くザブングルのラストシーンのカーテンコールのような劇的な鎮静効果があるのではないかと、今回感じた。
伝説巨神イデオン 発動篇
イデオンという伝説 (オタク学叢書 (Vol.2))

 物販で1/144のイデオンの巨大ソフビが売ってたけど6万円超え…。

  • 第3部 空と大地の間で逞しく

 「無敵鋼人ダイターン3」「戦闘メカザブングル」「オーバーマン・キングゲイナー」の展示。ガンダムイデオンに比べると多少展示の物量が少ない。それでも企画書はある。
 破嵐万丈の性格設定の表面から見えにくい複雑さとサイボーグ論については必読。
超合金魂 GX-82 無敵鋼人ダイターン3 F.A. 約180mm ABS&ダイキャスト&PVC製 塗装済み可動フィギュア

 ザブングルのビリン・ナダは出渕裕さんが贔屓して大人気だったらしいが、当時を知らない僕は特に思い入れはない。
 ウォーカーマシンはガンプラよりもよりミリタリーモデルに近いプラモデル展開を狙った感じがあるのだが、メカの構造としてはエルガイムパトレイバーでより洗練されていく前段階という感じだ。
マスターファイル ウォーカーマシン ザブングル (マスターファイルシリーズ)

 その後もロボットデザインはいろいろあるのだが、そもそも人型ロボットは非効率的であるので、現実的なマシーンとしてのロボットはあまりその後のロボットでは見られない気がしている。デッサンがリアリティがあるとかではなく、やっぱりアクエリオンガルガンティアもヴァルヴレイヴも超常現象みたいな超技術でのロボットなので。マクロスも変形が複雑になりすぎて独自の力場がないと人型を保てないんでしょう?(かといって、戦闘機を突き詰めてるのも戦闘妖精雪風エリア88くらい?)


 キングゲイナーは骨格からデザインされているけど、基本的に衣装という感じのロボットデザイン。そして超能力。詳しくはこないだ出てきたあきまんさんのインタビューを。
akiba-souken.com
 キングゲイナーは一番オタクだった大学生の頃に見たので思い入れもあるが、その分、ムック本なども読んだので特に今回の展示で印象が変わったという感じはあまりない。
ROBOT魂 OVERMAN キングゲイナー キングゲイナー&ガチコ 約130mm ABS&PVC&PET製 塗装済み可動フィギュア
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オーバーマンキングゲイナー オフィシャルブック エクソダスガイド
 キングゲイナーダイターン3ザブングルに比べると後年の作品であるが、アクションエンタメ路線ということでまとめたっぽい。



 第3部後半は「ラ・セーヌの星」「闇夜の時代劇 正体を見る」「しあわせの王子」。
 「ラ・セーヌの星」については僕も好きな作品であるし、富野的な展開もあると思うのだが。総監督のおおすみ正秋監督が居て、その下で降板した出崎哲監督のリリーフとしての富野監督なので、これを富野作品として扱って良いものかどうか。富野監督関係ないけど、ラ・セーヌの星は歌とかも好きなんですけど。でも井荻麟とは全く関係ない。
〈ANIMEX1300 Song Collection シリーズ〉(2)ラ・セーヌの星
ラ・セーヌの星 DVD BOX 上巻
ラ・セーヌの星 愛蔵版 1
ラ・セーヌの星 DVD BOX 下巻

 赤毛のアン高畑勲監督によって富野さんが書いた絵コンテがフリーコンテマン時代のコーナーで修正されたものが展示されていたが、むしろ「母をたずねて三千里」など名作劇場や「あしたのジョー」とかタツノコプロ作品や長浜ロマンロボシリーズなど数多くの現場で書いていた多種多様な絵コンテをもっと見たかったように思う。まあ、いろいろと権利関係も複雑だし、千本切りでスピード勝負で書いた絵コンテも多いだろうし、現存してないものが多いとは思うが。そもそもさすらいのコンテマン時代の富野コンテを追っていくのはオタクとしてはかなり沼なので、やってしまうと展覧会全体のバランスが崩れる恐れもあるか。
あしたのジョー BD-BOX 1 [Blu-ray]
母をたずねて三千里 ファミリーセレクションDVDボックス
だから僕は…―「ガンダム」への道 (1981年)


