玖足手帖-アニメブログ-

富野由悠季監督、出崎統監督、ガンダム作品を中心に、アニメ感想を書くブログです。

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ベルリの殺人考察第3部第14話 殺してから悔いる事も許されず

 びっくりするほど1年も停滞していたベルリの殺人考察シリーズですが。書いてもはてなブックマークが10個もつかないことが多いので、そんなに需要がないのかもしれない。
 ですが、富野由悠季監督も「ベルリお前いったい何者なんだ?、ということは考えてあげたい」とおっしゃっているので、僕も考えていきたい。視聴者の人もベルリがよくわからないとおっしゃるので、地味にフィルムを追って考えていきます。


 ガンダム Gのレコンギスタの劇場版が今年の秋頃になるらしいので、残り13話、週に1回なら余裕で間に合う、2週間に1回だときついかも。なんとか頑張っていきたい。

  • 前回の殺人考察

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 もうちょっとマシなサブタイトルは思いつかなかったのかというか、そのまんまなタイトル。しかし、細かく見ていくとそれだけではないという(艦隊戦もしている)。

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 本放送のときの感想はこれ。重複する部分は書かずに、ベルリの殺人や戦闘に着目していきたい。ただ、ベルリの戦闘の前フリとしてクリムやマスクの戦闘が影響しているという場面もあるので、そこは適宜拾っていきます。

  • 導入


 サブタイトルで戦闘と明示されているのに、ベルリがファーストカットでやってるのは「パイロットスーツの整備」です。なんか消しゴムみたいなものでスーツをこすっているようにみえるけど、多分11話の冒頭のメガファウナの船体の隙間を塞ぐパテの人間サイズバージョンみたいなもので細かい傷を補修しているんだと思う。説明はないけど、多分そういう感じ。
 Gレコはベルリがキツイ戦いに臨む話であるほど、導入のベルリは日常的な行為をしている。第6話「強敵!デレンセン」ではベルリはのんきに歯磨きをして登場した。
 天井からフックで宇宙服を吊るしているのは結構乱暴に見えるけど・・・。あと、アイーダさんの宇宙服は着てないときは胸が膨らんでないのね。カップはついてないのかー。
 しかし、前回、

 このようにアイーダさんが堂々と「月に行くぞー」と指差した割には月に行くのを急いでなくて主人公はモソモソと宇宙服の整備・・・。前回とつながっているのかどうかというか、ちょっと前回のラストで盛り上げたテンションが落ちてる気が。


 それにしても、Gレコの中盤は12話の松尾衡、13話の菱田正和、今回の望月智充など、監督級の演出家が斧谷稔と連名の絵コンテをしていてバラエティ豊か。富野監督は他人の絵コンテを直すことについて、放送終了後のインタビューで文句を言っていたけど、そんなに下手な人たちなのだろうか?監督級の演出家が絵コンテを書けないと富野監督が言うのはちょっとどうかと思うんだが、やり方が違うとかなのかなあ?僕は演出家ごとの癖を分析できるほど目は良くないのだが。連名コンテなので富野監督がリテイクした部分もあるだろうし。


 しかし、これだけ個性豊かなサブ演出家が並んでいると各話の続きや製作の申し送りに問題があるのかもしれないとも思うのだが、それでも脚本は全部富野監督が書いたので、他の人に絵コンテで変えられてもコントロールしきってほしかったなあ。劇場版では富野監督が全部コントロールするのかもしれないけど、そこで富野監督の我が出過ぎても良くないというか、富野監督は説教では個性を出すなって言うけど、自分でコントロールしたがる部分もあるので矛盾を抱えてらっしゃるなあ。


