創作幻視小説版「夢兄妹寝物語」　2003年5月　第5話　[ナース演じ得る　姫草ローラ　地獄]

小説全ジャンル制覇を目指して、一日一ジャンル。今回は医療モノです。

　サクリ・とろとろ・くるっぱ・サッサ・ギコギコ・じっくり・ことこと・ぺこっ・うにょ・ぐぬぬ・くぱぁ・どくんどくん・ずぞぞぞぞ・むりっむりり・パチンパチン・サクサク・ちょきんちょきん・べっとり・あせあせ・ぶぶふ・ピーピー・ごぼりぼ・げっげっげ・そそくさ・ざっくり・するする・ベッチャ・ボトリ・ぶりゅりゅ・ぺたぺた・チクチク・うにうに・じゅるじゅる・めっちょり・ぬとー・ぎょりりん・ぎゅっぎゅっぎゅ・ぱっちんぱっちんガシンガシンぱっちんぱっちんガシンガシン・吸って吐くのが深呼吸吸って吐くのが深呼吸・術式終わり

　てな感じで、中川外科部長の執刀する脳腫瘍除去手術は恙無（つつがな）く終わった。鹿賀丈史似。
姫草「ハーイ、みなさん！おつかれさまでしたー♥」
　真夜中過ぎ、長時間に及んだ手術にもかかわらず、姫草ローラの声がはじけ、手術室に満ちた血の臭いが薔薇の芳香であるかのように雰囲気を変えた。
　その声で、執刀によって昂ぶっていた中川医師の神経も一息つくことができた。姫草ローラという看護婦は患者だけでなく執刀医たちも元気つけてくれる存在だな、と中川医師は手術のたびに思う。隣に彼女がいるだけで、以前よりもずっと上手く手術ができるようになった気がする。中年男性が、まるで美少女マネージャーの前で張り切る中学生のようだな、と自嘲する気分も無いではないが、それを仕事のモチベーションに生かすのも医者としての甲斐性であろう。
　他府県の看護学校から来た上に、ハーフとのことで豊かな金髪を蓄えたローラの美貌は第一印象では彼女を周囲から浮き上がらせたが、むしろ圧倒的な美しさで周囲の空気を支配した。支配した上で、その溌剌とした性格と、誰にでも合わせることの出来る言動で、周りの人々を快くさせる才能をも有していた。
　それに、姫草ローラは若い娘として魅力的なだけで無く、老成の看護婦でも滅多に持ち合わせていない手術者の意図に対する敏感さと手練の鮮やかさでもって、執刀を補佐する能力があった。開頭手術で執刀医の隣のポジションに立つという緊張を強いられる仕事であっても、むしろ姫草ローラはそれを嬉々として、ドンドン断行していく胆力を発揮しているのだ。

姫草「はい。ジュースですわ」
　姫草がプラスチックパック入りのアイソトニック飲料を血漿などの入った冷蔵庫から、汗を拭き終わった中川医師に差し出した。
中川「ああ、ありがとう。君は若いね。いや、いつもスゴイ集中力だ」
姫草「アラ先生、私も毎回、先生から勉強させてもらえるので、張りきっているのですワ？」
中川「はっはっ。そうだ、もっと勉強したいなら、反省会の後の食事につきあってもらえるかな。この時間でも開いている所に案内しよう」
姫草「先生もお若いんですのね」
中川「家内を起こさないように気を使う家に帰るよりはね、泊まりと言った方がいいんだ」
姫草「お誘いは嬉しいのですけど、明日はシフトを変えて千葉先生の会に出ることにしたんです。ですから、今日はこのまま帰らせていただきますわ」
中川「ああ、千葉君のね。あれは、遊戯会だろう？」
姫草「フフ、長期の方もいらっしゃいますからね。雰囲気つくりもたいせつなお仕事と考えておりますワ」
中川「熱心な事だな」
姫草「では、先生、ごきげんよう」
　にっこりと会釈した姫草ローラは、女子更衣室の方へ向い別れた。角を曲がった向こうから、他の看護婦がローラをからかうような笑い声がして、続けて発せられたローラの笑いとの響きが、柔らかく深夜の廊下を包んだ。