 「闇夜の時代劇 正体を見る」はあんまり売れてない15分作品ということで全編が上映されていた。(Amazonなどでストリーミング配信されているが)富野監督の回以外のストーリープランやデジタル時代の企画書などおもしろい文章があった。また、動画と見比べると、やはり初期のプランより演技や感情が付け足されて面白くなっていたと思う。(あまり作画リソースに恵まれてないし、デジタル企画の割に必殺技的な部分的な色使い以外はあまりデジタルっぽくない地味な忍者の戦いなのだが)
 しかし、闇夜の時代劇で面白いのは本編よりもその後の富野監督のインタビュー動画なんだよな・・・。絶賛うつ病の最中でガンダムから離れた現場で仕事をして、ちょっとキレ気味の富野監督の謎の忍者うんちくを語るインタビューがむしろ本編という所がある。まあ、黒歴史として展示には不向きなのかもしれないが。ガーゼィの翼の監督インタビューも展示されてなくて、まあ、あれはちょっとやばかったから仕方ないんだけど・・・。という感じ。キングゲイナーの特番もうつ病を脱したけど躁な感じで結構面白い。
 公立美術館の展示なのであんまり富野監督の邪悪な面は出さずに、マイルドに功績をたたえていく雰囲気があった。
 「正体を見る」は割りと微妙な作品なのだが、結構な人が座って全部見ていたようでファンとしては良かった。絵コンテが図録にほとんど収録されているのはどうかと思ったが、展覧会で全編上映されているなら、まあよいかと。作画リソースに恵まれてないけど、それが逆に富野色が濃い映像になっているとも言える。

正体を見る

正体を見る

  • 発売日: 2018/05/18
  • メディア: Prime Video



「しあわせの王子」は教育アニメなので、一般向けの販売はされていないが図書館や学校などで見るためのDVDが2011年に発売されたとのこと。僕も小学校で見たことが確認できてよかった。(おそらくVHS)しかし、商業アニメでなく教育アニメなので、権利関係が複雑なのか、展示会場ではなく、無料で入れる美術館のロビーでの動画公開だったので、注意が必要。名作なのだが、あんまり見てる人が居なくて残念。動線が難しいところだ。
しあわせの王子 (いもとようこ世界の名作絵本)

  • 第4部 魂の安息の地は何処に?

 異世界三部作のうち、「聖戦士ダンバイン」とそれに付随する「ガーゼィの翼」「リーンの翼」と「重戦機エルガイム」の展示。
 バイストン・ウェルの設定はミヒャエル・エンデの「はてしない物語」の影響が強いと思うのだが、(ネバーエンディングストーリーでアトレーユを演じたノア・ハサウェイという俳優もいるし)概念や夢が強調されたはてしない物語に比べると、バイストン・ウェルは肉体的である。初期設定メモでは異世界の違う物理法則の考察もあり、それが後半のオーラバリアとかに影響したのかもしれない。
 また、ファンタジーは今でこそ一大ジャンルになっているが、ファンタジーというジャンルがない時代の日本で書かれた企画書は今の日本では失われた視点だと思った。
マスターファイル オーラ・バトラー ダンバイン


 展覧会ではクローバーの倒産とか終盤の路線変更とか、きな臭い部分は省かれていた。が、僕は後半の地上編も好きなんですよね。初期設定だけが正しく富野の意思というふうにも思わないオタクなので。後半のやけくそになって戦争しまくる地上編も迫力があって好きです。問題視されがちなビルバインもシーラ・ラパーナ女王が巫女っぽい割に国は工業国家かも、というギャップとかオーラマシンのインフレーションとしては物語にハマっていたと思う。色んな意見があるけど。
 クローバーの変形するビルバインや透明装甲を再現したダンバインはプロポーションこそ後年のプラモデルやロボット魂に劣るが、子供がダイナミックに遊ぶ玩具としては、後の勇者シリーズ戦隊ものの玩具程度のクオリティがあった。なので、リアルなバンダイが正しくて、おもちゃっぽいクローバーが倒産したからダメ、みたいな言い方はちょっと死体蹴りっぽい気がする。クローバーも確かにガンダムの時点ではどういう商品が良いのか分かってない感じだったが
(そもそも機動戦士ガンダムがその当時では特異点すぎるし、それ以前のロボットの玩具の文化(玩具に番組名を書くとか)の流れで言えばクローバーがああいう玩具を出すのはしょうがない面もある)、

