サブタイトル[ロマンスの休日]
前節
創作幻視小説版「夢兄妹寝物語」 2003年10月 第10話 第1節 - 玖足手帖-アニメ&創作-
前書き:
- 逢う魔が時の峠道
つづら折れの林道の林を挟んで、上の道にサイドバイクロンの頭令そらの一党、下の道に白い個人タクシーとその前を塞ぐアーマード・ベンツの黒い巨体。そらがロザリオを目の前にかざし、その透明な重力レンズを望遠鏡にして盗み見、見下ろせば、タクシーの運転手の壮年の男はハンドルを抱えて頭を伏せ、そこから降りた金髪の女が黒服サングラスの男と言い争っている。その声も宇宙人が拾い、ロザリオを介してそらの耳に入れる。
そら「イタリア語っぽいけど、よくわからない。ロザリオ、翻訳しなさい」
ロザリオ「了解し、実行します」
顔の前に浮かんだ拡大画像に目を凝らせば、プラチナブロンドの女に言い寄っている大男も撫で付けた髪が黒いが、彫が深く白人と分かる。ヒゲの剃り跡が濃い。
イタリア語の言い争いが宇宙人の集音器に入り、ロザリオがそれを翻訳してそらに伝える。
女『おだまりなさい!(伊太利亜語)』
男『奥様、無茶はやめて、お帰り下さい(伊)』
女『バカ者!今は私の自由時間のはずです!(伊)』
男『私たちにも知らせず動かれると、困ります(伊)』
ロザリオ「ダマレ!」
ロザリオ「あなた、無理です!カエッテください!」
ロザリオ「バカヤロー!ワタシの自由にさせてモラウ!」
そら「バカ・・・・・・ヤロー・・・・・・?」
ロザリオ「知りマセン!動かないでください!困りマス!」
そら「よし、大体の事情は呑み込めたわ!助けるわよ!」
レイ「誰を助けるのです?」
そら「女!」
そう言った時に、既にそらはガードレールを蹴って跳び出で、杉林を駆けおりていた。ロザリオのバリアーに弾かれ、下草は船に切られた水面のように引き波を打つ。
ロザリオ「お待ちくださいそら様!何をされるのです!」
そら「国語で習ったわ。『義を見てせざるは勇無きなり』ってね!いい女に、あたしはなる!」
ロザリオのちょっとずれた翻訳で、黒服を女性を襲う悪漢と断定したそらであった。
ロザリオ「そら様!前方にフェンスがあります。停まって下さい!」
そら「三段跳びでいける!」
体育の授業で三段跳びは習ったばかりだが、ホップ、ステップで間合いを計り、ロザリオの重力操作と高低差を利用し、斜面の林と道路を分かつ、4メートルはある落石防護柵の上辺を蹴り、宙に舞うそら!
ギッダァン!
鉄骨の軋む音に、外国人の男女もハッと振り仰ぎ、夕陽を反射したロザリオの中空に舞う輝きに目を射られた。
その光を胸に抱くは、ピンクブロンドのロングヘアをなびかせて跳ぶ美少女だ。
バギバギバギバギギッ!ザザザザザザッ!!
その後ろには杉の枝を散らして斜面を滑りおちてくる『ショベルカーのようなサイドカーに跨る黒服の老人』が視界に有った。
男「何だ?あれは(伊)オブェアあああああ!(悲鳴)」
異常な光景に釘付けにされた男の上にそらが舞い降り、即座に蹴り飛ばした。実際にはロザリオの宇宙人が落下の衝撃を全て男の運動エネルギーに変え、そらと男が怪我をしないように守り、男を道路沿いに滑らせたのだが。とにかく黒服の男は峠道を滑り登って草むらに突っこんで消えた。
が、ベンツの運転席にはまだ一人、鳶色の髪で黒服の白人がいた。
鳶色「アントニオ!」
そら「タイヤを狙う!」
バリッシュゥッ!
