玖足手帖-アニメブログ-

富野由悠季監督、出崎統監督、ガンダム作品を中心に、アニメ感想を書くブログです。

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坂道のアポロンを3D劇場版を期待する。

今回、第3話 「いつか王子様が」

脚本:加藤綾子 / 絵コンテ:小寺勝之 / 演出:菅原静貴 /
作画監督手塚プロダクション / 美術監督:上原伸一
見た。
良かった。というか、3話の時点で、変わったアニメだな、って思った。
それは、立体描写。


↓原作は1話が無料公開されてる。
小学館コミック -フラワーズ- 試し読み『坂道のアポロン』

だけど、それほど立体的ではない。むしろ、ペンの描線とベタの黒を生かした少女漫画(レディースコミック)らしい絵柄だ。
少女漫画とは、元来立体的ではなく、むしろ重層的なコマ割りの組み合わせによる、一ページの一枚絵としての雰囲気を大切にする絵柄の作品が多い。

坂道のアポロン (1) (フラワーコミックス)

坂道のアポロン (1) (フラワーコミックス)

だが、である。
坂道のアポロンのアニメ版は立体的なのである。それは、同じ放送枠ののだめカンタービレの延長にある楽器のCG描写からの発展であろうと思われる。
実際、ピアノの黒板に映り込む薫の指先や、ピアノの鍵盤のパースは立体的だ。幾重にも重なったドラムセットも立体的。
だけど、それは割と「演奏を売りにするアニメ」の見せ場であり、そこに力を入れるのは当たり前と言えば当たり前だ。
今回私が感嘆したのは、薫、千太郎、律子、百合香の4人がグループ交際デートに出かける所、木漏れ日の中の石段を上がって行くシーン。ここで、木漏れ日の影が彼らの顔に落とす影の動きが3DCGで制御されているかのように立体的なのである。
また、石畳を上がる時、「カメラは一定の速度でまっすぐ階段を上がるけど、登場人物たちは階段に合わせて、一歩ごとにカメラから遠ざかったり近づいたりする」という、アニメでは無駄に労力のかかる実写的な作画を行っている。普通のアニメでは、上半身の絵の上下運動で済ませるのに。アニメで奥行きの変化運動を作画するのは、非常な立体把握能力と画力が問われるのだ。
こういう手間のかかる事をわざわざやるという事は、作り手が立体感を意図的に大事にしようとしている事だと、読み解ける。
第3話の絵コンテのこでらかつゆきSci-Fi HARRYの監督だから立体的なのかなー?サイファイ・ハリーなつかしす。


上記の萬画の1話の千太郎が喧嘩をするシーンも、萬画では止め絵で平面的な絵の並行提示だったが、アニメでは一続きの立体的なアクションになっている。
2話の男4人による重層的な画面の4重奏は立体的で、実写的だ。
3話の薫がピアノを弾きながら、オクターブの移動で体を画面の手前奥に異動させる躍動感も、実写的だ。アニメでこういう動きや重ねをやるのは本当に地味だが労力だと思う。
これは本当にアニメと萬画のメディアの違いである。そこに自覚的なスタッフはやはり強い。
また、結城信輝キャラクターデザインの耽美的でありながら立体感のある絵柄も良い味を出している。
ああ、そう、絵の立体感と言えば、やはり女性マンガ家の小玉ユキ先生から見た男性キャラクターの体の厚みや顔の彫の深さ、男性のごつごつとした立体感を「異性の目線で」描いているのは、男性的感性よりも男性の体の立体感が強調されやすいと感じる。
それで、男性キャラの存在感が結城信輝氏の絵と融合して、強まっているのではないだろうか。



渡辺信一郎監督と言えば、カウボーイ・ビバップだが、ビバップクンフー・アクションも立て横奥行きを生かしたアクションが楽しかった。カウボーイ・ビバップカンフー映画とギャング映画とSFアニメを合体させたようなものだったわけだが。実写志向はあるのだろうか。
むしろ、ノイタミナNANA、はちみつとクローバー、のだめカンタービレの、実写版を意識しているのかもしれない。


