話数 サブタイトル 脚本 作画監督 演出 視聴率
第36話 牙をむくウルフ金串 (不明) 杉野昭夫 崎枕 17.7%
第37話 怒りの大特訓 (不明) 杉野昭夫 崎枕 20.0%
第38話 史上最大の六回戦 (不明) 杉野昭夫 崎枕 20.5%
第39話 勝利のトリプルクロス (不明) 杉野昭夫 吉川惣司 22.7%
第40話 白銀に誓う (不明) 荒木伸吾 平田敏夫 19.8%
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%82%E3%81%97%E3%81%9F%E3%81%AE%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%BC#.E6.94.BE.E6.98.A0.E3.83.AA.E3.82.B9.E3.83.88
あしたのジョー DVD(8) ~TOMORROW’S JOE~
- 出版社/メーカー: 日本コロムビア
- 発売日: 2002/11/21
- メディア: DVD
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うわあ・・・。
ウィキのあしたのジョーの項目では40話は山崎忠昭さんの脚本と書いてあるが、GyaO!の配信では当時のエンディングが流れたが、脚本のクレジットは無し。そして、35話まで二人で脚本を書いていた雪室俊一(サザエさん)さんと山崎忠昭さんは41話から降板。
特に山崎忠昭さんは絵コンテや演出、編集に至るまで脚本を改変しまくる出崎統を苦々しく思っていたとネットに書いてあった。思いっきり喧嘩別れじゃん。
脚本家に逃げられたか、クレジットする事を拒否されたのかわからないが、そんなグダグダの状況で3連続演出という荒技で対ウルフ編をやり遂げた、さきまくら=出崎統ってマジスゲー。そして、それを支えた杉野昭夫作画監督もマジスゲー。これでアニメーターまで瓦解してたら本当に崩壊してたよな・・・。
そんなギリギリな3クール目の山場だが、文句なく面白いというのが、出崎統の物凄い所だ!
あしたのジョー ファイティング・ジョー ダメージver. (1/6スケール ポリストーン塗装済み完成品)
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- 出崎統編集マジック、演出、これは技巧ではない!
まず、段取りが無い!原作に在った段取りが無い!
あしたのジョーって、割とジョジョの奇妙な冒険に似てるんですね。バトルマンガだし。
原作だとウルフがクロスカウンター封じのダブルクロスを編み出す特訓をして、それを見に行ったジョーの舎弟のドヤ街の子供たちがウルフにやられて、ジョーが子供たちの傷を研究してダブルクロスカウンターの方法を知り、それを打ち破る特訓をして、トリプルクロスカウンターを編み出して勝った、という解説がウルフ戦後に語られるんですが。
アニメでは一切それが無い。
まあ、原作漫画版の、必殺技の謎を解くために子供たちの傷さえも分析の道具にするジョーや丹下段平もかなりボクシングキチガイで酷いんだが。
アニメでは、ただ単に子供たちを手にかけたウルフに怒って、怒りの大特訓を行って、そのままの勢いで勝つだけ。マジで理由などない。段取りも糞もない。
いつもはうるさい段平もウルフ戦ではセコンドとして黙ったままで、大特訓後の傷だらけの体でウルフをにらんでいるだけで不気味だった。それは原作では「トリプルクロスという必殺技が完成しているので、本番の試合では喋る必要が無かった」って試合の後でジョーが新聞記者たちに解説している。
が、アニメではそんな理由はない。
ただ、不気味に黙って最後までガンを飛ばしていて、ただ単に勝つだけ。無茶苦茶。
だが、その事で「子供を気絶するほど殴って、車のトランクに入れてジョーの前に運んで来て投げ捨てて行くようなウルフは許せん。ぶちのめす」というジョーたちの怒りのまっすぐさが伝わってくる。
子供たちを丹下ジムの前に投げ捨てて車で去っていくウルフの車を走っておって行って、途中でジョーが転んでしまうのも、アニメオリジナルの描写。これもジョーの悔しさを増幅している。
原作の高森朝雄(梶原一騎)は巨人の星やタイガーマスクなど、ギミックで勝つような漫画原作が多い。バトルマンガだが、デスノートやジョジョの奇妙な冒険やハンター×ハンターっぽい頭脳戦で、連載の興味を引かせるって言うのが上手い。
だが、出崎統の興味はギミックではない。あくまで感情の流れ。その勢い。アニメは流れる時間に乗る物だからだ。
- 台詞のない矢吹
ウルフとやり合う時の、試合のジョーは、本当に不気味なくらい台詞が無い。
ほとんど、敵側のウルフとアジア拳の大高会長の方が台詞が多い。
それは、前述の通り、ジョーたちはトリプルクロスを狙っているという目的があるから喋る必要が無いっていう理由は在ったのだが。
それ以上に、ジョーはウルフ達に対してものすごく怒っているという事の方が伝わってきた。
そして、確実に勝つという気迫が伝わるような無言ぶりだった。だから、ジョーが勝つのは理由を言うまでもありません。(楳図かずお版ウルトラマン)
そして、ここまで台詞を極限まで削って、動画と照明とカメラワークと音楽のリズムの演出だけで3話に渡る試合バトルを成立させてしまい、面白いアニメに仕上げてしまう崎枕の超力技の演出を見ると、「そりゃ、脚本家不在でもいいわ・・・」って思ってしまうという!
