玖足手帖-アニメブログ-

富野由悠季監督、出崎統監督、ガンダム作品を中心に、アニメ感想を書くブログです。

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創作幻視小説版「夢兄妹寝物語」 2003年11月 第11話 第1節

サブタイトル[ラスベガスと王の心]   
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前書き:

今回の主人公はそらの奴隷の宇宙人です。

  • ソレイユ病院から四辻の四つの塔の家への道中。サイドバイクロン。



Jack IN
http://www8.ocn.ne.jp/~ikitale/diary/11.01.html
http://www8.ocn.ne.jp/~ikitale/diary/11.03.html
http://www8.ocn.ne.jp/~ikitale/diary/11.09.html
Jack Out


 最近の頭令そら(ずりょう そら)の生活リズムは、こうだ。そらに仕える微小宇宙人国家群が憑依する8つのしもべのうち4番目であり彼女の自宅でもある四辻の四つの塔の家で、家庭教師を務める地球人男性の社亜砂(やしろ あずな)の授業を午前中に受け、彼と昼食を摂ってから、午後には1番目のしもべの宇宙人が宿るソレイユ病院No.1101111号室に行き、そこの主たる12年間昏睡状態の兄の頭令倶雫(ずりょう ぐだ)を見舞い、彼の夢を覗き、話し、遊び、夕方までに帰って風呂に入り、夕飯を食べ、宿題をして、眠る。
 現在そらはサイドカーのような形の2番目のしもべ、サイドバイクロンの側車ゴンドラに入って家路にある。サイドカーには身長180センチの老執事の宍戸隷司がまたがっている。彼は全高2メートルほどの人型戦闘ロボットに憑依したゼロ番目のしもべのレイが変形した仮の姿。サイドバイクロンはショベルカーを宇宙人が大型バイクに似た形に加工したものにシトロエン小型自動車を半分に切って一輪にしたゴンドラを付けた巨大サイドカーだ。原子の隙間に生息する微小宇宙人たちが地球で生活するための租界である、それぞれの体は地球人が捨てたスクラップで出来ている。
そら「でさあ、聞いてる?お兄ちゃんの夢っておかしいよねー!タイムスリップして世界を滅ぼそうとしたり、サイボーグとか怪獣と喧嘩してたりさ。自転車で大暴れしたり、アクション映画より迫力があるよねっ!」
 そらはゴンドラの中でヤットウという具合に幅広の白ブラウスの袖をなびかせて腕を振り回す。11月の夕刻の車内を照らす読書灯が、そらの股下まである長い桃色の髪に暖色の光を映えさす。
 「芸術の秋、社会勉強」と称して、社亜砂とそらは何度か映画や芝居を見に行った。彼はロリータコンプレックスであるので、そらのような美少女とデートをしたかったという面もある。そのせいで、最近のそらは今まで経験していなかった娯楽に触れている。その料金は社の妹で身元引受人のアレッシア・マセラティが負担しているのだが。頭令そらはそれまでの12年の人生を、ほとんど兄を蘇らせるためだけに行動して医学や神智学ばかりに没頭していたので、社との人間的なデートは新鮮な刺激になっている。社はそらに、社会勉強や芸術のレクチャーだけでなく、料理やファッションなどでも初体験をさせている。
 しかし、そらにとってはやはり一番は兄である。
 
 
そら「こないだ見たアメリカ映画も面白かったけど、やっぱりお兄ちゃんの夢が一番エキサイティング!」
ロザリオ「そうですか。倶雫様がお元気で結構です」
そら「ふぅーん。
 やっぱ、あんたたち、つまんないわね。社の方がもっと気が利いた事を言うわよ」

 へらへら哂いながら、そらは首から下げた喋るクロム色のロザリオを弄んでいる。それも宇宙人が憑依したもの。6番目のしもべであり、そらの言葉を他のしもべにも中継する役目のものだ。薄曇りの秋の夕刻は暗く、平坦なロザリオの鏡面は車内のそらの顔を反射している。
ロザリオ「我々は事実を正確に述べております」
そら「はっはーん。それがつまんないっつってんのよ」
ロザリオ「判りかねます」
そら「そーね。結局、宇宙人には地球人の気持ちはわからないってことね。あははははは」
ロザリオ「・・・・・・」