着地の勢いのまま、そらは右手に持ち替えたロザリオの長辺をベンツの前輪に叩きつけた。宇宙人が強化した体心立法格子構造単結晶クロムのロザリオの完全平面の角の切れ味は、防弾タイヤをランガードシステム*1ごと、紙きれのようにリムまで切り込んだ。もちろん、セックスサインのようにロザリオを挟む、そらの人指し指と中指にはバリアで傷も付かない。
鳶色「???」
パンクしたベンツがガクンと傾き、丁度降りようとしていたイタリア人が転がり落ちる。彼はサングラス越しに、道路の落石防護柵を「猛スピードのナメクジのような無限軌道の動き」で登り「パワーショベルの腕で跳ねて」自分を飛び越えて眼前に軽く着地したサイドバイクロンの巨体の影に覆われ、腰を抜かした。
女「あなたたち、何をしているの?!」
タクシー運転手「なむあみだぶなむあびだぶ・・・」
口論現場がたった3秒で仮面ライダーバトルの世界になってしまった。
そら「助けに来ました!さあ、乗って!」
女「乗る?」
そら「意外と中は広いから!」
いきなり闖入した少女が女を奇妙なサイドカーに押し入れようとしてきたが、タクシー運転手も怯え切って、ベンツもパンクしたのを流し見ると、彼女は乗り込むことにした。とりあえず使える車両はこれだ。
女「あら、本当。二人がけできるわね」
そら「とりあえず、急いで峠を下ります」
女「よろしくてよ」
レイ「……了解しました」
偽装のエンジン音を吹かして発車したサイドバイクロンの中で、女はシートにもたれて一息ついた。
- 国道
空が暗くなり、街灯のナトリウム光のオレンジ色が目立ってきた国道を走る車中で少女が金髪の女に話しかけた。
そら「さっきは大変でしたね。でも、もう大丈夫です」
女「……ありがとう、わざわざ」
女からは、少女は少し興奮しているように見えた。『大立ち回りをしたからかしら』
そら「いえ!”困った時はお互い様”ですから!あ、日本語は大丈夫ですね?
あたしは頭令そらって言います。お名前を伺ってもいいですか?」
さっと過ぎる街灯の光が、上気した少女の頬のえくぼを強調して、可愛い。
女「……ずりょう……そら?」
そら「あ、珍しい苗字ですか?頭に命令の令って書くんですけど、って、外国の人には関係ないか、アハッ」
女「私は、セーラ・クルーゼと言います。これでも、半分は日本人なのよ。普段はEUに住んでいるけど」
そら「はじめまして、セーラさん。それじゃ、どこまで送りましょうか?」
セーラ「そらちゃん。運転してる彼、あなたの保護者?あなたこそ、こんな時間にいいのかしら?」
そら「ああ、うちの執事です。今はちょっと気分転換のドライブで」
セーラ「そう……。それなら、あの高いマンションの下までお願いします」
それこそ、そらの目指した社の住居である。
そら「えっ?いやー、そんなに遠慮しなくても。駅まで送ってもいいんですよ?」
セーラ「そこまでは悪いわ。あのマンションなら、タクシーを呼び直してもわかりやすいでしょう?そこで待たせてもらいます」
そら「あ、そーですかぁー」
と、女は白いハンドバッグから携帯電話を取り出し、タクシーを呼ぶようにインターネットを操作をした。それから、女はサングラスを外してケースに入れてバッグに仕舞い、そらに金色の睫毛と青い目を見せた。意外に化粧が薄い。落ち着いた物腰から予想した歳よりもずっと若い、美女だ。
そらの紅い目は彼女の碧眼と目を合わせ、一つ瞬きしてから
そら「ん……。そうですか。
あ、偶然、そのマンションにあたしの知り合いがいるんです。外より、その部屋で待ちません?」
計画を変えて、提案した。
セーラ「貴女がそれでいいのなら」