演出力!
- リアルなボクシング描写と、劇的な演出
では、脚本を極限まで削っていたとしたら、何があるかというと、演出による出崎統入射光照明やカメラワーク(このころはまだ3回パンや画面分割はない。代わりにカメラの回転運動が多い)。そして、リアルなボクシング動画である。
本当に、スピード感というか、ボクシングのパンチのリズムやフットワークが、実際のボクシング中継を見ているかのように描かれていて素晴らしい。しかも、テレビ放送されている試合なので、実際にテレビを通して放送された場面もメタ的に描写されている。カメラワークも、実際のテレビ中継用カメラが撮影したかのような距離感や切り替えのタイミングを行っている。
ウルフ金串のダブルクロスやジョーのトリプルクロスをテレビカメラのビデオのコマ送り再生で、ラウンドの間に確認するというのも、原作でもあった描写だが、アニメでやると、より実際の試合ッぽい感じになってリアル。
だが、単にリアル中継を再現しただけではなく、ここぞというパンチでは、主観的にカメラがアップに寄ったり、ジョーが倒れるかウルフにパンチが当たったかどうか、不明瞭にして興味をそそるトリミング(画面の切り取り方)をしている。
この主観と客観、カメラの距離感のリズムの緩急が、視聴者心をくすぐるんだよなー。
それと、ジョーはものすごい打たれ強さで、何度も何度もウルフのダブルクロスを喰らって倒れ、最後にダブルクロスを喰らった瞬間にトリプルクロスカウンターを繰り出して勝つのだが。
3回目くらいのダウンでは「2回もダブルクロスを喰らったので、そろそろジョーも見切れるようになって、今回倒れるのはウルフの方だろう」って思うのに、やっぱりジョーが倒れるのがショッキングで、勝つって分かっててもハラハラした。このしつこさはすごい。
しかも、何度ダウンしてもジョーはほとんどしゃべらないで、ノーリアクションでひたすら戦うだけ。だから見てる方は不安と興味をかきたてられる。本当に出崎統は演出が上手い。
そして、最後のトリプルクロスも最後までどっちが勝ったか判らないように、引くのが上手い。
ウルフが倒れる時、ものすごくスローモーションになるんだよな。あー、出崎統は時間の魔術師だわ。やっぱり、3回パンとか以前に、時間とカメラの向きとレイアウトを操作するっていう絵コンテの基本こそが出崎統の演出だ。マジ上手い。
- 敵”キャラ”ではない、人間としてのウルフ金串
だが、技巧的なだけではないのがやはり、出崎統。
原作漫画だと、ウルフはただの敵役で、倒したら倒しっぱなし。それどころか、ウルフを倒した後にジョーは新聞記者にトリプルクロスの戦法を簡単に喋るし、ウルフが顎を砕かれて再起不能になった事も新聞の記事がチラッと一コマだけ書いてあるだけ。漫画原作のウルフは、あくまでジョーを引きたてるだけの敵”キャラ”なのだ。手塚イズ・デッド。
1960年代の作品なのに・・・。既に消費される敵キャラ。
だが、アニメ版は違う。戦法の説明などはしない。
ジョーはウルフが再起不能になったという事を、試合の後の楽しい旅行に向かうバスの中でラジオで聞く。40話。
そのまま、再起不能になったウルフを見舞い、そのジムの大高会長に詫びを入れに行く。喧嘩ではないが、ボクシング業界の仁義を通しにいく。楽しい旅行から、自分が暴力をふるった相手を見舞うというこの不幸の落差!