まあいいか。





 そんで、ベルリが備品の整理をしていると、その部屋にノレド、ラライヤ、アイーダさんが着替えてやってくる。


 ベルリはアピールしてくるノレドにほぼノーリアクション。ひどいな。ノレドはベルリのことが大好きなのに・・・。もしかしたらノレドは吉田健一さんのキャラクターデザインでかわいいだけで、本当はあんまり美少女じゃないのかもしれない・・・。今のアニメは美少女がメインじゃないとだめだから美少女になってるだけで・・・。ベルリのノレドに対する雑な扱いや三枚目的な扱いはさるとびエッちゃんザンボット3のブスのような感じを思わせる。結構ひどい。ノレド本人は「かわいくて元気なノレド・ナグさんだ!」って自称しているし、アニメ絵では可愛いんだけど。本当は不細工だったらベルリが鬱陶しいと思っているのにハロビーをプレゼントしたりくっついてくる不細工です代とか花沢さんみたいな押しの強いブスなのかもしれない。おつらい。 




「聖域でろくな店がない」にしても、ラライヤさんについてはベルリはファッションと、変装しておいたほうがいいことに反応する。ノレドにはノーリアクションだったのに。ベルリは戦闘では反射神経が早いけど、人間関係ではちょっとぼーっとしているところがあるのかもしれない。前回の後半でラライヤが熱を出したことについてもノーリアクションだったし。

 謎に気合が入ったアイーダさん

 ベルリはアイーダさんが好きなので「いいですね」と笑顔で褒めるのだが。褒めたのはアイーダさんだけなのだが。

「ついでに褒めたでしょう?」と謎に怒られる。でもアイーダさんはご機嫌っぽくてステップを踏む。

 イイネするハロビーのノベル。


 なぜか気合を入れた服を着替えるアイーダさん。なぜ。前回はクリムとロックパイが殴り合いになったのだが、今回は大人中心の会談になっている。クリムとロックパイはそれぞれのモビルスーツに行っている。

 マスクはクンパ大佐に「暗殺ではなく戦艦ごと沈めろ」と指示を受ける。(マニィについては本放送のときに書いたので割愛)



 前回は立ち話だったが、今回はちゃんと机を用意しての会談。(最初からそうしたら良かったのに)トワサンガの幹部の後ろに秘書がいるのはシン・ゴジラみたいですね。それを上から観覧していることをアイーダさんたちはグシオン総監やウィルミット長官に許されているようなのだが、グシオン総監が気にしているからアイーダさんは着替えたのだろうか?
 グシオン総監はトワサンガの内紛を責めて、ウィルミット長官はキャピタルタワーからの密航者はありえないと主張する。ノウトウ・ドレット将軍はアメリアの宇宙艦隊を責めて、ターボ・ブロッキンはヘルメス財団の悪口を言う。



 そういった会談を見下ろしつつ、ラライヤがアイーダさんたちに教えてくれるのだが、ラライヤの「私”たち”」と言うのはどういうことなんだろう。ラライヤを地球におろした別働隊、というかロルッカさんとミラジさんたちのレジスタンスがドレット艦隊の偵察隊に対してどういう距離感だったのか、ちょっと謎。そもそもレジスタンスなのにモランとのコンペにG-セルフを出品させてもらえてるのも謎なんだが、リンゴ・ロン・ジャマノッタの”うち”などでロンダリングしてたんだろうか。




 そんなこんなでアイーダとベルリはトワサンガに行くことを改めて決意する。ベルリはアイーダさんに引っ張られる感じであるが。




 ラライヤが林檎を盗んで捨てることについては本放送のときに書いたので割愛。



 なぜかアイーダさんにベルリがからかわれるのだが、アイーダさんはベルリに想われていることは気づいてないのか、気づいた上でカマをかけてるのか?しかし、

 5話ではアイーダはベルリを褒めたことについて泣いて嫌がっていたけど、様々な作戦とかメガファウナでの生活を通してベルリとアイーダは凄く仲良くなっているなあ。好意に鈍感だとしても、軽口を言える間柄になっている。
 (これがアイーダとベルリは近親相姦なのか、不明瞭な部分ではある。姉とバレる前からアイーダさんはベルリに対してお姉さんぶっている。ここが富野監督としては「いずれ仲良くなるだろう」という、二人の関係に緊張感が出なかったと反省する部分なのだろうか。ではどうすればよかったんだろう)




