玖足手帖-アニメブログ-

富野由悠季監督、出崎統監督、ガンダム作品を中心に、アニメ感想を書くブログです。

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宝島第2巻5話〜8話 ジョン・シルバー登場!

第5話 行って来るよ、母さん! 脚本:山崎晴哉 絵コンテ紺屋行男
第6話 敵か味方かジョン・シルバー 脚本:山崎晴哉 絵コンテさきまくら
第7話 肉焼きおやじはニクい奴 脚本:篠崎好 絵コンテさきまくら
第8話 幽霊船がオレを呼ぶ!      脚本:篠崎好 絵コンテさきまくら
一刻も早く人生を終えなくてはいけないので、面白いかどうか、というより自分の人生に必要かどうかあいまいな新作アニメよりも絶対に必要な名作アニメを急いで見て行くという事で再視聴開始。(コン・バトラーVの配信が終わったので、古めのアニメ枠が心理的にあいた)


感想はそんなにない。面白いし、筋書きもシンプルだし、原作、アニメともに古典名作の域に達しているので皆さんはあらすじくらいは分かっていると思う。新宝島やワン・ピースの元ネタでもあるし。
5話でジム・ホーキンズ少年が航海の許可をもらって、6話でジョン・シルバーと出会って、7話で船出してシルバーとジムが仲良くなって、8話でシルバーの超カッコイイところがバーン!って出る。

宝島 Blu-ray BOX

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いやあ、さきまくら(出崎統)の絵コンテはシビレるぅ!ジョン・シルバーは片足で松葉杖をついた身体障害者なんだけど、松葉杖を使って一本足で飛び跳ねる!画面を左右上下に躍動する逞しい男らしさ!
わくわくするなあ!
僕、見るまではジョン・シルバーってもっと物静かで過去を抱えていて、どっしりとした中年の男だと思っていたんだけど、すっごく元気!力強く、声が大きく、よく動きよく働き、ユーモアのセンスもあって知的で面白い。か、かっこいいぜーっ!

アクションシーンの画面内での位置の入れ替わりとか、カメラのイマジナリーライン越え等は富野由悠季の映像の原則にほとんど合致していて、映像的にも迫力があって面白い。

映像の原則 改訂版 (キネマ旬報ムック)

映像の原則 改訂版 (キネマ旬報ムック)

映像力学は富野の映像の原則くらいしか読んでいない不勉強な私だが、1978年の宝島でも出崎統が行っているし、やっぱり普遍的なものなのかなあ?もちろん細かい所では富野の癖と出崎の癖は全然違うんだけど、それも面白みだ。
シルバーがカッコよさを示したりするときとか、絵コンテ力学的に強い構図だし、負けた奴が退場する時の構図も弱弱しさが感じられる。
海賊の黒犬や酒びたりのアロー副船長が負けて退場する時に画面右下隅に追いやられていくのがわかりやすい。
しかし、殺人の嫌疑がかけられた時のシルバーも小悪人のように画面右下隅へと退場していく、と、見せかけてジムの正面顔での
「シルバーを信じてるよ!」
という言葉を受けて、シルバーが足元アップからの顔アップウィンクになって、強さと信頼と正義っぽさを取り戻す所、映像力学の運動としてとても面白い。
悪の負ける構図、と、見せかけて堂々とした上手からのウィンクでカッコよさを打ち出すことで、カッコよさをさらに強調しており、まさしく演出の妙!
こういう虫プロ系の演出の意味合いをワンカットごとに実感していく感じはアニメならではの面白さだと思う。実写は構図があんまりパキっとしてない。実写はアニメと違って絵画的ではなく、むしろ役者の演技や動き中心なのかな?(特撮はまた違う合成の事情で動かせなかったので絵画的であった。今はCG)
ただし、アニメは絵画的に構図がありつつも、それが変化して動くのがホント、アニメーションならではの面白さだと思う!
やっぱりこういうのが好みなんだよなー。作り手の意図や芸術的生命感が感じられてスカッとする。