 ザブングルとウォーカー・ギャリアの変形機構をダイナミックに再現した玩具は割りといいと思うし、クローバーも終盤は割といい商品を出してたと思うんだよね。プラモデルのバンダイと、超合金のクローバーというふうに棲み分けしようとしてたっぽいし。まあ、いろいろな経営のミスもあったらしく倒産してしまい、僕はバンダイの犬となってしまった。
 バンダイの犬なので、アイマスもするし、動画もアマゾンプライムNetflixではなくバンダイチャンネルで見る。バンダイも利益優先でガンプラの金型を変に流用してザクウォーリアのジャベリンのデザインを変えたりする、きれいな企業ではないが、それでも日本人としてGAFAに負けないで欲しい。(でも外道なのでAmazonほしいものリストは使う)


 「ガーゼィの翼」はいろいろとメディアミックスを模索したけど結局小説が一番面白いという不遇の作品。展示も少なかった。強獣の絵とか出しても良かったかもしれないけど、なんとなく全体的に地味な感じ。でも小説は面白い。現代知識で異世界チートしたり、歴史に学んで騎馬戦に新機軸を入れていくなど、10年代を席巻したまおゆう以降のなろう小説の原典とも言える。ていうか、むしろ僕がガーゼィの翼を読んでいた時期がまおゆうが流行っていた時期とかぶっていたので、僕は「まおゆうよりガーゼィの翼のほうが面白いよ!」と謎の論戦をネットでしてしまっていた。でも、ちゃんと読まないと面白みが伝わらない小説なので、一枚絵でバーン!と迫力を展示する風には成っていない。エンディングのコンテと絵が展示されていたが、少し小さい。絵柄も服装も地味なんだよな…。小説だとイメージで楽しく補完できるのだが。ゲーム展開もあって美少女ハーレムの構想もある作品なのだが、あんまりそこは展示で強調されてなかった。アニメは途中で終わってしまうので、独特の雰囲気の良さはあるのだが、異世界チート戦術が派手になる前に終わってしまった印象。
バイストン・ウェル物語 ガーゼィの翼 コンプリート・コレクション [DVD]
ガーゼィの翼―バイストン・ウェル物語 (ログアウト冒険文庫)



 「リーンの翼」は富野監督のライフワークだし、キングゲイナーのあとにハマったアニメなのだが。まあ、当時買ったムック本のほうが詳しい、という展示。okamaさんのデザインを活かしたプリティーリズムは偉い!オーラバトラーだけでなく、故・飯島愛さんが褒めたフェラリオの服装デザインも強調してほしかったな。ホウジョウ国の微妙に日本っぽい謎服とか。
バイストン・ウェル物語―聖戦士ダンバイン‐リーンの翼 (1984年)
リーンの翼 コミック 全3巻完結 (カドカワコミックスAエース) [マーケットプレイスコミックセット]
リーンの翼 オフィシャルガイド Road to Byston Well

 迫水家の墓が福井県美浜市でラストシーンに原発が映るというのは震災前のアニメとしては非常に暗示的なのだが、小説でも設定書でも明示されないし、展覧会でも言及がなかった。(ラストシーンの海岸線を地図と合わせると美浜原発です)僕は好きなんですけどね。最後に毒を置くことできれいなラストにしないって感じが。オーラ力によるエネルギー論を考える作品だし。一応、原発も描かれている迫水家の墓の美術ボードは展示されている。原発をどうこうするのはやっぱりセンシティブな話題なので公的美術館では不適当だったのだろうか。
 富野作品は時代劇とキングゲイナーを覗いて、ほぼ全部に核兵器が出てくる。(逆襲のシャアでは宇宙では普通に太陽風被爆するので強めの爆弾として味方も使うという切実さがあった)(リガ・ミリティアは蛮族)
 海のトリトンオリハルコンの剣も使うと消耗するので放射性物質っぽいし。(オリハルコンはポセイドン族のエネルギーでもあったので原発ぽい)
 (勇者ライディーン核兵器回はたしか富野コンテじゃなかったと思う)(Gレコの核兵器はクンパ大佐の嫌味として登場した)
 リーンの翼は富野監督がガンダムエースの対談で得た知見をぶち込んだ面もあるのだが(Gレコもちょっとそういう所がある)、あまりそこに言及はなかった。


 リーンの翼はアニメ版もいいのだが、小説版も独特の良さがあるので読んで欲しい。
[まとめ買い] リーンの翼


 で、謎のボツ企画の∀ガンダムと同時期くらいに角川春樹さんと福井晴敏さんと企画していた「卑弥呼大和」のイメージボードがあった!まあ、4枚だけですけど。


kaito2198.blog43.fc2.com

 ↑こちらに詳しい。
 4枚のイメージボードだけなので話も設定もサッパリよくわからんけど、卑弥呼であろう美少女が富野監督の肉筆だろうけど、可愛かったので良かった。旧軍の戦艦と美少女のとりあわせは21世紀に入って艦これやアズールレーンガルパンとかストパンとかで大人気になったので、それを先取りしたとも言える。(MS少女はあったわけだが)富野監督は一時期、「陸上防衛隊まおちゃん」に文句を言ったが、後に和解した、らしい?