 そのような事があったのが11月の上旬。
 そして、ある夜の夜明け前。

  • 四辻の四つの塔の宍戸隷司の居室

 毎晩毎晩、二階の寝室でそらが眠っている間、その隣の護衛室でレイは横たわっている。宇宙人群体が人型ロボットに憑依しているレイには全体としての休止はない。メイドの姿をしたラブドールに憑依している3番目のしもべのミイコたちも同様である。が、社亜砂という元スパイの男がそらの家庭教師に成ったので、人間型のしもべは形だけでも睡眠をするふりをする習慣をつけた。もちろん、そらに危険があれば彼らは瞬時に護衛できる。五つのボールに憑依した5番目のしもべのゴーストも、屋敷の其処彼処に転がって居るのだ。そして、四つ辻の屋敷自体にも宇宙人が憑依している。ともあれ、現時点では社亜砂は人型をしていないしもべを生き物として扱ったことはない。宇宙人たちはそら以外の地球人から宇宙人だと見破られたことはない。
 だが突如、異変が在った。軽いワイシャツと黒いスラックスを着けた初老の人間の形でレイが横たわる布団の上に、前触れなくカードが表れたのだ。
 
 

 
 
 しもべの微小宇宙人たちは、宇宙的技術のミクロ観測装置で自らと頭令兄妹周囲数百メートルの全ての原子の位置と挙動を常に哨戒している。が、それとは何の関係もなく胸の上にカードが在った。
  
  

レイ「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
 だが、レイは身じろぎをしない。その動作すらも、既に監視されている可能性が発生したのだ。そして、頭令兄妹に仕える宇宙人だけが出入りできる異次元空間で宇宙人奴隷諸国連邦の緊急会議が招集された。

  • 地球宇宙の素粒子の隙間にある、異次元宇宙

 会議の中継役は、地球の空気分子と大陸と海の表層に駐留している7番目のしもべ、セブンセンサーだ。セブンセンサーは地球上物体の素粒子の間に寄生駐留している各宇宙人奴隷諸国固有の次元宇宙を結びつけ、共有階層の異次元空間で外交会議を開催した。奴隷宇宙人が直接使用する空間は地球の属する宇宙とは物理法則が違う。また、今回の緊急会議で使用される宇宙は通信用の半仮想的な空間である。
 その超時空緊急会議には0〜7番目までの各奴隷国家の代表外交官達が瞬時に集合した。ただし、それは地球人の官僚社会で言う職官としての外交官とはやや違う。奴隷宇宙人達は各国の人口が10兆人強であるが、同時に各個体が精神波動により意識や情報を全体と共有している群体でもある。故に、この外交官たちは地球人の政治家のような集団を代表する個人というよりは、各国臣民の意識を交換するための端末機能というべきものに近い。
 (ここでは議論を円滑に進めるため、各国の意見を0〜7として記述するものとする。また、議論中の数値、概念は日本語に翻訳する)
 
 
 まず、異変の中心に居たレイが口火を切った。

0「我々にとって非常に憂慮する事態が発生した。そのため全奴隷諸国連邦での会議を開催する」
7「発生した事象の概要は全諸国に周知した」

 時空を超えた中継役のセブンセンサーの仕事は早い。
 次に四つ辻の四つの塔の屋敷に宿りそらの生活を補佐する宇宙人が、
4「事象の情報共有のあとは、この事態の意味を再確認する必要がある」
論理的に会議の方向性を明確化した。
5「そして、最適な解決策を決定し、実行する。それでこの会議は目的達成」
 ゴーストはレイと共に実働部隊となる事が多いため、実際の作戦を重視する。
一同「異議なし」
  
  
1「エリア0は、再度事象の経過と、それに伴う問題点を当事者の立場で総括すべき」
 頭令そらと並ぶ国家元首である頭令倶雫の眠る体を、病院で守っているソレイユ病院1101111号室が促した。
0「先ほど日本時間、午前4時49分4秒、我々の租界(レイのボディーのロボットの事)の周辺、地球内の掛け布団の上にカードが存在し始めた。現在も在る」
1「それは空間転移か?空間交換か?出現か?」
0「出現。布団表面の空気分子の隙間に出現したカードは0.1秒で現在の厚みとなった」
4「我々の租界である屋敷は超次元バリアーで外部からの強制侵入を防いでいる。機能に問題は無かった。偵察機器も含め、防衛装置は数万個あるが、その全ての記録も正常」
3「屋敷の敷地内では、エリア4の防衛網だけでなく、我々エリア3と、エリア0、2、5、6の独自防衛装置も正常に稼働していた」
5「バリアに通過跡無し」
 メイドを務めるミイコの状況報告をゴーストが補足した。
7「我々の全地球圏観測でも、異変は検出されなかった。瞬間転移に伴う重力場の離散的変化は出現カードのみ。地球圏内に送信元は観測されず。ゆえに、行為者は我々とは別の地球外存在である可能性が高い」
1「では我々の租界に対しても同じ事が発生する可能性がある。非常に危険。
 奴隷諸国連邦内部に行為者がいる可能性の有無は?」