動画としては枚数は少ないので、虫プロ系だなーって思うんだけど、波の動きが4コマ繰り返しとかカモメに至っては2枚の繰り返しでしかないのに、ちゃんと波やカモメに見えるのが出崎だー!って思うしほんといい・・・。
杉井ギサブロー監督のベラドンナとか動かす系もあるのが虫プロなんだけど。りんたろう監督は割とぬるぬる動かす。


杉井監督と言えば、出崎統も噛んでるけど、宝島の脇役の絵柄とか体形や線の省略とか、日本昔話のような自由なディフォルメで、マンガ的キャラクターの動かし方の面白さがある。アクションシーンなどの抽象的な省略と強調もまんが日本昔ばなしを彷彿とさせる。最近のアニメは割とどれもシリアスもギャグもディフォルメの仕方の雰囲気が似通ってるように思うが、(印象論である)日本昔ばなし系はバラエティがあるよなあ。いや、最近のオタクは日本昔話と世界名作劇場の終了以降のオタクなので「作画崩壊」とかよく言うし作画を揃える系を重視してる気がするー。端正になっているというか。
日本昔ばなしや宝島は割とシーンの演出的雰囲気(と作画予算・・・)によってシームレスかつアナログに絵柄の情報密度やディフォルメが行われていて、バラエティ感覚と生っぽさがある。
日本昔ばなしはオタク向けアニメじゃないけど、オタクの基礎体力として結構重要な幼児体験なんじゃないかなーって思うんだが、どうか?まあ、アートアニメ系は「みんなのうた」とかCMで残っていると言えば残っている。プリキュアとか商業の塊アニメだけどディフォルメや絵柄の粗密の調整はなされているしなあ。(佐藤順一や少女漫画からの漫譜表現などのつながりもあるんで、完全に分断はされていない)
けど、割と日本の商業アニメーションは質感が結構似通った感じになってて、日本昔ばなしのようなザラッとした感覚はないなあ。すごく印象論だけども。やっぱりデジタルとアナログの違いだよなあ。
アナログ系アニメは日本よりも欧州の方が今は残っている印象。いや、デジタル環境にアナログ素材取り込みとかやってるんだろうけど・・・。


話が逸れたが、宝島のアナログの見せ方と言えば入射光とハーモニーも大事。うん。当たり前の出崎演出だ。
いやー、入射光はフォトンの一つ一つ、水彩画は顔料の一粒一粒までが微妙な味わいを出していて、デジタルには出せないランダムな味わいだ。情報量としては結構大きいよね、アナログ入射光。これがまた海の感覚をすごく出してる。
いいなあ。


あと、微妙な所だけど、画面の揺らし方もアナログ的だなー。デジタルアニメだと基本的には画面が揺れないからなあ。逆に軽いデジカメで撮った実写は演出意図が無い揺れ方をしていて、好みではない。
トレローニさんが乗った馬車の揺れを表現するために、作画枚数を省略するためか、馬車に乗ってるトレローニさんの絵を上下に振動させるというアナログ的手法が採られているんだが、この揺れが石畳の小さな揺れと坂道の凹凸の大きな揺れの両方を微妙に感じさせる見事な揺れで素晴らしい。これはなかなかできるものではないよなあ。さすが、撮影台にも凝る出崎統アニメである。いや、アナログ環境だからと言ってなかなかできるものではない。トレローニさんはそんなにカッコいいキャラじゃないので、そんなに力を入れるべきシーンでもなかったと思うけど、なんか良い揺れでした。あと、船の揺れの波っぽさとか。
止め絵のハーモニーでも微細に画面が揺れ動く事で、迫力と存在感が高まっていて、心が揺さぶられる。こういう平衡感覚に訴えかける演出も、光学的な見せ方と並行して面白みだ。


杉野昭夫の絵柄、ジョン・シルバーの睫毛はやはり杉野まつ毛でセクシー。
ハーモニーの連続で荒々しい絵画と動画の中間のようなアニメをするのもかっこいい。
同時に、小林七郎の背景動画もまた素晴らしく、霧や波や帆船の表現が芸術的。これは少女革命ウテナにも通じるんだろうなー。