 軍人になったのでガランデンに戻るとノレドに言いに来るマニィ。
「マスク大尉には目をかけられているし、彼を助けられると思っているの」と告白するマニィだが、ベルリにとってマスクは宇宙で肉弾戦を挑んで来る異常者なのだが。まあ、前回はお友達作戦をしたので多少印象が改善したかもしれないのだが、しかし、マニィはルイン・リーの彼女だとベルリもノレドも思ってるはずなのに、マスクがルインだと知らないふたりがマニィのこの「マスク大尉を助けたい」という発言に疑問を持たないのがちょっと変。マニィがキャピタル・アーミィになってしまったというショックのほうが大きくてルインのことはベルリもノレドも忘れてしまったのだろうか?あと、こういう事を言ってしまうマニィも、ルインがドレット将軍を倒そうとしていることに動揺しているんだろうなあ。





 マニィが軍人になったことに文句を言わないけど、ノレドには帰れと言うベルリの距離感。しかし、断られる。ノレドもロマンチックだからという理由で海賊船に乗るとか。ベルリが好きだからなんだろうけど。でもベルリは応えてやらない。






 本当にベルリは戦闘以外ではボヤーッとしている。クリムやマスクはああ見えて指揮官の立場で能動的に次の戦略を考えているけど、ベルリは戦闘では強いけど軍隊がどう動くのかということがほとんどわかっていない。それで12話ではベルリはザンクトポルトでMS戦闘が起きてしまってショックを受けたりした。ベルリは強いけど、あんまり戦争向きの性格じゃなくて、他の人が戦意や敵意を持って動くことをあまり想定したがらない。なので、ロボット物の主人公としては積極性に欠けるところがある。アムロも優しいけど、アムロはかなり戦略もうまいしなあ。多分、ベルリはエヴァンゲリオン碇シンジみたいな強いけど優しくて戦いが本質的には嫌いな人物として設定されているのだろう。そもそもベルリは軍人志望でもないし、アムロやウッソみたいに周りに戦争をしろって言われる状況でもないし。ベルリは戦争向きじゃないのに、アイーダといっしょにいたいと言うだけで戦闘をせざるを得ないというかなり苦しい生き方をしている。また、エヴァンゲリオンと違って怪獣相手ではなくて最初から人間同士の戦いなので、ストレスも高い。

  • 開戦



 会談の後、会食になっているのだが、和やかな会談も戦闘の準備、みたいなマッシュナーの態度。すぐに戦闘になることを各陣営が了解しつつ、黙って法皇様と会食をする、というかなり人間の悪意が満ちている感じだ。






 ミノフスキー粒子はクンパ大佐がザンクトポルトから散布したらしい。個人でできるものなのか。クンパ大佐がミノフスキー粒子を撒いて戦闘になることをマッシュナーは正確に予測できたのだろうか?前回の素早いホーミングミサイルの発射の指示など、マッシュナーは優れた軍人といえる。


 マスクは野心家だ。



 ミノフスキー粒子が散布されたのでバララも覚悟を決めて戦闘行動を開始する。マスクはそれでクリムも巻き込むつもりだ。クリムとマスクの間に相談するシーンはなかったので、示し合わせたのかどうかはわからないのだが・・・。


 双眼鏡でミノフスキー粒子の散布元が分かるのだろうか?ミノフスキー粒子がどういうものか、あんまり説明されてないので、逆に便利に作劇の道具にされている。



 サラマンドラ艦長も月に行くことを了解している。メガファウナと相談したのか?ともかくアメリアのサラマンドラメガファウナと、キャピタル・アーミィガランデンの三隻が月に行くことを共通目標にしている。