0、2〜7「租界内大使館の相互調査の結果、それは無い」
0「また、我々には可能であっても利益は無い」

 11の11の11は頭令倶雫を守る自分の租界に同様の怪異が起こるまいか、心配なのである。だが、先にカードの怪異を解かねばならぬ。
 
 
0「出現したカードはこのような形状である」
 

 


 
 
 長方形のカードの表にはトランプのハートのキングが刻印され、裏面には正三角形を合わせた菱形の中に幾何学図形が赤青黄緑紅白黒の七色で描かれていた。
 
 
0「長辺が100㎜。短辺は60㎜。厚みは0.6mm。
 強度は同程度の厚みのプラスチックと紙の中間ほど。材質の詳細は別資料で述べる。大まかにはカーボンチューブ格子。着色は染料ではなく表面の構造色による」

4「出現も特異であり、その材質も特異。だが、爆発や放射などの危険性は無い。非常に安定している。だが、同位元素が無く、構成物の各元素の同位体純度は100%。地球人の科学ではこれは製造できない」
 宇宙人達は模様よりも、先に物理的存在としてのカードに注目した。
0「我々の直接観測は、このカードは出現と同時に製造されたと結論。製造する時の行為者は我々の座標を把握している。よって我々を何らかの方法で観測していると推測する。会議中に租界の憑依する物質の運動を禁じたのはそのため」
2と3「我々の租界も動作していない」

 サイドバイクロンとメイドたちも、今は停車するか横たわっている。
6「そら様にも異常はない。睡眠を保っている」
 数十兆の宇宙人の精神が異次元で会議を行っていても、地球次元では横たわる執事の老人の布団の上にただカードが現れただけである。夜明け前の屋敷は静寂を保っている。
0「結構。そら様は地球時間であと2時間ほどで起床される。この事件についてはそれまでに方向性を決定し、そら様には秘匿し平穏を保ちつつ我々で処理すべきだ」
一同「異議なし」
1「行為者により、この会議が観測されている可能性は?」
4「無いと推測される。
 何故なら、これは何らかのメッセージである。行為者が我々の領域内宇宙を認知し、観測する能力を持つならば、我々の宇宙に直接コンタクトをするだろう。エリア0の租界の上に物質を送付する意味がない」

 エリア1の心配を、エリア4が論理的に否定した。
2「物理干渉を可能とする示威行動の可能性は?」
 これまでサイドバイクロンを租界とするエリア2は意見を述べなかったが、戦術的観点からの懸念を表明した。
4「だが我々の宇宙に直接干渉した方がより脅威。中途半端に手加減する理由はない」
2「次の行為への用意のために、行為者の技術レベルを擬装している可能性は?」
3「しかし、盗聴されていたとしても、この会議での意思統一は必要」

 メイドのエリア3が仲裁をする。
5「領域内宇宙での会議は必要。行為者の観測範囲が不明であるが、速やかに対策を講じるべし」
7「超時空通信に複数の防壁を設置。会議は続行する」
一同「異議なし」
2「会議後、物質租界での行動に移る。その行動は被監視可能性下でも実行する」
一同「異議なし」


 セキュリティに関する話題が一段落し、再び0が発言した。
0「出現物の探索を完了した。一枚のカードではない」
1「では何か」
0「カード内部への直接侵入部隊が探索。複数の炭素繊維板を集積した書籍と判明。一枚一枚の炭素板の中に規則的に組み入れた金属原子で記述」
4「解析はできたか」
0「完了した。書式は5×5の升目内のスズ原子とゲルマニウム原子の0から25までの数で26個のアルファベットを表した英文である。内容をこれより報告する」

  
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創作幻視小説版「夢兄妹寝物語」 2003年11月 第11話 第2節 - 玖足手帖-アニメ&創作-