重戦機エルガイム」の展示は永野絵を見たい人には必見。エルガイムのペンタゴナワールド(2重太陽の同じ軌道上を複数の惑星が回っている)の設定は1979年のガンダム製作時期に発案されてメモとスケッチが残っている。
 でも、明らかにスター・ウォーズの影響だよな・・・。時期的に。砂漠とかセイバーとかも。今回の展示は富野監督の展示なので、あまりスター・ウォーズなど外部の影響が云々ということは書いてない。一部の企画書には「Dr.スランプを意識した」とか「ファッションの面で宇宙ではスター・トレックのような制服だけではないだろう」とかいう記述はあるが、展覧会でのガイドとしてはあまり外部の作品の影響などは書いていない。SDガンダムやアナザーガンダムについての記述も最小限。まあ、揉めるからな…。
 富野監督はスター・ウォーズEp1、2,3の時期に「ルーカスは永野護を起用しなかったので残念」とか永野護を褒めるインタビューを残していたような。永野護永野護ファイブスター物語で忙しいわけだが。
 ペンタゴナワールドが同一太陽系に複数の惑星があるのは、スター・ウォーズのようにワープをしなくて済むからだろうけど、(FSSは別の太陽系なのでワープするけど)。
 ペンタゴナワールドの成り立ちはスター・ウォーズに比べると多少、神っぽいというかファンタジックなニュアンスもあるようだった。バイストン・ウェルよりアイディアとしては先なのか…。
重戦機エルガイム大全
重戦機エルガイム Vol.1 (別冊アニメディア)
重戦機エルガイムアンダー・ザ・サンズ (DNAコミックス)
重戦機(ヘビー・メタル)エルガイム〈1〉燃える大地 (ソノラマ文庫 296)


  • INTERMISSION

 小説家として、作詞家としての富野由悠季。富野小説が全部揃ってるのはえらいけど、
表紙だけではーっ!でもたくさん出してるっていう事実だけでも凄さは伝わるか?小説家としては、まあまあ売れてる方だと思う。
 LPとかも展示されていたが、キングゲイナー、カセットテープも出てたのか。
MIO(MIQ) パーフェクト・ベスト
鮎川麻弥 パーフェクト・ベスト

  • 第5部 刻の涙、流れ行くその先へ

 シャアとニュータイプの話として、「機動戦士Zガンダム」「機動戦士ガンダムZZ」「機動戦士ガンダム 逆襲のシャア」。家族と戦争というテーマで「機動戦士ガンダムF91」「機動戦士Vガンダム」「ブレンパワード」。

カミーユ・ビダン×ぴあ (ぴあMOOK)
語ろうZガンダム! (永遠のガンダムシリーズ)

 富野監督のキャリアを決定づけて呪縛したガンダムシリーズだが、学芸員の人が富野ファンであってガンダムファンではないという感じで、展示の物量はガンダムイデオンに比べると少ない。
 ただ、前稿でも書いたようにメカデザインを羅列すると富野由悠季の世界ではなくガンダムの世界になってしまうので。デザイナーに修正をしたトミノメモを最小限展示することで富野監督の志を展示しようという意図が感じられた。ガンダムシリーズのメカ設定、本当に魔窟だからな…。
モビルスーツ全集(8) U.C.0083-U.C.0096 ネオ・ジオン製モビルスーツBOOK (双葉社ムック グレートメカニックスペシャル)
電撃データコレクション(7) 機動戦士ガンダム 逆襲のシャア (DENGEKI HOBBY BOOKS)
電撃データコレクション(6) 機動戦士ガンダムZZ (DENGEKI HOBBY BOOKS)

 また、Zガンダムの時期の逆襲のシャアというタイトルが外されたり、ZZに延長して決着するかと思われたら、逆襲のシャアは映画になったり、企画書に記された以上のゴタゴタがあったらしいので。出たり入ったりする永野護安彦良和や各デザイナーの微妙なチームワークとか。F91大河原邦男先生だけのデザインでもないらしいし…。
MG 1/100 ガンダムF90