 「予定通り」というのが、マスクとクリムの間で了解されているのか、あまりはっきりしない。しかし、マスクもガランデン艦長やバララと「予定の行動」と言っているので、マスクとクリムの間に、13話と14話の間に、なんらかの合意があった可能性もある。ただし、今回はお友達作戦ではないので、個別に動く。




 ザンクトポルトの下にいたメガファウナだが、ドニエル艦長もタワーから外れたら殺されても仕方がないと覚悟を決めている。とにかく、ミノフスキー粒子が散布された状況での戦艦やモビルスーツの機動はそれだけで戦闘になって当然という同意や常識がトワサンガにもキャピタル・アーミィにもアメリアにもあるのだろうか。




 ミノフスキー粒子が散布された状況でガランデンモビルスーツを出してトワサンガの艦隊に接近したので、特に双方のどちらからともなく、戦端が開かれる。ここらへんの流れで戦闘が開始するのはガンダムらしい。開戦にあんまり段取りを使わなくてあっという間に修羅場になる持っていき方が富野ガンダムって感じだ。



「敵はガランデンの動きに気づかない。ゆえに、我々はここで引き下がる!」というマスク。素早く開戦するが、それも囮だというスピード感。



 ロックパイくんはここでは解説キャラクターになってくれているが、ガランデンの砲撃がトワサンガ艦隊を襲う!が、ビームバリアーが作動して船は落ちない。

 ガランデンの砲撃を邪魔しようとするロックパイのモランとエルモラン隊。だが、それをもう一度転進してきたバララのマックナイフが牽制する。



で、ガランデントワサンガ艦隊を砲撃し、双方のモビルスーツが戦う、という対決と見せかけて、単独行動をしていたマスクのマックナイフトワサンガ艦隊に接触するので、ガランデンの砲撃は止まる。マックナイフの光信号など、時間としては2分にも満たない戦闘シーンなのに、モビルスーツ部隊や艦隊が何度も動くので、かなり忙しい戦いだ。説明セリフはあるのだが、視聴者にとってはちょっと早すぎる・・・。



 ロックパイビームライフルをバレエのような回転回避だけで避けきるマスク。戦闘が予定通りと言っても、ここはマスク個人の技量なのですごい。




 体当たりと見せかけて、メッセージチューブを送る。マスクのこの決死の行動はすごい。ザンクトポルトを盾にしておらず、一発当たったら死ぬのにな。マスクはこの回で戦闘の直前にサラマンドラミック・ジャックに「クンタラですね。突進突撃、それしか知らない男です」って言われた割に、ドレット艦隊を手に入れるために、艦砲射撃とバララたちの援護を上手く使って、自分も複雑な転身と宇宙空間の高速機動でギニアビサウ接触する。すごい。マスクはマスクで頑張っているんだなあ。





 しんがりになってしまったメガファウナを半ば囮にするような形でサラマンドラも月に向かう。


 サラマンドラが戦端を開いて先に離脱して、G-セルフとアルケインを受け入れるのに時間がかかって戦場でしんがりになってしまったメガファウナなので、当然ベルリは焦る。前半でのんきにラライヤたちとリンゴを食べたりしていたから出遅れたのかもしれん。宇宙用バックパックの接続も良くない。






 ベルリは焦っているが、それでもどこか戦闘に積極的ではない。本質的に戦士に向いていない性格なのかもしれない。しかし、それをアイーダに「戦え!」と突かれる。




 サラマンドラもドレット艦隊の砲撃を受ける。砲撃を受けたらモビルスーツが出てくるという理論もちょっとよくわからないのだが。少し考えると、ミノフスキー粒子散布の宇宙戦闘では艦砲射撃は当たらないのか、威力が拡散するからなのか、牽制か相手の動きを制限する程度にしか役に立たず、モビルスーツでの接近攻撃が決め手になる、というのがこのアニメの戦術の基本なのだろうか?ミノフスキー粒子散布戦闘は富野監督だけが30年もやっていて、富野監督の中では先鋭化しているような気がする。でも、視聴者は富野監督と違って四六時中ミノフスキー粒子の事を考えているわけではないので、艦砲射撃とモビルスーツのどっちが強いのか、などを少し考えないとよくわからない。



