玖足手帖-アニメブログ-

富野由悠季監督、出崎統監督、ガンダム作品を中心に、アニメ感想を書くブログです。

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創作幻視小説版「夢兄妹寝物語」 2003年2月 第2話 [華麗なる大円舞曲]

この物語は、頭令そらと頭令倶雫の馴れ初めである。


(今回、夢日記は現存していない)
 

 その日もいつものように夢を見終わった頭令そら。頭令そらが見る夢は、自らの夜の夢ではない。そらの兄、植物人間である頭令倶雫の昏睡の夢を、接触テレパスで見る夢である。それを、兄の病室を毎日訪れた時に見ることがそらの日課である。


そら「んーーーーっ!!さてっと!じゃ、お兄ちゃん、ちょっと起きてみようか?」
 伸びをし、首と肩を回しながら12年間眠りつづけている兄に対して、頭令そらは普通に無理を言う。もちろん、少女の声が植物人間の回復に有効、と言う気持ちもあるのだが、無反応の兄に話しかけるのは既に当たり前の日常になっている。
そら「お兄ちゃんも、寝てばっかりだと運動不足になるよね。太ったお兄ちゃんなんて見たくないなーッ。やっぱり、お兄ちゃんにはカッコいいままでいてほしいもんッ。それに、適度な運動は脳にもいい影響があるらしいのよっ。さいきん読んでた脳梗塞のリハビリの本に書いてあったのっ。
 と、いうわけで、イの一号ッ!」

1「は。御要望を受け付けます」
 頭令そらの声に答え、病室番号「イの一号室」を満たす空気自体が声を発した。
そら「今からお兄ちゃんを起こして」
1「その要請は我々にとりましても最優先で行なうべき課題ではありますが、グダ様の意識回復に関する案件の目途は未だ」
 そらは部屋全体から聞こえる政治家の答弁のような音声を全て聞くことはしない。 
そら「お兄ちゃんのッ体の操作権を一時的に許可するからっ、体を起き上がらせて、ベッドの横、私の前に立たせなさいっ。これでわかった?」
1「了解し、実行します」
くるしゅるーっ
 と、兄の上のシーツが足元に巻きまとまり、兄の体がかかとを中心に90°回転し正立、横に1メートル弱スライド、ベッドの高さだけ下に降り、そらの前に兄が立った。
そら「あんたたちって、いつまで経っても役に立たない、バカな宇宙人よねっ」


 イの一号室を充満しているのは、目には見えない小さな宇宙人の集団である。彼らは有機生物のような肉体を持たず、物質界宇宙の素粒子の隙間の泡*1のような空間を超時空バリアで囲い、その中の違う宇宙を連結し*2国を作り生息している。
 そらに対して話しかけている声は、イの1号室を領土とする国の外務省が作成した文書を日本語に翻訳し、国営放送所有の宇宙的機械を搭載した空気分子を振動させて、発生させている物だ。しかし、そのような生態は頭令そらには知った事ではない。
1「そら様の御提言は真摯に受け止め、今後の行動を円滑化するよう…」
そら「もう、いいわよ。どうせできないんだから。言われた事を黙ってやってたらいいのよ」
 宇宙人たちは12年前に地球に飛来した際の事故で頭令兄妹に大怪我を負わせ、兄はそれ以来ずっと植物状態となった。兄妹の体は修復でき、医学的には全く問題がないのだが、兄の意識だけは回復していない。その罪を滅ぼすために宇宙人たちは地球に残り*3、地球上の物体に乗り移って頭令兄妹のしもべとなり、12年間生活の一切の世話をしている。
 だから、頭令そらは彼ら宇宙人を徹底的に憎み、侮蔑し、奴隷として永遠に使役しつづけようと決めている。


そら「じゃ、お兄ちゃん、今日からいっしょに、ダンスを練習しましょ。ダンスってね、音楽療法と運動が合わさってるから、きっと良い影響があると思うのよねー。うん。テレビでやってた。
 それにぃ〜社交ダンスならあたし達の絆も深まるし・・・。えっへへー。絆だって!やーんッ!
 あのね、あのね、昨日、本を読んで練習してたんだー」

 抱きついた兄を見上げ、耳まで赤く染めて興奮し、上半身を兄の胸に擦りつけ、そらは必死こいてまくし立てた。
そら「イの1号ッ!私の鞄の中にCDとダンスの本が入ってるから、その通りに演奏して、お兄ちゃんを動かすのよ。音楽は1曲目から順番に。ダンスも、私が指示する通りのページの動きを、ちゃんと繰り返して。それから、お兄ちゃんの動きだけじゃなくって、ちゃんとコードが絡まないように動かすのよっいいわねっ!
 じゃ、お兄ちゃん、はじめましょっか。
 音楽スタートッ!基本ステップの1からッ」