Jack　IN

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2003/04/26

Jack　Out

　翌日、午前、画用紙の星や折り紙の鎖で飾り付けをされた入院病棟のホールには、車椅子やベッドに乗った脳神経外科入院患者が集まっていた。ほとんどが老人で重篤な脳障害を持つ者もおり、頭令倶雫も出席していた。もちろん、頭令そらと宍戸隷侍もおとなしく付き添って長椅子に腰かけていた。

Dr.千葉「やーやー。姫草さん。どーもどーも。どーしても今日じゃないとホールが使えないそうだったから」
　今回の催しを企画したチビデブ眼鏡のDr.千葉が、すらりとした金髪ハーフ美少女看護婦の姫草ローラにペコペコと頭を下げて、顔を緩ませながら握手をするのは可愛らしい光景であろう。彼の丸い指を、さらに柔らかく、それでいてたおやかな指でふんわりと握り返した姫草ローラも絶世の微笑を返す。
姫草「いいえ、私も先生のおっしゃる事には興味がありましたし。お手伝いしたかったんですの」
千葉「そうかね。やーありがとう。姫草さんのおかげで準備がはかどったし、それにあなたがいると、、、ゴホン！場が華やぐというか、いやハハハハ。失敬失敬」
姫草「そろそろ、始めませんか？せんせい？」
　機材の設置の手伝いをしていた看護婦から含み笑いが漏れたが、興奮している千葉医師は気付かない。
千葉「えー。はい。本日の催しに多くの出席をいただき、まことにありがとうございます。えー、まず始めに、本日の主役を紹介したいと思います。頭令そらちゃんです！」
そら「私の名前は頭令そらです。11歳です」
　出席した患者の多くは認知症や運動障害で、意識の無い者もあったので、盛り上がりに欠ける会場である。付き添いにきていた家族と看護士からまばらな拍手があった。
千葉「ご存知のとおり、そらちゃん自身もかつてはこちらの脳神経外科にかかっていた患者でありました。そしてまた、未だに眠りつづけているお兄さんを毎日見舞っている子でもあります。
　えー、先日、この、そらちゃんがお兄さんを車椅子で散歩させながら歌を口ずさんでおりました。そこで、偶然、いえまあ、同じ病棟ですから偶然って言うわけじゃないんですが、そらちゃんが通りがかった時に、同じく長期入院をしてらっしゃる富永さんがですね、若干反応したわけなんですな。
　えー、それでそのー、自閉症から回復したそらちゃんの歌がみなさんにも有効なのではないかと思いましたし、えー。それでなくともそらちゃんの歌に癒されたなーという皆さんの声もですね、多かったわけですので、今後もこのような会を開いていければよいのではないかなーと言う訳です。
　そもそも、音楽療法の歴史はですね、」
姫草「はい、それではそらちゃんに歌っていただきましょうー！」
どっ！わははははは

　話べたなわりに長いDr.千葉のセリフを遮って、姫草ローラが頭令そらにマイクを渡す。
姫草「そらちゃん、配置は完璧よ。思う存分歌いましょう」
そら「ええ、姫姉さん」
　並べば、まるで本当の姉妹のように相似形美形の二人だが、さにあらん、どちらも正体は頭令そら。
　前者の姫草ローラは、頭令そらが６番目のしもべ『クロムのロザリオ』の作るホログラムフィールドと合体し変態した魔法のナース。後者の頭令そらは3番目のしもべ『ミミコ』がダッチワイフである胴体部分の膨らみをそらの身長に合わせて、顔をホログラムで加工した影武者。この瞬間の30ミリセカンド*1で入れ替わったのだ。
　今日は、どうしても姫草ローラとして脳波測定器のデータを取っておきたかったので、設置を手伝っていたのだ。それに自分の歌でお兄ちゃんを目ざめさせるのなら、音響効果も完璧にしておきたかったっていうわけ。
　その割に、音源は自分編集のカセットテープだったりする。