 F91の小型モビルスーツバンダイガンプラのプラスチック削減という営業的企画が発端らしいし、F91が続かなかったり、サンライズバンダイによる買収とか、SDガンダム世代(僕が当てはまるのだが)のキッズにトラウマぶち込んだVガンダムの闇とか。
 本当に富野監督が病むくらいガンダム利権の歴史は闇が深いので、展示ではサラッと。まあ、あの90年代を体験したのは貴重な人生経験だったのかもしれない。小6でVガンダムを食らって中2でエヴァンゲリオンを食らって高2でブレンパワード、高3で∀ガンダムだったので、同じ時代を生きた印象。(キングゲイナーの頃には日本引きこもり協会に入会していて共感があった。リーンの翼の駄目な国立大学生とかも共感できた)


 まあ、闇が深いし色んな人の立場とか意見があるガンダムの黄金期と同時に存在する暗黒時代なのだが。まあ、最低限きれいに展示してあった。
 メンヘラ大集合という面もある作品群だが、そこは、まあ、本編を見てのお楽しみというか。F91は小説も読もう!
機動戦士ガンダムF91 クロスボーン・バンガード(下) (角川スニーカー文庫)

 カロッゾのこじらせ方、大好きなんだよなあ…。そもそもコスモ貴族主義の政治活動自体がこじれてるので。でも、僕もどこかでコスモ貴族主義や、イデオンのズオゥ大帝の身分制度を支持する気持ちがある。でも延命医療を否定して安楽死を合法化しようとしたら暗殺されてしまう。


 また、展覧会ではVガンダムの解釈として母性がテーマになっていて、母性的な巫女の包容力を持つシャクティと母になったマーベットだけが母性を全うして、ほかは死ぬとか、ちょっと解釈違いだった。一年アニメなので、文章でさらっとまとめられないめんどくさい女たちの大群がVガンダムにはあるわけで。というか、企画書を読むとシャクティは母性を持つというより、むしろ母をたずねて三千里フィオリーナみたいな感じとして書かれていた。僕もシャクティはあんまり母性という感じはしなかった。ウッソとほぼ同年代だったんで、鬱陶しいけどほっておけない他人ではないけど妹未満の女子、という感じでシャクティにはあまり母性は感じなかった。シャクティは割りとパニック起こすし。包容力という点ではむしろガンダムXのティファ・アディールの方が。
それがVガンダムだ―機動戦士Vガンダム徹底ガイドブック
機動戦士Vガンダム1 ウッソ・エヴィン (角川スニーカー文庫)

 まあ、Vガンダムは闇の作品なので、解釈論争をすると宇宙世紀が滅びるので、あんまり深入りしないで、たまにカラオケで主題歌を歌うくらいの距離感…。
 クロノクルも単純な無能とは言い切れないめんどくさい男なんだよなあ。見下げ果てた先輩よりはマシだし。ワタリー・ギラも最後だけ見せられてもっていう。
 まあ、イデオンも画稿やメモがたくさんあったけどシェリルさんやカララさんやハルル様や総司令のくっそめんどくさいところはあんまり展示されてないので、これくらいの間合いがちょうどいいのかも。
 しかし、Vガンダムのタイヤモビルスーツのイメージボードについて文句を言うベルリ生徒(富野本人監修)の音声ガイドがじわじわと面白い。


 名場面やラストシーンを抜粋動画にする是非については保留としておく。派手さはあるのだが。映画としては過程もな。ただ、ほとんど独立しているといえるイデオン発動篇のラストと∀ガンダムのラストは何度も見入ってしまった。ガンダムの第一話も上映されていたが、まあ、ガンダムは普通に円盤持ってるしな…。
 また、戦争責任を大人に糾弾するという富野監督のテーマだが、F91∀ガンダムの企画書では大人になった富野監督として自己反省する一面も。