 音楽CDが領域内に置いてあるだけで、宇宙人はそれを演奏する事が当然可能。病室の空気自体が楽器となり、耳に心地の良いワルツを奏で、同時に兄の体が教則どおりの動きを始めた。そらはその手を取り、覚えたばかりのステップを踏む。
そら「うふふふっお兄ちゃん、上手上手。その調子で、最初のステップを5回繰り返してみようね」
 頭令そらはその5回の間に6回兄の足を踏んだが、兄は顔色一つ変えずに踊りつづけた。
そら「ごめんね、お兄ちゃん。でも大丈夫だよね?ね?あ、きっとスリッパを履いてるからダメなんだ。ごっめーん」
 スリッパを違う方向に蹴り飛ばし、素足をリノリウムに下ろす。2月でも超次元障壁で囲まれた病室は床も適温に保たれているから平気。が、宇宙人のそんな気遣いなど当たり前の事だ。
そら「じゃ、また5回ね」
 8回踏み、3回ころびかけ、超重力フィールドに支えられた。
そら「ナギャアアアアアッ!!!音楽と合ってないッ!」
1「そら様、その事に対して改善案を立案いたしました。報告します」
そら「なに?」
1「当該案件の音楽および教則の情報をもとにセブン・センサー・ネットを通じ、この種の舞踏に関する情報の収集、構成要素の解析を完了しました。それに則りましてグダ様の動きと演奏を同期させた形に独自の改革を加える事についての承認をいただけないでしょうか」
 セブン・センサーとは七つの大気層、七つの海、七つの大陸および島に憑依して情報収集とエネルギー生産、および天候操作を司る七番目のしもべである。密度が薄いために物質に対する短時間で表れる影響力は弱いが、地球圏のあらゆる情報を瞬時に収集できる。今回は5分間で全世界にあるワルツ、及びあらゆる2人形式ダンスの技法、歴史、音楽面での構成に関する情報、そしてその再現方法をまとめ、その上で頭令そらの現状に合わせた改良を考案した。
そら「いいわよ。って言うか、そういうことはもっと早くやりなさい」
1「了解し、実行します」
 このようにそらの予定を変えるようなしもべの行動に対して、そらがバカにされていると感じて、怒る事はない。自分の得になりさえすれば、それでいいのだ。ただ、存在を軽蔑はしている。
 宇宙人の書き変えた曲の音階自体は元とほとんど変わっていない。が、そらが反応しやすいように繰り返すリズムをはっきりさせ、そらが気付かないような細かい変化をつけ、そらの動きに合うように演奏されていた。曲に合わさった兄の動きは、兄の周囲の宇宙人が見えないアイフィールドビーム駆動で操っている物だが、それを広げ、そらの体もやんわりと導くようにした。まるで、兄が妹をリードするかのように、手を引いた。
そら「ああ!お兄ちゃん!ずっと上手くなってる!きもちいいっ」
 いつのまにかベッドや医療器具などは縮小され、部屋は拡張され、広広とした空間でひたすらそらと兄は踊りつづけた。兄の腕や喉や背骨や脇腹および排泄器官から伸びるホースやコードは、動きを妨げないように気をつけ、蛸足のようにのたくりながら、ふたりの軌跡に螺旋を描いた。ステップを狂わせないように、曲の切れ目もなくなるように編曲され延々と繰り返す円舞曲の空気をそらは呼吸し、兄の胸に溺れた。
そら「おにいちゃあん♡♡♡」
 頭一つ違う兄の顔を見上げると、兄は優しく微笑んでいた。が、それは皮膚の表層を吊って動かしているだけで、瞼を開ける事はない。宇宙人は体の内部まで侵入する事は許されていないから、そらを兄が見つめる事はない。でも、それでいい、そらは思う。
そら『こうやってがんばってたら、きっとお兄ちゃんは目ざめるんだ。その時には、本当にわたしを見て、くれるんだ』
 病室の外では雪が降り、日が落ちた。兄が意識のある普通の人間なら、無理な運動による筋肉痛に数日悩まされた事だろう。だが、兄は植物人間の上に損傷は即座に修復される。だから、今はそらの好きにしていい。
 






次回予告

 結婚してからわずか1年後に最愛のおばさんを交通事故で亡くし、悲しみにくれるそら。他界したおばさんの親友だったレイは、心の底からそらを慰め、深く愛した。


 そして本格的に交際を開始した2人だったが、直後にそらのお腹にはおばさんの子供がいることが分かり・・・!?



http://kairuna.hp.infoseek.co.jp/Ikinari.html
(こちらをやや改変しました)
幻視小説「夢兄妹寝物語」全目次 - 玖足手帖-アニメ&創作-

小説版「夢兄妹寝物語」 2003年1月 第1話 [頭令兄妹] - 玖足手帖-アニメ&創作-

小説版「夢兄妹寝物語」 2003年3月 第3話 [反社会性ブラコン] - 玖足手帖-アニメ&創作-



今回の出演は

  • 頭令そら(ZURYOU Sora)

1年目のそら
妹。

  • 頭令倶雫(ZURYOU Guda)

頭令倶雫
兄。


  • イの1号室(1)

グダちんの病室。1番目のしもべ。

  • セブン・センサー(7)

バイタルネット。7番目のしもべ。


でした。(森本レオ








あとがき
4000字ちょいで1話か。どうだろう。調子のいい(あるいはドツボの)ときの富野感想だと2万字くらいは軽く行くのだが。
でも、もともとの計画では萬画にして月2ページの予定だったので、膨らみすぎでもある。俺は見積もり下手すぎね。
スピードは上げたい。あげないと終わらぬ。うぼあ




乙女の感想♡


妹「こんなにわがままじゃないわよー。いまは。
でも、たのしかった」

*1:球形というわけではなく、人間には認知できない形である。と言うか形そのものもない領域。泡と言うのは便宜上の表現

*2:この言い方もおかしい

*3:残留した総人口は破壊した頭令兄妹の細胞の数と同じ、約100兆。これは彼らが精神と場でできた微小生物で、地球人よりも感情と命を極度に大事にする倫理観と罪悪感を持っているため