 このミック・ジャックのセリフ、「光に飛び込んでくるのは虫だけだろ!」というのは比喩表現として流してしまいそうなんだが、これもミノフスキー粒子散布下戦闘の説明なんだろうな。
 ミノフスキー粒子散布の状況ではレーダーが使えないし、目視観測で敵の位置を探るしかないのだが、敵のバーニアの光を頼りにそれに直進してくると、的になる。なので、飛び込まずに上手く間合いを取って動かないと駄目。ということを言いたいんだろうな。あと、広すぎる宇宙空間では頼りになるものがないので、敵の光にも吸い込まれるのかも。これは終盤のテン・ポリスのポリジットの失態にも共通していて、ミノフスキー粒子散布下での戦闘に慣れていないパイロットは光に飛び込んでしまうということなんだが、それを説明しないでミック・ジャックの勢いで流すのがGレコの戦闘演出。

 天才は地球人だけど、月のモビルスーツを2機、瞬殺する。天才なので。ミノフスキー粒子散布下戦闘ってかなり独特のものだけど、それを勢いで見せていこうというかっこよさ優先で、それはかっこいい。

  • ベルリの殺人

 で、マスクは艦隊を手玉に取って決死の行動をして、クリムはためらいなく敵を殺す。ではベルリはどうするのかというと、不本意ながら、「月に行くので傷をつけられてはいけない」というのと、アイーダにせっつかれたことで、前回の次回予告によると、キレた。


 なので、ベルリは本質的に戦士に向いていない性格だが、マスクもクリムも殺しまくっているので、その空気に流されたのか、アイーダをとにかく月まで護衛しなければいけないからか、しんがりになってしまった焦りからか、トワサンガの軍人は地球人とは違う敵だと思っているからか、殺す。デレンセンを殺した後のベルリは殺したがらないと評される事が多いが、殺さないと仕方がないときは殺すのだ。








「一つ、二つ、三つ」と数えているのは、機動戦士ガンダムアムロ・レイみたいでもあるが、殺すことに抵抗感があるベルリなら、あえて敵を人間扱いしないでモノ扱いして殺す態度になるということではなかろうか。
 決してこれは格好いい戦いではない。主人公なのに!



4つめのモランは逃げ出す。で、5つめのモランに乗っているリンゴは、

降伏する。

 次々と殺していたベルリだが、降伏されるとものすごく驚く。





ここが今回の重要ポイント!
 本放送のときの感想では、とっさに降伏を選ぶことができる新キャラのリンゴに注目したけど、ベルリの殺人考察では、ベルリの目線で考える。
 決死の覚悟で敵をモノ扱いして殺すぞ!と覚悟をしたベルリだがその直後に降伏されて、相手の顔を見せられて「殺した相手も同じスコード教の信者で、しかも自分と同じくらいの少年だったかもしれない」ということを降伏したリンゴの姿から思わされてしまう。これはものすごいストレスだと思う。