女の答えで、そらは座席前のキャビネットについたブザーを押して、レイを呼びだす振りをした。主人の合図で停車し、レイはサイドカーの脇に回る。セーラを残してゴンドラから出たそらの足元に、運転手はひざまずいた。
そら「レイ、社のマンションまでこの人と一緒に行くから」
レイ「そら様、良いのですか?社先生の所に知らない女性を入れて、問題は発生しないでしょうか」
路上で主従のひそひそ話。
そら「バカね、社を知らない外国の女の人だから良いんじゃない。人助けにもなるし、これで堂々と社の部屋に入れるってわけ。セーラさんは美女だけど、あいつも大人の女の前で変なこと出来ないわよ。ロリコンだし」
そのセーラが窓ガラスを開けて、声をかけた
セーラ「執事さん、私はセーラ・クルーゼと申します。ご面倒をかけます」
レイ「いえ、構いません。私は執事の宍戸隷司です」
セーラ「宍戸さん、よろしくおねがいします」
レイ「それでは、参ります」
女二人と宇宙人を乗せ、再びサイドバイクロンが動き出す。
セーラ「ところで、これから行くマンションにはどういったお知り合いがいるのかしら?」
そら「あ、あたしの家庭教師です」
セーラ「あなた、小学生でしょう?家庭教師は中学校受験のため?」
そら「中学は受験しますけど。あたし、海外にいる父の関係で移動が多かったせいで、小学生じゃないです」
行きずりの女に対しては、そらはそれなりに嘘を交えたが、隠しもしなかった。地球人に対するいつもの公式発表だ。
セーラ「そう、なら、あなたにはその先生と執事さんが付きっきりという訳ね」
そら「まあ、そうです」
セーラ「その先生ってどんな人かしら?男の方?」
そら「そうですけど……?」
セーラ「気を悪くしないで。私もこれから少しお世話になる人でしょ?だから、気になるのよ。よろしければ名前も教えて下さる?」
そら「えっと、社先生って言って、
背が高くて、貴女と同じ白人とのハーフで金髪で、ちょっとかっこいい、かな?勉強だけじゃなくって、体術とか、芸術とかも教えてもらってて、色んな事を知ってる人です」
セーラ「そう、それは良い先生ね」
社も自宅では仮面を外しているだろうし、彼が犯罪者と言う事は、話さないでおこう、とそらは言葉を選んだ。が、
セーラ「その方は、フルネームは社亜砂と言う人ではなくって?」
そら「な!知ってるんですか?」
バレていた。
セーラ「あら、当たったの。金髪で教師の『社』さんなら、ひょっとして、と思ったのだけど」
クスリと金髪が笑う。
そら「あいつ、そんなに有名だったんだ……」
セーラ「私は当時海外にいたけれど、彼の事件はかなり騒がれたわ。あなたは小さくて覚えていないでしょうけど。今年の春に出所した時も初めてGPS付きの矯正マスクを被った性犯罪者と報道されていたわね」
そら「でも、実際付き合ったらそんなに悪い人間じゃないんですよ?仮面が効いてるから、あたしは何もされてませんし。
ちょっと気障だけど、筋は通す人です。
……行くの、嫌ですか?」
セーラ「構いません。いつも一緒にいるあなたがそう言うなら、大丈夫なんでしょう。それに、私の歳は彼のタイプじゃないと思うし。ね」
また、悪戯っぽい金髪さんの微笑。
そら「そうですねっ。さっきの黒服達の方がよっぽど悪いですよ。あんな山道でセーラさん一人を襲うなんて」
セーラ「……そうね。日本の治安は良いと思ったのだけど、女の一人旅は危ないわね。助かりました」
21世紀日本で要人警護用のアーマード・ベンツを使う白人の山賊は不自然だが、そらは車の種類などは知らない。
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*1:パンク対策装置