 でもブレンパワードはかわいいし超好きなので抜粋動画も全部見た。OPはエッチなので絵コンテと見比べつつ5回くらい見た。ブレンパワードの展示もサラッとした感じでジョナサンやクィンシイのめんどくささはそれほど掘り下げられていなかった。
 ただ、キャラクター原案は家族の構造が心理に影響して行動につながるという、当時流行した精神分析的な文章があって興味深い。伊佐未勇からアノーア艦長くらいまでの8人位の設定が書かれていたが、その裏にアイリーン・キャリアーの設定書も透けて見えたので全キャラクターについて丁寧な真理設定があった模様。コモド・マハマとかもめんどくさい女子だった。
 いのまたむつみ先生の絵とかクリスのアンチボディ設定などは見ごたえがある。ブレンパワードスパイラルブックのほうが分量がありますが。ブレンパワード超好きなんだよなー。
いのまたむつみ画業40周年記念画集 Sanctuary
ブレンパワード スパイラルブック
ブレンパワード〈1〉深海より発して (ハルキ文庫)


 しかし、深海探査艇コンガイールに乗ってるヒギンズ・サスが耐圧服を着ているのは富野監督が与圧服を開発していた親譲りと強調されていたが、このシーンのヒギンズ、ノーヘルなんだよなあ…。うーん。Gレコの冒頭とかでも、設定より芝居優先でノーヘルだったりする。そしてラライヤさんは酸素欠乏症になった。
 あと、グランチャーが「グランド・チャイルド」の略ということは説明したほうが良かった気がするけど、アニメ本編では省かれていて小説版補完なんだよな。あと、「覚えていない」のラスト補完とか。でも富野アニメは本編で説明しない事項がメッチャ多いよな。


 まあ、ブレンパワード超好きなので文句もあるけど、スパイラルブックに載ってなかった絵コンテや演出指示が読めたのはいいかな。(図録の方が展示より読みやすいかも。小さいのでルーペを使ったけど)

  • 第6部 大地への帰還

 ラピュタかよ!という感じはあるが。キングゲイナーも宇宙で暮らすより地球の過疎地域のほうがいいのではという大地への帰還はあったのだが。
 「∀ガンダム」と「リング・オブ・ガンダム」と「ガンダム Gのレコンギスタ」の展示。


 やはり、50代くらいでそれなりの企画実行力を持つ今回の富野ファンの学芸員さんにとってはガンダムよりも∀ガンダムのほうが重要視されるという感じで、ものすごく物量が多い。20年前の作品になってしまったが、∀ガンダムは子供時代をガンダム世代として育った学芸員さんが大人になる頃に富野ファンとして再構築した作品なので、影響が強いのだろうか。(世代論的に言うと、むしろZ〜Vは思春期らしいアニメ離れの時期だったのか?)∀ガンダムGのレコンギスタガンダムシリーズの中でも超未来の独特な世界なので、スタジオぬえの森田繁さんのナノマシン設定や正暦時代の地形など、非常に膨大。膨大だけど、数十頁ある設定書の1ページめくらいしか展示されていなかったりして、この富野由悠季の世界展全体に言えることだが、膨大だけど氷山の一角という感じで恐ろしいな。
ターンエーガンダム (電撃コミックス データコレクション 20)
MEAD GUNDAM [復刻版]

 しかし、∀ガンダムは設定が膨大に展示されている。キャノン・イルフートですら、初期稿から決定稿まで展示されている。あのちょっとしか出ないキャノン・イルフート…。
 シド・ミード、やあきまんのメカ設定や池田繁美の美術設定も多いし、ザックトレーガーの仕組みとかまで載ってる。∀ガンダム名作劇場っぽいガンダムだけどSF的にはガチに尖ってるからなあ。
 まあ、それでもミードガンダムやニュータイプ100%の方が多いかもしれんけど。
「∀ガンダム」全記録集(1)
「∀ガンダム」全記録集(2)<完>
∀ガンダム 1.初動 (角川スニーカー文庫)
∀ガンダム Episodes (角川スニーカー文庫)
∀ガンダム・アートワークス
ターンエーガンダム (Vol.1) ニュータイプ100%コレクション (38)
アドバイス罪という考え方 ~あきまんのネットメディア百年戦争~ (一迅社ブックス)

 ドラマ的にも「ローラの牛」や「アニス・パワー」は富野監督があまり手を入れてなかったらしいけど、それ以外の悟りの戦いやアグリッパ・メンテナーやギム・ギンガナムなど、こじれているキャラクターの展示はあんまりなかった。
 そこを省略しても3,4部屋使っている膨大な展示だったので∀ガンダム黒歴史の上にある名作なのだ。ロボットに乗らないキャラクターとして、アグリッパ・メンテナーや運河人は省かれていたが、それでもロランの友達のキース・レジェとフラン・ドールとかグェン・サード・ラインフォードやヤコップとブルーノなどについての考察もあり。
 とりかえばや物語竹取物語などを含めた文化的な面からの∀ガンダムの考察も充実していた。それでも氷山の一角なのだから恐ろしい作品である。
 黄金の秋のラストシーンは絵コンテも展示されていたし、何度も見た。美しい。