 とにかくベルリに気持ちよく殺人をさせない!クリムは殺人をして自信をつける。だが、このアニメはベルリを気持ちよくさせないしストレスをかけまくる。殺すと覚悟を決めて実際に殺した後に、「相手も人間だった」って意識させる。これは新世紀エヴァンゲリオンの第拾八話でシンジ君が相手が人間だから殺したくないのに、父親に攻撃させられる、っていうのよりも酷い主人公へのストレスのかけ方。富野監督はエヴァを意識していることは間違いないのだが、殺したくない主人公に殺させてから「殺さなくても良かったんじゃないのか」と自問自答させるような相手の降伏を見せて、悩ませる。ベルリが何か行動すると、それが裏目に出るような展開が起きて、ベルリのやる気が都度都度折られる。
 これがGのレコンギスタを「スカッとするバトルアニメ」にしないで「なんだかわかりにくい作品」と思われるようにさせた原因だと思う。
 ベルリはサイコパスとか、行動原理が一貫していないとか言われるのだが、その意見も半分正しい。しかし、ベルリはサイコパスというより、むしろ戦闘しまくる周りの人に比べると最後まで徹底的にまともで平和主義で優しい子だと思う。だから戦うたびにその行動の是非を自問自答してしまい、しかも物語の展開としてもベルリの戦闘行動が100%正しいとは見せないので、行動原理が一貫していない、というか、行動原理が毎回へし折られて、気持ちよく戦わさせてもらえないのがベルリという子の劇中での体験だったのだと思う。


 ホワイトベースアムロ・レイはなんだかんだと少年だと言ってもジオンを殺してホワイトベースを守ることで自信をつけていったし、ライバルに勝ちたいとも思う戦士になった。
 ベルリは違うんだよなあ。Gのレコンギスタは子供向けアニメだからなのか、主人公を戦場に放り込むけど「殺人は正しくない」「正しくないけど動かなければ死ぬ」と、徹頭徹尾突きつけてくるので、スカッとしない。Gレコは殺人を子どもに見せるということについて、娯楽とか戦記物だからということに逃げず、とても真摯に向き合っている稀有な作品だと思うのだ。Zガンダムカミーユはそれで壊れたのだが、ベルリは壊れることも許されないギリギリのストレステストみたいな物語を歩まされる。


 戦闘が終わって、ラライヤは元気になる。



 ベルリがラライヤに触ろうとしたのは、普段の彼からすると意外なので、やっぱりリンゴの降伏にショックを受けて興奮していたのもあるんだろうな。そして、アイーダさんに姉ムーブされる。この姉ムーブは望月さんがラブストーリーのアニメの監督もしていた経験からの距離感なのかなあ?


 で、捕虜のリンゴ・ロン・ジャマノッタメガファウナのメインクルーが尋問するのだが、ベルリは自分が捕まえたリンゴから隠れるように物陰にいて、アイーダに呼ばれるとビビる。


 また、この後の話数でも、リンゴからベルリを励まして「みんなを守って欲しいんだよ」と言う場面はあるが、ベルリからリンゴに話しかける展開は、無い。リンゴは性格は悪くないのだけど、やっぱりベルリにしてみれば殺していたかもしれない人物なので、生理的に苦手意識が湧いてしまうのだろう。戦艦に乗っているのに殺すことに抵抗感と、まっとうな罪悪感を抱いてしまうベルリは繊細なのだ。



 なのに、恋しているアイーダさんに「あなたは立派な戦士です!」と褒められてしまう。褒められることはうれしい。でも殺人は褒められたくない。なので、ベルリの倫理観は混乱する。

 エヴァの第弐話の褒めるミサトさんを意識していたのかもしれないのだが、使徒と違って人間相手の殺しなのでベルリはシンジ君よりもダメージを受けるし、好きなアイーダさんに言われるのも嫌なので、キツいと思う。だから必死の形相で反論する。


 エヴァと違って、負けたら人類が滅ぶから、というよりはノブレス・オブリージュの観点からアイーダさんに説教される。


 そこに横からノレドに「男の戰いをやれ」って言われる。

 機動戦士ガンダムアムロ・レイはフラウに言われるよりも先に自分から「僕は男なんだ」というのだが、ベルリは戦えるし強いのに、「人殺しは嫌だ」というまっとうな倫理観で戦いを避けようとするのに、女たちに戦えと言われる。これはマリア主義の機動戦士Vガンダムの続編だからなのかもしれないのだが。ベルリが殺人を嫌がるのは倫理観だし、実際にカーヒルやデレンセンを殺した実感に基づいた感じ方なのだが、好きな女たちに平和な倫理観を捨てて戦えって言われる。キツイな。富野ガンダムの女はウッソにギロチンを見せたりするし、やっぱり基本的に主人公に優しくないのかなあ。







