明日はヱヴァンゲリヲン 新劇場版:Qの公開日で、梅田では富野由悠季監督の講演会にも行く予定だが、宝島のクライマックスの感想を書く。濃い…。
第21話 生きてりゃこそのお宝よ! 脚本:篠崎好
第22話 海賊死んでガイコツ残る 脚本:篠崎好
第23話 翔んでる男!カモメのパピー 脚本:山崎晴哉
第24話 亡者の箱は満月に輝くか!? 脚本:山崎晴哉
絵コンテ:さきまくら(出崎統)
あ、これ、すっごくおもしろい!
何が面白いって、この終盤のドラマ・ストーリー・演出の要素が全て「宝島の宝を見つける」ということに収斂しているからだ。全て無駄が無い。この、全く捨てカットが無い、演出意図の行きわたった感じ、すごく面白い。台詞の内容もテンポもすごく洗練されてる。かっこいい。
この無駄のない感じ、というか、作品すべてに作為、演出家の思い、人の情念みたいな物がいきわたっているのは本当に芸術的だし面白いと思う。
もちろん、その込められた情念が出崎統の個人的な吐露に過ぎなかったら日記レベルの物だが、「エンターテインメントにするぞ!」「楽しませるぞ!」という意図なので楽しい。
自分にとっての「アニメ」の定義は、
1コマ1コマが作り手の作為によって組み込まれた表現手段
って、出崎統ファンとして有名なアニメてーきゅう監督板垣伸氏が書いてるけど、その通りだなー。
これは原作小説自体が、作者の男性のスチーブンソン氏が再婚相手の息子に読み聞かせて楽しませるために、ワクワクさせるために作られたものだからかもしれない。
展開の全てが楽しみのために無駄になってない。本当に面白いなー。
たとえば、シルバーが負傷したりジムがサメに襲われたりするけど、そういうアクシデント的なものも含めて、「彼らが宝を見つける」という事に繋がっているのが上手い。
そして、そこまで上手いアニメの終盤になってくると、どんなアクシデントが起きても「きっとこの後、この事件も何かの役に立つんだろうな」と、期待ができる。だが、期待にかなって面白くても予想外の決着だったり創意工夫された演出だったりして、エンターテインメントの基本に沿った面白みだ。
まさか、海賊との決着があのタイミングで付くとは・・・。
ワクワクの期待感とドッキリな事件性があって、心が揺さぶられるんだけど、「きっと面白がらせてくれるんだろう」という安心感もある。
そこら辺の視聴者の感情は、少年ジムがシルバーに対して揺れる思いを持ちながらも、「きっとシルバーはすごい事をしてくれるんだろう」という気持ちも持っていると言う主人公の構造とも重なっていて、そこもまたおもしろい。
- 血統
今、海賊コミックで大流行しているワンピースも、冒険ロマンと見せかけてルフィの血統がキーになってきているんだが。
宝島は海賊王フリント、ビリー・ボーンズ副船長、一本足のジョン・シルバー、ジム・ホーキンズっていう義理の家族の跡目争いみたいなのがある。
シルバーとともに死んだフリントの財宝を狙った海賊やベン・ガンも跡目争いだなー。
そう考えると、トレローニさんは割と横から盗む感じなんだが、でも、「自分がやりたい事をやる」っていうのが出崎統アニメのテーマなので、太っちょのトレローニさんは意外とやりたい事をやろうと言う冒険心に溢れていて生き生きしてるんじゃないかなーって思う。
グレーもシルバーとの短い決闘があって、微妙に男として認められた感じがあるので、血統感覚はある。
で、この海賊はONEPIECEの親子関係とも違って、義理の家族で男として認められるかどうかっていう任侠感覚があって、それがかっこいい。任侠っぽさは華星夜曲でもありましたし、義姉妹はおにいさまへ・・・にも通じるし出崎っぽい。
- なぜシルバーはジムに惚れたのか
シルバーがジムを男と認めて、大事にしてるっぽいんだが、これはなんでかというのは割と謎。父親を亡くしていて、海に憧れているジムがシルバーに惹かれたのは割と分かりやすい。
だが、逆のフラグが謎。
他の海賊に対して、シルバーは割と酷い扱いをしていたのだが、ジムには優しい。シルバーとジムの絆はヒスパニオラ号の中の生活で育まれたっぽいんだが。でも、シルバーのような男の中の男がこんな小僧に入れ込むのは割と謎。
だが、振り返ってみると、シルバーはほかの海賊にひどい扱いをしているんだが、優しい言葉をかけたり、熱病で傷ついたアンダースンに敬意を払ったりしてもいる。ほかの海賊にも優しさを見せているシーンもある。
だが、シルバーはほかの海賊に割と裏切られている。だからシルバーも人間を信じてない面もある。
