玖足手帖-アニメブログ-

富野由悠季監督、出崎統監督、ガンダム作品を中心に、アニメ感想を書くブログです。

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響け!ユーフォニアム第11話 「映像の原則」による勝負と心情の演出解析

第十一回 おかえりオーディション 脚本:花田十輝 絵コンテ:雪村愛
私は富野由悠季監督の映像の原則が好きだ。絵コンテやキャラクターの位置関係で強弱や関係性が明瞭に説明がつく感じなのが分かりやすくて好きだ。
そして、響け!ユーフォニアム第11話も映像の原則がかなりはっきり作用していて楽しめた。
何を表現しているのかと言えば、高坂麗奈と中世古香織のトランペットの技量の差と、吉川優子がいい子だったり悪い子だったりして、黄前久美子の立場だったり。また、強く表現されているのは中世古香織先輩の聖女ぶり。
前回はカメラのピントについて書いたが、構図について見ていきたい。




落ちるアクシズ、右から見るか?左から見るか?<『逆襲のシャア』にみる『映像の原則』>
こちらのHIGHLAND VIEWさんの画像がとてもはっきりと映像の原則の要素をまとめているので、今回も使わせてもらう。


まず前回のおさらい。中世古香織はニュートラルポジション。




吉川優子が「下位」から登場することで中世古香織が優子よりは「上手い」と表現。




しかし優子の「思い」は香織の気持ちを追い越して「上手」に行ってしまっていて、ちょっと思いが重い。



香織目線の優子はニュートラルポジションで可愛い子だけど、上手の光と下手の影という二面性の暗示もある。

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  • 序盤、演奏の上手さの順位付け


久美子が高坂麗奈のいる場所に下手から歩いていくと、上手から優子がさえぎる。


が、下手に回り込んで「どう思う?この音、どう思う?」と、下手の「脅威」を強調して迫る。



久美子は上手の「強者」の位置である扉の向こうにいる光輝く麗奈の音を聞いて

「音大きいし綺麗だし、ソロに相応しいと思います!」と、上手の麗奈の力に押されるように言う。



「だよね…一年でこの音って…ずるいよね…反則だよ…」
負けを認めた感じで下手に去る。



で、久美子は麗奈の所に来るが麗奈の方が上手いので上手。




回想シーンでも麗奈の方が上手いので上手だが、下手から正論を言う香織先輩のことを「ちょっとやりにくくて苦手」とも感じる。また、香織先輩が自分よりうまい麗奈に向かって反撃しそうと言う暗示でもある。

  • 香織先輩とあすか先輩のシーン


香織先輩の方が上手だが、視線が下がっていてどことなく自信なさげに見える。香織先輩はあすかにどう見られているかを不安に思っている。


「高坂さんの方が良いってこと?」

と、下手のあすかに向かって聞くが、それを聞くのは不安。


ここで、あすかが移動して優位の位置に立って「本当に聞きたい?」と挑発する。目を閉じて聞きたくないという香織。やはり、香織は自分の方が負けていると実感するシーンを入れている。Aパートから実力差を暗示させる絵作りを入れることでクライマックスのオーディションに説得力を持たせる演出。

  • 優子の闇落ち


音楽室のシーンでは、まだ優子はニュートラルポジション。

しかし、麗奈を見て下手へ。




先輩から意地悪をされている去年の香織先輩の回想。



その香織先輩を見ていた去年の優子は上手側で、「輝く物」に照らされた純真無垢な少女のように映る。

スライドして現在の優子は下手側に移動し、陰りのある顔になる。




友人の夏紀が上手側から忠告するが。



「輝く物」から背を向ける優子。




下手から麗奈に迫る優子の悪意。



ただ、全くの悪人と言うわけでもなく愛情から出たことでもあるので、ここで中央ポジションになる。

選択を迫られて左右のどちらにも行く真ん中で麗奈。

第三者の久美子から見た構図でもある、という。



「わざと負けろって言うんですか?
そんなことしなくても、香織先輩が私より上手く吹けばいいんです」
上手のド正論。




過去の思い出を背負った優子は上手に迫ろうとする。ここで優子がドアップで煽り気味になって全体像がこぼれるのは、映像の原則84Pに書いてあるように主観的で欲望が溢れだしているという表現。思いの丈がフレームに収まらないくらい膨張している。


それに対して麗奈が

「私には関係ないことですよね!」
と押し切る。


押し切られるが、下手から「反抗」する。

「そうだけど…あなたには来年もある、再来年もある」
「香織先輩は最後なの。今年で最後なの」

情に訴えてイマジナリーライン越え!麗奈を揺さぶってくる。ここのイマジナリィライン越えはかなり禁じ手なんだけど、上手いのは教室の中央を後ろの窓から久美子が覗いていることで、麗奈と優子のイマジナリィラインは越えてるけど、久美子のイマジナリィラインの統一性は保たれている、という映像の原則119Pに書いてある二つ同時に発生するイマジナリィラインって言う技を使っている。