あと、色づかいも大胆でわかりやすく、おもしろい。
アナログ時代のアニメという事で使える色が少ないんだが、その分、赤は赤、黄色は黄色、と言ったようにビビッドな配色。キャラクターごとの色の記号性も子供アニメらしくわかりやすくて良い。主人公のジムは分かりやすくトリコロールだし、ガンダムっぽい(ジムなのに)。
背景や演出効果として、黒と緑と赤、青と黄色などの補色の原色コントラストが上手く使われていてセンスがある。
あと、灰色と青の色の階層の繋がった感じがいい。青は爽快な晴れの空や海の光でもあり、どこまでも落ちていく海底の闇でもある。
青っぽい灰色の幽霊船も、海の生命と死の両方を含んだ恐ろしさの表現として見事。
こういう、色彩の芸術的右脳的センスと、左脳的な文脈解釈演出が結びつくと、両方の脳を使っている事になるので非常に刺激されて面白いですね。氷川竜介先生もそんな事を言っていた。

  • ストーリーで言うと

ジムは船乗り父親を1か月前に亡くしている少年であり、ビリー・ボーンズ船長やリブシー氏やジョン・シルバーに父親の代理的な感情を抱いて懐いているようなところがある。このようにたくさんの父親が出てくるのがこのアニメだろうか?
ジム自身は快活な少年なので、エヴァンゲリオン碇シンジのようにファザコンの陰気っぽさは出してないんだが。というか、ジムは思春期のちょっと前なので、思春期のシンジほど自分を見つめてなくて、単純なんだよなあ。
その反面、母親は「男の子がどこに居ても、母親は眼を光らせているものよ」とか船出するジムに対して言っちゃったりして、母性強い!コワイ!とか思う。ここらへんは出崎さんの生い立ちにも関係するのかしないのか。
出崎アニメは割と親が絡むよね!おにいさまへ・・・とか。ホスト部ウテナ経由でそういう感じでしたねー。


複数の父親っぽいキャラが出るのが宝島として、複数の母親が出てくるのが源氏物語千年紀 Genjiなので、やっぱり出崎監督にはもうちょっと長生きしてGenji2を作って欲しかった・・・。Genjiは親父天皇の見守り力もすごい。母親的父。ウルトラヴァイオレット:コード044は母アニメでしたねー。

あと、Genjiは母親の存在感だけでなく「妹」があるので、そこはいろいろだなあ。おにいさまへ・・・もタイトルからして妹アニメでもあるし。
ジョン・シルバーも父親っぽさだけではなくアニキっぽさもあるし、海の上では兄弟・仲間というガンバっぽさもありますねー。
幼馴染の女の子はすごくキャラが薄かった・・・。これ、再登場するの?ガンバも恋愛色が薄かったが。出崎さんは男女の愛よりも男性同士の友情の方が得意な気が・・・。いや、AIRCLANNADのラインもあるか。どうなんですかね。僕は出崎鍵アニメ好きですよ。リトルバスターズ!出崎版は永遠にないんだ・・・。ないんだ・・・。


しかし、ジョン・シルバーは噂話では序盤から出てきたけど実際に登場するのは5話からなので主人公(テロップではZガンダムのシャアの位置)なのに遅い!
遅いのに、すごく強くてカッコいいしセクシー!すごい!これは1クールアニメではできないなあ。これも2クールだから1年アニメじゃないけど。
でも、1話ごとに毎回舞台状況が変わっていて大長編の海賊萬画ワンピースよりもスピード感と充実感がある。ワンピース長いよな・・・。


あと、宝島の宝を狙うトレローニさんとリブシー氏のオッサン臭さの中にある冒険意欲なども人間らしくて面白いし、船長の堅物な所もキャラが立ってる。ダメなオッサンもよく出てきているが、それはそれで人間臭いなー。


そういうわけでおもしろいぜ。

  • 余談

ベストセラー小説の書き方 (朝日文庫)

ベストセラー小説の書き方 (朝日文庫)

これでは「白鯨などは古典名作ではあるが、大学の文学部くらいでしか読まれていない。現代のエンタメには成っていない」って書いてあるけど、極東の島国日本でうっかり宝島や世界名作劇場がアニメになって再評価されたりするんだよなー。白鯨伝説は宇宙だし。
そこら辺も文芸の歴史や人間関係の営みの面白い所だ。