そら「♪SUBMARINE STREET!! 　　http://music.goo.ne.jp/lyric/LYRUTND38745/index.html　　!!!!　　♪I was born to love you!http://www.utamap.com/showkasi.php?surl=58645　　!!!!!」
　そのあと、そらは全力の金切り声で8曲連続で歌ったので、もはや少女によるなごやかな老人慰問という雰囲気ではない阿鼻叫喚となった。
　だが、歌うそらの熱狂、つまり、前思春期公開エクスタシーは聞くものの自我に容赦なく突き刺さった。結果、痴呆症の老人の知能指数が平均5ポイント向上し、いざりは足を震わせ、おしは呻き、昏睡者は目をしばたたかせ、記憶をフラッシュバックした。その小さな奇蹟に、居合わせた誰もが驚喜した。
　だが、頭令倶雫は何の変化も示さなかった。脳波測定器は平坦なまま、レイの宇宙的スキャニングでも全く検知できなかった。
そら「なによ、それ……」
Dr.千葉「すごい！そらちゃん、すごい歌エネルギーだ！すばらしい！」
そら「あ、あ、あの、先生。私、つかれちゃったから、えっと。帰る」
Ｄr.千葉「えっ、ちょっま、ええーっ」

　脱兎駆け出したそら、駐車場に倒れこみ、掠れた声でオイオイ泣いた。
姫草ロミ*2「そら様。その場所は交通事故に遭う危険性が高いと推測しました。ご帰宅されるならば、」
「うっさいわねっ！ロミッ！あたし、すっごく馬鹿みたい。バカバカバカみたいに歌って、なんなのヨッいつもいつもお兄ちゃんワッ！うううううううううううううううううううっ」
　ガバリ、上体を起こして、追って来たロミにワンワン泣きなじる、そら。そこへ、先の話に登った富永さんの奥さんが姫草さんを追って来た。この人の夫も20年前の事故から全身不随になっているという人だ。
富永「そらちゃん、今日は本当にありがとうね」
そら「あ、あ・・・いや、どういたしまして」
　このおばあさんは、そらにみかんをくれた事があったので、そらはそれなりに悪感情が薄かった。だから、そらもパッと立ち上がって、姿勢をよくして、ごあいさつ。

富永「最近、そらちゃんが隣で歌ってくれたおかげで、おじいさんはね、ちょっと指が動かせるようになったんだよ。本当に本当にありがとうございます」
　頭を下げた富永の奥さんは嬉しそうで、それでもそらがガッカリしている事も分かっていた。そらはだからどうしたと思った。
そら「いえ、私も歌う事が好きですから。楽しかったです」
　いくら楽しくても、お兄ちゃんが目を覚まさなかったら何にもならないけど。そう頭の中で付け加えて、とりあえずバイクの置いてある方へ歩き始めた。富永の奥さんも一緒に歩きながら話を続けた。
富永「そらちゃんのお兄さんもね、きっとそらちゃんの歌を聞いてるはずだよ。うちのおじいさんも、動いてるのに気付くのに、何日もかかったんだから、見えないだけ」
そら「でも、私はおばあさんになりたくない」
　うつむいて、口から漏れてしまった。
富永「そうだねえ。ごめんねえ」
そら「あ、はい。じゃ、私、もう行きます」
ロミ「･･･････｡初音ミクが歌う「アヴェ・マリア」 06.シューベルト v1.0 ‐ ニコニコ動画:GINZA」
　だしぬけにロミがアヴェ・マリアの出だしを口ずさんだ。

