普段、僕は演出や照明効果のチープさや昨今の役者の芝居の顔芸などの誇張表現が見るに堪えないので実写はスーパーヒーロータイムしか見ない。(スーパー戦隊と仮面ライダーは役者が若手で未熟でもスーツアクターやゲストが熟練だったり、爆薬の派手さや着ぐるみのデザインで誤魔化したり、何より全体的に嘘くさくて子供向けにわかりやすく単純、というかハッキリとビビッドな世界観なので(異論は認める)、逆説的に芝居としての質の低さは目立たない)
というわけだが、ジャンプ漫画も新人養成の感があり、下手な漫画も多く、最近はチェンソーマンと推しの子ていどしか読んでいないのだが、ジョジョの奇妙な冒険は好きなのでジョジョリオンの序盤まで読んだ。
(京都国際マンガミュージアムに障害者手帳で入れるのだが、新刊の入荷が遅れており、今度顔を出した後にも入っていなかったらまとめ買いする予定)
と、前ふた段落で書いたようにケチでオタクで偏屈な僕なので、岸辺露伴シリーズは気に入っていて、単行本を珍しく新刊で買っている。
そういうわけであるので、今晩NHK総合で放送された「岸辺露伴は動かない第5話背中の正面」(第4部ダイヤモンドは砕けない「チープ・トリック」の回)を見た。
タイトルに書いたとおりで乙雅三兼チープ・トリックを演じた市川猿之助さんがまさに歌舞伎役者らしい型、所作、ルールを表現しており、ストーリーと演出も「ルール」という主題で一気通貫しており、非常に面白く、スッキリと見れた。
- 古典としてのジョジョの奇妙な冒険
このドラマ版第2弾の報を受けて、Twitterで冗談半分に「岸辺露伴は動かないシリーズは忠臣蔵の代わりに年末の定番になるのかな」などと書いたのだが。
あながち冗談だけというわけでもない。
というのも、忠臣蔵などの歌舞伎の十八番だったり落語の定番だったり、そして原作付きアニメだったり、ガンダムの劇場版というのは「話の筋とオチはみんなだいたい知ってる」という共通項があり、わかりきっている話である。ジョジョの奇妙な冒険も多くのゲームやアニメで様々な声優が演じたりしており、古典とも言える。
ではそれを舞台の再演だったりゲームだったりアニメだったり、実写ドラマだったりで新しく演じるに当たっては、ストーリーは大体わかってるので、メディアの違いによる演出や展開の小技だったり、芝居そのものの面白さが観客の興味の中心になる。そういう古典の位置に漫画が収まっているという現在の状況には、オタクとしては面白さを感じるが。
脚本の小林靖子さんはアニメも特撮も両方書ける両刀脚本家である。(僕は現代ドラマは傷だらけの天使と太陽にほえろ第2部までと探偵物語と怪奇大作戦くらいしか見ないので小林靖子さんが今回の岸辺露伴シリーズのように現代ドラマを書いたという話は聞かないのだが)
- 市川猿之助のチープ・トリック
チープ・トリックというのは原作のジョジョの奇妙な冒険に登場したスタンド(ドラマ版だけを見た人にわかるように言うと今回登場した怪異であり、原作漫画では岸辺露伴のギフトであるヘブンズ・ドアーと等格の超常現象)の名前であるが。なので、今回のドラマにはチープ・トリックという名前は出てこない。
しかし、これは悪口だと思われると心外なのだが、今回のドラマの演出も、まあ、チープなトリックだったな。岸辺露伴が乙雅三の背中を見るために使った見え見えの糸とか、背中を見せないための滑稽な行動や、原作では岸辺露伴と深い因縁がある黄泉平坂の雑な情報提供とか、枝葉の部分はかなりチープだ。
言ってしまえば、ラストの黄泉の国の腕の集団もホラー映画の定番の型通りの手垢がついた見慣れた表現だ。(そして、岸辺露伴自身もそういう奇妙な場所がどこにでもあるし、民話や伝承のお約束のルールの中にそれが残されていると思っている)
そういう型通りの、見慣れた、オチもわかりきっている、あんまりCGとかで派手にしているわけでもない芝居を面白く見させるのが、まさに芝居の面白さなんだなあと。
僕は金がないので歌舞伎は学生時代に南座で2,3回見た程度であるが。(テレビの歌舞伎の放送は定点カメラだからか、あんまり面白くない)
市川猿之助さんの滑稽で哀れな乙雅三から怨霊に転じて、さらにもっと大きな怪異に飲まれる、というのも歌舞伎というか幽霊や神がよく出る能?の定番の型を使っているようで、なるほどという納得感があった。
割と歌舞伎では兼役があったりして、前半に脇役をしていた役者が後半の怨霊や重要人物に化けたりする。そういう点でも歌舞伎役者をうまく使ったなあと。
シーンによっては岸辺露伴の背中の怨霊がカメラに映っていなかったり、声だけだったりして、わりといたりいなかったりするのだが、市川猿之助さんの演じる延々と目的行動だけをする怪異の怪演の説得力があるので、見えていなくても岸辺露伴に取り憑いているという存在感が見えて流石だなあと。もちろん、背負っている風の高橋一生さんの演技も流石である。
↑市川猿之助さん起用について。
いたりいなかったり、目に見えたり見えなかったりするものを、存在するかのように演じるというのは、パントマイムなどにも通じる、演劇の演劇らしさで、目に見えるものをCGなどで派手に描くテレビや映画などの映像作品とはまた違ったアプローチの演出である。今回はその歌舞伎役者という舞台演劇の型、強固なルールの存在感が、まさにスタンドとか怨霊などの普段は目に見えないけど居る、何か人間とは別の法則で動く何者かを表現していて上手かった。
- ルールという型