 あきまんデザインのRX-78など、ものすごくかっこいいけど、そこはさらっと。(安田朗ガンダムデザインの本に詳しい)
安田 朗 ガンダムデザインワークス

 当時のガンダム30周年企画や、演技する俳優をCGに置き換えての撮影とか、本広克行監督やそのスタジオのROBOTとの関係とかいろいろとあったわけだが。そこもさらっと。
 リング・オブ・ガンダムもリングワールド的な巨大SFで外宇宙やパラレルワールドときた洸一先生の時空干渉漫画みたいな)やアムロの遺産との関係も示唆されている。が、SF設定が詰まっている構成案は30ページ位あるのにごく一部の4ページくらいしか展示されてない。氷山の一角。
(正体を見るが上映されていたので、これも上映しちゃえばよかったのにね。短いし。ソフトを入手するのは微妙に高いんだよなあ。特典がたくさんついてるせいで)

(これに収録されてたっけ?実は屑なので円盤の箱は買って満足してしまい、あまり見ないで積む癖がある)

 現在進行系の作品なので、「君の目で確かめろ!」と言いたい。これも世界設定やSF設定が膨大である。また、終盤の絵コンテと名場面動画が展示されていて、その見比べもも楽しい。壁に貼ってある絵コンテとスクリーンには少し距離があるので、ちょっと難しいけど…。また、やっぱりラストシーンを流してしまうのはいいのかという懸念はありつつ。展示の雰囲気としては劇場版盛り立てていくために最後にGレコを配置したという気概は感じられる。ラストシーンの絵コンテは富野監督にしてはかなり吉田健一さんの絵に寄せて書き込んであるしワンアクションに数コマ使っていたり、気合が感じられる。
 まあ、君の目で確かめてほしいのだが、おそらく多くの人が見落とすであろう点を一つだけ述べる。
 第24話「宇宙のカレイドスコープ」対ユグドラシル戦でアサルトパックを使うベルリを仲間たちがカットインで次々とリズミカルに応援するシーン。





 絵コンテでもケルベス、アイーダ、ラライヤ、ノレド、ザンスガットとポリジットのパイロットのセリフが書いてあるが。
 リンゴ・ロン・ジャマノッタくんだけ、顔は書いてあるけど、台詞が絵コンテに書いてない。
 リンゴくんの「ビンゴだろ!」はGレコのセリフでもかなり上位に入る意味不明なセリフ(ダジャレに近い)なんだけど、絵コンテに書いてなかったのか…。シナリオには書いてあったのだろうか・・・。脚本も書ける浅沼晋太郎さんのアドリブだったのか?まあ、どうでもいい一言ではあるのだが。僕はリンゴくんのよくわからないふわふわした生き方がわりと好きなので。富野監督も「アッパラパーだけど好きですね」って仰ってる。


 あと、Gのレコンギスタは世界観設定などが膨大であるが、一点強調していきたいのは「Gレコは富野監督が作ったアナザーガンダムっぽい」ということ。
 もちろん、宇宙世紀のMSのコレクションやジャブローの遺跡やミノフスキー粒子は出ているのだが。2010年の日付の企画書を読むと「宇宙世紀スペースコロニー植民自体が、軌道エレベーターと水と空気と土の玉による軽量圧縮運搬がなければ成り立たないと考え直した」「機動戦士ガンダムの時代はロケットは希望の技術であったので、スペースコロニー等の技術的問題を不問に付すことができた」

 とはいえ、宇宙エレベータを採用するとガンダム・ワールドの過去の歴史の描写に齟齬を生じさせるので『Gのレコンキスタ』のタイトルの元に、この設定導入をソフト・ランディングさせたいのだ。
(中略)
将来的には、外伝的エピソードにも広がりをもたせられると信じる。(中略)自己閉塞に陥っているガンダムワールドを革新できるのではないか、とも想像する。