だが、ウルフは、もうそこにはいなかった。大高会長に捨てられたのだ。それを知って、虚空に消えて行くコート姿のウルフの幻影を見るジョー。そのウルフの表情は、ジョーに怒ったり怯えたり、子供を殴った悪人の物ではない。あくまで、ジョーと正々堂々、技の限りを尽くして戦ったテクニシャンのプロボクサー、ウルフ金串のものだ。もう、ジョーには怒りも恨みもない。戦いを通じてジョーはウルフを許したのだ。だが、そのウルフはいなくなった。
それが、人間的だ。悲しいな。切ないな。
消費されるキャラではなく、特別な一人だけのキャラクター、人間として描かれている。それが出崎統。
そして、それがボクシングの厳しさと切なさ、ジョーや力石がやがてたどる不幸の暗示、それでも戦うというテーマ性への方向性になっている。ちょっとしたオリジナルシーンを加えるだけで、原作全てのテーマをまとめてしまう雰囲気作りが上手いぞ、出崎統。
だが、ウルフを捨てた大高会長をドヤ街連中が懲らしめるのは、ちょっとマンガっぽ過ぎるオリジナルシーンだね。だけど、そういうお笑いシーンを入れなければ陰鬱なドラマになってしまうっていうバランス感覚もあるんだろうね。ギャグとしては古臭いセンスなんだけど。
- 狼になれなかったウルフ
ウルフ金串というキャラクターを通じて、原作にはないテーマを出崎統は加えたように思える。それは、主題歌にもある物。
「親のある奴は、クニへ帰れ。俺と来るやつは狼だ」
脱落したウルフは狼になれなかった。試合の後、ジョーが大高会長に怒ったように、試合に負けたウルフは犬っころのように捨てられた。狼にはなれなかった。ここでの狼とは、人に飼われる犬ではなく、あくまで自分の力で戦いぬいて自由を勝ち取る獣の事。
ウルフはリングネームこそ狼だったが、犬だった。初登場の時から、緊張してトイレに行ったりジョーの挑発に引っかかるような小物だった。ジョーのノーガード戦法の破竹の快進撃に怯えたりもした。試合前に牙をむいて狼になった時も、それは大高会長にダブルクロスというクロスカウンター封じを教えられたからだ。あくまで飼い主の力によるもの。そして、その権力を笠に着て、ジョーの舎弟の子供たちを殴って大けがをさせた。弱い者いじめをする犬。
試合中も、ジョーが不気味な痣だらけで現れたり、ちょっとラッシュをすると、すぐにセコンドの大高会長を頼ったり、不安そうな目を向けた。そして、ジョーが押し負けると調子に乗った。そして負けた。負けて捨てられた。犬だ。
ジョーは違う。ジョーはおっつぁんを頼っていない。依存していない。二人三脚。むしろ、力石を倒したい一心で、おっつぁんを利用し、おっつぁんもジョーをボクサーにして自分がボクシングクラブ会長になるという夢のために利用するという、互いに食いあう狼の関係。
ウルフと戦う時のジョーは、おっつぁんに「おっつぁんは何にもコーチしてくれねえじゃねえか。まあ、今度は俺が自分で売った喧嘩だけどよ・・・」とか言って、おっつぁんは「すまねえ、ジョー。ワシのようなダメな会長のせいでお前の才能が埋もれるかもしれん」とか言う。全然ジョーは犬じゃない。
だけど、ジョーはその後おっつぁんに「そんなにおちこむなよ、すまねえ・・・」とか人間的な台詞を言う。やはり、人間対人間だ。これが感動ポイント。ジョーとおっつぁんのこのやり取りは原作にもあるが、アニメではウルフも一人の人間として扱っている。
ウルフはジョーと違って依存的な奴で、狼に成り切れずに敗れたが、それでもジョーはそんな奴でも拳を交えたら人間として気になってしまう。そこが感動。
そしてジョー2の借金をするウルフに繋がる・・・。出崎統は原作を改変しまくりだけど、原作以上に人間らしい膨らみを出してて、本当にいいよ。
- 余談。超解説役力石徹
ドラゴンボールだと、解説役は味方のちょっと弱くて暇なキャラクター(飲茶とか、ピッコロとかベジータ)が驚いたりしつつ務める物だが。台詞が少ないジョーや段平に代わって、ウルフ編では力石が試合の解説をしていて、それは良いバランス。
白木葉子が素人っぽくて若干矢吹に嫌みな意見を述べて、それを力石が訂正したり先読みをしたりする。
そして、力石さんの言う事なら信頼できるなーって思うし、その通りになるからやっぱり力石さんすげーってなって、力石がすごいかっこいい。
その上、ジョーが負けそうになると力石はリングサイドまで行ってジョーに声をかけて叫んで立たせる。
そして、ジョーがウルフに勝った事で力石は原作にはない涙を流して喜ぶ。その涙が、続く力石戦への上手いつなぎになっていて、スムーズ!
しかも単なる繋ぎではなく、全体のテーマ、ジョーと力石の生きざまに関わるものにもなっている。ああ、いいなあ。やっぱり出崎統アニメいいなあ。
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