乙雅三の背中を見せてはいけないというルール、怨霊の岸辺露伴から六壁坂を返せと言うルール、黄泉比良坂のルール。
これは単純に映像作品としてみると本当にチープ・トリックだし、おっさんがお兄さんの背中にへばりついているという下らない絵なのだが。
下らない絵を真剣に命がけの戦いのように見せる芝居が面白かった。歌舞伎の型と言うか、ひたすら己のルールにのみしたがって行動する怨霊(ジョジョ的に言えば自動操縦型スタンド)の単純さ故の純粋な怪異としての強度が見えて迫力があった。
そしてそれがルール故に更に大きなルールに敗れるという展開も非常に筋が通っているし、怪異と違って自分の意志でルールを破ったり策に使う岸辺露伴の人間讃歌(ジョジョのテーマ)になっている。解決法は原作通りではあるのだが。
と、同時にもっと視点を引いたメタ的に言えば、これはジョジョの奇妙な冒険の映像作品というルールもキャンバスの下地になっていて、奇抜なファッションとか高橋一生さんの声の張り方も「ジョジョの奇妙な冒険のドラマらしい感じ」になっている。そういう二重トリックは結構好きだったりする。(普通の演技でやると、多分もっとチープなコントに見えるだろう)
- ドラマ版の怪異の描き方
原作のチープ・トリックは第4部のボスの吉良吉影を守るために、吉良吉影を追っていた岸辺露伴に対して放たれた刺客だったのだが。
今回のドラマでは三連作の筋を六壁坂の怪異ということにして、第5話の怨霊は六壁坂にまつわる怪異の一部ということになった。
実は、僕は前夜の「ザ・ラン」のドラマ版のラストシーンは少し不満だった。原作では橋本陽馬とのランニング勝負を切り抜けた岸辺露伴が、「この場はただ……逃げるしかない(ザ・ラン)」と逃走するところで終わるのだが。原作の橋本陽馬はまだどこかに潜んでいるかもしれないという恐怖感を残したラストだった。(読み切りで回想譚だからできるテクニックである)
ドラマ版の橋本陽馬はジムのあるビルから落下して人間としては死亡したが、岸辺露伴に怨嗟の声だけを伝える怪異のようなものになっているっぽい。ドラマ版では彼も六壁坂にまつわる怪異にとりつかれ変質したものというアレンジになっている。なので、漫画版にあった「一刻も早く逃げなくては」という筋肉キャラクターとして生存して実存しているだろう80年代のジョジョ第二部の柱の男たちみたいなマッチョな橋本陽馬への恐怖感とかアクション性がドラマ版では減じられている。
なのだが、今回の「背中の正面」を見ると、「六壁坂の怪異によって変質したもの」の前フリとして橋本陽馬は機能していたし、橋本陽馬の異常な筋肉や殺害のアクション性のビジュアルがドラマでは減らされていたのにも合点がいった。
ジョジョの奇妙な冒険のエポックメイキングな点としては「超能力のビジュアル化」としてのスタンドの発明が多く挙げられるのだが、今回のドラマでは「スタンドや怪異(橋本陽馬のヘルメス神の翼のような異常な筋肉など)をビジュアルとしては描かない(殺人シーンなど激しいアクションもボカす)」というふうに、ジョジョ本編とは逆のアプローチとして同じ話を描いている。(まあ、原作漫画の岸辺露伴は動かない自体もほとんどヘブンズ・ドアー以外のスタンドは出ないが)
第5話の「背中の正面」でもビジュアルとしてはチープ・トリックも髪の色がちょっと変な程度だし、黄泉の者たちも典型的なホラーの記号でそれほど奇抜ではない。(その道の番人のような幽霊の杉本鈴美という個性もいないし)
しかし、逆のアプローチだからこそ、紙に描かれた読み切り漫画と俳優が演じる3連作テレビドラマのメディアの違いを自覚的に演出プランに組み込んでいる脚本から演出、演技の一貫した「ルールの強さ」を感じることができて、単に映像化しただけではない、名作を演劇にする際の翻案、再演としての価値があるのだなあと感じ入ったわけ。
(お月見の話とかマナーの話とか原作漫画にはルールを破ることのホラーを描いた話もある)
- ルールの強さ
僕の好きな富野由悠季監督というアニメ作家も映像の原則という教則本を書くし、荒木飛呂彦先生のスティール・ボール・ランでは「回転の法則」が一つの軸だった。
僕はそういう一本通ったネタや演出プランが仕込んである作品を好むようだ。
それで、今回の岸辺露伴は動かないドラマ版第五話では歌舞伎役者という型のルールを体に染み込ませた演者が入ることで、さらに怪異譚としてのルールが強固になり、連作劇としても骨子の形が見えてきた。(FGOの虞美人水着イベントでも描かれたけど、ホラーには法則があり、それこそが怪異の強さなのだ)
あと20時間ほどで放送される第六話の感想を書くかはよくわからないというか、実は忘年会の誘いを受けているので録画で見るつもりなのだが。(そして、現在午前2時だが、寝る前に電池少女の最終回を見ないと録画のハードディスクが満杯なので六壁坂が録画できないのだが)
まあ、録画がパンパンでソシャゲも数を広げすぎてやり込めてないのに、こういう単発感想ブログを書く程度には今回の岸辺露伴は動かないは面白かった。まあ、強固なルールにはパワーが有るって、それだけの話なんだけど。伝統に敬意を払えっ!
(僕自身も面白いものを見て、面白いとブログに書き残さないと現世に留まる理由を失って、重度のうつ病か希死念慮で死ぬという法則で生きている。面白くない人生に価値はない)
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