 とのこと。また、Gレコが辿った歴史の宇宙世紀では、ミノフスキー粒子核融合炉の副産物として発生したのではなく、放射線防御技術の一端として発明されたとのこと。(ミノフスキーフライトなどの使われ方はVガンダムとほぼ共通のようだが)
 そういうわけで、宇宙世紀ガンダムの設定の一部を使っているにせよ、Gレコは滅亡した宇宙世紀の初期の開発段階から機動戦士ガンダムと違う歴史を辿っている世界ということなので、「富野監督が作ったアナザーガンダム」、あるいは「根底から刷新された新ガンダム」と言えると思った。そういうことなので、Gレコが∀ガンダムの前なのか後なのかというのは、大した問題ではないようだ。歴史線が違うようなので。あきまんさんが「G-セルフV2ガンダム∀ガンダムの間の性能と考えた」ということとかがあるにせよ。
 

 実際、Gレコの企画中の2007年に京都国際マンガミュージアムで開かれた杉井ギサブロー監督と富野監督の公開対談会でも、富野監督は∀ガンダムZガンダムのような「ガンダムワールドをどうこうする作品は作らない」と仰っている。(12年前か・・・)

「だから、後5年生かさせてもらっている時間が自分の中にあるならば
もう一度こうやってガンダムの新シリーズをやらせてもらえたらいいな。
とは思います。
ただこの場合にはもう「ガンダムワールドの中の一員」としての、「自分にとっての新しい作品」でしかなくって、ガンダムワールドを根底から覆すような物を作ることは絶対に無いでしょう。」
Zガンダムのようにフィクションワールドでさえ全否定するような作品を作るというようなことは、とてもその、個人的な思いの強い作品になってしまって、これは、作品として“片輪”だという事も、僕は勉強させてもらいました。」
「ので、より広く伝わるような作品を作っていくという方向での、ここだけは「キャリア」というものに物を言わせて、広い作品を作っていきたいという風に思っています」

 とのことなので、まあ、Gレコの宇宙世紀との設定の齟齬とかに目くじらを立てず、Gレコはガンダムワールドの一員としてアナザーガンダムとかとも並列のエンターテインメント作品として素直に楽しむのが良かろうと思う。
 アナザーガンダムミノフスキー粒子は出さなくてもそれっぽい粒子とかザクウォーリアとかポルカガンダムの焼き直しとかをしてるので、Gレコが宇宙世紀などをギミックの一つとして使っても良いんじゃないかな???
 劇場版に向けての富野監督の書状でもTV版の評判が芳しくないということは認めつつ、劇場版で明るい作品として作り直して、人気を再ゲットしたいというふうに書いてある。


 実際、Gレコの第1作の興行収入は公開館に比べてはたいへん儲かったそうであるし、配信も好調なので、第二作は公開館も増えていく、というようなことをプロデューサーの方が言ったような気がする。
劇場版『Gのレコンギスタ  I』「行け! コア・ファイター」 (特装限定版) [Blu-ray]

 わかりやすくなった劇場版からTV版のGレコに戻ってきたり新規参入してくれる視聴者の方もいるそうなので、それは結構なことだ。
 富野監督は今は「打倒新海誠」って仰っているけど、たしかに新海誠さんは宮﨑駿監督についでメチャクチャ売れてるけど、キャリアを考えれば富野監督のほうが圧倒的にあるので、あんまり若者をいじめるのは・・・。って思うけど、現役感覚のある作家としては年齢やキャリアは関係なく、現在の時点で勝つか負けるかという同じ土俵で戦いたい気持ちがあるのかなあ。

  • そして僕は

 アニメーターへの演出指示とか古い作品からGレコまで色々と書いてあるのを見たわけだが。僕はアニメーターにはならないし、批評家としても生活者としても中途半端な、過労で神経を壊した好事家に過ぎない。なので、富野監督の教えを活かすことがあまりできそうもなく、申し訳ないのだが。
 そして、今回の富野由悠季の世界展もやっぱり20時間かけてみたし、1000点以上の展示がある超大規模展覧会であったけど、それでも富野由悠季の作品世界にとっては氷山の一角に過ぎないとも感じた。
 なので、コツコツ実作品のそれぞれのアニメの動画にあたって見ていくのが大事。それでも足りないなら、当時のムック本や当時のアニメ雑誌を集めたり・・・と、みんなトミノオタクの沼に落ちようね!!!
 ずぶずぶずぶ・・・
ガンダム Gのレコンギスタ キャラクターデザインワークス
映像の原則 改訂版 (キネマ旬報ムック)
 富野監督の教えを生かせない人生だとしても、オタクなので富野由悠季の世界展は見てるだけでテーマパークに来たみたいでテンションが上って楽しかったので、それでいいと思う。アニメは楽しければいいの!
 沼に沈むのも楽しいよ!!!!


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