そら「なに？」
ロミ「そらちゃん、は、うたうことが、たのしい、？」
　宇宙人は一生懸命考えて姫草ローラのときのそらに見えるように芝居をして、声をかけた。
そら「楽しかったわよ。それはさっきも言った」
ロミ「私、見た。聞いている人も、そらちゃんが、楽しそうだと、分かった。だから、よくなった」
富永「私もそう思ったよ。そらちゃんは元気な子だから、お兄さんの目が覚めるまで、ちゃんと元気で居れるわよね。元気でないと、ずっと待ってるなんて出来ないものね」
そら「･･････そうですね。うん。そうだ。」
　そこへ、兄を乗せた生命維持装置つきの車椅子を押して、宍戸隷司が現れた。
レイ「そら様。グダ様をイの1号室に送還しますか？本日の音楽療法は修了ですか？」
そら「いや、辞めない。私はお兄ちゃんの前でいつもずっと、楽しく遊ぶの」
レイ「しかし、他の患者は元の場所に戻り、飾りも撤去されております」
そら「あれはおっさんが勝手にやってた事でしょ。私はやりたいと思った事はいつだってするのっ。だって私は元気なんだから！」
レイ「了解しました」
そら「あんたも、たまには歌いなさいよ」
レイ「･･･････決定事項ですか？」

そら「あたしとお兄ちゃんとレイと姫姉さんで歌うのヨ！さんはい！(MAD)破邪大星ダンガイオー OP 【Cross Fight】 ‐ ニコニコ動画:GINZA　!!!」
　そらはいきなりテレビのまんがの歌を歌いだした。宇宙人も一生懸命頑張って、完璧にネットワークから再生した。美少女と看護婦と老人が、手を繋いで車椅子の上の植物人間の回りを歌い、踊った。高らかな歌声は病院の敷地から、その外の道路や川を越えて響き渡った。

富永「お爺さんにも聞かせてあげましょうかねえ」
千葉「そうですなあ。やはり少女は伸び伸びと好きな時に歌うのが良いという事ですか」

　ということがあったのだが、それからもそらはやりたい時にやりたいように歌い、病院の名物美少女としての韻度を高めていったのだった。

幻視小説「夢兄妹寝物語」全目次 - 玖足手帖-アニメ&創作-

幻視小説版「夢兄妹寝物語」 2003年4月第4話 [そらに響く歌声] - 玖足手帖-アニメ&創作-

創作幻視小説版「夢兄妹寝物語」 2003年6月第6話 [ファーストキス強姦殺人事件] - 玖足手帖-アニメ&創作-

次回予告

　母親の裏切りによって
　心に深い傷を負ったそら。
　キモヲタはそんなそらを慰めるが
　状況は悪化し、
　キモヲタは部屋に閉じこもってしまう。
　そんな中、キモヲタの前に
　母親が現れ、衝撃の展開を迎える！

　次回、新時代そら。
　「ファーストキス強姦殺人事件」
　そして伝説は繰り返す…

http://kairuna.hp.infoseek.co.jp/Ikinari.html
（こちらをやや改変しました）

今回の出演は

頭令そら（ZURYOU　Sora）（11歳）

1年目のそら
女主人公。妹。
主人公だが、妹なので、この世で唯一の同族である実の兄に恋をしている。兄を攻略するために生きている美少女。性格破綻常識欠落。しかし知能と容姿と魂が異常に優れている。
声は馬鹿でかい。
エリア0〜エリア7までの奴隷宇宙人国家群を使役する女帝でも在る。
最強。

魔法のナース　姫草ローラ（HIMEKUSA　Ro-ra）（永遠の見た目18歳。対外的には23歳）

ナース演じ得るリリカルな嘘吐き少女。
しかしてその実体はそらが兄を蘇生させるための医療技術を学ぶ目的で、6番目のしもべ・クロムのロザリオの空中元素固定装置で変態した姿。勤続4年目。
ロザリオとそらの合体なので、ローラ。安直でーす。
宇宙的チート医療技術で、医療ミスをなかった事にするぜ！どんな患者でも絶対に死なさないので安心して色んな実験ができるぞ。そのため、急速に知識と技能を伸ばし、周囲からは最優秀ナースと慕われている。
だが、兄との時間を作るためにパートタイムで働いている。周囲には実家の診療所を手伝いながらの修行だといってある。
詳しくは夢野久作・少女地獄を参照の事。そらは夢に関する書物をたくさん読んでる。
http://www.aozora.gr.jp/cards/000096/card935.html