 それで、ベルリは決意表明を言わされる。「月に行って勉強をしたいです!」と言わされる。本当は戦いたくないのだが、アイーダさんと一緒にいるためにはこういう風に自分を偽ってメガファウナの社風に順応する”嘘の決意表明”を言わされるのだ。ブラック企業の研修かよ。主人公が「僕は先に進みます!」と言う決意は普通のアニメでは前向きでかっこいいシーンだが「言わされてる本心とは違う決意表明」なので、Gレコはその点でもやっぱり素直なアニメではないのかなあ。気持ちがいいバトル物ではない。でも、殺人を娯楽とか正当化して見せるよりもGレコのほうが真摯に殺人に向き合っているとも言えるし、どうなんだろう。
 

 そういうわけで、僕が不幸な人生を歩んでいるからそう見えているだけかもしれないけど、僕にとってGのレコンギスタは「理想と実力と倫理観を持ったベルリという正しい少年が、何かをつかもうとするたびに、本当に欲しいものとは違うものを掴まされて、 人を殺して勝つたびに心に傷を追っていき、少年が背負わなくてもいい重みをどんどん乗せられていく物語」なんです。だから辛い話なんだけど、人生はつらくても元気でいろ!元気のGだ!というウジウジすることも許してくれない本当にシャレにならない作品です。だから、僕はこの作品を長々と語る執着心を持ってしまっているのだろう。


 Gレコは富野監督が100年先の人類の子どもに考えてほしいと言って、組織論とか歴史政治学の要素を入れた作品だが。
 「生き抜くために殺人をしなくてはいけないけど、殺人は嬉しいことではない」という殺人考察だけでも、100年単位で答えが出ない問題なんだよなあ。
 マスクとクリムは「殺す相手を差別して、殺す自分を正当化する」という戦士の態度を取っているが、優しいベルリはそれができない。ではどうするのか。差別論としてもGレコはガチなんだよなあ。
 今の経済社会でも生活保護受給者や外国人労働者を差別することで利益を出そうとしているわけで、そしてそこから憎しみが発生しているわけで、現実でも他人事ではないのだが、戦いと差別は人類の課題なんだなあ。


  • ベルリとは関係ないけど、月の実力とは?




 マスクとクリムは地球に住まわせてやるということを餌にしてドレット艦隊を懐柔できるのではと考えている。


 しかし、地球人の艦艇が3隻、月に向ったと告げられてもロックパイは特に悔しがったりしない。


 むしろ、月の本国で地球人を捕らえるとマッシュナーは考えている。



 だが、メガファウナに捕虜になったリンゴは、(この後の行動を見るに嘘はついていないんだろうけど)「地球人が来るとは考えていないから、月では想定外のことに対応できる人はいない」と言ってしまう。


 アイーダさんはここで珍しく聡く、「艦隊を動かした国家が無防備ということはない」と推理する。


 ここらへんの月に対する実力の見解が各キャラクターで一致しないのも、Gレコがわかりにくい作品になっている一因だろうなあ。まあ、マッシュナーがリンゴよりも先読みができて優秀な軍人だ、アイーダも考えている、という程度に受け取っておけばいいか?マッシュナーもレコンギスタを実行したいので、トワサンガの人が地球に住みたいというのも、間違ってはいないのだが。
 どのキャラクターも物語のパーツにならずにそれぞれに主観を持って他のキャラクターを出し抜こうと戦っているのがGのレコンギスタというアニメ、ということなんだろうなあ。

  • 次回の殺人考察

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  • Gレコ感想目次

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