下手に回ってしまった麗奈の顔は写さない。また、久美子から見て「麗奈も優子先輩も怖いよー」って感じで隠れる。

  • 明けて、ホールでのオーディション


スタートポジションでは前日と逆で麗奈の方が下手で小さく見える。優子に言われたことを気にしている。




部長に言われても香織のところに行かないというあすかは上手で超然としている。



闇を抱えている優子から見ると、聖母のように上手側の香織先輩。ここでは演奏の技量ではなく善性で上手に立っている。

だが、優子が動いて、優子から香織先輩の方が小さく見えてしまう。ここで、「良い人なんだけど弱い」という印象がつけられる。

表情を殺して、表面的な応援しかできない優子は負けを悟る。

なので、泣く。

優子の思いの丈がまたフレームの外にこぼれだしているんだけど、それをフレームの外で夏紀が受け止める、って言う心情演出でもある。

  • 部長と香織




部長と香織のシーンでは香織が下手におかれていて、やはり弱く見える。

ここも主観的でフレームの枠から香織先輩の心情がこぼれるんだが、部長と視線を外しているので香織のあすかに対する「見透かされる」という気持ちは部長と共有するんじゃなくて香織が内にこもらせている。

内にこもったものを外に出すように、
「だから、あすかを驚かせたい。あすかの一歩先を行きたい」
と言う時に香織は部長より上手に行くし、下手から上手への上昇志向を見せる。が、さらに上手の空にはおそらくあすかのイメージを見てふさがれているので、やはり突き抜けないのだろうか?


  • 久美子と麗奈



演奏の技量的には麗奈の方が久美子よりも上手だけど、麗奈の顔に影が落ちて、ちょっと弱そう。それを久美子が説得する。

「誰にも流されちゃダメ!」中央ポジションで輝く久美子。また、久美子の方が下手に居るので、上手の麗奈に対して逆転する主人公の強い意志を示すという効果が強い。

それを受けて、同じ中央ポジションだが小さく暗く、
「今勝ったら私が悪者になる…」
説得の言い合いなので両方とも中央ポジション。選択がどっちに揺れるかハラハラする。
だが、久美子の中の麗奈のイメージは中央ポジションじゃなくて上手寄りで「特別になる」と宣言する強いもの。

久美子の顔は輝いているが、その光は祭りの夜に見た麗奈の力強い本来の輝きでもあるんだよね。


久美子の輝く顔に徐々に照らされる麗奈。久美子を通じて本来の自分の輝きを取り戻す。

「輝く場所」に踏み込む麗奈。

響け!ユーフォニアムのピントが映す音楽性のアニメ演出 - 玖足手帖-アニメブログ-
前項でも書いたが久美子の意志の狭い射程距離内に麗奈が入ってきて、意志を共有する。
「そばにいてくれる?裏切らない?」
「もし裏切ったら、殺していい」
「本気で殺すよ?」
「麗奈ならしかねない、それをわかった上で言ってる。だってこれは、愛の告白だから」
と、上手下手の位置関係と言うよりは同位置性、同一性を強調して、二人で一人と言うダブル主人公っぽさを出す。
久美子の意志の強さと、麗奈の演奏技術の高さの融合。

顔のアップで「フレームの外に気持ちがこぼれる」という表現を何度かやった後に、足元だけを映すことで「久美子と麗奈の気持ちは視聴者にも見えない密室の特別なもの」という感触を出す。二人は一人になるので、視聴者から隠されて秘密の愛を共有する関係になる。これは男女の恋愛と言うよりは自己愛の共有だと思う。




で、気力充実した麗奈は映像の原則が示すところの「上昇志向」「勝利、希望へ」の動きへと逆転する。「大丈夫」

そして、「最初っから負けるつもりなんて全くないから」と強者の顔。

  • オーディション開始


客席から見たら先輩の方が上手だけど、舞台上の関係では先輩の方が下手、という風に最初にカメラを逆にして印象付ける。だから麗奈が勝つことは強く印象付けられている。
ただし、演者本人の二人は中央の顔アップで上手下手の関係性を分断されてる。こういう真正面の構図で勝負の緊張感を出してる。




優子の方が先輩なので、久美子よりも上手。だが、久美子は一年生として逆転の意志を持っている。

  • オーディション 中世古香織


吹く前に、ちょっと緊張した唇が震えて、楽器のトランペットに対して香織は下手になっている。つまり、楽器に負けているという表現。

優子は香織先輩の味方だから上手の善性をイメージさせる位置に座っている。

だが、あすか先輩たち部員は下手側で香織の演奏の「敵」というイメージ。

ただ、最後には香織先輩も上向きの気持ちで演奏できたので決定的に下手と言うわけではない。


吹き終わった後に安心感と暖かさを感じさせる表情を見せて、優子も単なる意地悪な子ではないと見せているし、香織先輩も清純っぽい。香織先輩は麗奈を悩ませる対戦相手ではあったが、悪い人ではないと印象付けている。だから、次回以降は吹奏楽部の仲間として結束できるんだろうという予感。