シルバーは意外と誰にでも優しくするというのが素の部分かもしれないのだが、優しさだけで生きていけない大人としての生き方になっている。シルバーは強すぎる男だし海賊という生活の面もあり、力や財宝目当ての人間関係に裏切られたり、食うか食われるか、という関係性で生きてきた男でもある。
シルバー自身は親切な面もあると思うが、フリントの宝を得ようとするのが人生の執念なので、他人に優しくして平穏な生活をできないという、二面性がある。
また、シルバーは港町の料理人という職業と、海賊という二面性がある。
そのシルバーの両面を知った上で、それでもジムは色々な感情もありつつ、シルバーへの想いを裏切らなかった、っていうのが終盤のシルバーにとってはすごく救いだったのかもなあ。ジムが単純な子供だし、弱い子供だからシルバーと決定的に対立しなかった、という面もあるが、ジムの無自覚な殺意がシルバーの部下を死なせたという展開もあり。ただ、そこで部下を失った時も、シルバーは結局部下に裏切られて、ジムとは助け合った、というのがある。
他の海賊の部下は自分の欲のためにシルバーを裏切ったり、シルバーに責任を押し付けて裏切るというところがあるが、ジムはシルバーに責任を押し付けず、あるいは犯罪者として見下したり憎んだりせずに対等な海の男と男として付き合ってるから、やっぱりこの二人の絆はこの物語の中で特別なものだと思う。
シルバーはもちろん強くて素敵な人物だが、そのシルバーに認められて、心理的に頼られているジムも素敵な少年だし主人公だなあ、って思う。ここら辺はおにいさまへ・・・での特徴がないのに事件の中心にいる御苑生さんにサン・ジュスト様が惹かれるところに通じてたりもして。
純粋な少年少女に価値を見出すところは、AIRとかGenjiでもあるし出崎統らしいなあ。ブラック・ジャックのピノコなんかも純粋な少女だったし。
- かもめのパピー
この終盤で、能力的にも人間的にも二流三流の男の、かもめのパピーを掘り下げるエピソードが入ってる。
これがこの物語に深みを与えている。この終盤で脇役にスポットを当てることで、心理的に立体的になってる。しかもこのパピーのエピソードが宝探しの試練を乗り越える歯車の役割にもなってる。
テーマ性としても、損得だけで動いていた海賊の手下のパピーが損得ではなく「男としてやりたい事」のために行動する、ということで全体の「男がやりたいことをして冒険をする」というテーマを強化してる。
終盤でこんな脇役を利用して深みを増す作品はすごいと思う。
- 宝を得る者たち
たくさん死んだが、結局残った彼らは「欲のために宝を求めた男」ではなく「やるべきことや、やりたいことをやり抜いた男たち」だ。もはや海賊や英国紳士というグループ分けもいつの間にかなくなり、純粋に目的のために協力し合った男たちだ。この純粋さ!
これはかっこいいぜ!
そのクライマックスのかっこよさを引き立たせるために、その直前にたくさんの男たちが無残に死んでいったし、シルバーもたくさん痛い目にあって、ジムもしんどい思いや怖い思いをして、「冒険は本当に危険」だと実感させてくれてる。だが、それを乗り越えた上での「宝」
これは金銭的にもすごいんだが、その上で精神的にも「冒険をやりきった」という充実感があって、すごくいい。
実際、アニメの中で宝がたくさんあっても視聴者には全然利益にならない。でも、アニメの中で精神的な充実があると、心の部分で視聴者にも満足感が伝わるんじゃないかな。というか、アニメや芸術で伝えられるのは精神だけですよ。その精神を伝えてくれる宝島は、やっぱりすごくエンターテインメントとして純粋だと思う。
これが冒険物語だ!
宝島に比べたら、ワンピースはだいぶ説教臭いよなあ。
- 作者: 尾田栄一郎
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2012/11/02
- メディア: コミック
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ただ、ワンピースと宝島の類似点を考えると、おそらく血統的に財宝を得るべきシルバーの位置がシャンクスなんだけど、ジムはルフィであると同時に、弱い海兵のコビーという純粋な少年かもしれない。ダブル主人公だったのかも。初期は。
んだけど、ワンピースは連載期間がすごい長いし、ジャンプマンガというシステム上、今は初期構想とは全然違ってるんだろうなあ。シティハンターも相棒が死んで香になったしなあ。