のだめカンタービレから続く、CGの楽器と手描きのキャラクターによる楽器の描画の融合も、実写志向に拍車をかけているか。


また、恋愛描写、数珠つなぎになってる片思いの連鎖は、はちみつとクローバーなどの実写でも通じる人間ドラマでもある。最近は宇宙兄弟や荒川アンダー・ザ・ブリッジなど、実写とアニメが同時に制作される事もあるし。


そういうわけで、結構実写志向だと思うんだ。
だけど、それだけではない。
なぜなら、実写で役者が立体的な動きをするのは当たり前で、放っておいてもそうなる事だが、(むしろ役者の余計な動きをどう制御整理するかが演出家の仕事)、アニメでわざわざ立体的にするというのは、全て計算して動かさなくてはいけない、演出意図が絡んでくる事なのだ。意味があって動かしているのだ。


そうすると、演奏シーンもアクションシーンも、情景シーンでの立体感も、全て「雰囲気」を良くするための演出と言える。そしてそれは、萬画のキャラでしかない彼らが楽器とともに実在する重みをスタッフの労力でつける志だと思う。
だから、僕はこの作品を、無理かもしれないけど3D映画で見たいと思った。
派手な飛びだすアトラクション的アクション映画ではない。むしろ、アバターなどは苦手ですらある。
だけど、登場するキャラクターの生っぽさを感じるために、こういう静かな情熱を描いた青春3Dで見るのも面白いんじゃないだろうか?


また、菅野よう子がリーダーの音楽セッションも立体的な音響だ。
キャラクターのそれぞれに声優だけでなく「演奏の演技を付ける音楽家」がいるというのも、キャラの生っぽさを付けるための斬新かつ適切な演出。
そういう存在感や音楽をする喜びの中に、自分も入りたい、と思った。
だから、劇場の立体音響の中で見てみたい。


3D映画化しないかな。
あるいは、菅野よう子のバンドのライブか・・・。

アニメ 坂道のアポロン オリジナル・サウンドトラック

アニメ 坂道のアポロン オリジナル・サウンドトラック


だけど、実写映画だと、違うんだよな。実写映画だと、普通の演奏会になっちゃう。厳しい言い方だが、特に今の邦画の若い役者と演出家で演奏もこなし、立体的な画面映えも計算できる人材はほとんどいないだろう。
僕はアニメファンだし、アニメとして計算された上で生々しさを演出された3Dに芸術性を感じるんだ。
そういう芸術作品を見てみたいんだよ!


っていうか、初めて3Dを活かした映画を見たいと思ったんだが。
そのきっかけが青春群像劇の坂道のアポロンと言うのは、非常に意外だ。



ああ、あと、お話も良いね。切なくって。
いろんな性格の人物の感情がすれ違ったり、音楽で溶けあったり、普段アニメをあまり見ない妹もこういう恋愛アニメはドキドキするらしく、一緒に見てる。


僕はバイセクシュアル(だけど普通にモテないので恋愛経験はほとんどない)だけど、男性同士の憧れと嫉妬と友情が混ざった千太郎と薫の関係はドキドキする。男性的な千太郎の肉体や性格は良いし、その中に隠れた繊細さはかわいいし、女性的な目元の雰囲気が良い。薫さんは男らしくなりたいっていう向上心と女々しい策略と、少年らしい潔癖さの自己矛盾があって、それも愛らしい。
それに、りっちゃんはいい子だし、百合香は少年役もこなせる遠藤綾さんの本気の美女演技で、惚れぼれする。いい子も悪女も少女漫画ではあて馬になりやすいんだが・・・。
薫はエゴイストの音楽家の癖に、千太郎を助けたりりっちゃんに気を使ったり告白して、めんどくさいメガネ男子だけど、彼には共感と若さへのノスタルジアを感じる。良いと思う。
あと、腐女子的な目線もあるんだけど、薫と千太郎が単純なホモやヤオイ的美少年ではなく、それぞれに女性にも興味があって、女性からも価値を認められる雄でもある、っていうのがまた生々しくて、境界線上の青春って感じで心の琴線に触れるねえ。


あとね、個人的に長崎で幼少時代を過ごしたので、長崎弁とか、あの坂と海の感じ、懐かしくてそれもノスタルジーだな。長崎じゃなくて九州のどこかなのかな。