  • オーディション 高坂麗奈


楽器に対して上手。トランペットを支配している。

楽器と一体になって。

舞台から真っ直ぐに客席に届けているように見せて、若干上手から下手への←方向の「圧倒的な力」を出してる。

香織先輩の演奏を聞く時の聴衆は立ちはだかる「敵」の位置だったが、麗奈の場合は「真っ直ぐ魅了される聴衆」として支配されている。

冷静な滝先生。

開眼するあすか。

香織先輩の時は久美子だけが応援してる感じだったが、若干カメラが引いて、サファイアと葉月も聞いてる。

優子は下手側に押されて弱くなる、と同時に優子も部隊の麗奈に引き寄せられてる、という表現。
確かに実際の音楽も音響スタッフが録音して演奏の巧拙に差がつけられているが、アニメは映像表現なので、映像としても聴衆を引き付ける演奏は麗奈の方だ、って絵で見せている。

  • オーディション結果


「中世古さんが良いと思う人」冷静な滝先生。

下手で負けてる香織先輩。他に対比物が無いので、自分で負けを認めたという内面的な構図。

逆に負けを認めずに上手側に立ちあがって拍手して抵抗する優子。煽り構図で意志の強さ。子どもっぽさでもある。

デカリボンの優子ちゃんのそういう行動は勝ち負けには影響しないけど香織先輩に優しさ温かさを伝える。



「では、高坂さんが良いと思う人」滝先生の構図は香織先輩の時と同じで冷静なのだが。高坂麗奈の足元を黄前久美子が支えているという構図になっている。優子と香織よりも近くて強い。

優子の拍手への対抗や反復でもあるし、主人公としての見せ場でもある。

葉月の拍手はオマケっぽいんだが、Tutti仲間としては久美子と麗奈の特別な二人として閉じた関係でもないというのは押さえておきたいのか。
で、結局拍手では決着がつかず。


「中世古さん、アナタがソロを吹きますか?」と、顧問の滝先生が選ばせる。



顧問、先輩、一年生と権力の順番で上手から下手に視線が流れる。それで、麗奈は演奏としては勝っていたけど、人間関係としては一番下手の位置で、もやもやとした顔になる。


それに対して先輩の
「吹かないです…吹けないです」

という俯瞰で押しつぶされそうだが上手で意志を振り絞って答える。
後の指揮者台などが境界のキリスト像のような音楽の神の前では嘘を付けないって言う感じの効果を出している。
「ソロは、高坂さんが吹くべきだと思います」と、天使の輪を髪の毛に付けて言う。香織先輩の聖女っぽさ。



で、分割構図で映された二人がワンカットに繋がることで、勝負はしたけど、この二人の間に気持ちが通じた!という感動が生まれる。


それで、香織先輩と麗奈の間に生まれた音楽家としての関係性は


かつて優子と香織先輩の間にもあったものなんだって言うことに気づかされて。



香織先輩の聖女ぶりが強調されて、悪い事をしていた優子も泣いて浄化される。浄化されるので優子が嫌われ役だという視聴者の意識も浄化される。その涙が部員全員に受け止められて、聖女の香織先輩の犠牲を以って吹奏楽部がまとまるのではないかと言う儀式になっている。


「高坂さん、アナタがソロです。中瀬古さんではなく、アナタがソロを吹く。良いですか?」


上手側に体はあるけど、顔はほとんど中央なので、公平なジャッジだとアピールする滝先生の構図。

ど真ん中で真っ直ぐ受け止める麗奈。



で、下手側から反抗して強い意志を張り続けていた久美子は、ここでイマジナリィラインを越えて上手アングルの隅っこで泣いて、ちょっと一安心する。肩の荷が下りて緊張の糸が切れて嬉し泣きに泣く。


そして、次の曲が始まるのです。

  • まとめ

響け!ユーフォニアム第11話「おかえりオーディション」は、絵コンテの力関係や、キャラクターの善悪や、視聴者に与える好き嫌いの印象をかなりロジカルに組み立てられているということが分かった。
まあ、アニメの絵コンテはどれもロジカルなんだが。
今回のユーフォニアム11話は音楽勝負とか部活内人間関係と言う目に見えにくいものを映像に起こすところでのロジックがとても分かりやすかったので、書いてみた。
他のアクションアニメ、例えばジョジョの奇妙な冒険 SC 47話 「DIOの世界 その3」も絵コンテ分析をしようと思えばできるんだが、バトルアニメはまた別のロジックがあるしかなり動くから疲れるので書かない。
(Gレコは信者補正で書いた)


みんなもアニメを見る時は構図や位置関係の力関係の置き方や変化を操る映像の原則を意識して見よう!
映像の原則 改訂版 (キネマ旬報ムック)